2024年10月12日土曜日

第3話 我が身こそが呪の源泉であれ

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第3話 我が身こそが呪の源泉であれば

第3話 我が身こそが呪の源泉であれば


「魔力増幅薬……一時的にエーテル量を増幅させ、魔力をブーストする錬金薬……」
 錬金術師の先輩であるマテオさんに譲って貰った魔力増幅薬と、そのレシピ。そして、レシピ通りに生成した、自作の魔力増幅薬。
 レシピを見る限り、自分で述べた薬効が期待できるのは分かるし、効果の程も充分だと分かる、けど……実際に試薬した訳ではないし、どこまで私に効果が有るのかまでは分からない。
 場所は西ザナラーンのスコーピオン交易所の、すぐ近く。ササモの八十階段を降りてすぐに在る木人を前に、私は深く深く深呼吸をする。
 魔力増幅薬は、あくまで魔力をブーストする効果が有るだけで、恒常的に魔力が増える訳ではない。であれば、飲んですぐに呪術を試さねば、効果の程は分からないと言う事だ。
 街中で呪術を暴発させて大惨事になっては堪らないと思って、若葉の冒険者がちらほら窺える程度の、スコーピオン交易所の裏手で、こっそり試飲してみる事にした。
 飲んだらすぐに効果が表れる筈なので、どれだけ効果が持続するかも確認せねばならない。時間との勝負だ。
「よ、よし……飲むぞー……!」
 薬効如何によっては、私の冒険者としての未来が左右されるかも知れないのだ、心臓が破裂するかと思う程に脈動している。
 いざ!
「くぴくぴ……うぅ……不味い……」
 味の程は……まぁ美味しい錬金薬なんて数えるほどしかないとは思うけれど、絶妙に喉越しが悪くて、嫌に舌に残る不味さだった。
「お……おお……?」
 飲んですぐに効果は実感できた。腹の底……丹田って言うんだったかな。格闘士や槍術士が使う内丹と言う回復術の元であろうこれこそが、魔力を生み出す源……だったかな。
 それがグツグツと煮え滾るに熱さを伴って蠢き始めたのが体感として知れた。体がお風呂にでも入っているかのようにポカポカと温かくなり、自然と呼気も浅く短くなる。
 腹の底から込み上げてくるエネルギーの塊……! この状態ならば呪術ももしかしたら……!
「――――岩砕き、骸崩す、地に潜む者たち、集いて赤き炎となれ! ファイア!」
 体内をエーテルが、マナが循環する。丹田から湧き出る魔力の奔流は胸、肩、腕を伝い、指先から片手呪具のウェザードセプターへ。
 自分でも感じた事の無い魔力が迸る感覚が全身を駆け巡り、意識の先――己の視界に展開される呪術の行使に、私は思わず驚きの声を漏らした。
 弾けた炎は未だかつてない火力で木人を焼き、たった一撃で黒焦げにしてしまったどころか、それでも消えない火炎が木人をゴウゴウと燃やし続ける。
 私はウェザードセプターから走り出た火炎の衝撃で尻餅を着いてしまい、驚きと感動で暫く言葉が出なかった。
「す……凄い……! これなら私、冒険者、と、し、て……」
 突然呂律が回らなくなった訳じゃなくて、急に吐き気に襲われて、思わず四つん這いになって――――思いっきり吐瀉した。
「おえぇ……。な、なに……? ふく、さよう……? おえぇ……」
 ケロケロと口から酸っぱい液体が無尽蔵に溢れ出てくる。
 胃の中身が空っぽになるまで吐き散らしても、まだ吐き気は治まらず、ずっとキラキラした輝く液体が喉から噴き出し続けた。
 どれだけ吐瀉し続けたか分からないけれど、やがて吐き気が落ち着き、私はクタクタの態で立ち上がろうとして――立てない程に消耗してる事に気づいた。
「じ……じかんは……さんじゅう、びょう……かな……」
 効果時間を計測する為に置いていた時計を確認した後は、そのまま意識を失ってしまった。

