2024年8月31日土曜日

第2話 道は違えど、冒険者は進む

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第2話 道は違えど、冒険者は進む

第2話 道は違えど、冒険者は進む


「――――魔力増幅薬?」

 その噂を耳にしたのは、呪術士ギルドの一人である、いわゆる兄弟子に当たる呪術士がポロっと零した一言がきっかけだった。
「あぁ。何でもギルドマスターの弟君がな? 魔力が足りないばっかりに呪術を教えられないってんで、あれこれ方策を練っているところでよ。錬金術師の中に伝わる秘薬みたいなもんで、魔力を大幅に増幅して、魔力が少ない人間でも魔法を……呪術を扱えるようにしよう、ってもんを研究してるんだとさ」
 ナル大門前に在る宿屋、砂時計亭のロビーに在る酒場、クイックサンド。店主であるモモディさんが作る料理に舌鼓を打っていた兄弟子が、酔いも手伝ってか、いつも以上に口が軽くなって饒舌に語ってくれた。
 金銭に余裕が無いとは言え、こんな得難い情報を話してくれたのだ、私も調子に乗って「今回は私の奢りです! たんと食べてくださいたんと!」と、うっかり散財してしまったのが昨日の話。
 砂時計亭の客室で目を覚ました私は、昨夜うっかり飲み過ぎた事を思い知らされ、青い顔で備え付けの桶にオロオロと吐瀉したりした。
「魔力増幅薬……だっけ。それが有れば、私も呪術士として……ううん、冒険者として、もっと活動の幅が広がるかもだよね」
 ギルドマスターが直々に検証している代物を、一介の呪術士風情が手に入れられるとは思えない。であれば、話を逆にしよう。錬金術師として活動をすれば、何れ魔力増幅薬とやらに辿り着くのでは、と。
 早速その足でウルダハ政庁層に在る病院、フロンデール薬学院に向かった。普段は怪我をしたり病気を患ったりした時に訪れる場所だが、ここにはもう一つの側面として、錬金術師ギルドとしての顔も有る。
 医学、薬学に錬金術を応用した研究と実践を行っている、万人に開かれたギルドで、冒険者も手に職をとバトルジョブの傍らに携わる事が多いと聞く。
「こ、こんにちわー……」
 錬金術師があくせく働いている場所に足を踏み入れ、まずは受付と思しき人に声を掛ける。
 ヒューラン族の男性は私に気づくと、難しい表情を向けてきた。
「……冒険者ですか。ここは錬金術師が集い、叡智のあくなき探求に身を捧げる錬金術師ギルドです」一呼吸置いて、受付の男性は続けた。「主な仕事は薬の調合。傷や不調を治す薬は勿論、熟達した者ならば、身体能力を高める薬も作れます。冒険者ならば――」「そっ、それっ! 私でも作れますか!?」
 思わず食い気味に声を上げてしまい、「あ、ごめんなさい……どうぞ、続けて、どうぞ……」とモショモショ小声になって引き下がった。
「……なるほど、それらの有用性はご存知、と」受付の男性は見透かしたような眼差しで一つ頷いた。「……どうです? 錬金術師ギルドで学んでみませんか?」
 私がコクリと頷くと、受付の男性――ディートリッヒさんは錬金術とギルドの歴史を滔々と説明してくれて、ギルドマスターのセヴェリアンさんも紹介してくれたのだけれど、話が上手く噛み合わず、結局ディートリッヒさんから仕事道具を貸し出して貰う事になった。
「それではギルドマスターに代わってレシピをお渡ししておきます」と言って、小さなメモ帳を渡してくるディートリッヒさん。「まずは簡単な物から生成してみる事をお勧めします。濁水から蒸留水を作るとか、ですね」
「分かりました! 有り難う御座います!」
 貰ったウェザードアレンビックを使って、その日から錬金術の研究に明け暮れる事になった。
 呪術士よりよっぽど才能が有ったのか、濁水から蒸留水を作るのも難無く熟し、その日の内に毒消しやポーションまで作れるようになり、一日中錬金術師ギルドで生成し続ける日々が続いて、時間の感覚が無くなってしまった。

