2024年1月21日日曜日

第5話 腹ペコ侍と一宿一飯の恩〈1〉

ミスト・ヴィレッジ在住一般冒険者の日常(FF14二次創作小説)
第5話 腹ペコ侍と一宿一飯の恩〈1〉

第5話 腹ペコ侍と一宿一飯の恩〈1〉


「ツバキちゃん聞いたー? 最近、物乞いに扮して強盗してる悪い奴が居るんだって~。とんでもない悪党だよね~」

 いつものように“溺れた海豚亭”でランチタイムをしていたツバキに、ツトミが思い出したように、そう切り出した。
 ツバキはラノシアトーストを飲み下すと、「冒険者ギルドでも話題になってたね。困っている人に話しかけたら、そのまま襲われて金品を奪われる事件も起きてるとか」とうんざりした様子で鼻息を落とした。
 双剣士ギルドでもターゲットとしてギルドメンバーが目下捜索中だが、未だに成果は上がってない事も、ツバキの耳に入っていた。
 話題沸騰中の悪党は相手が冒険者であろうと市井の民であろうと、関係無く助けを求め、相手が油断したところを衝いて金品を掠め取って逃げる、と言う犯行を重ねているらしい。
 まさに外道そのものであるし、双剣士ギルドとして、掟である“リムサ・ロミンサの民から略奪をするべからず”に抵触している為、早急な事件解決を望んでいる。
「ツバキちゃんも気を付けなよ~? 困ってる人を見つけたら、ついついちょっかい掛けるんだから君ぃ~」
「それは流石に誤解って言うか、私そんな目で見られてたの??」
「ツトミ、心配だなぁ~これは四六時中ずっと一緒に居てあげる代わりにご飯を奢って貰わなきゃなぁ~」
「それが狙いかっ!」
 二人してけらけら笑い合い、ツバキは自宅の在るミスト・ヴィレッジへ、ツトミはすぐそこの宿屋、ミズンマストに帰って行く。
 今日もギルドリーヴで得られた報酬でお腹いっぱいご飯を食べたツバキは満足そうに自宅であるアパルトメントこと、トップマストへの帰路である坂道を歩いていると、誰かが倒れている姿が視界に飛び込んできた。
 行き倒れ? と思いつつ慌てて駆け寄り、躊躇なく抱き起す。
「大丈夫ですか?」
 顔を覗くと、アウラ族の女性である事が分かった。東方風の装備を身に纏った冒険者風のアウラ族。腰に佩いているのは刀と呼ばれる東方由来の武器だろう。
 何度か揺さ振るも、反応が無い。口元に手を宛がうと、呼吸はしている。眠っている訳でも無さそうだが……と途方に暮れていると、不意にアウラ族の目元がピクリと動き、微かな声が聞こえてきた。
「…………ぃた」
「……何? 私の声、聞こえますかー?」
「…………お腹、空いた……」
 アウラ族の女性のお腹から、聞いた事の無い虫の音が鳴り響き、ツバキは目を点にして、本当に行き倒れだった……と謎の感動をしてしまうのだった。

