第21話 魔道書を探して〈4〉
第21話 魔道書を探して〈4〉
「――――ええ!? 浄天の書、焼け落ちちゃったんですか……!?」
場所はミスト・ヴィレッジに在るアパルトメント、トップマスト。その一室である、ツバキの部屋にて。 白目を剥いて吐瀉物塗れになっていたウイを介抱すべく連れて来て、意識を取り戻した彼女に事情を説明したところ、再び白目を剥いて気絶しそうになっていた。「リムサ・ロミンサで厳重に保管する為に探していたところだったんですけど、もしかしてその事情を知らなかった感じですか……?」 気分を落ち着かせる為に淹れたカモミールティーをウイに手渡しながら、自分用のマグカップで自分の喉を潤したツバキは、不思議そうに彼女を見やる。 ウイは困惑した様子でカモミールティーの入ったマグカップを受け取ると、苦痛に耐えるかのような渋い顔で俯き、「……えぇ……私はただ、浄天の書を何とかしろとしか……」と、情けなく眉根を下げて、ツバキを見上げる。「もしかして、とんでもない事をしでかしてしまったんでしょうか……?」「これって冒険者ギルドに非が有るって見て良いのかしら?」ユキが難しい表情で腕を組む。「浄天の書を何とかしろ、って依頼だとしたら、ウイは何も間違った事はしてないもの。そうでしょ?」「そうだよねぇ~。何とかしたには間違いないし~。寧ろぐっじょぶ! まであるよね」うんうんとユキに同調するツトミ。「あのままだときっともっと大変な事になってただろうしさ、冒険者ギルドに……何だっけ? あの酒場のおじさんに事情を説明したら、何とかなるんじゃないかなぁ?」「そうですね……それが、一番……丸い選択じゃないかと、思います……」ミリがおっとりと頷く。「ツバキさんは……何か、別の事を……考えている、みたいですが……」「うーん……ウイさん、でしたっけ。その浄天の書を何とかしろって、誰からの依頼なんです?」 ツバキが何気無く尋ねると、ウイは人差し指を突っつき合わせながら、言い難そうにごにょごにょと小声で返した。「それが……そのぅ……錬金薬の納品にリムサ・ロミンサを訪れた時に、冒険者さんが……そのぅ……話してるのを……又聞き……した感じ……でして……あうぅ……」 後半は最早スウォームの鳴き声よりも小さな声になってしまって、聞き取るのに難儀したが、静かなツバキの部屋では四人全員の鼓膜にまで届いてしまった。 ツバキもどこか諦めた感じの表情で腕を組み、瞑目したまま苦笑を浮かべる。「……これは、アレですね。代表で私が叱られてくるしかないかな……」「ツバキちゃんが? 連帯責任じゃないの~?」ツトミが不思議そうに小首を傾げる。「早まっちゃダメだよツバキちゃん! もっと考えてから諦めよう!」「とは言ってもねぇ……浄天の書は燃え尽きちゃって紙片すら残ってないし、復元しようにも、アレ魔物だったしね……」「じゃあ諦めよっか。ツバキちゃん、化けて出ないでね……?」「おいおいおいぃ、早速手のひらクルクルするんじゃないよ!」 ナムナムと両手を合わせて拝み始めるツトミに、ツバキが思わずと言った態でツッコミの声を上げた。 ユキとミリもうんうん悩ましい声を上げて考えを巡らせていると、不意にミリが、「あ、」と声を漏らした。「浄天の書……の、模造品を、作るのは……いかが、でしょうか……?」「模造品? 魔道書って作れるもんなの?」ユキが不思議そうに尋ねる。「あ、そっか。魔道書って元々巴術士の武器だものね。武具屋にも並んでるぐらいだから、手に職を付けてる冒険者なら作れるか」と、ポンと手を打って納得した。「魔道書が作れるクラフターって……錬金術師……だったかな」思い出すように頭を捻るツバキ。「でもそんなに都合よく錬金術師が捕まる訳……」 ツバキの視線が、ゆっくりとウイに向く。 それに釣られて、ツトミ、ユキ、ミリの視線がウイに向けられる。 ウイはカモミールティーを啜りながら、その視線に気づくと、不思議そうに小首を傾げた。「…………えと、何か?」
◇◆◇◆◇
