2024年11月7日木曜日

第5話 その背を見て選ぶ道、学ぶ意志

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第5話 その背を見て選ぶ道、学ぶ意志

第5話 その背を見て選ぶ道、学ぶ意志


「あの、そういう訳で、私、冒険者ですけれど、戦える訳じゃなくて、そのぅ……」
 自分がガレアン人のハーフである事は伏して、今までの事情を掻い摘んで説明すると、セクレアさんは「ふぅん、呪術士だけど魔力が足りなくてねぇ。そりゃ大変だ」と、難しい表情で考え込んでしまった。
 場所はリムサ・ロミンサの宿屋、ミズンマストの一室。セクレアさんが寝泊まりしてる客室にお邪魔している形だ。
 ベッドは一つしかないが、セクレアさんが「えー、一緒に寝ようぜ~その方が宿代浮くしぃ~」と譲らず、私が折れた形で同室している。
 椅子にもたれ掛かって考え込んでいるセクレアさんに、私は髪を梳かしながらベッドに腰掛け、思案に耽る彼女を盗み見る。
 冒険者をやっているのが勿体無いぐらいの美人さんで、ただ思案に耽っているだけなのに絵になる程の美貌、そしてスタイルの良さだった。
 今は寝間着に着替えているが、冒険者として活動している軽装も似合っていたし、美人さんは何を着てても、何をしてても絵になるんだなぁ、って勝手に感心していた。
「魔力増幅薬を飲んだら吐いちゃうんだろ……? それってつまり魔力の原液、エーテルそのもの吐いてるって事だとしたら、器から溢れてるって事だもんな……そりゃまぁ、呪術士としちゃ致命的かも知れねえが……」
 ブツブツと何事か呟き続けているが、私にはあんまり聞こえなかった。
 錬金術師ギルドと呪術士ギルドには、レターモーグルを通じて、暫くお休みする旨の連絡を入れておいたので、トラブルは起こらない……と信じたいけれど、錬金術師ギルドに関しては、私宛の依頼が渋滞するかも知れないと思うと申し訳なくなった。
 私が特別できる訳ではないとしても、最近は錬金術師ギルドの依頼を片っ端から受けてた分、その皺寄せがどこに行くのか考えただけで今すぐ帰りたくなる……けど……
 これは家出みたいなもので、後から先輩や同志に怒られると分かっていても、今は少しだけ距離を置きたかったのだ。
「う~~~ん……」腕を組んで頭を捻り続けるセクレアさんだ。「うん! 分からん! 寝るか!」ポン、と膝を打ったかと思いきや、そのまま立ち上がって、その足でベッドにダイビングした。
 私は櫛をサイドテーブルに戻すと、「あの、本当に同じベッドで良いんですか……? 私、寝相悪いかもですけど……」と再度確認しても、セクレアさんは「いーのいーの、何ならオレの方が悪いかも知れねーし。ま、今日のところは観念して寝な! 別に取って食やしねーよ!」
 言いながら電燈が消え、室内が暗闇に満ちる。
 私は少しばかりドキドキしながら布団に潜り込み、セクレアさんに背を向けて目を瞑る。
「えと、おやすみなさい」「おう、おやすみー」
 何かされないかドキドキしながら意識を背後のセクレアさんに向けていたのも数秒だけで、そのたった数秒で背後からは寝息が聞こえてきて、驚いてしまう。
 隣に得体の知れない冒険者が居ても、たった数秒で寝入ってしまうその懐の広さと言うか、強かさに、私はまた羨望のような念が心の底に点る気配を感じた。
 この人にとって私は、無害な存在に映っているのか、居ても居なくても同じ存在として映っているのか、それとも……たった数時間一緒に居ただけで、全幅の信頼を寄せてくれているのか……
 考えても答は出なかったけれど、セクレアさんの規則正しい寝息を聴いてるだけで、薄っすらと眠気が這い寄り、気づいた時には夢の世界に旅立っていた。
 ふわふわした意識の中、まだお母さんが生きてた頃の記憶のような、幻想のような、本当に有ったような、でもそんな事は無かったような、嘘と幻想と記憶が絡み合ったような夢を見た。
 病気を患っていたお母さんは、高い薬代を支払えなくなって、生前はいつも体調が悪くて、土気色の肌に冷や汗をびっしりと掻いて、声を掛けるのも憚られるぐらいには、見るからに病人だった。
「ウウイには、苦労を掛けるねぇ」
 お母さんの口癖だった。自分のせいで好きな事をさせられず、退屈な想いをさせていると、いつも可哀想な者を見る目で、私を見つめていた。
 私は、特別不幸だとも幸せだとも感じなかったけれど、そっと抱き締めてくれる彼女の温もりが、今でも大切な思い出として残っている。
 何も遺っては無いけれど、大切に生かされたからこそ、今もこうして冒険者として活動できているのだから、やっぱり私は恵まれていたんだと思う。
 ウルダハは特に、貧富の差で貧者が壊れていくのは、肌感で知れる世界だったから……
「い、痛いよお母さん……」
 夢の中なのに、お母さんの抱き締める力が強過ぎて骨が軋み始めていた。どんどん力強くなり、あのヒョロヒョロのお母さんのどこにそんな力が……!? と振り解こうとして、全力を出してもピクリともせず、締め、あがって、いくぅ……!
「うぎ……ぎ……おかあ……さん……?」
 ハッと目が覚めると、背中に柔らかな感触と、全身を万力のように締め上げるセクレアさんの腕と足を自覚した。
「セ……セクレア……さん……!?」
「ん~? むにゃむにゃ……」
「私……ッ、抱き枕じゃ……ッ」
「この抱き枕、抱き心地最高だぜぇ……むにゃむにゃ……」
「はな……し……て……かは……ッ」
 そのまま絞め落とされて、再び夢の世界に落とされた時、お母さんが心配そうに私を見つめて、「む、無理しないでね……?」と顔色を窺っていたけれど、私はラールガー神みたいな顔で「う、うん……」とどういう顔を向ければ良いか分からずに俯いてしまうのだった。
 その後、覚醒した後セクレアさんとは一緒のお布団では寝ない事を誓約させて、もう少しで死ぬところだったのだとやんややんや騒いだのだけれど、それはまた別の話。
 まぁ……もう顔も思い出せないと思っていたお母さんと夢の中であれ会えた嬉しさで、怒るに怒れなかったけどさ……それはそれだよね……