◇◆◇◆◇

 コトコトと、何かが煮える音が微かに聞こえる。
 仄かに香るのは、シナモン……それとハチミツだろうか。優しい甘い香りが部屋に満ち、忘れたかった空腹が、今や限界にまで引き起こされる。
「ここ……は……」
 アウラ族の女性は虚ろな瞳をゆっくりと動かし、見た事の無い部屋に寝転がっている事を自覚する。
 薄暗い部屋は、三方に煌びやかな風景が映し出された壁、そして四方が本棚で埋められていた。本棚の近くに在る扉は半開きで、そこから匂いの元が漂ってきていた。
 アウラ族の女性は腰に佩いた刀が奪われていなかった事を確認すると、いつでも抜刀できる状態で扉に歩み寄り――「あ、起きましたか」――お盆を手に持ったミコッテ族の女性とぶつかりかけた。
「そなたは……?」アウラ族の女性は怪訝な面持ちでミコッテ族の女性を見つめ、その手に持ったお盆に在る、優しい甘い匂いが香り立つ粥を見て、即座に垂涎した。「そ、それは……っ?」
「こっちにテーブルが有るから座って座って」ミコッテ族の女性は戻っていきながら手招きする。「お腹が空いてるって言うから、簡単なお粥を作ったんですよ、良かったらどーぞ」
 アウラ族の女性が付いて行くと、テーブルの上に先程の粥が載せられ、ミコッテ族の女性は奥の席に座ると、アウラ族の女性を見上げた。
「遠慮しなくて良いですからね。――あ、毒見が必要でしたら、」と言いながら粥の入った鍋から一匙掬って口に運び、嚥下する。「これ、この通り。どれだけ食べるか分かりませんでしたから、適当な量しかないですけど、まずは柔らかいご飯からの方が良いかなって」
 ニコッと微笑むミコッテ族の女性に、アウラ族の女性はワナワナと一頻り震えた後、――突然土下座した。
「――え? 何?」驚きの声を上げるミコッテ族の女性。
「大変ッ、大変失礼致したッ! 拙者、てっきり寝込みを襲われて乱暴されるものとばかり! 春画のように! 春画のように!」
「(シュンガって何だ……?)よ、よく分からないけど、冷めない内にどーぞ? お腹空いてるんでしょ?」
「まことかたじけない! 拙者、空腹のあまり三途の川を渡る寸前で……有り難く頂戴致す!」
 アウラ族の女性はラザハン・チェアに腰掛けると、まるでアトモスのように粥を吸い込み、お代わりし、吸い込み、お代わりしを繰り返し、鍋を刹那に空にしてしまった。
 あまりの食べっぷりに目を点にしていたミコッテ族の女性――ツバキは、彼女の胃袋がまだ満足していなさそうなのと、固形物も問題無く食べられそうだなと思い、さっと出来て、腹が膨れて、美味しいもの……と、最近ハマっているドードーのグリルでも作るか、とエプロンを着替え直す。
 テキパキと自室の調理場で調理を熟すツバキを、アウラ族の女性は不思議そうに見つめていた。
「もし……? まさか、更に飯を用意して……?」
「フルメンティだけだと満足してなさそうでしたので、ドードーのグリルも追加してお出ししようかと」網でドードーの笹身を炙りながら苦笑するツバキ。「いらなかったら言ってくださいね、私が食べますから」
「いや! いや! 恩人からの馳走、断る道理無し! 有り難く頂戴致す!」
 アウラ族の女性の感動を声にしたかのような大音声に、ツバキは更に苦笑を深めてしまう。
 話し方がどうにもアマルジャ族を連想してしまい、今更になって、もしかして彼女が物乞いの強盗だったのでは……? などと考えが巡ってしまう。が、先程からの様子を見るに、悪党には思えなかった。
 やがて出来上がったドードーのグリルも、ぺろりと平らげてしまったアウラ族の女性に、ツバキは「お粗末様でした」とエプロンを脱いで同じ卓に着く。
「ご馳走様でした……!」合唱し、深々と頭を下げるアウラ族の女性。「御仁、拙者はこの一宿一飯の御恩、決して忘れませぬ。必ずやこの御恩に報いますゆえ……今し方、何か困り事など、有りませぬか?」
「困ってる事は特に無いけど……」ふと、ツバキは思い出したように手を打つ。「そう言えば、あなた、名前は何て言うんですか? あと、一体どうしてあんなところで倒れてたんです……?」
 ツバキが不思議そうに尋ねると、アウラ族の女性は神妙な面持ちになり、姿勢を正した。
「拙者、名をサクノと申す。東州オサード小大陸より更に東、ひんがしの国より犬掻きで渡って来たのだが、飯が尽き、ギルも尽き、そして精魂尽き果てた拙者は、遂に何も為せぬまま臥してしまい……気づけば御仁に手を差し伸べられ、今や意気軒昂。まこと感謝の念に尽きませぬ」
「…………は? 待って、あまりにも情報がぶっ飛び過ぎてて理解するのに時間が掛かるんだけど……」頭を押さえながらツバキが呻く。「えぇっと……泳いできたの? ひんがしの国から……ここ、バイルブランド島まで……?」
「然り」こっくり頷くアウラ族の女性――サクノ。
「…………」
 嘘を吐いているようには見えないが、嘘を吐いてくれている方が遥かに理解に易くて……そんな事が本当に出来るのか、考えるまでも無く無理だと思うのだが……
 ――――ツバキは、考える事を、やめた。
「そうなんだ……大変……だったね……」
 体力お化けかよ……と思いながらも決して口にも顔にも出さないツバキなのだった。
「ところで御仁、名を何と申す? 拙者、記憶違いでなければ、未だ耳にしておらぬと思うのだが」
「あ、ごめんごめん。私はツバキって言います」
「ツバキ殿! 良い名だ……東方にまさに“椿”と言う花が有りましてな、花言葉は“気取らない優美さ”、“控えめな優しさ”と有ったかな……まさに主に相応しき名!」
「そ、それはどーも……。って、え? 主??」
 聞き捨てならない言葉を聞いたツバキは、思わず声を漏らした。
 サクノは仰々しく頷き、「如何にも! 一宿一飯の御恩を返すまで、拙者、ツバキ殿に滅私奉公する所存! どうか何なりとお申しつけをば!」とそれはもう華のような笑顔を見せてきた。
「え、えー……っと。今は特に何も無いです……」
「承知! 困り事有れば何なりと! 拙者、こう見えて頼りになりますれば! フフフ」
「は、はひ……」
 困った事が有るとしたら、まさに今のこの状態だよ……と言い出せなくなってしまい、こうしてツバキはサクノとしっかり縁を結んでいくのだった。

