2026年4月1日水曜日

第30話 落陽有れど日はまた昇る

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第30話 落陽有れど日はまた昇る

第30話 落陽有れど日はまた昇る


 空から宵闇を追い出し始めた頃。私は獣道をひたすら進み、何とかホライズン・エッジの北端にあるキャンプ、ホライズンまで辿り着いた私は、大通りを避けて日陰を縫うように歩いていた。
 もう半日以上飲まず食わずでここまで来て、体力も神経も限界だったけれど、モンスターに襲われる事も無く、盗賊に目を付けられる事も無かった事は不幸中の幸いだった。
 ウルダハから着の身着のままで逃げてきたけれど、幸いサクラコさんが仮死状態だった私と一緒に装備品も全て麻袋に入れて放り出してくれたお陰で、呪術を行使する為の杖も持っているし、路銀も余裕が有る。
「ちょ、ちょっと一休み……」
 陽が高くなってきた事で気温が急に上がり、空腹と睡眠不足が重なった事で立ち眩みに襲われた私は、路地裏の一角に腰を下ろして、一旦呼気を落ち着かせた。
 ずっと昨夜の事を考えながらの行軍だった。
 クルシドさんは、仮死状態だった私が聞こえた範囲の話から察するに、ガレマール帝国の人間で、このウルダハで何かしらの事件を起こそうとしている……のだと思う。
 その手段/手法までは定かじゃないけれど、少なくとも「イドン」と言う仲間が存在して、ガレマール帝国のいずこかの部隊ないし組織と結託して、着々と作戦を進めていると言う事までは、あの短い会話の中からでも察する事が出来た。
 そしてサクラコさん。私に対して何度も“係わるな”と警告を出していたにも拘らず、私が何も気づかずに係わってしまったばっかりに、私を仮死状態にして逃がす手間を掛けてし合った。
 真意はどうあれ、サクラコさんがガレマール帝国の人間に仕えている事は確かだけれど、そんな人間が優しさで一介の冒険者を逃がそうと手間を掛けてくれるだろうか。何度も警告をしてくれるだろうか。
 私自身、どこまで信じて良いのか分からなかったけれど、サクラコさんは……悪い人ではない、と信じたかった。そうでもなければ、私は本来今頃、ウルダハ近郊でモンスターの餌にでもなっていただろうから……
「うぅ……か、考えるだけの糖分が足りない……」
 頭が熱暴走寸前で、疲れ果てた体がもう限界だと悲鳴を上げているのが感覚で分かる。
 これ以上の無理は流石に無理だと判断して、近くのお店で軽食でも……と思って立ち上がりかけた時、「わぷっ」柔らかい何かにぶつかって、再び尻餅を着いてしまった。
「あてて……ご、ごめんなさい、前を見てなく、て……」
「おぅ、また行き倒れてる奴が居ると思ったらまたお前か! 久し振りだなウウイ! 元気してたか?」
 顔を上げた先には、眩しいばかりの笑顔を浮かべる、ヴィエラ族の女性が、私の顔を覗き込んでいた。
 その、あまりにも屈託の無い笑顔に当てられたのか、それとも心細かった想いが爆発したのか、視線が噛み合った瞬間に意識せずに涙腺が決壊して、滂沱の涙が頬を伝っていた。
「セ、セクレアさぁ~んっ!」
 思わず抱き着いてべそべそ泣き始めちゃった私に、セクレアさんは動揺の欠片も見せずに抱き留めると、「おぅ、どしたどした~? まぁーた困った事になってんのかぁ~? どれ、また話を聞いてやっからよ、まずは落ち着きなって」優しく背中を撫でながら、まるで保母さんのように穏やかな声で応えてくれた。
 あぁ、本当にこの人は。私の救世主だ。光の戦士だ、と思わずにいられないのだった。

