第7話 腹ペコ侍と一宿一飯の恩〈3〉
第7話 腹ペコ侍と一宿一飯の恩〈3〉
「……もしかして、あのナイフに封印されてたのを、サクノさんが壊しちゃったから、出て来ちゃったって事……?」
低地ラノシアに突如として出現した人型の妖異を見て、警戒した様子で双剣を構えるツバキに、ツトミが「なるほどー、つまりサクちゃんがやらかしたと」と、うんうん頷いている。「…………」 サクノが変な顔をしたまま汗をダラダラ流していたが、やがて我に返ると、人型の妖異を見据えて声を上げた。「ふ、封印を解いた……? 笑止千万! 貴様を完全に抹殺する為に本体を現出させたまで! さぁ、ツバキ殿、ツトミ殿! ここからが正念場でござるぞ!」「う、うん……言いたい事は無い事も無いけど、そうだね!」「凄いサクちゃん! 勢いで何とかしようとしてる!」「それは言っちゃダメだよツトミちゃん!」 思わずツトミの口を塞ぐようにして静寂を求めるように人差し指を口元に添えるツバキ。 サクノは顔を赤くしながら、「さ、さぁ掛かってくるが良い!」と吠え立てるも、人型の妖異は白けた表情でそれを俯瞰するだけだった。「茶番は終わりか? 貴様らを嬲り殺すのも一興だが、ここは――――」視線が、ミスト・ヴィレッジの方に向く。「よりエーテルを吸える方に行くべきだろう」「――――ッ!」三人娘の顔に緊張が走る。 人型の妖異はそれを邪悪な笑みで受け取ると、三人が次のアクションに移る前に飛翔――一目散にミスト・ヴィレッジの入り口へと走り飛んで行った。「不味い――ッ!」ツバキは咄嗟に印を結び、「待てーっ!」ツトミも咄嗟に弓を抜き放ち、正射の構えを取る。「氷遁ッ!」「レッググレイズ!」 ツバキから氷の刃が走り出て、ツトミの放った矢は人型の妖異の膝を射抜く。 人型の妖異は見るからに飛翔速度を落とし、つんのめりになる。「小賢しい真似を……!」「あの時拙者に立ち向かわなかったのが敗因となったな」 目前まで迫ったサクノが思いっきり前屈みの姿勢で構えると、刹那、飛翔する斬撃が人型の妖異を襲った。「――――奥義、波切!」 裂帛の気合と共に放たれたその斬撃により、人型の妖異は両断され、驚きの表情のまま、遺言すら残せず霧散した。「サクちゃん強~い! 抜くと最強のサクちゃん!」ツトミが駆け寄りながら賞賛の声を浴びせる。「ツトミも足止め頑張ったから互角だね!」「ご、互角かなぁ……」同じく駆け寄りながら苦笑を浮かべるツバキ。「サクノさん、これでさっきの妖異は……」「ええ、確かな手応えでしたので、恐らくは星の海に帰った事であろう」ちん、と鯉口を鳴らして白刃を納めるサクノ。「目的達成……これにて一件落着にござる!」「良かった~。あ、じゃあさっきのお婆さん見てくるね~」 サクノの言葉にホッとしたのも束の間、ツトミが倒れたままになっているヒューラン族の老婆に駆け寄って行く。「呆気無かった気がするけど……これで本当に終わったのかな」 調べようにも既に妖異は霧散しているし、唯一の手掛かりであろうナイフは粉々に砕けてしまっている。 サクノはその破片をササッと集めると、袋に納めて懐にしまってしまった。「然り。ただ、拙者が強過ぎにて……」「お、おう……」 サクノの自信満々の宣言にツバキは思わずどもってしまったが、確かにサクノの刀術の技量は疑うべくもなく熟達の域だった。 人型の妖異……それも今まで幾度と無く逃げおおせてきたであろう妖異を、ツバキとツトミの足止めと言う据え膳が有ったとは言え、一刀にして滅すと言うのは、流石のツバキもそれ以上言えなくなってしまう。 ともあれこれで彼女……サクノの目的は達成された訳なので、今後はまた静かな生活に戻るのかな――――と、ツバキはこの時、確かに楽観していたのだった。
◇◆◇◆◇
