2025年6月10日火曜日

第25話 変える力とお金の力〈1〉

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第25話 変える力とお金の力〈1〉

第25話 変える力とお金の力〈1〉


「――やぁ、ウイ二等闘兵。今日も納品お疲れ様」
 早朝のウルダハ。不滅隊の作戦本部に顔を出した私は、いつものルーティン通り、バッグから大量の錬金薬を取り出して、専用の窓口に納品していく。
「えと、今日は多めにポーションを用意しておきました。昨日連絡を受けた限り、もう在庫がピンチなんですよね……?」
 ポーションの入った瓶を並べながら呟くと、窓口に立つ不滅隊の兵員が難しい表情をして腕を組み、「そうなんです……先日のアマルジャ族の蛮神討滅からずっと、小競り合いが続いててね。今はまだ大規模な戦闘に発展してないだけで、いつ爆発するか……」と、困り果てた様子で溜め息を落とした。
 アマルジャ族に関しては私自身、そこまで詳しい訳ではないにしても、東ザナラーンまで足を運べば、否でもその話は耳に挟む事になる。
 街道沿いであっても堂々と商隊を襲って人拐いをするなど日常茶飯事で、護衛に付いていた冒険者が皆殺しにされたとか、日がな一日錬金術の工房に籠もっていても聞こえてくる。
 ウルダハの中であればその危険に身を晒す事が無いとは言え、一歩外に出ればそういう危険が孕む世界である事は、改めて思い知らされる。
 私も呪術士としてウルダハの外に出る事は有るし、アマルジャ族がうろついている東ザナラーンや、彼らの本拠地が有る南ザナラーンまで足を運ぶ事も有るから、そういう話には常にアンテナを張り巡らせているつもりだ。
 どこでそういう情報が活きてくるか分からない。予め知っているのと、何も知らずにその場を訪れるのとでは、心構えも、咄嗟の対応も雲泥の差になる。
「光の戦士の再来と言われた冒険者さんが、何とかしてくれたら良いんだけどねぇ……」
 はぁーあ、と鬱屈した溜め息を落とした兵員さんが、ハッと我に返ると、私に向かって静寂を要求するように、口元に人差し指を宛がって、「こ、これは内緒ね? ラウバーン様に知られたら叱責じゃ済まないかもだから……!」と慌てた様子で「しぃーっ!」と歯の隙間から呼気を噴き出した。
 私は「あはは……」と苦笑を返してから、「それではまた入用の錬金薬が有ったらご連絡ください! 早めに言ってくれたら、多めに用意できると思いますので!」ペコリと頭を下げてから、兵員さんに手を振ってその場を後にした。
 不滅隊の作戦本部を出ると、まだ夜が明けて間もないと言うのに、辺りは灼熱の熱気が忍び寄りつつあった。天気予報では今日は一日快晴だった筈。程々に水分補給しながら、今日も冒険者としての活動を始めよう!

