第27話 変える力とお金の力〈3〉
第27話 変える力とお金の力〈3〉
「お、追い駆けなきゃっ!」
クイックサンドを立ち去るヒューラン族のおじ様と、ミコッテ族の女性を見逃さないように集中しながらジェノガンさんに声を掛けたつもりだったけれど、彼は席から動く気配が無かった。
急がないといけないのにっ、と思って振り返ると、彼は困った表情を浮かべて腕を組んで深く溜め息を吐いていた。
「ジェノガンさん……?」
「……参ったな、見られてしまうとは……」ぼそぼそと、また聞いた事の無い声が聞こえたかと思いきや、ジェノガンさんはそこで私の視線に気づいたようでハッと我に返ると、難しい表情を取り繕って告げた。「ゴメンナガヤケド、オイチャンハココマデヤワ。ういサン、アノヒトガシナンヨウニタスケテクレッケ?」
「え……? ジェノガンさんはどうするんですか……?」
「サイアクノジタイヲソウテイセントアカンクナッタカラ、オイチャンガデキンガガココマデナガ。アトハういさんニマカセッチャ」
そう言って、立ち上がってそのまま立ち去ろうとするジェノガンさんに面喰いながら、思わず食い下がってしまう。
「ちょちょ、待ってください! まだ話の全容も掴めてないのに任せるってそんな……!」
「アノ、さくらこッテみこってゾクニキヲツケラレ。アレハ……ういサンノテキヤカラ」
それだけ言い残して、ジェノガンさんはクイックサンドから立ち去って、雑踏の中に紛れてしまった。
残された私はどうしたら良いのか分からず途方に暮れてしまったけれど、取り敢えずさっきのヒューラン族のおじ様が死んでしまう可能性は見逃せないので、何が何だか分からないけれど、さっきの二人組を追ってクイックサンドを立ち去った。
私が今、何に巻き込まれて、何をしようとしているのか、何も分からなくて、けどやらないと後悔しちゃいそうと言う理由だけで走る。
冒険者を始めて、こんなに訳の分からない出来事に巻き込まれるのは初めてだった。光の戦士の再来と言われてるあの冒険者も、こういう依頼を持ち込まれては、ちゃんと解決してるのかな……なんて、改めて羨望の想いを懐いたりしながら。
◇◆◇◆◇
「はぁっ、はぁっ、見つけた……っ!」
幸い二人組の歩く速度がゆっくりだった事も有って、エメラルドアベニューの近く、カジノホテルであるプラチナミラージュの受付で話をしている場面を目撃して、呼気を整えながら二人組に近づいていく。
「……」
距離がまだ離れていたにも拘らず、ミコッテ族の女性……サクラコさんは私の存在に気づいたように横目でチラリと見つめてきたが、彼女から声を掛ける事は無かった。
警戒されてる……とすぐに気づいたけれど、私もこれで怯む訳にはいかなくて、勇気を振り絞って二人組に向かって声を掛ける。
「あ、あのっ! ちょっとお話、良いですか!?」
その声掛けでやっとサクラコさんは体の向きを直してこちらを見つめると、涼しげな表情のまま、猜疑心を感じさせる眼差しで、無言で先を促してきた。
ヒューラン族のおじ様の方は、自分に話しかけられたと気づかなかったようで、暫く受付の方を向いたまま無反応だったけれど、サクラコさんの反応に気づいて、「ん? もしや私の事かね? うん?」と数瞬遅れて振り返った。
私はサクラコさんから注がれる茨のような眼差しに耐えながら、やっとの想いで言葉を口にする。
「あの! ……その、今、困ってる事とかって、有りませんか……?」
「困ってる事?」「困ってる事、かね?」
サクラコさんが見るからに戸惑った声を上げて、ヒューラン族のおじ様も不思議そうに片眉を持ち上げて小首を傾げる。
互いに顔を見合わせ、私の問いかけにどう対応したら良いか戸惑っている様子だった。
「えと、あの、その……し、失礼な事を言いますが、その……そちらのおじ様に、その……し、死相が、視えちゃったりして……えと……」
もうどう説明したら良いか分からなくてそんな事を口走ったら、サクラコさんの表情が急に厳しくなり、私を明確に敵意を以て睨んできた。
「旦那様に死相? 適当な事を言うのはやめて頂きたいですね。それは私に対する侮辱として捉えても構いませんか?」
「まぁまぁサクラコ君、そう殺意を迸らせるのはやめたまえよ」
「迸らせておりませんが」
「まぁまぁ。まぁまぁ」ヒューラン族のおじ様が宥めるようにサクラコさんの前で落ち着かせるように手を拱いていたが、やがて私に視線を向けると、私と視線を合わせるように屈んだ。「ともあれだ。彼女が怒るのも無理は無いんだよ、うん。彼女は私の護衛を買って出てくれた冒険者でね。にも拘らず、私に死相が出てるなんて言われたらね、うん。立つ瀬が無いと思わないかい?」
目つきが悪いのに、語調が優しいヒューラン族のおじ様は、そう言って私の瞳の中を覗き込むように小首を傾げる。
失礼な事を言ったのは間違いなく私だし、彼も彼女も、寧ろ気分を害するだけの事をしてしまったのだと、私もすぐに気づけた。
申し訳無さで一杯になりつつも、どう説明したら良いのか、どう彼らと係わっていけば良いのか分からなかっただけに、もうここは素直に全部話すべきじゃないか……と思って、頭を下げた。
「ご、ごめんなさいっ! 突然失礼な事を言ってしまって! 死相が視えたと言うのも、嘘ではないんですけど、私が直接視た訳じゃなくて……でも私、あなたを助けたくて……!」
