016.星語る夜
016.星語る夜
「……揃って宿無しとは、本当に嘘が吐けないんだねェ」 狩人都市・アルテミスの貧民区。カタリが焚火を弄っている場所までやってきたリスタ一行は、互いに肩を竦め合って苦笑を滲ませた。「言ったろ、依頼が終わり次第無一文になるって。お陰で宿にも泊まれねェってんで、だったらここらで雑魚寝でもすりゃ良いじゃねェかって言ったんだよ」「貧民区で雑魚寝など、飢えた響狼の棲み処で腹を見せるが暴挙……我が身命を賭して否と陳ずるも受容されず……如何ともし難いが、我が大恩の主を見捨ても出来ずな……」 ゼラフがポーズを決めながらブツブツ言っているのを、クーリエが隣で「わたしもぉ~、心配でついてきちゃったぁ~。どの道ぃ~、わたし達もぉ~、お財布空っぽだしねぇ~」えへへぇ~、と照れた微笑を浮かべて頬を掻いている。「カタリさん、お邪魔して、良い?」 シアがカタリの前に跪いて問うと、彼女は呆れたように肩を竦めて、焚火に更なる枯れ木を継ぎ足す。「なんだい、婆に話を聞かせに来たって言えば焚火に当たるぐらいは許してやったのに。気が利かない子達だねぇ」「ああ、話が聞きたいんだったか。グレンゼブルと遭遇した話でも聞けりゃ満足するのか?」 カタリが不貞腐れたように呟いた瞬間、リスタが何気無く応じたのを聞いて、彼女はニヤリと口の端を歪めた。「なんだい、とびっきりの冒険譚を用意してるなら、そうお言いよ。まだ夜は始まったばかりなんだ、肉でも突きながら聞かせて貰おうかね、蛮竜狩猟譚を」 途端に楽しげになるカタリを見て肩を竦めたリスタは、彼女の隣に片膝を突いて座し、焚火に当たりながら話を始めた。 高地に着いてイワヒメ草を探す過程で、蛮竜・グレンゼブルと遭遇した事。かの竜が狂竜ウィルスに感染していた事。暴れ回るグレンゼブルを討伐せしめた事。キャンプまで戻ってきた時に、フウッチャが描いていた風景画の中にイワヒメ草が描かれていて、その場所に向かうと本当のイワヒメ草が有った事…… カタリはリスタが皮肉交じりに語るその冒険譚を、静かに聞き入り、時折相槌を打って話を促し、時に質問してその詳細を確認して、夜は更けていった。「……でまぁ、明日からはラオシャンロン討伐の為に遠征ってこった。精々【蒼炎竜騎士団】の胸を借りるとするさ」 フウッチャが用意してくれた蜂蜜酒を呷りながら、リスタはそう締め括った。いつの間にか運ばれてきた料理に舌鼓を打ちながら、気分良く語り終えたリスタは満足そうに溜め息を零す。 何時間語っていたのか忘れるぐらいに、料理と蜂蜜酒に酔っていたリスタは、どこか茫然とする体感の中、カタリに視線を転じる。「……満足したか? 俺ァもう腹も膨れて、へべれけで眠ぃんだが」「あぁ、満足したよ」カタリは深く頭を下げた。「ありがとね。坊やの話を聞いて確信したよ。あんた、――の――だろう」「――――」 刹那に酔いが醒める感覚に襲われ、リスタは瞠目してカタリを見据える。 カタリはしたり顔でリスタを見つめ返すと、お手上げのポーズを取った。「別に言い触らしたりも、金銭を要求したりもしないさ、安心をし。仲間にも伝えてないんだろう?」 リスタは確認するように周りに視線を向けるも、シアも、ゼラフも、クーリエも、すっかり蜂蜜酒で酩酊しているのか、すぅすぅと規則正しい寝息を立てて気持ち良く夢の世界に旅立っている。 小さく吐息を漏らすと、リスタはすっかり酔いが醒めてしまった頭で、カタリを見据える。「……分かるもんなのか?」「そりゃ分かるさ。何年も仕えてきたんだ、分からない訳が無い」「じゃあ――!」「坊やが求める情報は、あたしは持ち合わせていないよ。それは自分の足で勝ち取りな」「ちッ……」思わず舌打ちを返すリスタ。「嘘じゃねェだろうな……?」「恒星に辿り着いて何の成果も無しじゃ流石に可哀想だしね、一つ、坊やの北極星を指し示してやろう」 カタリは焚火を弄りながら、真剣な表情で揺らめく炎を見つめる。「――アイルーの英雄・ザレアを探しな。坊やが求める情報の幾つかは、そこで得られるだろうさ」「師匠を……?」リスタは怪訝な表情を覗かせる。「いや、婆さん。テメェは知らねェかもだが、師匠を探すのは砂漠から一粒の砂を探すみてェなもんで……」「あたしから言えるのはそれだけだ。……坊や、もう凶つ星は瞬いてるんだ。時代が大きく動く瞬間は間近だよ。