第6話 腹ペコ侍と一宿一飯の恩〈2〉
第6話 腹ペコ侍と一宿一飯の恩〈2〉
「それで今はツバキちゃんのお家でお泊りしてるんだ~」
ツトミがジト目でツバキを見つめ、ツバキは困った風に目を逸らし、隣でサクノが満足そうにうんうん頷いている。 場所は低地ラノシアの北部、迷子橋より北に在るシダーウッド。レッドルースター農場からの依頼で、この辺りの安全確認の為に巡回をお願いされ、三人は薄闇の農地をのんびりとした動きで散策していた。「然り。ツバキ殿には世話になりっ放しで、頭が上がりませぬ。ハッハッハッ」「ふぅ~ん」ツトミのジト目がツバキを射続ける。「そうだよねぇ~、ツバキちゃんは困ってる人を見過ごせないもんね~」「な、何だよぅ」言い知れぬ敵意を感じて思わずツバキが居心地悪そうに言い返す。「行き倒れなんて初めて見たからさぁ……」「そう言えば~、行き倒れを装って、強盗する悪い奴が居るって言ってたけど~、ツバキちゃんはそんなの関係無いもんね~」「うぐぐ……」 痛いところを衝かれて何も言えなくなってしまうツバキに、サクノが驚いた風にツトミに視線を転じる。「なんと、そのような外道働きをする輩が居るのですか? 実にけしからんですな。拙者がその場に居合わせたなら三枚おろしにしていたでしょうに」「サクちゃん、めっちゃ刀抜いてる」 ツトミが指摘するまで、サクノは腰に佩いていた刀の鯉口を切っては戻し、切っては戻す、苛立ちを感じさせる所作を行っていた事に気づかなかった。「ハッ! これは失礼をば……拙者、外道働きを行う者や、下劣な輩を見ると悪★即★斬! で、斬り捨て御免してしまう癖が……」「と、とんでもない癖を持ってるんですね……?」ツバキがすすす、と距離を取る。「サクちゃん素敵~、どんどん斬って捨ててこ、悪い奴ぅ~」ツトミが嬉しそうに腕を振り上げる。「お任せあれ! ツトミ殿もツバキ殿も、拙者の目が黒い内は、悪漢共に指一本触れさせる前に斬獲してみせましょう!」自信満々に胸を張るサクノ。「あ、ありがと……」 ツバキが内心「これってワンチャン私が斬られたりしないよね……?」と怯えながら、改めて巡回を再開すると、ヒューラン族の老婆が「た、助けてくれぇ~!」と、悲鳴を上げながら駆け込んで来た。「大丈夫ですか!?」ツバキが慌てて駆け寄ると、ヒューラン族の女性は「ま、魔物が……!」と震える指で薄闇の先――ブラインドアイアン坑道の方角を指差した。 ツバキは頷くと、老婆に向かって指を当てた。 老婆は不思議そうな面持ちでツバキを見上げている。 ツバキは老婆の額に指を添えたまま、ニッコリと微笑んだ。「殺意の隠し方が下手ですよ、ご婦人。もう少し忍ばせる技術を学んだ方が良いですね」 ツバキが双剣・ミスリルプジオを抜くのとほぼ同じタイミングで老婆は宙返りを決めて距離を取った。それを見て取ったツトミとサクノも武器を抜く。 ヒューラン族の老婆は小刀を握り締め、その白刃を舌なめずりして歪んだ笑みを覗かせた。「ヒヒャァ~、この俺の演技を見破るたァ中々の上等な得物じゃねェの……丁度良い、その体、譲り受けようか……ヒヒッ」「ツバキちゃん、あれって……」「……原理は分からないけど、体が乗っ取られてるのかな……?」 ツトミが心配そうに声を漏らしたのに対し、ツバキも不審な眼差しで老婆を見据える。 ヒューラン族の老婆が行方不明になっていると言う話は、レッドルースター農場の長から聞いていた。それ故に、不安になった住民が冒険者に近辺を巡回して欲しい、と依頼した訳だ。 その老婆は、普段は慎ましやかに農作業に励む、運動も苦手な穏やかな女性だったと聞いている。それが、あんな宙返りを披露するなど、通常では考え難い話だ。 長年一緒に居た住民の話を真に受けるのであれば、あの老婆は明らかに何かしらの異常に見舞われている。例えば妖魔に憑かれているとか、妖魔が姿を偽っているとか…… 現状、危険人物と判定されたにも拘らず姿が変わらない所を察するに、妖魔に憑かれている、もしくは操られていると考えた方が良いだろう。 徒に傷つけて被害を増やしたくないツバキとしては、戦い方も慎重にならざるを得ない。ツトミにしても、射掛けるタイミングや箇所に対して制限が出てくる。