◇◆◇◆◇

 暫く泣きじゃくっていた私だったけれど、やっと感情の波が落ち着いた頃、恥ずかしくなりながらも、自分が知る限りの情報を、訥々とセクレアさんに言って聞かせた。
 ジェノガンさんと言う謎のルガディン族の男の人に言われた依頼。死ぬと大変な事になると言われるクルシドさんとの出会い。サクラコさんの機転で辛うじて死ぬ事を免れ、ウルダハから飛び出してきた事。
 ホライズンの小さな酒場の隅っこの席に陣取ってそこまで話し終えた私は、セクレアさんの奢りで貰ったオレンジジュースで喉を潤しながら、ひとまず一息ついた。
「前回はまぁ、若気の至りの家出って感じだったが、今回はガチの逃避行な訳ね。それもまさかガレマール帝国の名前が出てくるたぁ、剣呑な話だわな」
 他人事のような態度で応じるセクレアさんだけれど、その目は真剣そのものだし、私の身を案じてくれているのも伝わってくる。
 私は自分で話しながら疑問に思った事が有って、セクレアさんの目を覗き込みながら口を開いた。
「私、ずっとクルシドさんにフォーカスが当たったまま思考が停止してたのですけど、そもそもこの問題の根幹って、そのクルシドさんが死ぬと大変な事になる、と言う事実を私に伝えてきた、ジェノガンさん、だと思うんです」
 莫大な財産でウルダハを、延いてはエオルゼアをどうにかしようとしているガレマール帝国の人間は、確かに危険だし、中心人物に置きがちだけれど、そもそもがそんな人物が「死ぬと大変だから」と言う理由で会わせようとしたジェノガンさんは、一体何者だったのか。
 ずっと胡乱な言葉遣いで、真意を図らせないように立ち回っていたと考えると、ますます怪しい。変える力……ではなく、超える力を有する冒険者を探していたと言うのも、今思えば謎が深まる一方だ。
 セクレアさんは瞑目しながら額を人差し指で何度もノックし、「そうさなぁ~……」と唸り声を上げて俯いた。
「一つ言えるのは、そのジェノガンって野郎はマトモな存在じゃねーって事か。超える力の存在を知ってるって点もそうだが、クルシドって野郎の裏事情を或る程度把握できてたってのも、マトモじゃねー。ウウイ曰く、話し方も訛りが凄くて聞き取り難かったってのも、こうなってくると偽装の香りがプンプンしてきやがるしな」
 セクレアさんはそう言いつつも、どこか腑に落ちないと言った顔で天を仰ぎながら腕を組んだ。
「話を聞くに、ジェノガンとやらはウウイにはサクラコって奴と敵対して欲しかったんだろ? サクラコって奴はどうやらクルシドって野郎に従わされてる。呪印、って言ってたんだろ? 仮にその単語が正確なら、サクラコがどうこう出来るような代物じゃねー事も確かだ。だとしたら……」
 天を仰ぎながらブツブツと高速で話を纏めているのか、それとも頭の中を整理しているのか、一通り私が話した内容と、出てきた単語を組み合わせて、想像でしか判断できない部分以外を抽出している様子だった。
「ん~~~……。オレが分かるのは、ウウイが相当厄介な事件に巻き込まれちまった、って事ぐらいか」
「そ、それは流石に私も分かりますが……!」
「だが、ウウイにはこの問題を解決しなくてはならない義務はねー。それは分かるな?」
「えっ……?」
 思わず目を剥きそうになって、セクレアさんを見つめる。
 セクレアさんは真面目な表情で、私を見つめ返した。
「確かにガレマール帝国の人間がウルダハに入り込んできている事、その事実は国家を揺るがしかねねーとんでもねー厄ネタだ。放っておけば確実に何かしらやべぇ事が起きる。それだけは間違いねぇ」一つ頷き、セクレアさんは続けた。「だが、それをお前が、ウウイが解決するかどうかは繋がってねーんだ。お前はただ、とんでもねー事件に巻き込まれた被害者であって、サクラコって奴はそこから逃げ出す手助けをしてくれた。つまり、お前はこれ以上この事件に係わらず、よそで安穏と暮らす選択権を得た訳だ。それは分かるか?」
「分かり、ますけど……それは、私……」
 セクレアさんが何を言わんとしているのか、少しずつ頭に染み込んでくる。
 ガレマール帝国絡みの事件。それはつまり、国家間の戦争に巻き込まれる可能性が有ると言う事だ。係わり続ければ、恐らく自分の意志とは異なる現実に打ちひしがれる事だって充分に有り得る。それこそ、つい昨晩のように、軽々に命を失う事だって……
 それを示唆した上で、もうこれ以上係わるべきではないと、セクレアさんは暗に忠告してくれている訳だ。
 確かに恐ろしい問題が起きつつあるかも知れない。けれどそれは、私でしか解決できない問題と言う訳ではあるまい。誰かが……この事件に気づいた何者かが、もしかしたら解決に導いてくれるかも知れない。そういう希望的観測だって、無い訳ではない。
 けれど。それは。
「……セクレアさんが、私の事を心配してくれているって、身を案じてくれているんだって想いは、分かっているつもりです。……でも! このまま逃げ出すのは……! 私っ、サクラコさんに、ちゃんとお礼がしたいです!」
 テーブルを両手で叩きつけて主張したせいで、店内が静まり返って、私とセクレアさんが注目の的になってしまったけれど、私は動じる事も、怯える事も無く、歯を食い縛ってセクレアさんを見つめ続けた。
 彼女はそんな私の意気地に、ニヤリと八重歯を覗かせて笑むと、両手で肩をバンバン叩いて頷いた。
「よぉーく言った! それでこそ冒険者! それでこそウウイだ! やっぱ冒険者はそうじゃなくっちゃなぁ~!」
「セ、セクレアさん……?」
「いや、試すような事をしちまった事は謝るよ。悪かったな。だがよ、それだけこの問題は解決するのが一筋縄じゃいかねぇ筈だって言う、オレからの諫言でも有るっつーかな」セクレアさんはテーブルで汗を掻いていたオレンジジュースを一息で呷ると、再び真剣な表情をして、私を見つめた。「ウウイがそれでもこの件を何とかしてぇーってんなら、しゃーねぇ、先輩冒険者として胸を貸してやろう」
「セクレアさん……! 有り難う御座います!」
「応よ! やっぱお前と一緒に居ると退屈しねーな! また宜しくな、ウウイ!」
 そう言って手を差し出してきたセクレアさんに、私も力強く握手を返した。
 あんなに絶望しきっていた世界が、急に光が溢れんばかりの景色になったのは、彼女の底抜けな明るさの賜物なのだろうか。
 そうして私は、頼りになる先輩の胸を借りながら、この闇の深い、大きな大きな事件へと足を踏み入れて行く事になる。
 ただ、サクラコさんにお礼がしたい。その一心で――――