何が何でも間に合わせな、今度こそ打ち勝って貰わないと困るんだから」「何を言って……」「さッ、坊やもいい加減寝な。明日からラオシャンロン討伐の為の遠征だったろう? 過酷な道程になるだろうから、しっかり英気を養ってお行き。……それに、坊やにとっては大事な星との巡り合いも有るだろうしね」 言うだけ言うとカタリは焚火を踏み消して、そのまま横になってしまった。 リスタは何か言いたげに眉根を顰めていたが、カタリがそれ以上取り合う気が無い事を察すると、舌打ちを返して彼も横になった。 明日から大きな狩猟の遠征が始まる。それに対して、リスタは緊張も興奮もしていなかった。 屠るべきモンスターが居る、それを屠れば解決する。単純明快な自然の理だ。己は為すべきを為し、問題は自然と解決に向かう、ただそれだけの事なのだ。 そんなハンターとしての心構えを説いてくれた猫頭の師匠を思い出しながら、リスタは眠りに就く。 神出鬼没の師匠を探す方法など存在するのか。……あの規格外の師匠の事だ、逆に有りそうだな、なんて思わず苦笑を滲ませながら。
「……揃って宿無しとは、本当に嘘が吐けないんだねェ」
狩人都市・アルテミスの貧民区。カタリが焚火を弄っている場所までやってきたリスタ一行は、互いに肩を竦め合って苦笑を滲ませた。
「言ったろ、依頼が終わり次第無一文になるって。お陰で宿にも泊まれねェってんで、だったらここらで雑魚寝でもすりゃ良いじゃねェかって言ったんだよ」
「貧民区で雑魚寝など、飢えた響狼の棲み処で腹を見せるが暴挙……我が身命を賭して否と陳ずるも受容されず……如何ともし難いが、我が大恩の主を見捨ても出来ずな……」
ゼラフがポーズを決めながらブツブツ言っているのを、クーリエが隣で「わたしもぉ~、心配でついてきちゃったぁ~。どの道ぃ~、わたし達もぉ~、お財布空っぽだしねぇ~」えへへぇ~、と照れた微笑を浮かべて頬を掻いている。
「カタリさん、お邪魔して、良い?」
シアがカタリの前に跪いて問うと、彼女は呆れたように肩を竦めて、焚火に更なる枯れ木を継ぎ足す。
「なんだい、婆に話を聞かせに来たって言えば焚火に当たるぐらいは許してやったのに。気が利かない子達だねぇ」
「ああ、話が聞きたいんだったか。グレンゼブルと遭遇した話でも聞けりゃ満足するのか?」
カタリが不貞腐れたように呟いた瞬間、リスタが何気無く応じたのを聞いて、彼女はニヤリと口の端を歪めた。
「なんだい、とびっきりの冒険譚を用意してるなら、そうお言いよ。まだ夜は始まったばかりなんだ、肉でも突きながら聞かせて貰おうかね、蛮竜狩猟譚を」
途端に楽しげになるカタリを見て肩を竦めたリスタは、彼女の隣に片膝を突いて座し、焚火に当たりながら話を始めた。
高地に着いてイワヒメ草を探す過程で、蛮竜・グレンゼブルと遭遇した事。かの竜が狂竜ウィルスに感染していた事。暴れ回るグレンゼブルを討伐せしめた事。キャンプまで戻ってきた時に、フウッチャが描いていた風景画の中にイワヒメ草が描かれていて、その場所に向かうと本当のイワヒメ草が有った事……
カタリはリスタが皮肉交じりに語るその冒険譚を、静かに聞き入り、時折相槌を打って話を促し、時に質問してその詳細を確認して、夜は更けていった。
「……でまぁ、明日からはラオシャンロン討伐の為に遠征ってこった。精々【蒼炎竜騎士団】の胸を借りるとするさ」
フウッチャが用意してくれた蜂蜜酒を呷りながら、リスタはそう締め括った。いつの間にか運ばれてきた料理に舌鼓を打ちながら、気分良く語り終えたリスタは満足そうに溜め息を零す。
何時間語っていたのか忘れるぐらいに、料理と蜂蜜酒に酔っていたリスタは、どこか茫然とする体感の中、カタリに視線を転じる。
「……満足したか? 俺ァもう腹も膨れて、へべれけで眠ぃんだが」
「あぁ、満足したよ」カタリは深く頭を下げた。「ありがとね。坊やの話を聞いて確信したよ。あんた、――の――だろう」
「――――」
刹那に酔いが醒める感覚に襲われ、リスタは瞠目してカタリを見据える。
カタリはしたり顔でリスタを見つめ返すと、お手上げのポーズを取った。
「別に言い触らしたりも、金銭を要求したりもしないさ、安心をし。仲間にも伝えてないんだろう?」
