第26話 変える力とお金の力〈2〉
第26話 変える力とお金の力〈2〉
「ういサンハ、カエルチカラヲモットル、ユウコトデエエンカナ?」
ジェノガンさんは向き合った状態で、目元が包帯で覆われてるのに、しっかりと私と目を合わせるように首を傾けている。その事を不思議に思いつつも、私は曖昧に頷く。
「かえる力……じゃなくて、超える力、って私は教わったのですけど……もしかして同じ力なんですか?」
「コエルチカラ……」ジェノガンさんは反芻しながら頭を掻き毟り始めた。「今世ではこえるちからと言うのか……? ややこしいな……」ぼそぼそと声が聞こえたけれど、一瞬別人のような声に聞こえて、意識がそれをジェノガンさんの声と認識できなかった。
「え?」
「ソウソウ、コエルチカラ。ムカシハカエルチカラ、ッテイワレトッタンヨ」再び聞き取り辛い訛りの強い発音でジェノガンさんが応じる。「ソノチカラヲモツ冒険者ガ、ヒカリノセンシッテイワレトルンヨ」
「な、なるほど……って、え? じゃあ私も光の戦士……?」
思わぬ情報に、思わず立ち上がりかけるも、ジェノガンさんは宥めるように両手で抑える仕草をした。
「カエルチカラヲモッテイレバ、タシカニヒカリノセンシニナレル、カモシレンケド、カエルチカラヲモツ冒険者ハ、サガセバミツカンガヨ。ソノイッチャンツヨイガガ、ヒカリノセンシナガネ」
「一番、強い……」
流石にその条件が含まれるのであれば、私は役不足かも知れない、とは思うけれど、それで諦めていたら冒険者は務まらない。
「私じゃ力不足かも知れないですけど、超える力を持つ者として、精一杯お手伝いします!」
むんっと両手を握り締めて身を乗り出すと、ジェノガンさんは包帯で見えていない筈なのに、私をしっかり見つめて重く首肯を返した。
「カエルチカラヲモツ冒険者ノチカラヲカリレンガヤッタラ、ヒャクニンリキヤチャ。タノンチャエ」
「はい! ……えと、それで近い内に誰かが死ぬ、って仰ってましたけど、一体それは……」
「ミライシ、ッテキイタコトアッケ?」
「みらいし?」
「ミライヲミルチカラナガヤケド」
「みらいを、みるちから……未来を視る力? 未来視?」やっと解読できて、ポンと手を打ってしまう。「ジェノガンさん、未来を視る力が有るんです?」
「ナァンヤケド。アルトコロデ、アルコウソウヲタクト、ミエンガヨ、ミライガ」
「あるこうそう……或る香草? を、焚くと? 未来が視える……??」段々と胡散臭い話になってきた気がするけれど、私はジェノガンさんを見つめたまま話を促す。「それってその……、誰でも視える……んですか?」
「カエルチカラヲモツヒトダケヤネ。ダカラ、ヒカリノセンシヲサガシトッタン」ジェノガンさんは懐から取り出した一枚の地図……どうやらザナラーン一帯の地図をテーブルに広げると、東ザナラーンの一角を指差した。「さんどげーとノコノアタリニ、あまるじゃゾクノヒミツノサイダンガアルンヨ。ソコデアルコウソウヲタクト、ミライガミエンガ」
「……ほうほう、アマルジャ族の秘密の祭壇が……」雲行きの怪しさに何とも言えない気持ちになりつつも、ジェノガンさんの話に耳を傾ける。「と言うと、私も一度そこに行けば良いんですかね……?」
「オイチャンノミライシガシンヨウデキンガヤッタラ、ベツニイカンデモエエケド……」
「…………なるほど」
ジェノガンさんが悪い人には見えないと言う建前は置いておいたとしても、どうにも胡散臭い話だ、と言うか、きな臭い話だ、と言うのが話の第一印象だった。
アマルジャ族の秘密の祭壇で、謎の香草を焚くと未来視……未来が視える。もうこの一文だけで「ほんとに?」感が一杯で、迂闊に信じられない不思議な話だ。
ジェノガンさんは恐らく、その未来視で視た誰かが死ぬ未来をどうにかしたくて、冒険者ギルドを頼ったのだろうけれど……そもそもどうしてそんな場所で、そんな事をしたのか、と言う謎も付き纏う。
元々目元を包帯で隠してると言う奇抜な格好に加えて、訛りの凄い言葉遣い、光の戦士しか解決できないと言う物言い……何もかもがこう……言っちゃ悪いけれど、ミステリアス過ぎる……。
「……ヤッパリ、ダメケ? オイチャンモ、ムリニトハイワンカラ、ベツノヒトニタノモカ?」
そんな疑いの眼差しを勘付かれたのか、ジェノガンさんは申し訳無さそうに席を立とうとして、私は慌てて「ま、待ってください!」と思わず引き留めてしまった。
私の手に余る依頼かも知れない、と言う想いは有った。けれど、彼が困っているのが確かなら、私の勝手な感想で切り捨てるのは、あまりにも無情だと感じたから。
「私に出来る事からさせてください! その……ジェノガンさんが視た未来視の人物の特徴とか、そのシチュエーションとか! 何でも!」
ジェノガンさんは腰を浮かせた状態から、ゆっくりと席に戻ると、感心したように何度も頷き始めた。
「ソンデコソ冒険者ヤネ。オイチャンモタスカンガヨ」嬉しそうに微笑むと、そこで空咳を挟み、ジェノガンさんは改めて私に顔を向けた。「サスガニオイチャンノミタモノヲソノママういサンニツタエルコトハデキンカラ、コレヲミテホシイガ」と言って、今度は懐から一枚の紙切れを取り出した。
机に置いたそれは、人物画……と言うか、似顔絵……と言うか。人の特徴をしっかり捉えてある画風と言うより、特徴を強調して描いたと言った風情の絵柄で、コミカルな印象を受けた。
特徴的なのは、頬のバッテン傷と、見るからに悪い目つき、そしてフサフサの白い髭だ。
一目見たらピーン、と来そうなだけに、この似顔絵を見せて回れば、何とか見つけられそうな気がする……!