🌟後書

 前世からのお付き合いであるサクノさんにも今回から出演して頂く事に! ツトミちゃん同様前世の作品でも出演して頂いておりましたが、今作ではより「侍っぽく」したかったので、喋り方や立ち居振る舞いを武士風に、それで居てちょっぴりギャグ要素を混ぜ込んだ感じにアレンジしましたw
 こういう喋り方をする女性キャラクターが性癖と言うのは有ります。武士風の女の子…最高…(突然の性癖博覧会)
 今回の物語ではツトミちゃんが腹ペコキャラクターにちょっと寄っているので、サクノさんも異なる方向から腹ペコキャラクターにしたかったのも有ります。ツバキちゃんのご飯を奪い合う二人…ヨシ!(何がヨシだ)
 物語の骨格みたいなのは予め考えていたのですが、1話で纏まり切らない(文字数の都合)ので今回はこの物語では珍しく続き物です。単話完結式で終始したかったのですけれど、話数が進むに連れてこういう事は増えていきますよね…w
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

🌸以下感想

とみ
更新お疲れ様ですvv

ついに登場、「悪★即★斬」でおなじみ抜刀のサクちゃん!w
実物がほぼこのままなのでwたいそうやばめですが、意外とイケます!(何が?)

前回までの必殺っぽい雰囲気どこいった感はありありですが、この流れも大好物なので行けるとこまで突っ走ってほしいです。(犬掻き

今回も楽しませていただきました!
次回も楽しみにしてますよーv

2024年1月21日日曜日 19:07:10 JST

夜影
>とみちゃん

感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

「悪★即★斬」でおなじみwwwwwww抜刀のサクちゃん!wwwwww
実物がほぼこのままwwwwwww私の中のイメージととみちゃんの中のサクノさんのイメージが合致し過ぎてて笑ったwwwwwwww(笑)

そうなんですよね、前回までの必殺仕事人らしさが一変して、いつもの流れに入りつつある感じなんですよねこれ…w これはこれで書き慣れた流れなのですが、今後も隙あらば必殺仕事人の流れも入れていきたい…!(´▽`*) 突っ走ってが犬掻きなの笑ったwwwwww(笑)

今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!
2024年1月21日日曜日 19:21:28 JST

0 件のコメント:

コメントを投稿

2024/12/10の夜影手記

2024/12/10の夜影手記 🌸そう思い込む事がまず初手として悪いとは言え