◇◆◇◆◇

「……あれ? トラブルかな」
 ナル大門前に居を構える、冒険者ギルドを兼任している酒場、クイックサンドに入ると、店主であり看板娘と言っても過言ではないモモディさんが、大柄な冒険者……ルガディン族の男の人に、凄い勢いで絡まれている場面に遭遇してしまった。
「コマンガヤゼー、スグニヨンデモラワントマニアワンクナルガヨ~」
「そうは言われてもねぇ……」
「アアー、ドウスンガケー、コノママヤッタラタスケラレンネカー」
「どうしたんですか?」
 ルガディン族の、訛りが強い言葉はよく聞き取れないけれど、モモディさんが困っているのが見て分かったので、思わず間に入って声を掛けてしまった。
 するとモモディさんが顔を輝かせて、「あら、ウイさん! 待ってたのよ~! この冒険者さんの話を聞いて貰っても良いかしらっ?」と、ルガディン族の冒険者さんを示した。「ジェノガンさん、後はこの子が対応してくれるから! ウイさん、後は任せたわ!」
 ジェノガンさんと呼ばれたルガディン族の冒険者さんが振り返った時に、気づいた。両目を黒い包帯で覆っていて、目が見えていない事がすぐに分かった。
 にも拘らず、振り返ってすぐに私を見下ろして、「ンン? アンタガヒカリノセンシノ冒険者ケ? ホンマニ?」と不思議そうに頭を捻るも、モモディさんが後ろから、「はいはい! 話は席に着いて存分にしちゃって! 後が詰まってるんだから!」と、ぐいぐいジェノガンさんの背中を押して、私はジェノガンさんに潰されそうになりながら、追いやられてしまった。
 ジェノガンさんは不服そうに鼻息を落とすも、私を見下ろして複雑そうな表情を浮かべている。
「……ショウジキイッテクレン? アンタ、ヒカリノセンシジャナイガヤロ?」
「えと、えぇーっと……」咄嗟に聴き取れなくて、数瞬頭の中で彼の言葉を組み立ててから、頷いた。「は、はい……私は光の戦士って呼ばれてる冒険者ではない、ですね……」
「コマンガヤゼー、ヒカリノセンシヤナイトムリナガヨ~。アァ~、コノママヤトタイヘンナコトニナンガヤッテ~」
「そ、その……私じゃ頼りにならないかもですけど、お話だけでも聞かせて貰って良いですか……?」
 ジェノガンさんの言葉の訛りが強くて上手く聞き取れないなりに、私が光の戦士じゃないから解決できないと嘆いているのは分かる。
 私だと力不足なのだと正直に言われているのは、確かに光の戦士の再来と呼ばれてる冒険者さんと比べたらそうだろう、とは思っちゃうけど、何も分からないままにすごすご立ち去るのは、困ってる人を前にする行為じゃないなって想いから、何とか食い下がってしまった。
 ジェノガンさんはそんな私を見下ろしたまま数瞬考え込む素振りを見せると、「マァ……ハナシダケデモキイテモラエッケ?」と小さく頷き、近くの空いている席に座って貰えた。
 思わずホッと胸を撫で下ろし、私も彼の対面に腰を下ろす。
「改めまして。私、冒険者のウウイ・ウイって言います。まだ冒険者になって日が浅いですけど、お話だけでも聞かせてくれたら嬉しいです!」
「オイチャンハ、じぇのがん・ばーどじぇいる。ハナシナンヤケドネ、コノママヤトヒトガシヌンヨ」
「ジェノガン・バードジェイル……さん、ですね。このままやとひとがしぬ……人が死ぬ!?」聞き間違いかと思って、思わず大声が出てしまった。「たたた、大変じゃないですか!? 今すぐ助けに行かないと!!」
「ソウナンヤケドネ、ダレカハワカランガヨ」
「だれかは……わからん……え? あっ、つまり知らない人が死にかけてるとか、そういう……?」
「タブンマダシナナインヤケド、チカイウチニシヌンヨ」
「たぶんまだしなない……ちかいうちにしぬ……?? ど、どういう事なんですか? 人質にされてるとか、ご病気とか……?」
「ワカラナイガ。デモ、ダレカワカランソイツガシヌト、タイヘンナガヨ」
 クイックサンドの喧騒がちょっと遠い。
 ジェノガンさんの口調が訛りのキツい言葉と言うのも有って、頭の中で上手く変換できないせいなのか、イマイチ問題の根幹が掴めなくて、頭の中でクエスチョンマークが乱舞している。
 誰か分からない人が、近い内に死ぬ。
 死ぬ理由も、原因も分からない。
 その詳細不明の謎の人物が死ぬと、大変な事になる。
 今の会話で伝わったのはこの三点だけだ。こんな要領の得ない依頼は初めてで、私は腕を組んでうんうん唸ってしまう。
 ジェノガンさんは目元を包帯で覆っているにも拘らず、私の表情の機微に気づいたのか、どこか諦観を感じさせる溜め息を落とした。
「ヤッパリ、ダメヤネ。ヒカリノセンシヤナイト、カイケツデキンガ。ゴメンヤケド、アンタジャムリヤワ」
「……光の戦士じゃないと、解決できない……それって、今のジェノガンさんの話は、光の戦士だったら理解できるって事ですか?」
 何とか彼の力になりたくて食い下がる形で尋ねてみたところ、彼は初めて私に関心を懐いたように、顔をこちらに向けて小さく首肯を繰り返した。
「ソンナガソンナガ! ヒカリノセンシナラ、カエルチカラガアルハズヤカラ!」
「かえるちから……変える力? 超える力……じゃなくて、ですか?」
 変える力、に関しては聞いた事は無いけれど、超える力、であれば先日セクレアさんと冒険した時にちょこっとだけ聞きかじった覚えが有る。それも、私の体に宿っている器官……一種の臓器のようなものだと言う知識も有る。
 ジェノガンさんは包帯で覆われた両目で私を見るように、ずい、と顔を近づけてきた。
 間近で、黒い包帯に覆われた目元が蠢く様子に、私はドキドキしながら待機していると、彼は姿勢を正して、「ソンナコトアルガヤ……」と不思議そうに独り言ちた。
「えと……ジェノガンさん……?」
「ういサンイウタネ。イママデシツレイナコトイウタトオモケド、ユルシテホシイガ」ジェノガンさんは額をテーブルに叩きつける程の速度で頭を下げた。「ソンデ、アラタメテういサンニイライシタイガヤケド、イイケ?」
「えっ、えっ、ちょっ、ちょっと待ってください! えぇーと……いらいしたい、って聞こえた気がするのですけど、私で良いんですか……?」
 ジェノガンさんは顔を上げると、しっかりと首肯を返した。
「カエルチカラヲモツ、アンタヤナイトカイケツデキンガ」
 真剣な表情で告げるジェノガンさんに、私はまだ困惑したままだったけれど、それはまさしく、新しい冒険が始まる合図だった。
 私は力強く頷いて、「分かりました、宜しくお願いします、ジェノガンさん!」と握手を求めると、目が見えていない筈のジェノガンさんはあっさりと手を握り返し、「ヨロシクネ」と、彼も嬉しそうに口元を綻ばせた。
 そうして私はまたおかしな事件に巻き込まれていく。いや、正しくは、みんなをおかしな事件に巻き込んでいく、の方が正しいのかも知れない。
 クイックサンドは客足が増していき、喧騒は大きくなる一方だった。

