2024年6月17日月曜日

第15話 戦わない冒険者

ミスト・ヴィレッジ在住一般冒険者の日常(FF14二次創作小説)
第15話 戦わない冒険者

第15話 戦わない冒険者


「冒険者稼業って、とても大変だって分かりました……」
 リムサ・ロミンサの“溺れた海豚亭”の一角で、ララフェル族の槍術士の男の子、ケータがどこかやつれた顔つきで疲れ果てた溜め息を零していた。
 同席しているツバキは、「ふむ」と腕を組んで彼を見つめている。
 フリーカンパニー【猫の尻尾】のメンバーの一人であるケータに、相談が有ると声を掛けられたツバキは、それならと“溺れた海豚亭”を指定して、軽食を挟みながら相談に乗る事にしたのだ。
 フリーカンパニーを結成した時から変わらない装備を纏っているケータは、「ふぅ、」と小さく吐息を零すと、ツバキに視線を転じた。
「何と言いますか……戦闘が絶望的に苦手なんです。エオルゼアに来てから、槍を握って活動していますけれど、もう魔物が怖くて怖くて……海賊や人拐いまで襲ってくるのが恐ろし過ぎて……」
 怯えていると言うか、エオルゼアの洗礼を全身に浴びた、とでも言いたげに虚ろな眼差しを見せるケータに、ツバキは小さく空咳を挟むと、確認するように口を開いた。
「それはつまり、ケータ君は戦闘を理由に、冒険者を辞めたいって言う話なのかな?」
 エオルゼアは冒険者家業が盛んな土地ではあるものの、全ての冒険者にとって都合が良い世界と言う訳ではない。
 志半ばで倒れる者も居れば、大切なものを失ったばかりに未来を閉ざす者や、冒険者の過酷な世界に嫌気を差して武器を置く者だって少なくない。
 ケータも、その冒険者と言う過酷な世界を垣間見て、絶望ないし、自分では無理だと判断したのであれば、ツバキとて無理に引き留めるつもりは無かった。
 身の丈に合わない冒険者が無理に続けたとしても、待っているのは地獄、或いは落命と言う最期だ。
 自分で引き際を見極めているのであれば、それを受け止めて了承するのも、先達冒険者としての務めだろうと、ツバキは真剣な眼差しでケータを見つめる。
 ただ、もしそうではないのなら。ケータの想いを汲み取りたいと言う気持ちを懐いたまま、ツバキは彼に話を促す。
 ケータは神妙な面持ちで小さく首を否と振ると、ツバキの目を正面から見て口を開いた。
「そのぅ、戦闘以外で、冒険者を続ける事は出来ないのでしょうか……? 僕は、折角冒険者として活動し始めたのに、このまま何の成果も出せずに辞めるのが、その……嫌なんです」
 ツバキの瞳の奥に、キラリと輝きが灯る。
 ケータは戦闘が苦手と言ったが、冒険者稼業を辞めたいと言う訳ではない。つまり、他の道は無いかと模索している段階なのだ。
 槍を振るう以外に選択肢が無かった今までとは異なる、別の側面の冒険者を求めている。
 そういう事であれば、ツバキにも解決策の一つを提案する事が出来る。苦手な道を歩むのではなく、どこかに自分の性分に合った道が無いかと探す手伝いぐらいは、ツバキにだって出来ると信じて。
「ケータ君は、クラフターとか興味は無いかな」
 ツバキは腰に下げていた二振りの小刀をテーブルに並べ、その刀身を撫でる。
「冒険者は何も、戦闘や探検だけにスポットライトが当たっている訳じゃない。武器や防具を作ったり、薬や料理で冒険者をサポートする、そういう人達をクラフターって言うんだ。もし良ければそういうギルドへの推薦状を渡そうと思うのだけれど、どうかな?」
「クラフター、ですか」
 ケータの顔が驚きに満ち、それから明るい色の光が灯ったように、表情に覇気が戻ってきた。
「それって、何の経験も、資格も無くても出来るものなんですか?」
「最初はみんな何も持たないところから始めるものさ。無論、やる気や熱意さえも無いってなったら話は別だけど、クラフターのギルドは、技術や腕前が足りないからってクビにしたりはしないから、そこだけは安心して欲しいかな」
 これに関してはクラフターのギルドに限った話ではなく、エオルゼア各地に点在する武術のギルドでもそうだ。初めは何も持たない者が、手に職を持つ為に、或いは誰かの役に立つ為、そして己を高める為にギルドで修練するのだから、ギルドはその手助けをしてくれるし、ギルドの為に活動してくれる者であれば誰であれ手を差し伸べてくれる。
 まずはそのギルドに関心を持つ事。合わなければ合わなかったで、潔く立ち去れば良いだけの事。エオルゼアに数多有るギルドのどれかに、きっと自分に合う職が有る筈なのだ。
 ケータは光明が見えたと言いたそうに瞳を意欲で輝かせ、ツバキを見つめる。槍だけが、戦闘だけが冒険者の華ではないのだと分かったのだ、後は進むべき道を探して、自分に合う道を突き進むだけだと、今すべき事が見えた顔をしている。
「ツバキさん、僕、クラフターを試してみたいです! 戦闘はカラッキシでも、物を作る方面なら、もしかしたら明るいかも……!」
「うんうん、クラフターのジョブもたくさん有るから、自分に合うジョブを探すのもアリだと思うよ。まずは……そうだなぁ、リムサ・ロミンサに居を構えてるクラフターと言えば、鍛冶師と甲冑師、それと調理師だね。リムサ・ロミンサは元々冶金術が盛んで、それに伴って金属加工の武器や道具を作る鍛冶師、戦艦を作る過程で板金技術が栄えた甲冑師、“レストラン・ビスマルク”の料理長が直々に腕を振るう調理師。どこも一流のプロが切り盛りしてるギルドだから、学ぶ事は多い筈だよ」
 リムサ・ロミンサはこの三種のクラフターが主流だが、ウルダハやグリダニアにも勿論専門職と言って過言ではないクラフターのギルドが居を構えている。リムサ・ロミンサに合うジョブが無ければ、海を渡って他の都市に遠征に行く事も視野に入れても良いかも知れない。
 そう思いながら説明していると、ケータはツバキの説明の中に有った単語に反応して「あ、」と声を漏らした。
「調理師……料理を作るクラフターなんてのも、有るんですね」
「うん、冒険者を食事の面から支えるのもそうだし、腕前が上がれば“レストラン・ビスマルク”の調理場で直接腕を振るう事も有るかも知れない」そこまで説明してから、ツバキは空咳を挟んだ。「それに何より、自炊が出来るようになって、毎日食事を作るのが楽しくなるかもね」
「ツバキさん、僕、調理師に入門してみたいと思います!」今にも立ち上がりかねない勢いでツバキに前のめりになるケータ。「僕、調理は昔ちょっとしてて、もしかしたら、その……!」
「それだけやる気が有れば大丈夫だよ。今、推薦状を……」
「いえ、推薦状は遠慮しておきます! 何て言うか、有り難いんですけれど、自分の力だけでやってみたいって言うか……ごめんなさい、上手く言葉に出来ないんですが……」
 ケータがあわあわと手をこまねく様子を見て、ツバキはキョトンとした後、ちょっぴり嬉しそうに微笑んだ。
「そういう事なら推薦状は聞かなかった事にして。でも、もし必要になったら遠慮しないで声を掛けてね。フリーカンパニーのマスターとして、メンバーのお手伝いは惜しみなくしたいからさ」
「はい! 宜しくお願いします!」ぺこりと頭を下げたケータは、椅子から飛び降りると、ツバキを見上げた。「早速、調理師ギルドに話を聞いてこようと思います!“レストラン・ビスマルク”で良いんですよね?」
「うん、ギルド受付の、チャーリスって人に声を掛ければ、話を聞いて貰えるよ」
「有り難う御座います! 早速行ってきます! 相談に乗ってくれて、有り難う御座いました!」
 丁寧なお辞儀を見せてから、ケータは“レストラン・ビスマルク”の在る北へ向かって駆け出して行った。
 それを見送ったツバキは、ちょっぴり誇らしげに微笑むと、残っていたコーンブレッドを口に運び、満足そうに咀嚼する。
 冒険者の新たな門出……とは違うのかも知れないが、新しい道を指し示させられた事が嬉しくて、今日はエールが進みそうだ、と思わずご満悦の表情になる。
 今夜の晩ご飯の肴は、ケータがどんな調理師に成長するのか……これで決まりだな、と。ツバキは楽しそうにコーンブレッドを頬張るのだった。

