第24話 応報の果てに〈3〉
第24話 応報の果てに〈3〉
「――クガネ行きの船が無い……?」
リムサ・ロミンサのフェリードックにて。クガネ行きの巡行船は無く、個人でクガネに行くには海賊の手を借りるか、クガネに商いに行く商船に相乗りするしかないと断られ、ツトミは悔しそうに口唇を尖らせた。
「むぅ~! ツバキちゃん、まだラノシアに居るとか無いかな!?」「落ち着いてよツトミ。勿論その線は有るけど、今はツバキの手掛かりを探すのが先決じゃなかったの?」「だって……だって……!」
歯噛みするツトミを宥めるようにユキが手振りを交えて落ち着かせようとするが、彼女は居ても立っても居られないのか悶えていた。
「しかし……困りました、ね……」ミリが眉根を寄せて俯く。「クガネに……渡ろうにも、足が無い……のは……」
「暫し待たれよ。今、海賊を締めてクガネまで連れて行って貰うよう説得するゆえ」「待ちなさい待ちなさい」
サクノが手当たり次第に抜刀しそうになっているのを、ユキが慌てて制止する。
ここに来て手掛かりが途絶えるのは、良くない。ツトミだけが焦っている訳ではない。ユキも、ミリも、サクノも、勿論レンもケータも、皆気持ちは同じなのだ。
どうにかしてクガネに渡る手段を探さねば……と手を拱いていると、「……あの、何かお困りですか?」と、視界の下の方から声が掛かった。
一同が視線を下ろすと、いつぞやのララフェル族――ウイが心配そうに見上げている姿が有った。
「ウイちゃん! それがね……」
ツトミの説明を聞いたウイは、「なるほど……ツバキさんが……」と神妙な表情で俯き、意を決した風にツトミを見返した。
「えと……事情は把握しました。私、これからクガネに丁度用事が有って商船に相乗りするところだったのですが、ご一緒しますか?」
「ええ!? い、良いの!?」身を乗り出してウイに迫るツトミ。「願ったり叶ったりだよ~! ありがとウイちゃん~!」
「先日はその、大変なところを助けて頂きましたし……」えへへ、とはにかむウイ。「ツトミさんと、ユキさんと、ミリさんと、それに加えて三名の、六人で良いですか?」
「あたしは遠慮するわ」一歩下がるレン。「手掛かりを探すって言うのなら、ラノシアで探すメンバーも居た方が良いでしょ? 幸い、リンクシェルはツバキとだけ繋がらないだけで、ツトミやユキとは繋がる訳だし」
「ぼ、僕もこちらに残って、ツバキさんの手掛かりを探そうと思います!」ケータがおどおどした様子で首肯を見せた。「何か有りましたらすぐ連絡しますので!」
「拙者、サクノと申す。ツトミ殿やユキ殿、ミリ殿の案内役として参じる為、何卒宜しくお頼み申す」恭しく東方風のお辞儀を見せるサクノ。「ウイ殿、で良いで御座るか?」
「はい、宜しくお願いしますサクノさん!」ペコリとお辞儀を返すウイ。「それではこちらへ! 船頭さんにはすぐに船を出して貰うようにお願いしてきます!」
「ありがとね、ウイちゃん」思わず涙が出そうになるも、すぐに目元を拭って眼光鋭く水平線の向こうを睨み据えるツトミ。「ツバキちゃん、逃がさないからね……!」
まるでツバキが悪人となって逃走しているかのような雰囲気に、一同はこっそり笑いそうになっていたのだった。
◇◆◇◆◇
「……え? カレハ……さんと言う方が、ツバキさんを狙っている……んですか?」
クガネ行きの商船の客室にて。ウイが驚きに目を瞠って、ツトミを見据える。
ツトミはコクンと頷き、サクノが補足するように口を開く。
「ひんがしの国の、没落武家の忍び頭と言う拙者の記憶を頼りに、まずはクガネに赴こう、と言う流れでな。拙者も没落武家……確かハバキ家だったか。詳しくは知り得てない身ゆえに、現地で情報を集めよう、と」
「ハバキ家の……カレハさん……」
ウイが難しい表情を覗かせて俯いてしまい、一同は不思議そうに顔を見合わせる。
「ウイちゃん、何か知ってるの?」
「……その、クガネに行く用事と言うのが、まさにその……ハバキ家の、カレハさんからの依頼でして……」
「「「「!!!」」」」
思わぬところで繋がってしまい、ツトミもサクノもユキもミリも、食い気味にウイに迫った。
「「「「どんな依頼なの!?」」」」
