2025年6月11日水曜日

書き下ろし いつもの日常、ちょこっと冒険

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
書き下ろし いつもの日常、ちょこっと冒険

書き下ろし いつもの日常、ちょこっと冒険


「えーっと、スコーピオン交易所のギギヨンさんの毒消しは納品済みで、アシュガナ貿易のロリッヒさんから依頼されてる砂埃対策の目薬の納品がまだだから……岩塩と、東方原産の薬草……何だっけ……あぁそうそう、ジンセンだジンセン。錬金術師ギルドのエスメネットさんが取り扱ってる筈だから、そこで調達して……いや在庫がまだ有ったかな……」
 ウルダハのサファイアアベニュー国際市場を、メモ帳に視線を落としながらブツブツ独り言を呟きながら歩いてると、視界の隅に小さな女の子が落ち着かない様子で通りを見ている姿が入り込んだ。
 通りを行き交う商人や冒険者に声を掛けようとしているのは分かるが、声が小さかったり、或いはわざと無視するように立ち去る冒険者だったりと、中々相手にされなくて困っている様子だった。
 それもその筈だ。身なりは貧者のそれで、握り締めているのは1ギルの硬貨。とかくお金に煩いウルダハでは、あまりにも弱い依頼主だと言えるだろう。
 だとしても――冒険者として、困ってる人を見過ごすのはどうなんだ、と憤懣やるかたない気持ちを懐いて、私は女の子が突き飛ばされて転びそうになったのを、思わず支える形で、声を掛けた。
「おっと、大丈夫ですか? 良ければお話、伺いますよ!」
「あ……」女の子は思わず顔を綻ばせると、体勢を立て直してから、私に1ギルの硬貨を捧げた。「あの、あの、これで、探して欲しいんです」
「探し物ですね、任せてください!」ポン、と胸を叩いてしっかり首肯を返す。「まずは探し物の特徴を教えてください!」
「あの、あの、これぐらいの……」女の子が小さな丸を両手で描く。見るからにだいぶ小さくて、ひとまず探し人ではない事は分かった。「にゃーにゃー鳴くの。いつも一緒に居たのに、もう三日も見てなくて……きっと、お腹を空かせてると思うの……」
「にゃーにゃー鳴く……」聞いた事の無い特徴だけど、大きさから察するに、小型の獣が逃げ出したと言う事なんだろうか。「いつも一緒に居たのに、どうして居なくなっちゃったんだろう?」
「あの、あの、お父さんに、見つかっちゃって……食べちゃうぞって言われて、それで……ひぐっ……」
 その時の光景を思い出しちゃったんだろう、嗚咽を漏らしながら目元を拭う女の子に、私はポンポンと頭を叩いて微笑みかけた。
「ごめんね、嫌な事を思い出させちゃったね。お姉さん、頑張って探すから、泣かないで? ね?」
「う、うん……ありがとう、お姉さん……」
 女の子はまだ悄然としていたけれど、私を見つめて小さく笑いかけてくれた。
 ともあれ特徴は「とても小さく」て、「にゃーにゃー鳴く」、ともすれば「人に食べられちゃう」、生き物だ。ウルダハにそんな生き物が徘徊してたら、噂話ぐらいなら聞けそうな気がする。
「あの、あの、お姉さん。わたし、一緒に探しても良い……?」
 女の子が私の服の裾を握り締めてウルウルとした瞳で覗いてきた。私は微笑んでしっかり頷き返す。
「ありがとう、助かります! じゃあ一緒に話を聞きに行こっか!」
「話を聞きに……?」
「うん、まずはその子を見掛けた人を探すの」頷き、女の子の手を引いて歩き出す。「ウルダハには人が一杯居るからね、もしかしたら見掛けた人が居るかも知れないでしょ?」
 女の子は怯えた様子で尻込みしている様子だったけれど、話しかけるのは勿論私の仕事だ。彼女に怖い想いはさせないぞ、と意気込んで、早速聞き込みを始めるのだった。