◇◆◇◆◇

「へーっくしょ!」
 自分のくしゃみで意識が覚醒して、起き上がるとすっかり辺りは日が暮れていた。
 スコーピオン交易所には灯が点り、ササモ八十階段も煌々と道を照らし出している。
 昼間の暑さはすっかり消え失せ、涼しいを通り越して凍える寒さになった一帯に、思わず私は身震いして、放置されていた時計を確認して……約五時間近く気を失っていた事を知る。
「うーん……」時計やウェザードセプターを回収しながら、唸り声を上げてしまう。「呪術の威力は確かに上がってた、けど……それで三十秒間吐き続けた挙句、五時間近くも意識を失うのは……流石に……」
 あまりにもハイリスクだ。これでは冒険どころの騒ぎではない。モンスターを一体仕留める為に、毎回五時間も意識を失っているようでは思いやられると言うか、そもそも冒険を諦めなければならない程の事態だ。
 ただ、あの時に発露した火炎……ファイアの呪術は、明らかに威力が増していた。今までどれだけ鍛錬に励んでも出せなかった威力が、まさに魔力増幅薬を飲んだだけで一発で実現できたのだ。アレが恒常的に発露できるのであれば……冒険者として、やっとスタートラインに立てる気がする。
「効果時間が三十秒間なのは、レシピ通り……だったら後は薬効を抑える……効果を下げれば吐瀉も無くなる……? 逆かな、薬効を向上させる事で内蔵への負荷を……」
 その後、錬金術師ギルドに戻った事までは憶えているけど、そこからまた記憶が途切れている。錬金術師ギルドで稼いだギルを湯水のように使って実験と製薬を繰り返してたような気がするけど、気づいた時にはまたマテオさんに心配そうに声を掛けられたタイミングだった。
「おーい、大丈夫?」「へあ?」
 大の字で転がっているこの場所がどこか分からなくなるほど前後不覚で、口元の涎を拭いながら起き上がって、やっと錬金術師ギルドの片隅だと把握できた。
「もう一週間ぐらいぶっ続けで製薬と実験を繰り返してたと思ったらぶっ倒れてたからさ、心配して声掛けたけど……魔力増幅薬でも量産してるの?」
 マテオさんがマグカップを手渡しながらそう声を掛けてきて、私は受け取りながら、「あ、ありがとうございます……量産じゃなくて、調整と言うか……私の体に合わなかったって言うか……」ともにょもにょ返しながらマグカップの中身、温まった蒸留水を口にする。
「体に合わなかった……? 試薬してみたんだ? 僕にも話を聞かせて欲しいな、今後の参考にさせて欲しい」
 私の隣に腰を下ろして、逃がさないと言いたげな眼差しでニッコリ微笑むマテオさんに、私はしどろもどろになりながら説明を始めた。
 飲むと確かに魔力の向上は確認できた事。ただ、直後に吐き気に襲われて動けなくなった事。薬効が切れる三十秒間ずっと吐瀉し続けた事。その後、倒れて五時間近くも意識を失ってしまった事。
「今のままだと、戦闘中に服用するのはあまりにリスキーって言うか、一度きりの戦闘であれば何とかなるかもですけど……どちらにせよ、戦場で五時間近くも意識を失うのは危険過ぎるって言うか……」アタフタと身振り手振りを交えて説明をした後、私は調整に調整を重ねた薬液を見せる。「魔力を増幅させる事で起こる症状であれば、もう少し薬効を減らせば、副作用も落ち着くかなって調整してる感じで……」
「…………」マテオさんは難しい顔のまま私の作った薬液を見つめている。「……これは可能性の話で、決してウイさんの努力を無駄にしたい訳じゃない事だけは先に言っておきたいんだけど、ウイさん。確認したいんだけど、その調整した薬液でも吐瀉して、意識を失ったんじゃない?」
 私は思わず瞠目した。
「そ、そうなんです! どれだけ薬効を下げても、吐き気は変わらずですし、時間に差は有っても倒れてしまって……!」
「……だとしたら、それは魔力増幅薬の問題じゃなくて、ウイさん自身の問題だと、僕は思う」マテオさんは難しい表情のまま続けた。「これは例え話なんだけど、呪術を行使する際に体内を循環するマナを吐き出す形で呪術が発露するとして、そのタンク……って言うべきなのかな。体内に保存できる魔力の総量は個人差が有るって話だけど、ウイさんはそれが極端に小さいのかも知れない」
 そこまで説明されて、私もハッと気づいた。
 魔力を保存する総量が小さい。自身で保有できる魔力それ自体がそもそも小さ過ぎるのであれば、魔力増幅薬でどれだけブーストを掛けても、すぐに溢れてしまうと言う事だ。
 つまり、魔力増幅薬を飲む事で吐瀉しているのは、溢れている魔力で、意識を失ってしまうのは、失った魔力を回復する為の反作用。
 呪術が上手く扱えなかったのは、そもそもが魔力の扱いが苦手だった訳ではなく、体内を循環する魔力自体が、あまりにも少な過ぎたから……
「……でも、これはあくまで可能性の話だから、まだ解決策が――――」「――いえ、その可能性は、限りなく正解だと思います」「ウイさん……」
 マテオさんが心配そうに呟くも、私は消沈してしまって、思わず誰にも話してなかったような事を、吐露してしまった。
「私、ガレアン人とのハーフだから、それで魔力が……」「え?」「あ」
 疲れ切っていたのと、寝惚け眼で告げられた事実が衝撃的過ぎて、迂闊にも舌が滑っていた。
 自分の口を慌てて押さえて、マテオさんを見上げるも、彼は驚いた様子で瞬きしていた。
「ご、ごめんなさい、何でも無いですっ! そ、それでは依頼の納品が有るのでこれで……っ!」
 慌てて道具を片付けて、マテオさんが何か言いかけてたのを振り切って、錬金術師ギルドを後にした。
 やってしまった。今まで誰にも言ってこなかった事実を、うっかり漏らしてしまった。
 ガレマール帝国との衝突が案じられている今、ガレアン人とのハーフだなんて事実は、エオルゼアではタヴーにも等しいだろう。
 もしかしたら明日には錬金術師ギルドに居場所が無くなっているかも知れない。
 呪術士ギルドにも、もう自分の体の構造上、役に立てない事が分かった以上、頼る事も出来ない。
 暗澹たる想いでウルダハの街並みを駆けていると、雨が降り出していた。
 頬を伝う液体が、空からの物なのか、自分の心から出た物か、すっかり分からなくなっていた。
 雨はどんどん酷くなっていく。私の心と同期するように、雨脚は強くなる一方だった。

