2024年11月6日水曜日

第4話 悩めど尽きず、笑えば消えゆ

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第4話 悩めど尽きず、笑えば消えゆ

第4話 悩めど尽きず、笑えば消えゆ


「……もしかしてアンタ、行き倒れかい?」
 言わなくて良い事を口走って、その結果を目の当たりにするのが恐ろしくて、気づいたら西ザナラーンのベスパーベイからフェリーに乗って、リムサ・ロミンサまで逃げて……気づいたらリムサ・ロミンサのどこか分からない場所で倒れている事に気づいた私は、慌てて起き上がると、声を掛けてきた主に視線を向ける。
 スラッとした体躯に、頭の上の長い耳。ヴィエラ族の女性は、私を見下ろしたまま腰に手を添えて、小首を傾げる。
「違うなら往来の邪魔だぜ、そんなところで寝られるとな」
「あっ、ご、ごめんなさい……」
 立ち上がって移動しようとして――こてん、と転んでしまう。転んだタイミングでお腹から情けない音が出ちゃって、私は赤面したままうずくまる。
「……何だよ、マジで行き倒れか?」ヴィエラ族の女性の呆れた声が降りかかった。「しゃーねーな。ちと待ってろ、何か有る物で何か作ってやるよ」
「え……?」
 思わず顔を上げると、ヴィエラ族の女性は私の視線に気づいた様子も無く、背に負っていたバッグから調理器具と食材を出しながら鼻歌を口ずさんでいる。
 慣れた手つきで火を点し、恐らくはマーモットの肉であろう生肉を塩コショウで下拵えした後、ワイルドオニオンをスライスして、フライパンの上でガーリックと共に炒め始めた。途端に食欲に直接響く香ばしい匂いが立ち込め、私は無意識に涎を垂らすのだった。
 ヴィエラ族の女性はそんな私にやっと気づいたのか、ニヤリと口唇を歪めると、出来上がった料理を更に盛り合わせて、私の前に差し出した。
「ほらよ。マーモットステーキだ。冷める前に頬張りな!」
 ニカっと、無邪気に笑いかけるヴィエラ族の女性に、私は慌てて手をワタワタさせた後、落ち着こうと深呼吸して、「い……良いんですか……?」と、生唾を呑み込みながら確認する。
「応よ! 遠慮せず食べな!」
 その答えを聞いた瞬間、用意されたナイフとフォークを使って、思いっきりステーキを頬張っていた。
 とろけるようなマーモットの肉に、ワイルドオニオンのシャキシャキした食感が心地良く、ガーリックの香りが鼻を抜けていく。
 食べながら涙がぽろぽろ流れている事に食べ終わるまで気づかず、食べ終わってからやっと自分が泣いている事に気づいたけれど、どうして涙が出たのか、理由が分からなかった。
「お粗末さん」ヴィエラ族の女性は調理器具や食器を片付けながら、先ほど見せた無邪気な笑みを浮かべると、改めて私を見下ろした。「んで、スッキリしたかい? 必要なら宿屋まで送るし、何だったらイエロージャケットを呼んでやっても良いぜ?」
「あっ、その、ご馳走様でした! じゃなくて! えと、有り難う御座いました……?」何て声を掛けたら良いか分からなくてしどろもどろになってしまう。「あ、あの! お礼がしたいので、お名前、聞かせて欲しいのですが……!」
「あん? お礼なら……」ヴィエラ族の女性は突然品定めするように私の事を上から下までじっくりと見つめた。「……ふぅん、よく見りゃアンタ冒険者か。お礼、ねぇ……」
 にやぁ、と悪い顔をするヴィエラ族の女性に、私はもしかしてとんでもないミスを犯したのではないかと言う気になって、段々と顔から血の気が引いていく想いだった。
「っとと、名前だったな。オレはセクレア。アンタと同じく冒険者さ」ヴィエラ族の女性――セクレアさんは、胸を叩いて自慢げに名乗った。「アンタ、お礼がしたいって言ったな? その体、借りても良いかい?」
「え? え……ええ!?」思わず後じさりしてしまう。「わた、私っ、そういう趣味では……!」
「あ? そういう趣味って何? なぁ~お礼したいって言ったよなぁ~? 嘘なのか~? 嘘つき冒険者かお前~?」
 手をワキワキとしながらにじり寄ってくるセクレアさんに身の危険を感じつつも、逃げられないように道の縁に追いやられてる事に気づいた私は、もう逃げられない! と思って悲鳴を上げようとして――
「なぁ~、オレの話し相手……いや! 冒険についてきてくれるだけで良いからさぁ~」
「きっ――――……え?」
 息を思いっきり吸い込んで悲鳴を上げようとしたのに、出たのは疑問符の籠もった吐息だけだった。