「よもや……よもや、このような場所で見つかるとは!」 老婆も出方を伺って、互いに硬直した状態が続いていた最中、突然サクノが驚いたような声を上げて、老婆の持つ小刀を指差した。 ツバキとツトミは警戒しながらもサクノの奇態に眉を顰める。「サクノさん、何か知ってるの?」「サクちゃん、知り合い?」「あれなるは妖刀……妖刀【白衰】! 拙者がエオルゼアまで罷り越した理由の、失せ物探し、それそのものです!」 瞳をキラキラと輝かせて説明するサクノに、ツバキとツトミは理解が追い着いていないのか、一緒に小首を傾げた。「え、アレを探しにエオルゼアまで泳いで来たの……?」どんな確率なのそれ?? とツバキが視線で尋ねる。「凄い偶然~ツトミビックリ~」わわわ~、と驚いた仕草を見せるツトミ。「これもツバキ殿とツトミ殿が引き寄せた運命……ではこれにて、斬獲、させて頂く」鯉口を切り、サクノが抜刀する。「え。待って待って、あのお婆さんは殺しちゃダメだからね!?」 思わずと言った様子でサクノの前に立ちはだかるツバキだったが、次の瞬間にはサクノの姿は陽炎のように溶け、旋風が奔ったかと思えば、老婆の背後で涼やかな音を立てて納刀する彼女の姿が有った。「カ、ァ……?」 老婆が両目を見開いたかと思えば、泡を噴いて倒れてしまった。「サクノさーん!?」思わず悲鳴を上げるツバキ。「だだだ大丈夫ですかー!?」大慌てで老婆の元へ駆け寄ると、彼女は意識を失っているだけで、息は有った。「よ、良かった……生きてる……」「ねー、ツバキちゃん見て見て、ナイフが粉々~」 ツバキの隣に駆け込んで来たツトミが、地面に散らばった小刀の残骸をツンツンとつついて呟く。「あ、あの速度でナイフだけ破壊したのかぁ……」驚きの表情で安堵の溜め息を漏らすツバキ。「凄い技術だ……」「ハッハッハッ、この程度、朝飯前に御座れば」満足そうに戻って来たサクノが、粉砕された小刀を見下ろして顎を撫でる。「併し、妙と言えば妙だ。妖刀と称されたにも拘らず、こんなにも呆気無いとは……些か拍子抜け……いや、拙者が強過ぎたのかも知れぬが……」「ねーねーツバキちゃん、じゃあこのナイフが、今まで困ってる人を装って、悪い事してたのかなぁ?」ツトミが粉々になった小刀を見下ろして小首を傾げる。「サクちゃんが強過ぎるのは分かるけどー、今まで全然捕まらなかったのに、こんなあっさり壊れちゃうかなぁ?」「……確かに、言われてみれば呆気無さ過ぎるけど……」 ツバキもやっと思考が正常に戻り、気づく。辺りが異様に暗くなっている事に。 まだ日暮れには早い筈だ。にも拘らず、この闇の濃度。あらゆる生命が逃げ出す、不気味なエーテルの流れ。「――やっとだ」 この場に居合わせない、沼の底から噴き上げる泡のような声に、三人は、気づく。「感謝しよう、カス共。小賢しき封印を――――破壊してくれて」 人型の妖魔が、ゆっくりと降り立った、その光景に。
「それで今はツバキちゃんのお家でお泊りしてるんだ~」
ツトミがジト目でツバキを見つめ、ツバキは困った風に目を逸らし、隣でサクノが満足そうにうんうん頷いている。
場所は低地ラノシアの北部、迷子橋より北に在るシダーウッド。レッドルースター農場からの依頼で、この辺りの安全確認の為に巡回をお願いされ、三人は薄闇の農地をのんびりとした動きで散策していた。
「然り。ツバキ殿には世話になりっ放しで、頭が上がりませぬ。ハッハッハッ」
「ふぅ~ん」ツトミのジト目がツバキを射続ける。「そうだよねぇ~、ツバキちゃんは困ってる人を見過ごせないもんね~」
「な、何だよぅ」言い知れぬ敵意を感じて思わずツバキが居心地悪そうに言い返す。「行き倒れなんて初めて見たからさぁ……」
「そう言えば~、行き倒れを装って、強盗する悪い奴が居るって言ってたけど~、ツバキちゃんはそんなの関係無いもんね~」
「うぐぐ……」
痛いところを衝かれて何も言えなくなってしまうツバキに、サクノが驚いた風にツトミに視線を転じる。
「なんと、そのような外道働きをする輩が居るのですか? 実にけしからんですな。拙者がその場に居合わせたなら三枚おろしにしていたでしょうに」
「サクちゃん、めっちゃ刀抜いてる」
