「――ツバキと言うミコッテ族の女を知らないか?」
リムサ・ロミンサの東国際街商通りで買い物をしていたツトミとミリに、そう声を掛けてきたヒューラン族の男に、二人は顔を見合わせて、改めて男を見やった。
どこにでも居る風体の男だが、得体の知れない感覚を嗅ぎ取った二人は、示し合わせるようにフルフルと首を否と振った。
男は無感情のまま小さく首肯を返すと、ツトミとミリに向かって胡乱な眼差しを向けた。
「そうか。もしツバキと言うミコッテ族の女に出会う事が有ったら、こう伝えてくれないだろうか。――カレハはここまで来た。……と」
それだけ言い残すと、男は人込みに紛れて姿を消し、気味の悪い空気だけが残された。
二人は顔を見合わせると、「何だったんだろうね?」「ちょっと……心配、ですね……」と足早にその場を立ち去るのだった。
◇◆◇◆◇
「…………って事が有ってさー」
国際街広場でツバキとユキの二人と合流したツトミとミリは、先刻の出来事をそのまま伝えると、彼女の反応を待った。
ツバキは普段見せないような、感情の失せた表情を覗かせると、すぐに普段のへらへらした表情を張り付けた。
「……ツバキちゃん?」
「いやぁ……あはは、誤魔化しても仕方ないと思うから素直に白状するけど、私が生きていたら困る人だね、そのカレハって人は」
どこか寂しそうに呟くツバキに、三人は困惑した様子で彼女を見つめる。
「……どういう事?」ユキが疑念をぶつける。「ツバキってもしかして、どこかで大罪を犯した重罪人とか、そういう事?」
「うーん……そういう事……かな」言い難そうに口ごもるツバキ。「詳しく説明したいところだけど、たぶん残された時間があんまり無いから簡潔に伝えるね。暫く私、雲隠れするから、レンとケータ君にそう伝えておいて欲しい」
「雲隠れって……」表情を曇らせるツトミ。「ツバキちゃん。ツトミ達に出来る事って、無いの?」
「出来る事、か……」難しい表情で沈思したツバキは、暫しの逡巡の後、ツトミを見据えて口を開いた。「私のせいで、みんなに危ない目に遭って欲しくないんだ。ごめん」
「何水臭い事言ってんのよ」ドン、とツバキの肩を叩くユキ。「こないだ危ない目に遭ったばかりでしょ? 冒険者が今更危ない目に遭うかどうかで梯子を下ろさないわよ」
「そう、です……!」ミリがツバキの前に立ち塞がってどこにも行かせないと主張する。「私達も……お手伝い、します……!」
「ツバキちゃんが大変な目に遭うって分かってるなら、一人にさせないよ~。ツトミ、頼りにならないかもって思ってるなら~……覚悟してね♪」
「みんな……」
ツバキが決壊しそうな激情を抑えるように、苦しそうな表情をして、何かを言いかけた、次の瞬間だった。
「――――見つけたぞ、主の仇!」
国際街広場に響き渡る指笛の甲高い音と共に、一般市民の風体の男達が突如として印を結び始め、次の瞬間にはツバキが爆炎に包まれ、囲んでいたツトミ、ミリ、ユキの三人は爆風で吹き飛んでいた。
四人の男達の手によって爆撃を受けたツバキは、よろめくように広場の縁に辿り着くと、火だるまになったまま海面に向かって真っ逆さまに落ちて行った。
「――追え。奴はこの程度では死なん。必ず見つけ出せ」
「「「御意」」」
爆発騒ぎでリムサ・ロミンサの市民が悲鳴や怒号を奏でる中、襲撃者達は示し合わせたように雑踏に紛れ込み、あっと言う間に姿を消し去った。
残ったのは国際街広場の一角が爆発で黒ずんでしまった傷跡と、何も言い残せずに居なくなったツバキのフレンドの三人だけだった。
あまりにも突然の出来事で、誰も何の反応も出来なくなっていたところに、イエロージャケットのルガディン族の男が駆け寄って来て、「大丈夫ですか!? お怪我は有りませんか!?」と三人を入れ代わり立ち代わり声を掛けていく。
「ツ、ツバキは!?」
