2024年8月25日日曜日

第20話 魔道書を探して〈3〉

ミスト・ヴィレッジ在住一般冒険者の日常(FF14二次創作小説)
第20話 魔道書を探して〈3〉

第20話 魔道書を探して〈3〉


「一般市民に被害を出さずに、浄天の書を傷つけずに立ち回るって、これもう一冒険者に任せる仕事量じゃないと思うんですけど……!」

 浄天の書は雷を無尽蔵に落とし続ける上に、落雷した地点からは妖異が次々と召喚され、召喚された傍から襲い掛かって来る。
 ツトミとミリが一般市民を避難誘導しているものの、ツバキとユキの殲滅速度では辛うじてのところで間に合っていなかった。
「追い着かれちゃうよツバキちゃーん!」「ごめん! こっちも手一杯!」
 火遁で纏めて妖異を焼き払っても、召喚速度の方が一手速い。遂に包囲網から抜け出たインプが一般市民に飛び掛かった瞬間を目撃してしまい、ツバキは歯噛みして投刃を放つも、致命傷には至らず一般市民に危害が――
「――火の民よ、踊れ! ファイア!」
 一般市民の数イルム手前でインプは業火に焼かれ、燃えカスとなって消え去った。
 本来の呪文を極端にショートカットした詠唱。それを言い放った錬金術師は、真っ青の表情で、吐き気に耐えながら、背に携えていた両手呪具を構えて吼えた。
「わ、私、だって、戦え……うぷ……、ます……っ!」
 今にも吐瀉しかねない様子で、震える体を無理矢理立たせて告げるウイに、ツバキは「どう考えてもこの中で一番瀕死になってるんだけど……」と心配した様子で返すも、余裕はすぐに無くなる。
 浄天の書はどれだけの魔力を秘めているのか、間髪入れずに雷を落とし続け、妖異を召喚し続けている。
「こいつ、もしやと思ってたけど、海賊船の乗組員を全員喰らい尽くしたって事か……!?」
 あの魔道書自体にエーテルでも吸い上げる魔法ないし呪いが組み込まれていると見て良いだろう。さもなければこんな無軌道に魔力を浪費し続けるような真似は理解できない。
 喰らった魔力のストックに余裕が有るからこその無駄遣いであるなら、この膠着は何れジリ貧になる。既に一般市民に被害が出る一歩手前まで来ているのだ、打開策が無ければ先に根負けするのはこちらだ。
 いや、浄天の書としてはここから脱すればその時点で勝ちみたいなもの。こちらが妖異に呑まれた時点で悠々と逃げ果せるだろう。それだけは絶対に避けねばならない。
「ツバキ!」「おっと」
 背後から迫っていたガーゴイルの魔力放射に、寸前でサイドステップを踏んで回避、振り返りながら双剣で撫で斬りにして霧散させる。
「ありがと!」「良いけど、このままだと不味いわね!」
 ユキも同じ思考に達しているのだろう、常に召喚され続ける妖異を、グレアで蒸発させ続けているものの、それで手一杯と言った風情だ。あまりにも召喚速度が速過ぎて、ツバキとユキの二人掛かりでも間に合っていない。
 二人で間に合わないのなら、三人でなら、何とか、だろうか。
「ウイさん! 加勢をお願いできますか!?」
 ツバキの喚声に、ウイは明らかに顔色を悪くしたまま、虚ろな眼差しでコクコク頷いた。発声も儘ならないとしたら、最早詠唱も難しいのではないかと危惧したツバキだったが、ウイは懐から薬瓶を取り出して、それを一気に呷ると、悪かった顔色が最早血の気が抜け切った土気色になり、明らかに尋常ならざる状態になっているにも拘らず、その口は明らかに詠唱を口ずさんでいた。
「滅びゆく……肉体に……暗黒神の……名を刻め……始原の炎……甦らん……! フレア!」
 ユキの放つグレアの比ではない閃光が、オシュオン大橋を包んだ。
「これは――――」
 浄天の書の悲鳴が聞こえた気がしたが、それも甚大なる衝撃と爆音に掻き消されていく。
 オシュオン大橋の中ほど爆心地に、あらゆる音と光が外へと走り抜け、ツバキもユキも、一般市民を避難誘導していたツトミとミリでさえ、その爆風に吹き飛ばされて、刹那に意識を刈り取られていく。
 次の瞬間には遅れて鼓膜を破壊する轟音が駆け抜け、地面を転がり滑り、辛うじて態勢を立て直す頃には、あれだけ無尽蔵に湧出していた妖異は影も形も無く消え失せ、恐ろしいほどの静寂が辺りを包んでいた。
「…………? 浄天の書は……」
 全身を煤で汚したツバキは、ふらつく足取りで爆心地に歩み寄ると、浄天の書と思しき魔道書が消し炭になって、今や七割以上が燃え尽きようとしている光景が視界に飛び込んできた。
「バカな……バカな……何で……こんなところで……」
 浄天の書の断末魔が聞こえてくる。悔やんでも悔やみきれない嘆きが、音の消えた世界に微かに漏れていた。
 やがて浄天の書は燃え尽き、灰となって海風に浚われ、跡形も無く消失してしまった。
 爆心地の傍らには、吐瀉物に塗れた、白目を剥いて意識を失っている錬金術師が倒れている姿が有った。
 ツバキは依頼が思わぬ方向に向かって終わりを告げた事を確認し、疲れ果てた様子で瞑目した。
「……損害賠償、どれくらいになるだろ…………」
 これから耳にするであろう恐ろしい賠償額を想像するだけで、眼前の錬金術師のように白目を剥いて意識を失ってしまいそうになるのだった。