◇◆◇◆◇

「……ウイさん? ウイさん? もしもーし」
「ふえ?」
 ハッと起き上がると、錬金術師ギルドの一角だとすぐに気づいた。辺りには錬金術を行う器具やら機材が所狭しと置かれ、足の踏み場も無い惨状と化している。
 声を掛けられた方に顔を向けると、錬金術師の兄弟子に当たるヒューラン族の男性……確かそう、マテオさんと言ったような……
 最早記憶が定かじゃなくなってて、思わず頬をパシンッと自分で打って覚醒を促した。
「君、凄いね。確か先週、錬金術師ギルドに入ったばかりの冒険者だろう?」マテオさんがしゃがみ込んで私に視線を合わせてくる。「もうそんな高度な錬金術に挑んでるのかい? 何だっけそれ、植物成長促進剤……だったっけ?」
「え、あ、そうです、グロースフォーミュラ・ガンマって錬金薬で……」頭が混乱したままだったけれど、意識を失う前の出来事をパッと思い出せた。「片手幻具のアースワンドや、アイスワンド、両手幻具のパストラルオークケーンや、ヴィンテージケーンなどを作る時に使うそうです……」
「そうなんだ、それは初めて知ったよ……」マテオさんは感心しているような呆れてるような表情で苦笑を落とした。「って事は何、ウイさんがそれを使う訳じゃないって事?」
「え? えぇ……木工師ギルドの方からの依頼で、急遽用意して欲しいとかで……」完成したグロースフォーミュラ・ガンマを薬瓶に納めて蓋をする。「時間は……良かった、まだ余裕が有る……」ほぅーっと溜め息を零してしまう。
「ウイさん、冒険するよりも錬金術の方が性に合ってるんじゃない?」マテオさんが苦笑している。「僕の目から見たら、君、錬金術に携わってる時の顔、とても活き活きしてるよ」
「そ、そうですか? えへへ……」思わず照れ笑いしてしまう。「――って、そうです! 冒険者! 私、冒険者でした!」
「え? どういう事?」マテオさんが驚きの表情を浮かべている。「冒険者じゃ……なかったって事?」
「いや、あの、すっかり錬金術に没頭しちゃって、呪術の鍛錬をするの、もう何日も忘れちゃって……」慌てて錬金術の器具やら機材やらを片付けていく。「あぁーいけないいけない、技が鈍ってたらどうしよう……」
「あぁ、ウイさん、錬金術師ギルドに来る前は呪術士だったんだっけ」よっこらしょ、と立ち上がるマテオさん。「無理に両立しなくて良いじゃない。錬金術で食っていけるなら、それで」
 片づけをする手を止めて、はたと考え込んでしまう。
 冒険者を始めたのは、確かに初めは金銭が目的だったように思う。もう食い繋いでいくには、冒険者で一山当てるしかない、みたいな。
 それで呪術士ギルドの門戸を叩いて、鍛錬に励んで……結局、それが実らないまま、ずっと燻ぶってて、いよいよ立ち行かなくなりそうな時に、行商のおじさんを助け……いや助けたのか助けられたのか分からないような結末だったけれど、それで少しおギルが入って……
 それで今、呪術を少しでも扱えるようになりたいと、錬金薬に頼る為に、錬金術師ギルドで活動をし始めたら、何故か思いっきり軌道が乗り始めて、冒険者として活動していた何倍、何十倍のおギルが入るようになって、ますます錬金術にのめり込んで……
「……マテオさんの言う通り、錬金術師に舵取りした方が良いのかも知れません」
 命の危機すらある冒険者として、実力も伴わないまま各地を渡り歩いて、それでおギルもマトモに稼げないまま命を落とすより、比較的平和な街の中で、錬金術の研究に明け暮れて、それで少しだけ裕福な暮らしが出来るのであれば。
 選択の余地なんて有って無いようなものなのに。どうしてか私は、マテオさんに向かって首を“否”と振っていた。
「でも私、冒険者を諦めたくないんだと思う……思います。きっと、人にとってはそんな小さな事でって思われるかもですけど……自分の力で困ってる人を助けた時の感動が、まだ、心の底に残ってるから……」
 たった一言。助けたのか、助けられたのか、最早分からないような状態だったのに。自分に向けられた感謝の言葉で、溢れた心の水は。決して忘れ難い想いとして、ずっと輝いていた。
 マテオさんは驚いた表情を覗かせた後に、どこか残念そうに眉根を下げると、「……そっか。根っからの冒険者なんだね、ウイさんは」と微笑むと、懐から薬瓶を取り出して、私の前に差し出した。
「これは……?」
「魔力増幅薬。……とは言っても、試作品だけどね」マテオさんがお茶目っぽくウィンクをした。「ウイさん、錬金術師に片っ端から声を掛けてたでしょ? 魔力増幅薬はどうやったら作れますか、って。ここに居る殆どの錬金術師は、まだそんな高難度な代物には手が出せないから、知らないし、知っていても答えられない。だから……これは、ウイさんの努力賞って事で、僕からのプレゼント」
 薬瓶を受け取り、私はテンションが抑えきれなくてワタワタしてしまう。
「いっ、良いんですか!? し、試作品なんて、その……!」
「言っとくけど、安全は保証してるよ? ただ、効き目がどれくらい出るのかは分からない。体質や種族でも、やっぱり薬効ってすぐに違いが出るから。それでも良いなら。レシピは、これ」マテオさんは小さな紙片を手渡すと、口元に人差し指を押し当て、静寂を要求した。「これ、みんなには内緒ね? 僕もセヴェリアンさんの小間使いを何ヶ月も熟して手に入れたものだから、あんまり公言したくないんだ」
「あ、有り難う、御座います……!」何度も何度も頭を下げてしまう。「な、何かお礼……!」
「錬金術師のホープになりつつある君には、このままセヴェリアンさんの片腕となって錬金術師を引っ張って行って欲しいところ。……と言うと、君の重荷にだろうから、今度こっそりここに居る誰も知らないような錬金薬の作り方を教えてくれたら、それでチャラにしよう」ニコッと笑いかけるマテオさん。「期待してるよ? 未来の高名な錬金術師君♪」
 そう言い残して立ち去ったマテオさんは、私なんかよりよっぽど冒険者って感じがする人だった。
 後から聞いた話だけれど、マテオさんも元は冒険者だったそうなのだけれど、依頼の途中で足の腱を思いっきり傷つけてしまい、全力で走れない体になってしまってから、冒険者としての道を諦め、錬金術師として活動するようになった、んだとか。
 きっと、私の事、見ていられなかったんだろうな、なんて。思い上がりかも知れないけれど。
 いつかきっと、彼がまた、全力で走れるようになる錬金薬を作って、恩返ししよう。そう、この時決めたのだった。