「ひえっ」思わず後じさりするウイ。「それが……ツトミさん達は一度見た事が有ると思うんですけど……」ごそごそとポーチを漁って出てきたのは、いつぞやの魔法人形だった。「彫金師ギルドの依頼で、この魔法人形……追跡君をお借りしたいとの事で……」
「これって……確か、血液を覚えさせて、探してくれる魔法人形……だったかしら?」ユキが少し前の記憶を遡って思い出そうとこめかみに指を添える。「って事は、カレハはまだツバキの所在を掴めていない……?」
「そ、そんな事、より……!」ミリが慌てふためいた様子でワタワタと手を振る。「これ、これです! これが有れば、私達の方が、先に……ツバキさんを、見つけられるのでは……!?」
「そうだよ! ウイちゃん、この追跡君、貸してくれない!?」ツトミが思わずと言った様子でウイの両肩を掴む。「ツバキちゃんを先に探し出して、保護したいの! 良いかな!?」
「お、落ち着いて……の、脳が揺れるぅ~」ツトミにガックンガックン体を揺さ振られ、酩酊気味に目を回すウイ。「お、お貸しするのは良いんですけれど、追跡君は今ここに一機しかないので……商船がクガネに無事に着いたら、すぐ納期みたいなものなので、お貸しするとしても、カレハさんにお貸ししてからになっちゃいまして……」
「なにぃ~!」ツトミが思いっきりウイの肩を揺らす。「そこを何とか~!」
「ちょ、ちょっとツトミ……そのままだとウイ死んじゃうわよ……」
思わずユキが制止の声を上げる頃には、真っ青になってグロッキーになったウイが横たわる事になった。
「と言う事は、船に乗っている間は追跡君を借りる事も無理ではないと言う事。で、御座ろう?」
サクノがウイを助け起こしながらそう尋ねると、彼女は目を白黒しながらも、朧気に首肯を返した。
「そ、そうです……商船を下りるまでなら……お貸しする事は……おえぇ……」
パタリと意識を失ってしまうウイに、ツトミは顔を華やがせ、「ナイスっ、サクちゃん!」と軽快に指を鳴らした。
「ウイさん……ベッドに、運んできます、ね……!」
ウイを抱き上げてベッドに運ぶミリに、ツトミは「ありがとー!」と声を上げた後、残された追跡君に、ツバキが以前作ってくれた装備である指輪を入れてみる。
「ぴぴぴ、ツイセキを、カイシします」と宣言して、追跡君は早速動き出す――かと思いきや、その場に留まったまま、右手を挙げて、一点を指差す。
一同がその指差す先に視線を向けても、客室の壁しかない。
「もしかして、消えてるの?」ペタペタと客室の壁を触り始めるツトミ。「ツバキちゃん、居るのー? 出てきても良いんだよ~?」
「あ……あの……」ウイが真っ青な顔でベッドから起き上がる。「か、海上ですから……追跡君は移動せずに……対象が居る方向を……指差してるだけ……です……おえぇ」
「即ち、我らの判断は間違いではなかった、と言う事で御座ろうな」満足そうに頷くサクノ。「其奴の指差す先とは即ちこの商船が向かう先」
「……! クガネに、ツバキちゃんが……!」
手掛かりの糸はまだ切れていない事を確信し、ツトミは顔を明るくして頷いた。
まだツバキの影は見えない。けれど、その足跡は、少しずつ聞こえてくるところまで辿り着いた。その実感が有る。
クガネと言うリムサ・ロミンサとは勝手が違う街で、未知なる探索が幕を開けようとしていた。
🌠後書
4日振りの最新話投稿です! お待たせ致しましたーっ!(今回は早めの更新でε-(´∀`*)ホッw
最終章なのでコラボキャラも惜しみなく再登場です! 主人公だけが不在のままガンガン物語は進んでいきます。糸のような手掛かりを頼りに、運命を手繰り寄せていくこういう展開がやっぱり好きです…そういうところはFF14に学んだまでありますね(笑)。
もっと短く纏まると思っていたのですが、最終章と言う事で一番長いエピソードになりそうな予感がひしひしとして参りました…w 今年中に完結するつもりで綴っていますけれど、大丈夫なのかな…ww
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
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