🌠後書

 約1ヶ月振りの最新話更新です! 大変お待たせ致しましたー!w(いやほんとにw)
 今回から新章突入です! 謎の冒険者の依頼から始まる今回の物語も、たぶん相当に長いエピソードになる予定です。色々FF14本編(Patch2.0辺りのメインクエスト)から寄り道する形で、且つ本編っぽい捏造設定を継ぎ足しで出していくと思いますので、ここからは寄り二次創作色が強い展開になっていくと思います。つまり本領発揮って訳!(笑)
 それに伴って、24話までの物語で一区切りと言う事にして、こちらも単行本にしてBOOTHで通販しようと考え中です! 24話の時点でザックリ全体の半分ぐらい来てると思ってるので、全2巻の内、1巻を書き下ろし付きで単行本にしたいなって…!
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

※2025/07/31校正済み

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv(いやほんとにw)

    待ってましたよ新章!
    ジェノガンさん実は例の組織の構成員で超える力を持つ冒険者を片っ端からほにゃららの家に連れ込んでいるという…オーコワイコワイ…
    もしもし…聞こえる?みんふぃ(ツーツーよ…。 ウイちゃんを仲間にしておけば帝国もうっかり手は出せないからね。賢い選択だと思うわ。
    電波障害で一部聞こえませんでした。

    ちょっと久しぶりすぎて暴走気味なのでこの辺で!

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!w(大変お待たせ致しました!ww)

      遂に来ました新章! やっとネタを練れる程に創作脳が帰ってきたので、またコツコツ更新して参りますぞー!┗(^ω^)┛
      例の組織の構成員!ww って完全にアマルジャ族と別種の人拐い組織になっとるがな!wwwww(笑) ヤバ過ぎるぅ!ww
      大事なところで電波障害になってて笑うwwwwwしかも何だかんだでまだウイちゃんが帝国の軍団長の娘設定生きてるの笑うしかないwwww(笑)

      久方振りにぶっ飛んだ感想を読めて大満足です!ww(´▽`*) やっぱこれだよこれこれ!wwww(笑)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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2025/10/19の夜影手記

2025/10/19の夜影手記 🌸挫け気味なのでこっそり愚痴を吐かせて~😣