◇◆◇◆◇

「にゃーにゃー鳴く? 聞いた事無いねぇ。それより今日採れたてのローランドグレープはどうだい? 今なら一つ6ギルのところ、5ギルでどうだい?」
「そんなちっちぇえモンスター、とっくに狩られてるだろ。今は中央ザナラーンで目撃されてる、迷い込んだクァールが熱いって話だぜ? 何でも逃げ足が速過ぎで捕まらねえんだと」
「にゃーにゃー……あぁ、覚えが有るよ。ザル大門の近くで、そんな鳴き声を聞いたかな。と言っても昨日の話だから、もうどこかに行っちゃったと思うけど」
「――有り難う御座います!」
 ペコリと頭を下げて、サファイアアベニュー国際市場に向かって歩いて行く行商人さんと別れると、女の子に向かって肯定の意を示すハンドサインを送った。
 女の子は顔を綻ばせて、トテトテと歩み寄ってくる。
「やっと手掛かりを掴んだよ! ザル大門の近くで聞いたって事だから、きっと中央ザナラーン……刺抜盆地まで逃げ込んじゃったのかも知れない。急ごう!」
「は、はいっ!」
 ザル大門を出れば、もうそこはモンスターの領域だ。女の子には傍を離れないように言い聞かせて、辺りを窺いながら、草葉の陰などを念入りに掻き分けて探す。
「ところで、その子は何て名前なの?」
「あの、あの、クゥちゃん、って言います!」
「クゥちゃんね。おーい、クゥちゃーん、どこだーい!」
 大声を上げながら、念入りに念入りに歩き回る。
 女の子が示した大きさであれば、ちょっとした物陰にすら身を潜ませられるだろう。うっかり見逃して、二度手間にならないように、念入りに捜索を続ける。
「クゥちゃーん!」
 女の子が大声を上げた、その時だった。
 崖上から巨体が落ちて来て、その着地の震動で、私は息を呑んだ。
 黄昏の世界を背景に佇むその巨体は、まさしく生物図鑑で見た記憶のままの、クァールの成体だった。
 私は咄嗟にスタッグホーンスタッフを構えて、女の子を庇うように立ち塞がったけれど、正直何の策も考えてなかった。
 私のような若葉の冒険者が挑める魔獣ではない。それこそ一撃で殺されてもおかしくないぐらいには、獰猛なモンスターだと話は聞いている。
 女の子だけでも逃がさないといけない。けれど、どうやって? 頭がひたすら回答を求めてトライ&エラーを繰り返す。
「クゥ……ちゃん……?」
「え?」
 女の子のか細い声に、クァールは同じようなか細い声で、「にゃーん」と鳴いた。
「あの、あの、お姉さん、あれ、クゥちゃんだよ!」
 女の子が私の陰から飛び出して、クァールに向かって駆け出していく。
「危ないッ!」
 思わず声を荒げて引き留めようと手を伸ばすも、先にクァールの方が飛び掛かり、最悪の事態を想像して顔を歪めた――けれど、現実に起こったのは、女の子に撫でられて気持ち良さそうに目を細めて喉を鳴らすクァールと言う光景だった。
「え……え? ほ、ほんとにそれ、クゥちゃん……なの……?」
 現実を受け止め切れずに呟きを漏らすと、女の子は「うん! うん! クゥちゃん! ちょっと大きくなったけど、間違いなく、クゥちゃんだよ!」と嬉しそうにクァールに頬擦りし始めた。
 クァールも大人しそうに女の子にされるがままだし、尻尾はブンブンと嬉しそうに揺れているし、とても魔獣とは思えない仕草に、私はすっかり毒気を抜かれてしまった。
「えと……クゥちゃん? もしかして、この辺りで冒険者に襲われなかった……?」
 昼間、聞き込みをしていた時の話を思い出して声を掛けると、クァールは不機嫌そうに表情を歪め、ゆっくりと頭を下げた。
「……そうだよね、ここももしかしたら危ないかも知れないから、もっと遠くに……それこそ、東ザナラーンまで行けば、襲われなくなるかも……」
「クゥちゃん、もっと遠くに行かないといけないの……?」
 クァールを抱き締めて悲しそうに呟く女の子に、私は同じようにしょんぼりした表情を見せてしまう。
「このままだと、噂を聞き付けた冒険者に討伐されちゃうかも知れないから……それは、嫌……だよね?」
「うん……クゥちゃん、元気でいて欲しい……」
「にゃーん……」
「じゃあ、お姉さんが責任持って、東ザナラーンまで送るから、君が大きくなって、冒険者として強くなった時に、迎えに行ってあげると良いよ」女の子の肩を叩いて、私は言い聞かせるように告げた。「君が強ければ、仮にクゥちゃんに襲われたとしても、きっと問題無いから。だから……」
「……分かった。クゥちゃん、わたし、強くなって、また会いに行くね!」
「にゃーん!」
 クァールと抱き締め合って約束し合う女の子を見つめながら、もしかしたらとんでもない約束をさせてしまったかも知れないと思いつつ、冒険者としては、強くなった彼女がクァールを迎えに行く未来に、夢を馳せずにはいられなかった。
「じゃあ、行こっか」
「にゃーん……」
 そうして私はクァールを引き連れて、他の冒険者に見つからないように街道を逸れた獣道を進んで、東ザナラーンまで一日掛けて辿り着き、そこでクァールに別れを告げた。
「彼女の為を思えば、もう会わない方が良いと思うけど……クゥちゃんも、もし気持ちが変わらなければ、また……会って、一緒に冒険してあげてくれるかな?」
 クァールに私の言葉が正確に伝わっている確証は無かったけれど、クゥちゃんは小さく頷くような素振りを見せると、最後まで私に襲い掛かる事無く、朝焼けのドライボーンに消えて行った。
 ……その後、数年の時を経て、歴戦の冒険者がクァールを連れて旅をしていると言う話を耳に挟む事になるのだけれど、それはまた別のお話。