「――――それで、結局誤魔化せたの?」 フリーカンパニー【猫の尻尾】のたまり場である、リムサ・ロミンサの下甲板層の国際街広場の一角で、いつものように何をするでもなく集まって雑談に興じよう、と言ったところで、ユキがそう口火を切った。 ツバキは一瞬それが何の事か考えた後、苦笑を浮かべてこっくり頷いた。「リムサ・ロミンサが誇る審美眼も疑わしいものね……」呆れた風にユキが呟く。「巴術士ギルドも有るって言うのに、真贋も見抜けないなんて、流石にどうかと思うわ」「追い風だったのは、誰も浄天の書の実物を見た事が無かったって事だろうね」苦笑を深くしてツバキはお手上げのポーズを取った。「浄天の書から出たであろう血液も封入済みとなれば、流石に贋物だとしても放置する訳にもいかないしね」「ウイちゃんも災難だったよね~。徹夜で魔道書作らされちゃってさ~」道の縁に腰掛けて、両足をプラプラ振るツトミ。「お陰で誰も怒られなかったから、次会ったら感謝しなきゃだよね~」「私達も……魔道書の、素材集め……徹夜で、頑張りましたものね……!」両手を握り締めて誇らしげに笑むミリ。「皆さんの……努力の、賜物です……!」「ほんと、みんなのお陰で今もこうして冒険者ギルドの名簿から名前が消されなかったんだって思うと、感謝しかないわよ……ウイも、元気でやってると良いのだけれど」 ユキの感慨深そうな呟きに、皆がうんうんと首肯を返して、物思いに耽り始めた。 魔道書を徹夜で作り上げたウイは、その後錬金術師ギルドの仕事に戻らねばと、ウルダハへととんぼ返りして、それ以降連絡は一切無い。 あの時だけの共闘関係だった訳で、連絡先を聞いた訳でも、フレンドとして関係を登録した訳でも無い。 けれど、またいつか、どこかで会えるだろうと、誰もが楽観視していた。彼女には、そう思わせる何かが宿っていて、それが光り輝いていたようにも思うのだ。「さて、今日もギルドリーヴでもしてくるかな」うーん、と大きく伸びをしたツバキは、壁から背を離して小さく体操をする。「三人はこれから?」「ツトミはね~、これから甲冑師と鍛冶師にお邪魔してくるよ~。クラフターも、どこで役立つか分からないって、今回ビビって思っちゃったんだよね~」フフフ、と微笑むツトミ。「今度の事件は武器作りが役立つかもだしね!」「そうそう事件になんて巻き込まれたくないけどね」苦笑を浮かべてツトミの額をつつくユキ。「私は鍛錬に励んでくるわ。まだまだ白魔道士の腕前を上げなきゃって思ったもの。やっぱり時代は殲滅力よ殲滅力。妖異だろうが何だろうが残らず滅さなきゃ」「皆さん、努力家……ですね……!」ミリがキラキラと瞳を輝かせる。「負けないように、踊り子としての腕前……上げておきます……!」「みんなやる気満々じゃん!」驚きの表情を浮かべるツバキ。「マスターとして、負けてられないね!」 そう言って四人は笑い合いながら、炎天下の空の下、それぞれの道を歩き出す。 また新しい冒険を探し求めて。🌟後書 1日振りの最新話更新です! とみちゃんのはりあーっぷ感想が嬉し過ぎて頑張りました…!w(息切れ) と言う訳で4話目の今回でコラボ回は完結です。まだまだ消化不良感の有る部分が残っているとは思いますが、この物語は全体を通して謎は多めに残している感じでして、無理に全部解明とかはしないつもりです。 色んな冒険者が居る世界ですし、みんなそれぞれに何かを抱えていて、それが分かる事も有れば分からない事も有る。けれど、時として手を取り合ったり、お手伝いしたりする事も有る。 エオルゼアの冒険者はそういうものだと言う認識で綴ってるので、あの謎はどうなんだ! これはいつ伏線回収されるんだ! みたいなものは、大体放置されてる気がします(笑)。いつか分かるかも知れませんし、ずっと回収されないままかも知れません。 一般冒険者が触れられる真実なんて、そんなものと言う事ですね。世界を救うような光の戦士ではないのですw ともあれ、折角登場したコラボキャラのウイちゃん。今後もどこかで活躍させたい気持ちで一杯なので、また再登場する時をどうか心待ちにして頂けたらと思います! と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
「――――ええ!? 浄天の書、焼け落ちちゃったんですか……!?」
場所はミスト・ヴィレッジに在るアパルトメント、トップマスト。その一室である、ツバキの部屋にて。
白目を剥いて吐瀉物塗れになっていたウイを介抱すべく連れて来て、意識を取り戻した彼女に事情を説明したところ、再び白目を剥いて気絶しそうになっていた。
「リムサ・ロミンサで厳重に保管する為に探していたところだったんですけど、もしかしてその事情を知らなかった感じですか……?」
気分を落ち着かせる為に淹れたカモミールティーをウイに手渡しながら、自分用のマグカップで自分の喉を潤したツバキは、不思議そうに彼女を見やる。
ウイは困惑した様子でカモミールティーの入ったマグカップを受け取ると、苦痛に耐えるかのような渋い顔で俯き、「……えぇ……私はただ、浄天の書を何とかしろとしか……」と、情けなく眉根を下げて、ツバキを見上げる。「もしかして、とんでもない事をしでかしてしまったんでしょうか……?」