🌠後書

 約1ヶ月半振りの最新話更新になります。大変お待たせ致しましたーッ!
 気づいたらすっかりFF14から遠退いた生活にシフトしつつありますが、物語だけはしっかり更新していきたい奴です。読書の秋ですものね、読者様にも読み物を用意せねば…!(息切れ)
 と言う訳で3話です。ツバキちゃんの物語の方で、何であんなケロケロ吐瀉していたのか、の答え合わせになります。ただその、マナ(魔力)に関しては原作に忠実ではない可能性が有りますので、二次創作上の妄想と言う事で一つご容赦頂きたく…!
 ウイちゃんには、色々重なるとどうしても不安が爆発して逃げ出したくなるよね、と言うのを私の代わりに体現して貰いました。思うより先に体が動いちゃうタイプのウイちゃんなので、どこまで突っ走って行くやらですがw
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    大変遅くなりました…
    まさに暴走列車、走り出したらもう誰も止められないっ!!
    そしてゲロってぶっ倒れるウイちゃん、気の毒だけどちょっとかわいいw

    本当の名前は、ウイ・ヴァン・バエサル。
    うぬらに教えてやろう!
    力の使い方を!(そして吐瀉

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

      寧ろ全然早過ぎまで有りますよ!wwwいつも感想有り難う御座います!😊
      暴走列車!wwwまさにそれ!www突っ走り出すともう止まらないのです!www(笑)
      気の毒だけどちょっとかわいいwwwwまさかこんなところで愛嬌が出てしまうなんて…!wwwウイちゃん、恐るべし…!www(笑)

      ウイ・ヴァン・バエサルwwwwwwwwwwwwwwww㌧でもない大物出て来てダメwwwwwwwwwww(笑)
      もうずっと笑い転げてますwwwwwwwwガレアン人とのハーフってまさかのwwwwwwww(笑)
      (そして吐瀉)までがセットなのがもうダメwwwwwwwあの名シーンがキラキラした物で台無しに!wwwwwww(笑)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

      あーもう滅茶苦茶笑ったwwwww本文との温度差よ!wwwwwwww(笑)

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