2024年10月21日月曜日

021.竜征群〈5〉

【紅蓮の灯、隻腕の盾使い】(モンハン二次創作小説)
021.竜征群〈5〉

021.竜征群〈5〉


 無尽蔵に迫り来る鳥竜種の群れも、少しずつ掃けてきた頃。
 小型の鳥竜種が尋常ならざるハンターによってねじ伏せられた事実が視界に広がった事によって、次の階層……小型の鳥竜種が逃げ惑わなければならなかった理由が、前衛を張っていたハンター達に表出し始める。
「大型の、鳥竜種……!」
 全身返り血で真っ赤に染まりながらも、懸命に鳥竜種の足止めを繰り広げていたシアの視界に、それは映り込む。
 イャンクックやドスランポスを筆頭に、中型ないし大型の鳥竜種が続々と戦線に投入されていくのを見て、シアは納刀状態に有る太刀を一撫でする。
「第二陣、って、事」
 冷静に、正確に。戦況を見定めながら移動を開始する。
 移動しながらも押し寄せる小型の鳥竜種の足の腱を的確に斬りつけ、行動不能にしていくのは忘れない。中型ないし大型の鳥竜種が押し寄せたからと言って、小型の鳥竜種が全滅した訳ではない。同時並列で小型の鳥竜種の動きも阻害しなければ、後衛の負担が増大するのは避けられないのだ。
 門まで到達するのに間も無くと言った風情の、低空飛行で滑空するイャンガルルガに向かって、――一閃。
 片目に斬撃を喰らったイャンガルルガは思わぬ伏兵に虚を衝かれたようにもんどりを打ち、全身を使って地面を滑走した後、無事な右目でシアを睨み据える。
「グアァ……ッ!」
 殺意の奔流。黒狼鳥……鳥竜種の中でも孤高とされる、一匹狼を好んで群れようとしないイャンガルルガであっても、古龍ラオシャンロンの闊歩には敵わないと言う事なのか。
 古龍相手では逃げの一手しか打てないイャンガルルガだが、相手が己より小さくか弱い存在……人間であれば、鬱陶しい羽虫を払うように相手をするのも吝かではないと言った風情で、西の砦に向かう足を止めてシアに敵視を向けている。
「そうだ、それで、良い」
 イャンガルルガと正対するシアは、再び納刀状態に戻した太刀を、居合の構えで柄に指を触れる。
 正規の狩猟であれば、低ランク帯のハンターに狩猟依頼が出される事がまず無いであろう、ハンターズギルドに難敵と認定されているイャンガルルガである。ここで狩猟が叶うのは、ある種の幸運と言えた。……尤も、常人のハンターであれば、極力避けたい相手である事には違いなく、あくまで強敵との戦いを望む常軌を逸したハンターに限るが。
 イャンガルルガが、その嘴を大きく仰け反らせた。
 その挙動だけで、シアの思考に(何かを、撃つ!)と言う予想を走らせた。
「ガアァッ!」
 再びシアに向かって嘴が開かれた瞬間、その鋭利で大きな嘴から迸ったのは火球――体内で生成した火炎を、体液と一緒に吐き出したのだろう。喰らえば致命傷は避けられない――それをシアは真正面から迎え撃ち、鋭く一歩踏み出す。
 音が消えるような、一歩。
 次の瞬間には火炎ブレスの目前から姿が掻き消え、イャンガルルガの背後に足音もさせずに降り立つ。
「――閃撃」
 チン、と鍔が鞘に触れる音と同時に、イャンガルルガの嘴に裂傷が駆け抜け、鮮血が噴き出た。
「ガアァ!?」
 何が起こったか分からないと言った風情でよろめくイャンガルルガの背後から更に撫で斬る――――態勢が立て直される前に、丁寧に、力強く、深く深く、二撃、三撃と斬撃を見舞っていく。
「ガ、アァ……!」
 イャンガルルガが体勢を立て直すまでに、彼の全身は裂傷があまりにも刻まれていた。
 全身を血塗れにしながら、シアを睨み据える。怒りに満ち充ち、必ず殺してやるぞと瞳が叫喚を上げていた。
「ガァーッ!」
 あまりにも速いモーションでの咆哮。シアは思わず両手で耳を防ごうとしたが、一歩間に合わなかった。
「しまっ――――」
 金縛りが起こったかのように、全身がその場に縫い止められる。イャンガルルガが咆哮――バインドボイスを行う事は、事前に知識として持っていた。けれど、その事前モーションの短さに驚くと共に、これは咄嗟に回避するまでに修練が必要だと思い知る。
 体が動かない間にイャンガルルガは再び嘴を空に向けて、何かを溜める仕草を――数瞬の間さえ置かずに整えた。その先の未来はシアでなくとも理解できた。火球を吐き出し、彼女の肉体は全焼する。
 失態を犯したとは思えない。ただただ、大自然の一部である、モンスターが一つ上手だったと言う、あまりにも屈辱的な事実が結果として訪れるだけ――――
 だった、筈だった。
「どこ見てんだ!」「それは俺の獲物だ!」
 同時に発せられた二人の少年の咆哮が走り抜けたかと思った瞬間、イャンガルルガの嘴は左右から小盾と穿龍棍が叩きつけられ、吐き出す予定だった火球は嘴の中で爆発――イャンガルルガは悲鳴も上げられずにのた打ち回る事になった。
 同時にシアの左右に着地した二人の少年は、互いに睨み合いながら、牽制するように武器を持ったまま指差し合う。