ユキの悲鳴に、ツトミとミリが慌てて縁から身を乗り出して海面を伺うも、既に波紋も落ち着き、静かな水面がそこには映し出されていた。
「い、居ません……!」ミリが困惑した様子でユキを振り返る。「海中で……テレポ、したのかも……!」
「ツバキちゃん……」ツトミは爆発跡の残る場所に、粉々になったリンクシェルを発見して、心配そうに呟くと、すぐに表情を切り替えて、パンッ、と両頬を叩いた。「むぅー! こうしちゃいられないよ! ツバキちゃんを探そう!」
「そうね、ここで立ち往生していても埒が明かないわ。ツトミに賛成よ」頷きながらツトミの手元に目をやるユキ。「連絡は……その様子だと取れないわね」
「手掛かりが……何も無いと、どこから探せば……」悄然とした様子で二人に歩み寄るミリ。「ツバキさんが……立ち寄りそうな場所、判ります、か……?」
三人がうんうん唸りながら話し合っているのを見咎めたイエロージャケットの男が、「あの……何が遭ったんですか? 爆発が起こったと聞いて飛んできたのですが、被害者は? 犯人は?」と懸命に自分が居るアピールをし始めた。
三人は顔を見合わせ、やっと彼の存在を思い出し、話せる範囲の事情を話す事になった。
紅蓮祭が終わって、残暑も終わる頃のリムサ・ロミンサから、そうして新たな事件が幕を開ける。
🌠後書
約10日振りの最新話更新になります。ちょっぴりお待たせ致しました!
ツバキちゃんの物語は、このエピソードを以て完結する予定です。前世で連載していたFF14二次創作小説みたいに途中で打ち切り最終回にしたくなかったので、今回は単行本1冊でしっかり完結させようと思っての判断です。
続けようと思えば幾らでも続けられると言う意味では「神否荘シリーズ」と同じ形式の物語なので、完結と銘打っても、「ツバキちゃんの物語、第二シーズン始まります!」と、また急に連載再開する事とかも有ると思うので、その程度の認識で見て頂けたらと思いますw
(今後FF14を長期的に触れなくなった時に、この物語が宙ぶらりんになるのが嫌なので、その対策みたいな奴です。ウイちゃんの物語は私のキャラクター以外登場していないので気にならないのですが、ツバキちゃんは色んな友達が絡んでるので…)
と言う訳で本編の後書。今回はいつに無く不穏な出だしなので、次話以降の展開にソワソワドキドキしてしまうかも知れませんが、突然いつものふわふわした展開に戻るかも知れないので、どうか楽しみにお待ち頂けたらと思います…!
ツバキちゃんの過去の一端に触れて、この物語を締め括りたいと考えていますので、どうか宜しくお願い致します!
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
更新お疲れ様ですvv
返信削除めちゃめちゃ不穏な感じ。ゾワゾワしますなw
そして暴かれるツバキちゃんの悪行の数々!まさに完結編にふさわしいかと存じます。(え?w
ウイちゃんともコラボできたし、ユキちゃん、ミリたん思い残すことはないかなぁ~?最後にどーんと暴れちゃおー!!
ソワソワドキドキ ジワ、ハヨゥ
今回も楽しませていただきました!
次回も楽しみにしてますよーv
>とみちゃん
削除感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
ゾワゾワしちゃいますよね…!w このままの雰囲気で進むのか、或いはいつもの雰囲気に戻っちゃうのか、どうか楽しみにお待ち頂けたらと思います…!w
ツバキちゃんの悪行の数々www 完結編に相応しいかなぁ?!?!!?wwwww(笑)
色々やってきましたもんね! 思い残す事は…ない…かな??(そんな事は無いと言いたげな顔w)
うひひww今回も出来る限りお待たせしないように執筆楽しんで参りますぞー!!┗(^ω^)┛
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!