◇◆◇◆◇

「何を勘違いしてたのか知らねえけど、オレはただ話し相手が欲しかっただけだっつーの。丁度今から冒険者ギルドに話し相手の募集を掛けに行こうとしてたところだったからよ、丁度良いやってな」
「はぁ……なるほど……」
「ウイっつったな? 冒険者始めてどれくらいだ? モンスターはどれくらい退治した? どの地域を主に冒険してるんだ? 移動は徒歩か、それともチョコボ? メインにしてる武器は何だ?」
「うぁ~待ってください~もう質問が洪水過ぎて応答が間に合いません~~」
 ワタワタとしている間にセクレアさんは矢継ぎ早に質問を投げてくる。そんな私の悲鳴にセクレアさんは「っとと、悪ぃ悪ぃ! まだ冒険に付き合ってくれるかどうかの了承も得てねーのにな! で? どうなんだ? アンタ暇じゃねーの?」と、相変わらずぐいぐい攻めてくる。
「暇…………なの、かな……」
 錬金術師ギルドの仕事は有るし、呪術士ギルドにも依頼は来ている筈だ。けれど、今の自分を見下ろして、ウルダハに帰りたいかと問われると、どうしても項垂れてしまう。
 現実逃避だと言う事は理解しているつもりでも、感情が、気持ちが、どうしてもウルダハに戻りたくないと泣き喚いている。
 リムサ・ロミンサの道の縁に腰掛けたまま思わず考え込みそうになったところで、改めてセクレアさんを見上げる。
 隣に腰掛ける彼女は、確かに冒険者の出で立ちだった。背に大鎌を背負い、全身を軽装ながらも使い古した軽鎧で固めている事からも、私より遥かに冒険を熟してきた先輩だと分かる。
 ともすれば、私が付いて行かなくても、一人で全部何とかしてしまいそうな、何とか出来てしまいそうな雰囲気が滲み出ている彼女に、私は羨望のような感情が芽生えるのを止められなかった。
「セクレアさんは……」そこまで口にしかけて、何を問おうとしているのか、自分でも分からず、閉口してしまう。「いえ……その……」
「あん? 何だよ言えよ~、そういうの一番気になる奴だから! 何でも応えてやっからよ~~」
 その美貌に似つかわしくない、無邪気な子供のような笑みに、私は思わず和んでしまう。
 その笑顔が、私が何を言っても許されると錯覚させる。
「セクレアさんは、……力が無い冒険者と冒険するのって、許せますか……?」
 口走ってから、自己嫌悪で埋まりたくなった。
 思わず首を振って、話を変えようと思って口を開くも、セクレアさんは「ん~、許せるか許せないかって話なら、そりゃ許せるだろうな」と、あっさりと応じた。
 私が口を開けたままぽかんとしてる間にも、セクレアさんは言葉を連ねていく。
「力が無い冒険者っつってもよー、知恵が無いとも、技術が無いとも言ってねーしな。仮に何の取り柄も無いっつー話なら、話し相手ぐらいにはなるだろ? それに、許せるか許せないかっつっても、俺が仮に許せなくても、別の冒険者は許せるかもだしな。そんな話じゃねーのか?」
「あ、いえ……そのぅ……」
「もしかしてアンタが力無い冒険者って話でもしてんのか? オレがそれを許せないかって? バカだなぁ、まだ会ってすぐだってのに、許せるも許せないも有るかよ。何度もぶつかって、もう絶対に相容れないって分かって、初めて許せるか許せないかって考えるもんだろ? アレか? タダ飯喰らいしたのに話し相手にはなれないけど許して貰えますかって事か? そんなケツの穴が小せえ奴だと思われてるのが寧ろ許せねえかもな!」
 ゲラゲラと膝を叩いて呵々大笑し始めるセクレアさんに、私は暫く呆気に取られていた。
 私の考えている事が、何と無く……そう、何と無く、考えても笑い飛ばされるような事でしかなかったのかな、なんて、ちょっとおかしくなっちゃって。
 気づいたら私もけらけら笑っていた。それを見たセクレアさんも笑いが深くなっていく。
 やがて日が暮れようとしていたリムサ・ロミンサの一角に、笑声が木霊する。私の悩みが、少しだけ軽くなる感覚と共に、思いっきり喉を嗄らして笑声は溢れ続けた。

🌠後書

 約4週間振りの最新話更新です! 大変お待たせ致しましたーッ!
 最近読書の秋を堪能していたら、急に執筆欲と言うか、脳内でネタ練りが捗り過ぎて、これもうすぐに物語にしないといけない奴! と、大慌てで執筆を再開した次第でして…! やっぱりインプットしたらアウトプットしたくなる奴ですよね…!w
 と言う訳でまたしても新キャラ登場です。こちらも友達と言うか、実在のモデルが居る訳ではなく、この物語だけのオリジナルキャラクターになります。口調はだいぶ少年っぽいですが、見た目はあのヴィエラ(♀)です。あの外見でこの口調にしたかっただけです(性癖)。
 だいぶ先まで妄想が進んでしまったので、もしかしたら更新頻度が上がるかも知れませんし、そんな事は無いかも知れません。綴りたいエピソードが昨日今日だけで山ほど増えてしまったので、それを形にするまで程々の頻度で更新したいところでは有りますが…w
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

※2024/12/14校正済み

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    いつもの予測変換が下がりつつあるタイミングでの更新…神かよ。

    ウイちゃん、いつもお腹ペコペコでぶっ倒れているイメージなんですがwそこで新キャラ登場!
    なかなかぶっ飛んでるっぽくて、でもなにかあるような…
    せっかくなので二人で世界征服を(っておいぃw
    そして、よりよい世界にお導きいただきましょう。

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!!(´▽`*)

      何とか予測変換が切れる前に更新できたみたいでホッとしております…!ww(笑)

      いつもお腹ペコペコでぶっ倒れてるイメージwwww確かに言われてみればそんな気がしてくる奴wwwww(笑)
      二人で世界征服!wwwそれはもうガレマール帝国と対決どころか乗っ取る勢いのヤバい冒険者!wwwww(笑)
      ウイちゃんならよりよい世界に導いてくれそうな気もしますが、たぶん世界を征服するより先にまたお腹ペコペコでぶっ倒れてそうな気がします(´▽`*)ww

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!(´▽`*)

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2025/10/19の夜影手記 🌸挫け気味なのでこっそり愚痴を吐かせて~😣