「ツバキ殿、ソースを取ってくだされ」「お、おう」「ツバキちゃん、戸棚のおやつ食べても良い?」「え? ダメだけど……」 ツバキの棲み処であるアパルトメントに何故かサクノと、更にツトミの姿も有った。「ちょっと待って。何でサクノさんは帰ってないの? どころかツトミちゃんまで住み着いちゃってるし」 戸棚のおやつをポリポリ食べてるツトミを見て拳を固めるツバキに、サクノはソースを掛けたたこ焼きを咀嚼しながら爪楊枝で彼女を示す。「それはアレでござるよ、任務を達成致したゆえ、暫しの暇にて」モゴモゴとたこ焼きを咀嚼するサクノ。「未だツバキ殿に大恩をお返ししておらぬしな! まだまだ厄介になるでござるよ!」「そう、だからツトミもよく分からないからツバキちゃん家に泊まろ~ってなったの」ポリポリとツバキが隠し持っていたおやつを食べきるツトミ。「はい、ツバキちゃん。おかわり!」「…………はい」 事件が落着したからと言って全てが元通りになる事は無く。 予想していなかった賑やかな生活が始まるのだった。「ツバキ殿、」「ツバキちゃん、」「「おかわり!」」「は、はひ……」 その後、食費がとんでもない事になるのだが、それはまた別のお話……
「……もしかして、あのナイフに封印されてたのを、サクノさんが壊しちゃったから、出て来ちゃったって事……?」
低地ラノシアに突如として出現した人型の妖異を見て、警戒した様子で双剣を構えるツバキに、ツトミが「なるほどー、つまりサクちゃんがやらかしたと」と、うんうん頷いている。
「…………」
サクノが変な顔をしたまま汗をダラダラ流していたが、やがて我に返ると、人型の妖異を見据えて声を上げた。
「ふ、封印を解いた……? 笑止千万! 貴様を完全に抹殺する為に本体を現出させたまで! さぁ、ツバキ殿、ツトミ殿! ここからが正念場でござるぞ!」
「う、うん……言いたい事は無い事も無いけど、そうだね!」
「凄いサクちゃん! 勢いで何とかしようとしてる!」
「それは言っちゃダメだよツトミちゃん!」
思わずツトミの口を塞ぐようにして静寂を求めるように人差し指を口元に添えるツバキ。
サクノは顔を赤くしながら、「さ、さぁ掛かってくるが良い!」と吠え立てるも、人型の妖異は白けた表情でそれを俯瞰するだけだった。
「茶番は終わりか? 貴様らを嬲り殺すのも一興だが、ここは――――」視線が、ミスト・ヴィレッジの方に向く。「よりエーテルを吸える方に行くべきだろう」
「――――ッ!」三人娘の顔に緊張が走る。
人型の妖異はそれを邪悪な笑みで受け取ると、三人が次のアクションに移る前に飛翔――一目散にミスト・ヴィレッジの入り口へと走り飛んで行った。
「不味い――ッ!」ツバキは咄嗟に印を結び、「待てーっ!」ツトミも咄嗟に弓を抜き放ち、正射の構えを取る。
「氷遁ッ!」「レッググレイズ!」
ツバキから氷の刃が走り出て、ツトミの放った矢は人型の妖異の膝を射抜く。
人型の妖異は見るからに飛翔速度を落とし、つんのめりになる。
「小賢しい真似を……!」
「あの時拙者に立ち向かわなかったのが敗因となったな」
目前まで迫ったサクノが思いっきり前屈みの姿勢で構えると、刹那、飛翔する斬撃が人型の妖異を襲った。
「――――奥義、波切!」
裂帛の気合と共に放たれたその斬撃により、人型の妖異は両断され、驚きの表情のまま、遺言すら残せず霧散した。
「サクちゃん強~い! 抜くと最強のサクちゃん!」ツトミが駆け寄りながら賞賛の声を浴びせる。「ツトミも足止め頑張ったから互角だね!」
「ご、互角かなぁ……」同じく駆け寄りながら苦笑を浮かべるツバキ。「サクノさん、これでさっきの妖異は……」
「ええ、確かな手応えでしたので、恐らくは星の海に帰った事であろう」ちん、と鯉口を鳴らして白刃を納めるサクノ。「目的達成……これにて一件落着にござる!」
「良かった~。あ、じゃあさっきのお婆さん見てくるね~」
サクノの言葉にホッとしたのも束の間、ツトミが倒れたままになっているヒューラン族の老婆に駆け寄って行く。
「呆気無かった気がするけど……これで本当に終わったのかな」
調べようにも既に妖異は霧散しているし、唯一の手掛かりであろうナイフは粉々に砕けてしまっている。
サクノはその破片をササッと集めると、袋に納めて懐にしまってしまった。
「然り。ただ、拙者が強過ぎにて……」「お、おう……」
