2025年3月17日月曜日

第23話 折れぬ心、助かる命

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第23話 折れぬ心、助かる命

第23話 折れぬ心、助かる命


 時間との勝負だと、無意識に察していた。
 相手は竜騎士と、銃を持つ……機工士。こちらは負傷して動けない剣術士と、呪術士。ホルガーさんが倒れて動かない以上、戦場に立っているのが呪術士だけと言う事は、竜騎士も機工士も、ただ見守っているような無駄な時間の使い方はしまい。
 呪術士は詠唱を伴わなければ呪術は行使できない。それが前提条件である以上、準備させる時間を与えない、隙を用意させない事こそが、彼らがすべき最善手であり、今最も私が恐るべき行為だ。
 アレクシアさんは油断も隙も見せずに、転倒したホルガーさんに目もくれずに、即座に私に向かって駆け出す仕草が見えた。敵対している私さえどうにかしてしまえば、彼らは幾らでも逃げられる。そう分かっているからこその、効率的な駆動。
 竜騎士に肉薄されたら、私の装備では一撃の下に斬り伏せられるだろう。一撃でも喰らったら終わり。しかし呪術を行使する為の詠唱は恐らく……いや、絶対に間に合わない。
 アレクシアさんが電撃的に距離を詰めて、一切の躊躇も無く私の急所――首を狙って両手槍の穂先を突き込んでくる――その、寸毫の間を縫うように、私は丹田で練った魔力を循環――咄嗟に己に迅速魔を掛け、スタッグホーンスタッフを掲げる。
「――――スリプルッ!」
 呪術に限らず、魔法を扱うジョブであれば、鍛錬を積む事で修得する事が出来ると言う、相手に睡眠を掛ける魔法。
 本来であればこれもまた詠唱を伴う魔法ゆえに、竜騎士の突撃に間に合わせる事など不可能――だけど、私には今、迅速魔が有る……!
「な、に……ッ!?」
 無詠唱で放たれた睡眠魔法の直撃を喰らったアレクシアさんは、驚きに満ちた表情を覗かせ――力が抜けながらも私の首元を狙って穂先を突き込もうとした体勢のまま――私と擦れ違う形で倒れ込み、動けなくなった。
「な……え……?」
 リシャールさんが瞠目してアレクシアさんと私を見比べるように視線が行き来してたけれど、震えながら銃口を私に向けた。
「な、何をした……!? アレクシアが、負ける、筈……ッ!?」
「……ちょっと、眠ってるだけです」意識が覚醒したまま、思考だけが加速してる感覚で、リシャールさんを睨み据える。「――リシャールさん、投降してください。もうこれ以上抵抗しても、傷が増えるだけです」
「な、何を……ッ!」銃口を私に向けたまま、リシャールさんは歯を食い縛って呻いた。「まだだ……まだ、終わっちゃいない……! あなたさえ仕留めれば、ワタクシはまだ……ッ!」
「……では仕方ありませんね。あなたも、眠らせます……!」キッと睨み据え、スタッグホーンスタッフを掲げる。「透き羽持つ、精霊の香に酔い……」
「馬鹿め! わざわざ詠唱を待つ機工士がどこに居ると言うのですか!」
 銃声が響き、胴体を銃弾が貫いた感覚が走り抜けた。
 カフッ、と咳が出て、腹と背中からパタパタと血液が噴き出て、私は一瞬視界が明滅したけれど、一歩踏み出して、堪える。
「…………す、透き羽持つ、精霊の香に、酔い……ッ」
 血が抜ける感覚って、段々体の熱が失われていくような感覚なんだなって、まるで他人事のように感じながら、私の口は詠唱を唱え直し始め、意識はリシャールさんに向いたままだった。
「唱えられると思うなよッ!」
 再び銃声。左腕がもげそうになるほど背後へ大きくひねられ、体勢を崩して倒れそうになったけれど、辛うじて踏み止まって、跪く形で、リシャールさんを睨み据える。
「……ッ、く、ぅ……す、透き羽、持つ……精霊の、香に……酔い、時の……狭間に……ッ!」
 全身から力が抜けていく感覚に満たされながらも、私は詠唱を止めなかった。たぶん、もう一発喰らったら、私は……と、気づいていても、ここで挫けたら、チョコボさんは、ホルガーさんは……って想いが募って、口が、体が、意識が、勝手に動いてしまっていた。
 リシャールさんは怯えた表情で、今も銃口をこちらに向けたまま、何かを喚いていた。ちょっと、もう、聞こえないけれど。泣いているのか、怒っているのかも分からない。
 意識が遠退く。まだ、まだ駄目だ。彼を眠らせないと。鉄灯団に引き渡す為にも、眠らせ……ない、と……。
 そんな、意識が暗闇に引き摺り込まれる間際だった。ドカドカドカ、と凄まじい足音を立てて、何かが迫り来る気配と共に、何故か急に眠たくなってきてしまった。
「クエーッ!(ウウイちゃんをいじめるなーっ!)」
 ドカァーッ、とリシャールさんの体が黄色い何かに蹴飛ばされた瞬間が見えた時には、私の意識はもうそこに無かった。

