第8話 わたし、お高くてよ?
第8話 わたし、お高くてよ?
「…………ふわーぁ……」
ぼんやりと釣り糸を垂らしながら、欠伸を漏らすツバキの視線の先には、ぷかぷかと気持ち良さそうに揺れている浮きの姿が有った。 昼下がりのリムサ・ロミンサの下甲板層、国際街広場の一角に腰を下ろし、釣り竿を手にしたツバキは、欠伸で滲んだ涙を拭うと、再びぽけぇーっと浮きを見つめるだけの退屈な時間を満喫していた。 双剣士ギルドの仕事は無く、ギルドリーヴを受けなくても余裕が有るギルが有る今日は、漁師にジョブチェンジして、まったりと魚と戯れる事にしたのだ。 国際街広場は無数の冒険者や商人、リムサ・ロミンサの住人がひっきりなしに往来する喧騒賑やかな場所ではあるが、ツバキの居る場所だけが切り取られた写真のように静かだった。 何も聞かない、何も感じない、何も考えない。ただただ緩やかな時間に身を任せ、頭を空っぽにして魚と対峙する。 くくっ、と浮きが沈んだのを見て、ツバキは釣り竿を構える。リールを回しながら、逃げ回る魚を逃がさないように釣り竿を左右に振る。 ザパーッと水しぶきを上げて釣り上げたのは、メルトールゴビー。いそいそと釣り針を外し、籠の中にしまう。 そして再び釣り竿を振って浮きがぷかぷか漂っているのを眺める退屈な時間を楽しむ。「平和だねぇ……」 欠伸を浮かべながら呟くツバキは、眠そうに目元を擦って呆~っと浮きを見つめる。 現実逃避と言えばそうかも知れない。忙しい日々、仕事に追われる現世から、意識を切り離して、ただ水面に揺れる浮きを眺めるだけの時間を満喫する…… 周囲は喧騒で慌ただしく行き交う人達で騒がしかったが、ツバキは確かに静寂を感じていた。「あっ、ツバキちゃ~ん」 そんな喧騒の間隙を縫うように、聞き慣れた女声が耳朶を打った。 駆け寄って来るツトミを迎え入れるように、軽く手を挙げて挨拶を返すツバキ。「どうしたの?」「ううん、特に何も無いけど~。見掛けたから声掛けちゃった~」「そっか」 ちょこんと隣に座り込むツトミに、ツバキも欠伸を浮かべるだけで何も言わない。「今夜はお魚料理?」「うーん、お魚は全部売っ払って、今晩はドードーのグリルにしたいな~」「またお肉~? ツバキちゃん、栄養が偏ってるよ栄養が。ちゃんとお魚とか野菜も摂らないと~」「調理が面倒臭くてさ~」「ダメ~、今日はサラダにしよ~」「ぐぬぬ……」 他愛無い会話をしながら、ツバキは平和な風景を全身で感じ、再び大きな欠伸を浮かべた。「そう言えば、こないだナンパされちゃってさぁ~」「ふわぁー……ああああ?!」欠伸が途中で大声に変わるツバキ。「え、ナンパ? 大丈夫だったの??」「うん~、何か~、ウチのフリーカンパニーに来ない~? 冒険を手取り足取り教えるよ~。って言われたんだけどさぁ~」「ほ……ほうほう……?」もう釣りどころではなくなってしまい、大慌てで釣り竿を片付けるツバキ。「それでそれで……?」「わたし、お高くてよ? って言ってあげちゃった~」 ふふん、と胸を張ってどや顔を見せるツトミに、ツバキは思わず噴き出してしまった。「あははは! そうだよね、ツトミちゃんお高いもんね、あははは!」「ツバキちゃんのフリーカンパニーみたいにさ~、ちゃんとお給料出ますか~? って言ったら、すごすご帰って行っちゃってさ~、ウケるよね~」「あはははは!」 ゲラゲラ笑い転げるツバキに、ツトミも釣られるようにけらけら笑い返す。 一頻り笑いが落ち着いた頃、ツバキは何か思い至ったようで、憑きものが落ちた顔で溜め息を落とした。「ね、ツトミちゃん」「なにー?」「私とフリーカンパニー、立ち上げてみない?」 落ち着いた表情で、ツバキは続ける。「ツトミちゃんが嫌じゃなければ、って話だけど。今のフリーカンパニーも気に入ってるんだけどさ、何か今の話を聴いてたら、私もフリーカンパニーを運営してみたくなっちゃって。……どうかな?」「いいよー」 間髪入れずに、ツトミは頷いた。「ツバキちゃんの負担にならないなら、って話だけどね!」「うん、ありがと。……何か、吹っ切れたよ、ありがとね」「ふふふ、もっと感謝しろー、敬え~崇めろ~奉れ~」「ははー」 言い合って、また二人して笑い合い、ツバキはすっくと立ち上がった。