ツトミが指摘するまで、サクノは腰に佩いていた刀の鯉口を切っては戻し、切っては戻す、苛立ちを感じさせる所作を行っていた事に気づかなかった。
「ハッ! これは失礼をば……拙者、外道働きを行う者や、下劣な輩を見ると悪★即★斬! で、斬り捨て御免してしまう癖が……」
「と、とんでもない癖を持ってるんですね……?」ツバキがすすす、と距離を取る。
「サクちゃん素敵~、どんどん斬って捨ててこ、悪い奴ぅ~」ツトミが嬉しそうに腕を振り上げる。
「お任せあれ! ツトミ殿もツバキ殿も、拙者の目が黒い内は、悪漢共に指一本触れさせる前に斬獲してみせましょう!」自信満々に胸を張るサクノ。
「あ、ありがと……」
ツバキが内心「これってワンチャン私が斬られたりしないよね……?」と怯えながら、改めて巡回を再開すると、ヒューラン族の老婆が「た、助けてくれぇ~!」と、悲鳴を上げながら駆け込んで来た。
「大丈夫ですか!?」ツバキが慌てて駆け寄ると、ヒューラン族の女性は「ま、魔物が……!」と震える指で薄闇の先――ブラインドアイアン坑道の方角を指差した。
ツバキは頷くと、老婆に向かって指を当てた。
老婆は不思議そうな面持ちでツバキを見上げている。
ツバキは老婆の額に指を添えたまま、ニッコリと微笑んだ。
「殺意の隠し方が下手ですよ、ご婦人。もう少し忍ばせる技術を学んだ方が良いですね」
ツバキが双剣・ミスリルプジオを抜くのとほぼ同じタイミングで老婆は宙返りを決めて距離を取った。それを見て取ったツトミとサクノも武器を抜く。
ヒューラン族の老婆は小刀を握り締め、その白刃を舌なめずりして歪んだ笑みを覗かせた。
「ヒヒャァ~、この俺の演技を見破るたァ中々の上等な得物じゃねェの……丁度良い、その体、譲り受けようか……ヒヒッ」
「ツバキちゃん、あれって……」「……原理は分からないけど、体が乗っ取られてるのかな……?」
ツトミが心配そうに声を漏らしたのに対し、ツバキも不審な眼差しで老婆を見据える。
ヒューラン族の老婆が行方不明になっていると言う話は、レッドルースター農場の長から聞いていた。それ故に、不安になった住民が冒険者に近辺を巡回して欲しい、と依頼した訳だ。
その老婆は、普段は慎ましやかに農作業に励む、運動も苦手な穏やかな女性だったと聞いている。それが、あんな宙返りを披露するなど、通常では考え難い話だ。
長年一緒に居た住民の話を真に受けるのであれば、あの老婆は明らかに何かしらの異常に見舞われている。例えば妖魔に憑かれているとか、妖魔が姿を偽っているとか……
現状、危険人物と判定されたにも拘らず姿が変わらない所を察するに、妖魔に憑かれている、もしくは操られていると考えた方が良いだろう。
徒に傷つけて被害を増やしたくないツバキとしては、戦い方も慎重にならざるを得ない。ツトミにしても、射掛けるタイミングや箇所に対して制限が出てくる。
「よもや……よもや、このような場所で見つかるとは!」
老婆も出方を伺って、互いに硬直した状態が続いていた最中、突然サクノが驚いたような声を上げて、老婆の持つ小刀を指差した。
ツバキとツトミは警戒しながらもサクノの奇態に眉を顰める。
「サクノさん、何か知ってるの?」「サクちゃん、知り合い?」
「あれなるは妖刀……妖刀【白衰】! 拙者がエオルゼアまで罷り越した理由の、失せ物探し、それそのものです!」
瞳をキラキラと輝かせて説明するサクノに、ツバキとツトミは理解が追い着いていないのか、一緒に小首を傾げた。
「え、アレを探しにエオルゼアまで泳いで来たの……?」どんな確率なのそれ?? とツバキが視線で尋ねる。
「凄い偶然~ツトミビックリ~」わわわ~、と驚いた仕草を見せるツトミ。
「これもツバキ殿とツトミ殿が引き寄せた運命……ではこれにて、斬獲、させて頂く」鯉口を切り、サクノが抜刀する。
「え。待って待って、あのお婆さんは殺しちゃダメだからね!?」
思わずと言った様子でサクノの前に立ちはだかるツバキだったが、次の瞬間にはサクノの姿は陽炎のように溶け、旋風が奔ったかと思えば、老婆の背後で涼やかな音を立てて納刀する彼女の姿が有った。
「カ、ァ……?」
老婆が両目を見開いたかと思えば、泡を噴いて倒れてしまった。