🌠後書

 約4ヶ月振りの最新話更新です! 大変大変お待たせ致しましたーッ!(平身低頭)
 何なら小説執筆自体が3ヶ月振りレベルのアレでした。大変不味い!w
 先月から久方振りにエオルゼアに帰ってきてまして、それに加えて先日旧知の友達から連絡を頂いたのも相俟って、急に執筆意欲が高まったのは有ります。毎日テンションと勢いで生きてるから、そりゃ執筆してぇ~ってなったら執筆するよね。獣ですね。わんわん!
 と言う訳で今回のお話。セクレアさん再登場です! やったー! 難問に出くわした冒険者を、ウェーイ!と解決に導いてくれる先輩、そういうウサ子です。ヲタクに優しいギャルと勘違いしていらっしゃる…??
 前回のお話しから引き続き、謎が謎を呼ぶクエスト真っ最中で、まだまだ続きます。何ならエンディングまでこの物語は引っ張りだこの可能性が有ります。それぐらいあれこれ詰め込んでるので、ちゃんと消化しきれるように頑張ります…!(メモも何も取らないので伏線忘れがち)
 久方振りに執筆したらやっぱりこれはこれで楽しいので、また折を見てと言いますか、「執筆してぇ~」ってなったら創作畑に帰ってきますゆえ、どうぞ宜しくお願い致します!
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!(´▽`*)

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