「そうと決まれば早速行動に起こそうかな。色々手続きとか、挨拶回りとか必要だろうし」「がんがれ~」「いやいや、ツトミちゃんも頑張るんだよ?」「ええ~? わたし、のんびりしてるだけじゃダメぇ~?」「ダメです、働こ働こ」「ええ~? わたし、お高くてよ?」「あははは!」 結局笑うだけ笑って話はそれ以上進まなかったのだが、ツバキの中では何かが一歩前進した、そんな気がする出来事だった。 何かが変わる気配と、何かが進む気配を感じながら、平和な休日は過ぎ去っていく。 世間はやがて、星芒祭の色彩に包まれていく……
🌟後書
前世の作品のノリに回帰しながら、やっぱりフリーカンパニーを立ち上げちゃうお話でした。 いやほんとツトミちゃんからこの話(ナンパの話)を聞いた時は面白過ぎて、絶対に物語にしなくちゃって強い使命感が…!www(笑) ツバキちゃんとしても心配を通り越して、悪い(?)フリーカンパニーからツトミちゃんを守らなくちゃ! みたいな使命感に燃えている所だと思います。 必殺仕事人らしさがすっかり抜けちゃいましたけれど、どう復活させようか悩ましいまで有りますよね…w フリーカンパニーを立ち上げたらますますそういう話から遠退きそうでうーんww それはそれとして、やっぱりこういうノリ/展開が性癖なんだろうなぁってぐらい書き易いので、これはこれで楽しかったりします(笑)。 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
🌸以下感想
とみ更新お疲れ様ですvv
こういうのはどうでしょう?フリーカンパニーを必殺仕事人組合連合事務所みたいのにして、わたしが元締めになってどれいdおっと組合員に仕事を斡旋しそのあがりをかすめtおっと上納していただく。結局のところどうしてもこういった組織は必要になるはずなので、引く手あまた、あぶく銭がっぽがっぽツバキちゃんうはうはw明るい未来しか見えないじゃないですか!!
今回も楽しませていただきました~!次回も楽しみにしてますよーv2024年1月24日水曜日 19:45:00 JST
夜影>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
めちゃんこ笑ってしまいましたけれど、全然アリですアリ!wwwwその路線参考にしたいまである奴!wwwwwもしかしたらそんな感じの展開になっていくかも知れません…!www 流石に長い事付き合ってるだけあって思考が似てきてるのかしら…!wwwww(笑)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!次回もぜひぜひお楽しみに~!!2024年1月24日水曜日 21:35:16 JST
更新お疲れ様ですvv
こういうのはどうでしょう?
フリーカンパニーを必殺仕事人組合連合事務所みたいのにして、
わたしが元締めになってどれいdおっと組合員に仕事を斡旋しそのあがりをかすめtおっと上納していただく。
結局のところどうしてもこういった組織は必要になるはずなので、
引く手あまた、あぶく銭がっぽがっぽツバキちゃんうはうはw
明るい未来しか見えないじゃないですか!!
今回も楽しませていただきました~!
次回も楽しみにしてますよーv
2024年1月24日水曜日 19:45:00 JST
夜影
>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
めちゃんこ笑ってしまいましたけれど、全然アリですアリ!wwwwその路線参考にしたいまである奴!wwwww
もしかしたらそんな感じの展開になっていくかも知れません…!www 流石に長い事付き合ってるだけあって思考が似てきてるのかしら…!wwwww(笑)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!
2024年1月24日水曜日 21:35:16 JST
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