◇◆◇◆◇

「――よう、昨日はオシュオン大橋で花火を打ち上げたそうだな」
「……どうも」
 リムサ・ロミンサの八分儀広場にて。今日も今日とて燦々と陽光を浴びて、ベンチに気だるげに座り込んでいたツバキの背後から、双剣士ギルドの男が声を掛けた。
「浄天の書を見つけたって一報を貰ったが、どうやらとんでもねえ大捕り物だったみたいじゃねえか」
「真面目に仕事に取り組んだらこれなので、次からはもっとサボりながら臨もうと誓ってたところです」
「ははは、まぁそう言うな。それで? 肝心のその現物は? もう納品したのか?」
「…………」
「ん? おい、まさかお前、冒険者ギルドの名簿から名前を消される覚悟が出来たとか言う訳じゃねえよな?」
 男の不穏な声に、ツバキは大きく溜め息を零すと、懐に納めていた青い不気味な表紙の魔道書を背後に投げた。
 男は突然投げられた魔道書に驚くも、しっかりキャッチして、その不気味な肌触りを確認して、一つ小さな吐息を漏らす。
「何だよ、無事なら無事って言えば良いだろ。あと禁書を雑に扱うな、俺まで何を言われるか分からねえじゃねえか」
「その呪物に係わって碌な事が無いので、私はこれで。納品は代理でお願い出来ますか?」
「ん? 別に構いやしねえが……報酬はどうするんだ? まさか受け取らねえとか言う訳ねえよな?」
「三度は言いませんよ? その呪物に係わって碌な事が無いんです、後は一任します。報酬も私の代わりに受け取って構いませんので。それでは」
 ベンチを立ち上がり、振り返りもせずに立ち去るツバキに、男は不審な眼差しを投げていたが、やがて気配を消してその場から立ち去った。
 人込みに紛れた双剣士達は、もう追う事は出来なかった。

🌠後書

 三日振りの最新話更新です。今回はあんまりお待たせしませんでしたね!(体感)
 今回のお話は最後まで読むと「あれ? どういう事?」ってなる感じになっているのはアレです、まだこのエピソードはここで終わりではないからですw
 たぶん次で今回のエピソードは終わりですので、どうか最後までお付き合い頂けたら幸いです!(´▽`*)
 因みに余談ですが、ウイちゃんのファイアの詠唱、本来の詠唱と異なるのは、迅速魔を使ったから的なアレですし、呪文はこれ、「スクラップドプリンセス」と言うライトノベルからお借りしました。この極限まで絞ったショートカット詠唱、今でも好きでしてw
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    「あれ? どういう事?」いや、まじでこれっすw
    睨んだ通り、じゅ……錬金術師が黒幕ですかね?いや…ちょっと違うな…
    続きをはりあぷぷりぃ~ず!!

    睡魔という妖異と戦いながらのこのお話の展開力…まったくもって感動です!なので続きをはりあぷp(ry

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv「あれ? どういう事?」

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

      ですよねwww流石にこのまま終わったら消化不良感が凄いですよねwww(笑)
      じゅ……錬金術師が黒幕…! なのかどうか、たぶん次の話で明らかになる予定なので、どうかお楽しみに!
      (´▽`*)
      なるべく早く続きを更新しますので、どうかお待ちを~!ww

      睡魔と言う妖異www字面的にそんなのマジで居そうで笑っちゃいましたwwww(笑) 有り難う御座います!(´▽`*) 続き待望され過ぎてるので頑張ります!!w┗(^ω^)┛

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!(´▽`*) 早急な謎の解明が待たれますね!www(笑)

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