🌟後書

 約一ヶ月振りの最新話更新です! 大変お待たせ致しましたーッ!(毎回言ってる説w)
 今回はケータ君にスポットを当てた物語に仕立ててみました(´▽`*)
 ケータ君、元になるキャラクターが居るので、その子を想像しながらネタを転がしてたのですが、この子どう考えても戦闘得意じゃないんですよね…w 寧ろ戦わずに済む方法を模索していそうと言うか何と言うかw
 なもので、そこから着想を得た物語でした。具無し炒飯とか作ってましたもんね、きっと美味しいご飯を振る舞えるようになると信じています(´▽`*)
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

🌸以下感想

とみ
連夜の更新お疲れ様ですvv(2/7)←謎

けいちゃんのお話を書いていると聞いたとき、「マジっすか!」ってなりましてwほんと戦う場面が想像できないというか…中央森林あたりでレディバグに取り囲まれている絵しか出てきませんでした。

それがこんな素敵なお話になるなんて…

「槍だけが、戦闘だけが冒険者の華ではないのだと分かったのだ、」
りっちゃんと具なしチャーハン分け合って食べてたけいちゃんですもの、きっとうまくいくはず!がんばれ!!

なんかちょっと息苦しいぐらい嬉しいですw
……ほんま、けいちゃんはずっこいで

今回も楽しませていただきましたー!
次回も楽しみにしてますよーv
2024年6月17日月曜日 21:10:42 JST

夜影
>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*) しっかり計測してるの笑うwwwwwこれは負けられない戦いが始まる奴…!wwww(笑)

そうなんですよねw けいちゃんを戦わせると言うのがどうしても想像できなくて、エオルゼアで活躍させるならこうだろう、と言う方針が生まれるまでそう時間はかかりませんでしたw
中央森林辺りでレディバグに取り囲まれている絵wwwwもしかしたらツバキちゃんに相談するまでにそういう場面が有ったかも知れませんね…!www(笑)

ですです! きっとうまくいく筈です! 応援、宜しくお願い申し上げます~!(´▽`*)

息苦しいぐらい嬉しい…! その言葉が何よりの栄養です! 有り難う御座います!(´▽`*)
まさかエオルゼアでけいちゃんの物語を綴る事になるとは思ってなかったので、これもツトミちゃんのお陰ですね! ほんま、ツトミちゃはずっこいで…

今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!
2024年6月17日月曜日 21:16:01 JST

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