頭を下げたままそう捲くし立てると、二人が困惑した様子で私を見つめている視線を感じた。
ゆっくり顔を上げると、サクラコさんも敵愾心こそ消えていなかったけれど、明確な敵意はどこか薄れているように感じられた。
シンプルに、扱いに困っている、と言った風情だ。
「……わたしからも一つ、宜しいでしょうか」サクラコさんがヒューラン族のおじ様を庇うように前に割り込んできた。「三度は言いませんよ? これ以上係わるべきではないと申し上げます。それがお互いの為でしょうから」
「で、でも……っ!」
「まぁまぁサクラコ君、彼女にも何かしら事情が有るんだろう、うん。ここは彼女にも護衛を頼むと言うのでどうかな?」
「しかし旦那様……」
「両手に華と言うのも良いからね、うん。勿論、サクラコ君に支払う護衛代は一ギルたりとも減らさないから、それは心配しないでくれたまえ」
「そういう問題では……」
サクラコさんが困った風に食い下がっていたけれど、ここは踏み込むべきだ、と思った私はサクラコさんの手にしがみつき、彼女を見つめて瞳をウルウルしてみた。
「お願いします! 私、何でもしますから!」
「う……」
サクラコさんが更に困った風にたじろいだ。これは攻めるべきだ! と思った私はグイグイと彼女に詰め寄りながらウルウルした瞳を全面に押し出した。
「お願いします! どうか! どうか!」
「わ、分かりましたから、落ち着いてくださいっ」
一旦私と距離を取ったサクラコさんは、困り果てた様子で瞑目すると、改めてヒューラン族のおじ様に向き直り、どこか冷たい眼差しで彼を見やる。
「護衛を雇いたいと言う依頼を見て受けたのに、得体の知れない方を新規で護衛に雇うと言うのは、流石にいかがと思いますが……旦那様の意向であれば従います」問題児を見る目でヒューラン族のおじ様を見つめるサクラコさん。「旦那様はそれで構わないんですね?」
「勿論だとも。華は多いに越した事は無いからね、うん」
「この色情魔……」
「何か言ったかね?」
「いえ、何も」
サクラコさんの底冷えする罵倒に、思わず私の方がビックリしちゃったけれど、ヒューラン族のおじ様はどこ吹く風と言った風情で聞き流していた。
「では改めて自己紹介しようか、うん。私……いや、ここはもう畏まる場でも無いか。ワシはクルシド。セイフナンバー家の当主で、近々ウルダハを治める者だね、うん」
「あ、これはご丁寧にどうも……私はウウイ・ウイって言います! 宜しくお願い致します! って、ウルダハを治める……? もしかして王族……だったり……?」
とんでもない人に話しかけちゃったのかと思って、思わず縮こまりそうになったけれど、彼はフルフルと頭を振って、どこか悪そうな笑みを覗かせた。
「お金の力さえあればね、ウルダハですら手中に納められると証明してやろうと思っているのさ、うん」
🌠後書
約1ヶ月半振りの最新話更新です! 大変お待たせ致しましたーッ!ww(恒例の挨拶w)
と言う訳でやっとサブタイトルが回収できつつありますが、謎の人からの依頼で始まった、謎の展開からの、不穏なアレですw
どこもかしこも謎だらけなので、何を信じたら…みたいな話ですけど、実際光の戦士である冒険者さんも、大体いつもこんな感じで事件やトラブルに係わっていきませんかこれ…?? と思ったり思わなかったりw 依頼主が良い人だとは限らないのもそうですし、助けるべき相手も良い人だとは限らないと言う、こういう世界観だからこそ間々有る事なんじゃないかなってw
と言う訳で少しずつ物語の土台が固まりつつありますが、まだまだ物語は始まったばかり感! 最近すっかりVtuber活動に明け暮れてたので、来年にちゃんと2巻が出せるようにまたコツコツ執筆頑張って参ります!(定期/n回目)
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!(´▽`*)
※2025/09/23校正済み
更新お疲れ様ですvv
返信削除全くのノーマークでしてw遅くなってしまいましたスマヌ。
迸っちゃう系のサクラコさんに、ぴょんぴょんしちゃうカナさんとか鯉口チキチキしちゃう抜刀のサクちゃんがうっすらと重なってしまうのはなにか大変な病を抱えてしまっているのかもしれません。テオクレヤネ。
お話がだいぶ大きくなってきました。シヌヒトやばいの?
次回まであれこれ妄想して楽しみます!
今回も楽しませていただきました!
次回も楽しみにしてますよーv
>とみちゃん
削除感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
いえいえ~!ww またとみちゃんの感想が拝めるだけで大満足ですわぁ~!!┗(^ω^)┛
迸っちゃう系wwww そのお二人とはまた違うタイプの奴とは言え、今後そういう道を歩む可能性も無きにしも非ずなので、どうか見守って頂けたら幸いです…!www(笑) 大変な病ではないと思うよ!www(笑)
急に大きくなるお話! シヌヒト、存外ヤバそうなのでどうなる事やら…!
ぜひぜひ~! たっぷり妄想してお楽しみ頂けたら幸いです~!┗(^ω^)┛
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!(´▽`*)