◇◆◇◆◇

 …………ふわふわの何かに包まれている気がする。
 全身がポカポカと温かくて、気持ち良くて、とても居心地が良くて……
 あぁ~、ここが天国なのかな……とか思いながらうつらうつらしていると、「クエェ(ウウイちゃん)、クエェ(ウウイちゃん)……」と言う、たぶんチョコボさんが呼ぶ声が聞こえてきて、ハッと意識が覚醒した。
 瞼を開けて飛び起きようとして、全身がアイアンインゴットのように重くて、且つ目の前にふわふわの毛が当たって、起きても何も出来なかった。
「クエェ!(ウウイちゃん起きた!) クエ、クエ!(心配したんだよ~! 起きて良かった~!)」
 ふわふわの羽が持ち上がって、チョコボさんの泣き顔が飛び込んできた。スリスリと嘴で顔を撫でてきて、私は「ど、どうしてチョコボさんがここに……? いたた……」と、声を掛けながら腹を押さえて呻いた。
「あっ、ウウイさん。気づかれましたか?」
 聞き覚えの有る声に振り返ると、ホライズンで別れた筈のチョコボ屋さんが、心配そうに跪いてこちらの顔色を窺っていた。
「動けますか? 先ほどまで幻術士が治癒の魔法を掛けてくれていましたが……」チョコボ屋さんは心配そうに私の体を見て、確認してから一つ頷いた。「良かった、傷は塞がっていますね。傷跡は……残ってしまいましたが……」
「そ、それは良いんですけど、どうしてチョコボ屋さんがここに……? いてて……」
 思わず起き上がってチョコボ屋さんを見つめると、チョコボさんが私を抱き締めるような形で動かさないように羽交い絞めにしてきた。
「クエ!(心配だから追い駆けてきたんだよ!) クエクエクエェ!(そしたら悪い奴にウウイちゃんがいじめられてたから、もうぼく我慢できなくなって、悪い奴をぶっ飛ばしたんだ!)」
「悪い奴……? ――あっ、アレクシアさんと、リシャールさんは……!」
「手柄の二人……じゃなかった、悪人二人は不滅隊が出張って拘束したぜ。ひとまずは一件落着って事だ」
 またまた聞き覚えの有る声が背後から聞こえたので、チョコボさん越しに振り返ると、お腹に大きな包帯を巻いたホルガーさんが、不貞腐れた表情で私を見つめていた。
「ホルガーさん! 無事だったんですね!? 良かったぁ……」ホッと胸を撫で下ろしてしまう。
「そりゃこっちのセリフだってーの。お嬢さん、どんだけ無茶苦茶するんだよって、倒れながらたまげてたぜこっちは」はぁー、と溜め息を落とすホルガーさん。「いや、まぁ、俺様の不手際に付き合わせちまった上に、手柄まで取られちまったんだ。流石に申し訳ねえと思ってるよ。ごめんな」
 突然目の前で土下座を始めるホルガーさんに、私は慌ててしまった。
「い、いやいや! 頭を上げてくださいホルガーさん! 二人とも無事だったんですから、それで良いじゃないですか!」
「……お嬢さんがそう言うなら、良いけどよ……」困った様子で起き上がるホルガーさん。「お嬢さんが居なけりゃどうなってたか分からねえし、ほんと助かった。ありがとな!」
 ニカッと、不敵に笑うホルガーさんに、私も思わずへにゃ、と笑い返してしまった。
「だとしてもよぉ! 手柄を不滅隊に奪われたのは癪に障るぜ……! 折角! ここまで頑張ったってのになぁ! チクショウ!!」
 突然地面を殴りつけて悔しがるホルガーさんに、「あ、やっぱりそこは譲れないんですね」と思わず苦笑してしまうのだった。
「冒険者さん。改めて、あなたに感謝申し上げます。チョコボの為に、ここまで尽くしてくれた事。一チョコボ屋として、あなたに最大限の感謝を。本当に有り難う」
 チョコボ屋さんは仰々しく頭を下げると、遠くに見えるチョコボキャリッジに顔を向けて、更に続けた。
「どうやら戦災孤児をウルダハの豪商に売りつける為に同乗させていたみたいで、それも今、不滅隊の方で対処してくれると聞きました。お二人のお陰で、助かった命がたくさん有ると言う事です」
 チョコボ屋さんはそう言うと、誇らしげに私を見つめて、微笑んだ。
「こんな素敵な冒険者さんと巡り合えた事、誇りに思います」
「そ、そんな……流石に褒め過ぎですよ……えへへ……」
「――――そこで、一つご提案が有るのですが」
「えへへ……え?」
 チョコボ屋さんが真面目な表情で私を見つめてくるので、どんな話が始まるのかと息を呑むと、彼は真剣な声でこう続けた。
「こちらのチョコボを、冒険者さんに預けたいのですが……いかがでしょうか?」