「サクノさーん!?」思わず悲鳴を上げるツバキ。「だだだ大丈夫ですかー!?」大慌てで老婆の元へ駆け寄ると、彼女は意識を失っているだけで、息は有った。「よ、良かった……生きてる……」
「ねー、ツバキちゃん見て見て、ナイフが粉々~」
ツバキの隣に駆け込んで来たツトミが、地面に散らばった小刀の残骸をツンツンとつついて呟く。
「あ、あの速度でナイフだけ破壊したのかぁ……」驚きの表情で安堵の溜め息を漏らすツバキ。「凄い技術だ……」
「ハッハッハッ、この程度、朝飯前に御座れば」満足そうに戻って来たサクノが、粉砕された小刀を見下ろして顎を撫でる。「併し、妙と言えば妙だ。妖刀と称されたにも拘らず、こんなにも呆気無いとは……些か拍子抜け……いや、拙者が強過ぎたのかも知れぬが……」
「ねーねーツバキちゃん、じゃあこのナイフが、今まで困ってる人を装って、悪い事してたのかなぁ?」ツトミが粉々になった小刀を見下ろして小首を傾げる。「サクちゃんが強過ぎるのは分かるけどー、今まで全然捕まらなかったのに、こんなあっさり壊れちゃうかなぁ?」
「……確かに、言われてみれば呆気無さ過ぎるけど……」
ツバキもやっと思考が正常に戻り、気づく。辺りが異様に暗くなっている事に。
まだ日暮れには早い筈だ。にも拘らず、この闇の濃度。あらゆる生命が逃げ出す、不気味なエーテルの流れ。
「――やっとだ」
この場に居合わせない、沼の底から噴き上げる泡のような声に、三人は、気づく。
「感謝しよう、カス共。小賢しき封印を――――破壊してくれて」
人型の妖魔が、ゆっくりと降り立った、その光景に。
🌟後書
すっかりいつもの(と言うか前世の)流れに遡行してしまっています(笑)。 どうしてもキャラクターが増えると、その分会話劇が増え、それがコメディ寄りの流れに寄ってしまう要因になっているようですw こういう緩急と言いますか、ほのぼのしたり、シリアスになったり、またほのぼのになったりと言う、展開の温度差と言いますか、そういうのに落差を付けるとより面白いと言いますか、感情が揺らぐと思うんですよね。「この後どうなるんだ?」と思って貰いたいと言いますか、自分自身が綴りながら「これ、この後どうなるんだ…??」となるようになるように、展開を変えて緩急を変えて、みたいな事をしているんだと思います。 これを綴っている時も、外枠と言いますか、大まかな流れ自体は考えていたものの、結局綴る瞬間に「いや、こっちの方が面白そうだ!」と舵取りするタイプなので、思ってもみない事が多々起こるのが私の作風です(笑)。 これを綴ってる当時も「取り敢えず強そうな妖魔を出したいな」と思って、〆に出して「今回はこの辺で!」にした訳ですけど、続きを綴る私が「これどうすんだ…ww」ってなるのは、続きを綴り始めて初めて気づく奴でしてwww と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
🌸以下感想
とみ
更新お疲れ様ですvv
後書とっても良いです。
先生が普段どんな感じで創作してるのか盗み見しているようで、楽しいですw
ついに抜刀しちゃったサクちゃん、現れる人型の妖魔……
えーと…これ、どうしようw
今回も楽しませていただきましたー!
次回も楽しみにしてますよーv
2024年1月22日月曜日 21:06:33 JST
夜影
>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
後書も楽しんで頂けてるようで何よりですぞ~!┗(^ω^)┛
普段どんな感じで創作してるのか盗み見…!ww 隠してるつもりが無いので、こういう話をするのが実は好きだったりしますw また機会が有れば話したい…!ww
えーと…これ、どうしようwwwwwまさに次話を綴る時のワシの心境を顕してるまである!wwwww(笑)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!
2024年1月22日月曜日 21:13:41 JST
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