サクノの自信満々の宣言にツバキは思わずどもってしまったが、確かにサクノの刀術の技量は疑うべくもなく熟達の域だった。
人型の妖異……それも今まで幾度と無く逃げおおせてきたであろう妖異を、ツバキとツトミの足止めと言う据え膳が有ったとは言え、一刀にして滅すと言うのは、流石のツバキもそれ以上言えなくなってしまう。
ともあれこれで彼女……サクノの目的は達成された訳なので、今後はまた静かな生活に戻るのかな――――と、ツバキはこの時、確かに楽観していたのだった。
◇◆◇◆◇
「ツバキ殿、ソースを取ってくだされ」
「お、おう」
「ツバキちゃん、戸棚のおやつ食べても良い?」
「え? ダメだけど……」
ツバキの棲み処であるアパルトメントに何故かサクノと、更にツトミの姿も有った。
「ちょっと待って。何でサクノさんは帰ってないの? どころかツトミちゃんまで住み着いちゃってるし」
戸棚のおやつをポリポリ食べてるツトミを見て拳を固めるツバキに、サクノはソースを掛けたたこ焼きを咀嚼しながら爪楊枝で彼女を示す。
「それはアレでござるよ、任務を達成致したゆえ、暫しの暇にて」モゴモゴとたこ焼きを咀嚼するサクノ。「未だツバキ殿に大恩をお返ししておらぬしな! まだまだ厄介になるでござるよ!」
「そう、だからツトミもよく分からないからツバキちゃん家に泊まろ~ってなったの」ポリポリとツバキが隠し持っていたおやつを食べきるツトミ。「はい、ツバキちゃん。おかわり!」
「…………はい」
事件が落着したからと言って全てが元通りになる事は無く。
予想していなかった賑やかな生活が始まるのだった。
「ツバキ殿、」「ツバキちゃん、」「「おかわり!」」
「は、はひ……」
その後、食費がとんでもない事になるのだが、それはまた別のお話……
🌟後書
と言う訳で無事に妖魔を瞬殺して、完!w 強敵との戦闘をさせてみたかったのも有るのですけれど、サクノさんが予想以上にと言うか、予想より遥かに強かったと言いますか…w 綴る直前はどんな戦闘させたげようかな~って思ってたのに、綴り始めたら「奥義波切やりたい…!」と、瞬殺展開に即変更されちゃって、あれだけ強敵ムーヴしてたのに、断末魔すら上げられずに斃される妖魔さんよ…www(笑) ひたすらサクノさんが謎に強い、謎に包まれた、謎の侍みたいな感じで終始する感じになったものの、よく考えたらツトミちゃんも謎と言えば謎が多いですし、何ならツバキちゃんですら謎が多い… 影の部分がとても多い物語。そんな感じに仕上がっていると思いますw 光を射し込む度に形が変わる彼女らの明日はどっちだ! と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
🌸以下感想
とみ
更新お疲れ様ですvv
確かに誰もその背景が語られてなくて、謎が多いですね(今気づいたw
「光を射し込む度に形が変わる彼女らの明日はどっちだ!」とか、めっちゃかっこいいんですけれど!
どんな形に変わっていくのかしっかり見届けたいです。
それにしてもよく食べるよね、ふたりともw
今回も楽しませていただきました~!
次回も楽しみにしてますよーv
2024年1月23日火曜日 21:01:01 JST
夜影
>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
ですですwwそう言えば誰も背景とか過去に関して語られてないので、実は謎が多いと言う…!ww
へへへ!w めっちゃかっこいいと言われて調子に乗るお爺ちゃんです!ww(*´σー`)エヘヘw
これからどういう風な形に変わるのか、作者ですら予想できませんが、どんな形になってもぜひぜひ見届けて頂けると嬉しいです…!
それwwww腹ペコ設定を活かし過ぎましたね!wwwww(笑)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!
2024年1月23日火曜日 21:16:54 JST
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