🌠後書

 約1ヶ月振りの最新話更新です! 大変お待たせ致しましたーッ!
 と言うのもこの1ヶ月ほぼモンハンワイルズで溶けたり、お仕事のあれこれでガッツリ参っちゃってそれどころじゃなかったりな感じで過ごしておりました。挙句FF14の課金が切れてるのでロードストーン版も更新できずと言うこの体たらく!w 課金したら即ロードストーンも更新しますので、Blogは先行公開版と言う事で一つ…!ww
 と言う訳でチョコボ編もあっと言う間に終盤です! 戦闘シーンが苦手苦手と言うアレなのですけれど、そもそもがどのバトル要素の有るGameでもそうなのですけれど、一撃でも喰らったら普通そこでもう瀕死じゃない?? って言うリアリティ寄りの思考が有るので、迂闊に攻撃させられない、って言うのが有りますw
 ファイアなんて人体に撃ち込んだら大惨事でしょ、とか。竜騎士のジャンプなんて喰らったら頭蓋から股間まで一気に断裂でしょ、とか。そういうアレですw 
 言い訳はそこまでだ! ウウイちゃんを痛めつけた報いを受けて貰おう!! アイエエエ!!?!!
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

※2025/04/03校正済み

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    続きが拝読できる喜びを噛み締めております。ありがとう!
    ウイちゃんかっこいい!!もうただのあわてんぼうではないんだぜ…そう、覚醒したあわてんぼうさ!!

    小物感バリバリのリシャールさんと汚いアレクシアさんはもう多分この世には…(娘を傷物にされたガイウス様激おこ……西の空には頭から湯気出してるガイウスインパクトが観測されたらしい。

    良き相棒ができたようで今後が楽しみです。クエェ!

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!!(´▽`*)

      えへへ!w そう言って貰えるとハチャメチャ嬉しいです! こちらこそいつもありが㌧!!┗(^ω^)┛
      覚醒したあわてんぼうでお腹よじれましたよねwwwwwやっぱりあわてんぼうはあわてんぼうだった!wwww(笑)

      気づいたら亡き者にされてて笑ったwwwwですよね、ガイウス様激おこ案件過ぎますよねこれは…www頭から湯気出してるガイウスインパクトwwwwwwwwエオルゼアもしかして焦土の危機!?!?!wwwwwww(笑)

      良き相棒! ですです!(´▽`*) 今後は頼もしい仲間が増えた冒険をぜひ楽しみにお待ち頂けたらと思います!┗(^ω^)┛

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!(´▽`*)

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2025/10/19の夜影手記

2025/10/19の夜影手記 🌸挫け気味なのでこっそり愚痴を吐かせて~😣