「この人が、未来視で死んじゃう人……なんですよね?」
「ソンナガ。コノヒトガシヌト、タイヘンニナンガヨ」
「急いで聞き込みを始めましょう!」似顔絵を手に取り、席から飛び降りると、ジェノガンさんに向かって急ぐように催促する。「時間は無いんですよね? 今すぐ聞き込みに――――」
そう言って駆け出そうとした瞬間、目前に誰かが通りかかって、思わずその足にぶつかり、尻餅を突いてしまった。
「いてて……ご、ごめんなさい、大丈夫、です、か……?」
お尻を撫でながら顔を上げると、そこには……
「ああ、こちらこそ済まんね。サクラコ君、私は何とも無いから殺気を控えてね、うん」
「あら~、わたしは別に殺意なんて出していませんわ、旦那様。お怪我が無いのでしたら良かったです。……そちらのお嬢さんも、お怪我は無いですか?」
「あ、大丈夫、です……」
ぶつかった相手は、ヒューラン族のおじ様だったのは良いのだけれど、頬にバッテン傷が有って、目つきがとても悪くて、フサフサの白い髭を蓄えてるのを見て、私は言葉を失っていた。
そしてそんなおじ様に立ち塞がる形で、私に手を差し伸べつつも、どこか敵愾心を感じさせる眼差しを向けるミコッテ族の女性に、言い知れぬ恐怖を感じた。
ミコッテ族の女性に手を掴まれ、引っ張られて立ち上がる時に、そっと耳元で声を吹きかけられた。
「――あなた、死にたくなければ係わらない事ね」
「――――ッ!?」
思わず身震いして彼女を見上げるも、ミコッテ族の女性は穏和そうな微笑を浮かべるだけで、それ以上言葉を交わす気は無さそうだった。
「さ、旦那様。お食事がお済みでしたら早く屋敷に戻りませんと。護衛も楽では有りませんから」
「そう急かさないでおくれ、この喧騒を楽しむのもワシの生き甲斐なのだからね、うん」
そう言って二人がクイックサンドの出口へ向かおうとしているのを見送りながら、私はジェノガンさんに振り返って、言葉にならない想いを必死に口を開閉して訴えた。
ジェノガンさんはそんな私が見えている筈無いのにしっかり頷くと、「アレヤネ、シヌヒト」と、呆れてるような、驚いてるような声音で、そう呟くのだった。
🌠後書
約1ヶ月振りの最新話更新です! 大変お待たせ致しましたー!w(いつも言ってるw)
と言う訳で新キャラがちょこっと登場したりしましたが、まだまだミステリアスな部分が多過ぎて、全貌がふわっふわです!w ここからどう転がそうかなぁ~って今妄想が止まらなくなってる奴です(笑)。
ともあれやっと登場させたかったキャラクターがちょこっとでも登場させられたので、今後どう絡んでくるのか、ぜひ楽しみにお待ち頂けたらと思います!(´▽`*)
話は変わって、最近全然執筆自体はしてないものの、妄想はだいぶ捗ってる感じでして、何ならこのままPatch3.0(蒼天のイシュガルド)編まで物語書き進めてみようかな…?🤔とか考えたりもしてるので、もしかしたら本当はエンディングとして用意してたエピソードも、あくまで通過点になりそうな感じがしております…w 勿論その時のテンションとかアレとかで変更になるとは思うのですが!w
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
※2025/09/23校正済み
更新お疲れ様ですvv
返信削除なお、予測変換(いつも言ってるw)
ジェノガンさん怪しい…やはり例の組織確定コースだな。
だとすると新たに登場した頬のバッテン傷と、見るからに悪い目つき、そしてフサフサの白い髭を持つじいちゃんは何者だろう???あっ、シヌヒトヤネ。
大丈夫、いざとなったら東の空にガイウスインパk(以下略
護衛のおねいさんには注意が必要だ!!地獄の沙汰も金次第だっ!!(大いなる謎
久しぶりの更新に興奮冷めやらぬ現場は異常です。異常です。
今回も楽しませていただきました!
次回も楽しみにしてますよーv
>とみちゃん
削除感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
ですよね!wwwほんとお待たせ致しました!www(笑)
ジェノガンさん、もういきなり怪しさを醸し出してくれてる感じですが、やはり例の組織の…!www(おいおいw)
「あっ、シヌヒトヤネ」で腹筋を持っていかれましたwwwwww確かにそうなんですけど!wwwww言い回しがもうズルい!wwwwww(笑)
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!ガイウスインパクト!wwwwwウルダハが焼け野原になる奴!wwww(笑)
護衛のおねいさんも今後どう絡んでくるのか、ぜひお見逃しなく~!!(´▽`*)
そう、ほんとお久し振りの感想を頂けたのも有って朝からテンションガバガバです!ww とみちゃんの感想からしか得られない栄養素、有ると思います…!!┗(^ω^)┛
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!(´▽`*)