🌠後書

 再投稿してから約10日ぶりですが、実際は約半年振りの最新話更新となります。大変お待たせ致しました…!(定型文)
 と言う訳で第2話です。先にこの物語の未来の姿をコラボ先で披露してしまっているので、そこに至るまでの物語を綴る事になりますw じゅ……錬金術師の元ネタはここに来る訳ですね!w
 マテオさんに関しては物語に於けるオリジナルのモブキャラクターでして、エオルゼアにも、知り合いの冒険者にも居ない、NPC的な役割として登場して貰いました。
 ツバキちゃんの物語でもそうですけど、もっとこういうキャラクターを増やして、物語に深みを持たせたいと常々考えておりましてw
 エオルゼアには冒険者以外にもたくさんの人間が息づいていますし、彼ら一人一人がちゃんとそこで生きて生活している証みたいなのが、やっぱりGameをしているとそこここで触れられるのが、FF14の面白いところでもあると思いますのでなー。
 語り出すと後書が終わりそうに無いのでこの辺でw 今後はもっと早いサイクルでウイちゃんの物語も更新していければ良いなと思います!(願望w)
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    それぞれの生活の基盤があるうえでギャザクラだったり冒険だったりが展開されて、さらに人それぞれ目指すものが違ったりw
    英雄を目指すもの、採取・採掘・漁・生産活動に勤しむもの、世界征服を目論むもの、ついうっかり導かれちゃって途方にくれてるもの…
    そんな思いを全部受け止めてくれてるのがエオルゼアなんだなぁ…

    コラボにつながるお話待ってました!
    ウイちゃんって猪突猛進タイプな気がするのですけど、とっても素敵な冒険者ですよね。この先どんな形でコラボにつながっていくのかめちゃめちゃ楽しみでございますw

    止まらない後書大好きですw

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

    礎たる魔力

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

      そうなんですそうなんです! めちゃんこ多くの者を内包して受け止めてくれてるのがエオルゼアなんです! その辺りの感覚が伝わって嬉しい…!(´▽`*)

      コラボに繋がるお話、お待たせ致しました!w
      確かに猪突猛進タイプかもですねウイちゃんww 始めたら言われるまでも無く突っ込んで行っちゃう辺りがまさにそう!w とっても素敵な冒険者なんて言われて、今頃照れ笑いしておりますよw 物語もまだもう少し進まないと、コラボの物語まで到達しないので、ぜひぜひその辺りも楽しみにお待ち頂けたらと思います!

      ついついね!ww 語りたい事が出てくると筆が止まらないよね!www(笑)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

      くそうwwwwすぐ消したのにバレてるwwwwwww(笑)

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