「これって冒険者ギルドに非が有るって見て良いのかしら?」ユキが難しい表情で腕を組む。「浄天の書を何とかしろ、って依頼だとしたら、ウイは何も間違った事はしてないもの。そうでしょ?」
「そうだよねぇ~。何とかしたには間違いないし~。寧ろぐっじょぶ! まであるよね」うんうんとユキに同調するツトミ。「あのままだときっともっと大変な事になってただろうしさ、冒険者ギルドに……何だっけ? あの酒場のおじさんに事情を説明したら、何とかなるんじゃないかなぁ?」
「そうですね……それが、一番……丸い選択じゃないかと、思います……」ミリがおっとりと頷く。「ツバキさんは……何か、別の事を……考えている、みたいですが……」
「うーん……ウイさん、でしたっけ。その浄天の書を何とかしろって、誰からの依頼なんです?」
ツバキが何気無く尋ねると、ウイは人差し指を突っつき合わせながら、言い難そうにごにょごにょと小声で返した。
「それが……そのぅ……錬金薬の納品にリムサ・ロミンサを訪れた時に、冒険者さんが……そのぅ……話してるのを……又聞き……した感じ……でして……あうぅ……」
後半は最早スウォームの鳴き声よりも小さな声になってしまって、聞き取るのに難儀したが、静かなツバキの部屋では四人全員の鼓膜にまで届いてしまった。
ツバキもどこか諦めた感じの表情で腕を組み、瞑目したまま苦笑を浮かべる。
「……これは、アレですね。代表で私が叱られてくるしかないかな……」
「ツバキちゃんが? 連帯責任じゃないの~?」ツトミが不思議そうに小首を傾げる。「早まっちゃダメだよツバキちゃん! もっと考えてから諦めよう!」
「とは言ってもねぇ……浄天の書は燃え尽きちゃって紙片すら残ってないし、復元しようにも、アレ魔物だったしね……」「じゃあ諦めよっか。ツバキちゃん、化けて出ないでね……?」「おいおいおいぃ、早速手のひらクルクルするんじゃないよ!」
ナムナムと両手を合わせて拝み始めるツトミに、ツバキが思わずと言った態でツッコミの声を上げた。
ユキとミリもうんうん悩ましい声を上げて考えを巡らせていると、不意にミリが、「あ、」と声を漏らした。
「浄天の書……の、模造品を、作るのは……いかが、でしょうか……?」
「模造品? 魔道書って作れるもんなの?」ユキが不思議そうに尋ねる。「あ、そっか。魔道書って元々巴術士の武器だものね。武具屋にも並んでるぐらいだから、手に職を付けてる冒険者なら作れるか」と、ポンと手を打って納得した。
「魔道書が作れるクラフターって……錬金術師……だったかな」思い出すように頭を捻るツバキ。「でもそんなに都合よく錬金術師が捕まる訳……」
ツバキの視線が、ゆっくりとウイに向く。
それに釣られて、ツトミ、ユキ、ミリの視線がウイに向けられる。
ウイはカモミールティーを啜りながら、その視線に気づくと、不思議そうに小首を傾げた。
「…………えと、何か?」
◇◆◇◆◇
「――――それで、結局誤魔化せたの?」
フリーカンパニー【猫の尻尾】のたまり場である、リムサ・ロミンサの下甲板層の国際街広場の一角で、いつものように何をするでもなく集まって雑談に興じよう、と言ったところで、ユキがそう口火を切った。
ツバキは一瞬それが何の事か考えた後、苦笑を浮かべてこっくり頷いた。
「リムサ・ロミンサが誇る審美眼も疑わしいものね……」呆れた風にユキが呟く。「巴術士ギルドも有るって言うのに、真贋も見抜けないなんて、流石にどうかと思うわ」
「追い風だったのは、誰も浄天の書の実物を見た事が無かったって事だろうね」苦笑を深くしてツバキはお手上げのポーズを取った。「浄天の書から出たであろう血液も封入済みとなれば、流石に贋物だとしても放置する訳にもいかないしね」
「ウイちゃんも災難だったよね~。徹夜で魔道書作らされちゃってさ~」道の縁に腰掛けて、両足をプラプラ振るツトミ。「お陰で誰も怒られなかったから、次会ったら感謝しなきゃだよね~」
「私達も……魔道書の、素材集め……徹夜で、頑張りましたものね……!」両手を握り締めて誇らしげに笑むミリ。「皆さんの……努力の、賜物です……!」
「ほんと、みんなのお陰で今もこうして冒険者ギルドの名簿から名前が消されなかったんだって思うと、感謝しかないわよ……ウイも、元気でやってると良いのだけれど」
ユキの感慨深そうな呟きに、皆がうんうんと首肯を返して、物思いに耽り始めた。