「おうおう、俺が先に殴ったんだから俺の獲物だろアレは!」「バカ言え、この戦場のモンスターは全て俺の獲物だ、勝手に殴るな」「アァ!? だったら名前でも書いとくんだな! テメエの名前知らねえけどよ!」「アァ!?」
「…………」
 感謝を伝えようにも、ずっと喧嘩している少年二人……リスタと穿龍棍の少年を見て、呆れたように肩を竦めるシアなのだった。
「あ~! ハウト、こんなところに居た……!」
 全身返り血で血塗れになった片手剣使いの少年……サルツが三人の前に駆け込んで来た。
 その発言で、ようやっとリスタとシアは穿龍棍使いの少年の名がハウトであると知る。
「大丈夫だったかい? だいぶ先まで行ってたみたいだけど……」
「問題無い。こいつが邪魔しなければもっと狩れていた」「アァ!? テメエが邪魔してんだろうがよ、おいサルツ! こいつの手綱をちゃんと握っとけよな!」「アァ!?」
「……えぇと、リスタ君もその、白熱すると大変なんだね……」
 あはは……と苦笑を浮かべるサルツに、シアは「仲、良いんだね」と溜め息を零すだけだった。
「誰が!」「――サルツ、下がってろ。イャンガルルガは手に余るだろ」
 リスタの咆哮に被せるように、ハウトはサルツの前に立って、イャンガルルガを牽制する。
 サルツは「う、うん。僕はまた、小型の鳥竜種の掃討に行ってくるよ。ハウトも、気を付けてね」とだけ返し、頼りない様子で大勢のハンターが戦っている戦線へと戻って行く。
「お優しい事で」
 皮肉かと思いきや、リスタの声音は真面目だった。サルツが戦力としてどれだけ有るのか、ハウトの発言と、彼の身に纏う装備、そして雰囲気や立ち居振る舞いから察したのだろう、ハウトを揶揄する意図は無いようだった。
「おい、お前」ハウトがシアをチラリと一瞥する。「お前も、俺の邪魔をするなよ」
「……問題児は、リスタだけで、充分」「誰が問題児だ誰が!」
「ガアァッ!」
 ボロボロになった嘴から、再び火球が飛んでくるも、三人とも既に散開を果たしており、火球は地面を抉って炎上させるだけで、人的被害は無かった。
 急接近するリスタとハウトの二人に、イャンガルルガはその場で尻尾を振り回し、近づけさせないように牽制する。
 リスタは空中で体勢を切り替えて、小盾で尻尾を殴りつけると、その衝撃だけでイャンガルルガは態勢を崩し、その隙を狙ったかのように、ハウトの穿龍棍がその頭を思いっきり殴りつけた。
「ガアァッ!?」
 一撃で昏倒する――事は無く、踏鞴を踏んだだけで踏み止まり、今度はハウトを啄もうと振り向くも、今度はリスタの小盾がイャンガルルガの脳天を捉え、凄まじい衝撃音が駆け抜ける。
 二度の打撃に、しかしイャンガルルガは昏倒も転倒もせず、再び尻尾を振り回して二人のハンターを振り払うと、怒り狂った眼差しで両者を捉える。
 リスタもハウトも空中で体勢を整え終え、リスタは周囲を走り回っているゲネポスの頭を蹴って、ハウトは穿龍棍の噴射機構だけで、再びイャンガルルガに突撃を仕掛ける。
「ガアァッ!」
 そのタイミングでの咆哮は、その発声だけで二人のハンターを吹き飛ばすだけの威力を伴っていた。
「一度聴けば、対応、できるね」
 バインドボイスで振り払ってから再び火炎ブレスをお見舞いする予定だったイャンガルルガはしかし、目前に迫る剣士に瞠目する。たった一度喰らっただけの咆哮を、そのほぼ無いに等しい事前モーションを、既に見切ったハンターが居る事に、戦慄する。
「――閃撃!」
 無事だった右目すらも斬撃を喰らい、イャンガルルガは叫喚を奏でた。
「ちっ、やるじゃねェか」
 バインドボイスを空中でマトモに喰らったリスタは転倒しながらも即座に立ち上がり、ハウトもその横で体勢を立て直し終えていた。
「……再生能力を侮るな」
 ハウトの唸るような声に、リスタとシアはイャンガルルガがいつの間にか左目を動かしている事に気づいた。
 シアが見舞った斬撃も、時間の経過と共に再生した、と言う事なのだろう。よく見たら全身に刻まれた裂傷も今や鮮血の痕が残るだけで、傷は塞がっている。
「カッ、鳥竜種とは言っても古龍種に並ぶ難敵と称されるだけは有るじゃねェーの」コキコキ、と首の骨を鳴らしてイャンガルルガを睨み据えるリスタ。「これがまだ前座だってのがまた笑えるな」
「俺一人で充分だ、テメエらは失せろ」「は? 俺一人で充分だから消えるのはテメエだよハウト」「喧嘩、するぐらいなら、帰って?」
 リスタとハウトの牽制に、遂にシアまで混ざってしまい、混沌が極まりつつある時、ゴゴゴゴ、と言う絡繰りが駆動する音と共に、三人に影が差した。
 見上げた先には、巨大な――そう、巨大でずんぐりむっくりなアイルーの姿をした、蒸
気兵器が、有ろう事か足裏から凄まじい蒸気を吐き出しながら、飛んでいた。
「「「は?」」」
 三人の顔が理解不能な物を目撃したそれになるのだった。