リスタは確認するように周りに視線を向けるも、シアも、ゼラフも、クーリエも、すっかり蜂蜜酒で酩酊しているのか、すぅすぅと規則正しい寝息を立てて気持ち良く夢の世界に旅立っている。
小さく吐息を漏らすと、リスタはすっかり酔いが醒めてしまった頭で、カタリを見据える。
「……分かるもんなのか?」
「そりゃ分かるさ。何年も仕えてきたんだ、分からない訳が無い」
「じゃあ――!」
「坊やが求める情報は、あたしは持ち合わせていないよ。それは自分の足で勝ち取りな」
「ちッ……」思わず舌打ちを返すリスタ。「嘘じゃねェだろうな……?」
「恒星に辿り着いて何の成果も無しじゃ流石に可哀想だしね、一つ、坊やの北極星を指し示してやろう」
カタリは焚火を弄りながら、真剣な表情で揺らめく炎を見つめる。
「――アイルーの英雄・ザレアを探しな。坊やが求める情報の幾つかは、そこで得られるだろうさ」
「師匠を……?」リスタは怪訝な表情を覗かせる。「いや、婆さん。テメェは知らねェかもだが、師匠を探すのは砂漠から一粒の砂を探すみてェなもんで……」
「あたしから言えるのはそれだけだ。……坊や、もう凶つ星は瞬いてるんだ。時代が大きく動く瞬間は間近だよ。何が何でも間に合わせな、今度こそ打ち勝って貰わないと困るんだから」
「何を言って……」
「さッ、坊やもいい加減寝な。明日からラオシャンロン討伐の為の遠征だったろう? 過酷な道程になるだろうから、しっかり英気を養ってお行き。……それに、坊やにとっては大事な星との巡り合いも有るだろうしね」
言うだけ言うとカタリは焚火を踏み消して、そのまま横になってしまった。
リスタは何か言いたげに眉根を顰めていたが、カタリがそれ以上取り合う気が無い事を察すると、舌打ちを返して彼も横になった。
明日から大きな狩猟の遠征が始まる。それに対して、リスタは緊張も興奮もしていなかった。
屠るべきモンスターが居る、それを屠れば解決する。単純明快な自然の理だ。己は為すべきを為し、問題は自然と解決に向かう、ただそれだけの事なのだ。
そんなハンターとしての心構えを説いてくれた猫頭の師匠を思い出しながら、リスタは眠りに就く。
神出鬼没の師匠を探す方法など存在するのか。……あの規格外の師匠の事だ、逆に有りそうだな、なんて思わず苦笑を滲ませながら。
🌟後書
約3ヶ月振りの最新話投稿になりました…!w 大変お待たせ致しましたーッ!(やっぱり毎回言ってるなこれw) と言う訳でまた新しい情報を小出しで出していく奴です。前作をご存知なら見逃せない名前! アイルーの英雄が、まさかのリスタ君の師匠…!? そして次回からはいよいよラオシャンロン討伐遠征編の開幕です。過酷な旅路の果てに得られるものとはいったい…! と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
🌸以下感想
とみ
更新お疲れ様ですvv(3/7)
前回一人だけ名前が挙がらなかった彼女が、こんな形で登場するとは…
これ、前作を遥かに凌ぐスケールになったりするやつかもしれんと戦慄しております。
3人の英雄の行方、シアちゃんとリスタくんの運命、カタリばあちゃんが語る過去と未来…
先生がんばって!
それにしても伝説の3人の行方を誰も知らないのは大分ひっかかってますw
今回も楽しませていただきましたー!
次回も楽しみにしてますよーv
2024年6月18日火曜日 18:21:12 JST
夜影
>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*) ひいぃwww計測がしっかり続いてる…!www(笑)
前作を遥かに凌ぐスケール…! に、なったらいいなぁ…!ww モンハンの二次創作小説でありながら、ハンターよりも冒険者っぽさの方に寄っているので、もしかしたらとてもとても長い物語になるかもとは予感しておりますが…!w
頑張るよー!┗(^ω^)┛ 完結目指して楽しんでいくんだぜ!w
ですよねぇw その辺もそのうち語られるとは思うのですが、はてさて…!w
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!
2024年6月18日火曜日 18:30:50 JST
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