魔道書を徹夜で作り上げたウイは、その後錬金術師ギルドの仕事に戻らねばと、ウルダハへととんぼ返りして、それ以降連絡は一切無い。
あの時だけの共闘関係だった訳で、連絡先を聞いた訳でも、フレンドとして関係を登録した訳でも無い。
けれど、またいつか、どこかで会えるだろうと、誰もが楽観視していた。彼女には、そう思わせる何かが宿っていて、それが光り輝いていたようにも思うのだ。
「さて、今日もギルドリーヴでもしてくるかな」うーん、と大きく伸びをしたツバキは、壁から背を離して小さく体操をする。「三人はこれから?」
「ツトミはね~、これから甲冑師と鍛冶師にお邪魔してくるよ~。クラフターも、どこで役立つか分からないって、今回ビビって思っちゃったんだよね~」フフフ、と微笑むツトミ。「今度の事件は武器作りが役立つかもだしね!」
「そうそう事件になんて巻き込まれたくないけどね」苦笑を浮かべてツトミの額をつつくユキ。「私は鍛錬に励んでくるわ。まだまだ白魔道士の腕前を上げなきゃって思ったもの。やっぱり時代は殲滅力よ殲滅力。妖異だろうが何だろうが残らず滅さなきゃ」
「皆さん、努力家……ですね……!」ミリがキラキラと瞳を輝かせる。「負けないように、踊り子としての腕前……上げておきます……!」
「みんなやる気満々じゃん!」驚きの表情を浮かべるツバキ。「マスターとして、負けてられないね!」
そう言って四人は笑い合いながら、炎天下の空の下、それぞれの道を歩き出す。
また新しい冒険を探し求めて。
🌟後書
1日振りの最新話更新です! とみちゃんのはりあーっぷ感想が嬉し過ぎて頑張りました…!w(息切れ)
と言う訳で4話目の今回でコラボ回は完結です。まだまだ消化不良感の有る部分が残っているとは思いますが、この物語は全体を通して謎は多めに残している感じでして、無理に全部解明とかはしないつもりです。
色んな冒険者が居る世界ですし、みんなそれぞれに何かを抱えていて、それが分かる事も有れば分からない事も有る。けれど、時として手を取り合ったり、お手伝いしたりする事も有る。
エオルゼアの冒険者はそういうものだと言う認識で綴ってるので、あの謎はどうなんだ! これはいつ伏線回収されるんだ! みたいなものは、大体放置されてる気がします(笑)。いつか分かるかも知れませんし、ずっと回収されないままかも知れません。
一般冒険者が触れられる真実なんて、そんなものと言う事ですね。世界を救うような光の戦士ではないのですw
ともあれ、折角登場したコラボキャラのウイちゃん。今後もどこかで活躍させたい気持ちで一杯なので、また再登場する時をどうか心待ちにして頂けたらと思います!
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
更新お疲れ様ですvv
返信削除みんな無事に任務達成お疲れ様でしたw
カギを握っていたのはやっぱりウイちゃんでしたwwまた登場してくれると嬉しいです!
そして、尻尾の4人それぞれが楽しそうに冒険しててなんだかうらやましい感じですwいいぞーもっとやれー!
そしてそしてさらにっ!後書が素晴らしい!!とくにフォントが若干大きくなるあたりから、もうわたしが常々思ってることをズバリと…これだから先生のお話はやめられないんですな。
大満足ホックホクです!ww
今回も楽しませていただきました!
次回も楽しみにしてますよーv
>とみちゃん
削除感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
何とかかんとか無事に任務達成できて良かったです!w
どういう風に物語を組み立てようかな~と思ってたところでしたので、ウイちゃんの設定を活かしに活かしましたw また登場した時は宜しくお願い致します!(´▽`*)
やっぱり皆さんには楽しそうに冒険してて欲しいですからね! 羨ましく映ったのでしたらこれ幸いです!┗(^ω^)┛
後書のフォントに関しては完全に誤植ですwww最近ブロガーの設定がおかしくて、直しても直してもおかしくなってましてwww(笑)
ともあれ冒険者に対するスタンスと言うか想いはとみちゃんと一致してたみたいでとても嬉しいです!(´▽`*) 光の戦士として世界を救う物語も嫌いではないですけれど、等身大の冒険者としての物語も読みたいのでね…! 大満足して頂けて、こちらもホックホクです!w(´▽`*)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!