🌠後書

 約10日振りの最新話更新です! ちょっぴりお待たせ致しましたーっ!
 いよいよ小型の鳥竜種の群れも片付きつつあるので、次のフェーズへとシフトしていきます。イャンガルルガ、MHWではMR帯の、古龍を倒した後に出てくるモンスターのようなので、それはもう大変お強い扱いされてるのだと信じています。
 確かP2G時代だったかな? 密林のMAP1の高台から拡散弾を撃ち続けて討伐したのは今や懐かしき思い出です。後は4だったかXXだったかちょっと思い出せないのですが、あまりにも面倒臭い相手だったと言う記憶だけがうろ覚えに残ってる感じですね…w
 短い咆哮、毒の有る尻尾、火炎ブレス、ホーミング性能の有る突進、啄み攻撃…MHF時代でも散々ウゼェーッ!って思いながら狩猟していた彼を、この作風でどう描けるのか挑戦してみたかったのも有ります。
 イャンガルルガの話はこの辺にして、最後に出てきた謎のアイルーロボに関しては次回をお楽しみに!w もう「紅蓮の灯」はモンハン二次創作小説を二度と綴れなくなっても良いように、やり残しが無いように徹底的にやりたい放題やっていくつもりです!ww
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    シアちゃんがめちゃめちゃかっこよくてもうそれだけでご飯3杯w
    あとは喧嘩し続けてる二人の群を抜く強さ…どういうことなのww

    ガルルガさんうぜぇっすよねw密林のいつもの降りてくるとこに落とし穴はって火事場双剣で背中に乱舞。
    穴から出たとこで尻尾切ってサブクリとかしてたなぁw
    硬くてきらい。

    アイルーロボ…実はゴエモンインパクトだったに一票!

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

      シアちゃんめちゃめちゃカッコよく仕上がってて良かった~!ww ご飯3杯も有り難う御座います!www
      そして喧嘩し続けてる二人ですよw こういう共闘関係でありながらライバル関係みたいなのがね、もうね、週刊少年誌なのです!ww

      ガルルガさん、MHFの対処法それだーっ!wwってなってますw 硬過ぎて倒しきるの面倒臭すぎてサブクリしてましたよねぇw やっぱり火事場双剣の乱舞が最強でした…(大体これで何とかなってた奴w)

      ゴエモンインパクト!wwwwwまさかとみちゃんの感想からその単語が聞けるなんて!wwwwwww(笑) 嬉し過ぎてげらげら笑い転げてしまいましたよ!wwwwww(笑)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!(´▽`*)

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