🌠後書

 連日最新話更新になります! 創作脳が帰ってきたので綴り切りたかった奴!w
 と言う訳で物語的には24話と25話の間に挟まる話でして、本来は単行本だけで読める書き下ろしにするつもりでしたが、とみちゃんの感想を今すぐ読みたい! って想いだけでWeb公開する事にしちゃいました!(´▽`*)w
 これで「呪を言祝ぐ冒険者」①巻に収録予定の物語は綴り切ったので、後は校正を待ってから表紙を作成して入稿、と言う工程を経るので、たぶん来月(2025年7月)の中旬~下旬辺りには通販開始できないかなーと踏んでおります…! 2ヶ月連続FF14二次創作小説の単行本刊行できたら熱い!!
 あと今回からサムネをちょこっと弄りまして、ウウイちゃんが! 可愛い!!(自画自賛)
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

※2025/07/31校正済み

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv(予測変換で一番最初に構成員が出てきたのは内緒だ!)

    ちょっとお姉さんのウイちゃんも良きです!
    冒険者って本来はこうあるべきだと思っているので、朝からホックホクでございますw
    だが、てっきりかわいい猫ちゃんかと思っていたらまさかのクァール(=・ω・=)にゃ~♥

    そして最後の一文で涙を流すのでした…よかったなぁ。(~年取ってくる~と涙腺が弱くなってきていけねぇぜ…)

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)(「構成員」が真っ先に出てくるの笑うしかないでしょwwww(笑))

      ね! 普段はおどおどきょどきょどしてるウイちゃんですけど、こういうお姉さんなウイちゃんもよきですよね!(´▽`*)
      それ!ww 冒険者って本来こうあるべきってほんともうまさにそれでして!! こういう困ってる人に手を差し伸べる冒険者こそが本来のあるべき姿だと思ってるので、もうそう言って頂けるのが嬉しくて嬉しくて…!w 私も朝からホックホクです!┗(^ω^)┛
      ですですwwまさかのクァールでしたww(笑) あの巨体で「にゃーん」って鳴くの見た過ぎて…!www(笑)

      やっぱり結末はこれしかないと思ってのアレでした…! こういう顛末、やっぱり好きでしてなぁ…ニヤニヤしちゃいがちです…!ww(*´σー`)エヘヘw

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!(´▽`*)

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2025/10/19の夜影手記 🌸挫け気味なのでこっそり愚痴を吐かせて~😣