◇◆◇◆◇

「うーっし、充分な睡眠、充分な食事! 元気一杯だな!」
 リムサ・ロミンサの宿屋、ミズンマストから出て、レストラン・ビスマルクに立ち寄ってモーニングにエッグサンドを平らげたセクレアさんに、私も同じ物を頼んで食べ終えたところだった。
 初めて来た土地で、初めて食べたお店のご飯はあまりにも美味しくて、それこそ目が覚める美味しさだった。
「冒険についてきて欲しいって話でしたけれど、セクレアさん、これからどこに向かわれるんですか?」
 はむはむとエッグサンドを頬張りながら尋ねると、セクレアさんは「ん~、特にどこって決めちゃいねーんだが……」と腕を組んだ後、「風の向くまま気の向くままって奴だな。ギルドリーヴで面白えのが有ったら、行先はそこで決めちまうっつーか」相変わらずサッパリした感じで応じてくれた。
 その後、セクレアさんはレストラン・ビスマルクでお買い物を済ませると、冒険者ギルドも兼ねている溺れた海豚亭に足を向けた。
「さっき、レストラン・ビスマルクで何を買ってたんですか?」セクレアさんの斜め後ろを歩きながら問いかける。「見てた感じ、食材は買ってなかったように見えたんですが、一体何を……?」
「ん? あー、香辛料とかだよ」そう言って紙袋から取り出したのは、ブラックペッパー……胡椒だ。「ブラックペッパーがありゃ、生肉がちっと傷んだ程度なら美味しく食えるしな」
「なるほど……私、冒険者って言っても、ウルダハ近郊でしか活動してなかったので、勉強になります……!」
 考えてみれば遠方にまで足を延ばすと言う事は、野宿もまた有り得ると言う事だ。必ずしも人里で安穏と夜を明かせる訳ではないと言う、当たり前の事実に気づく。
 セクレアさんは「何だァ? 遠出は初めてか。薪の拾い方とか教えなきゃだな、うひひ」と、また子供みたいな無邪気な笑みで笑うと、ギルドリーヴの受付嬢と話を始めた。
 私はそれを傍で見守っていたのだけれど、セクレアさん、相変わらず飄々とした態度で受付嬢と言葉を交わし、あっと言う間に目当ての依頼書を手に入れると、私の元に戻って来た。
「場所は東ラノシア。レインキャッチャー樹林に強盗団が逃げ込んだらしくて、これを捕縛ないし退治してきて欲しいんだとよ。ギル払いが良いからこれにした」
「強盗団の捕縛ないし、退治……」
 私が受注できるような依頼ではない事だけは確かだった。手に余るなんてものじゃない。私が受けたところで、強盗団の余罪が増えるだけになってしまうだろう。
 セクレアさんはそれを事も無げに受注してきたと言う事は、相応の実力を兼ね備えた冒険者と言う事。普段はイマイチ凄さを感じないけれど、戦えば物凄く強いんだろうと、ちょっぴり尊敬の眼差しを送ってしまう。
「最寄りのワインポートまではチョコボポーターで移動して、そこからは徒歩で探索だな。状況によっては二~三日は野宿を覚悟しとけよ~」そこまで言ってから、セクレアさんは私に向かって笑いかけた。「まっ、オレはただ話し相手が欲しいだけだからよ、身の安全の確保は任せとけ! 食事の世話、寝床も確保も心配すんな! オレの傍を離れなけりゃたぶん大丈夫だたぶん!」
 セクレアさんは無邪気に笑ってるけど、これは相当な危険を伴う冒険だ。何より、私のような若葉の冒険者が経験するような依頼ではない。
 だからこそ、経験できないような経験を全力で体験して、今後の自分に活かせるように、彼女の一挙手一投足を見逃さないようにしなければ。
 何より、先輩冒険者として、きっと見習えるところがたくさん有る筈。戦闘の技術に関して、私は諦めなければならない分岐点に立たされているかも知れないけれど、それ以外の部分……戦闘以外でどう役立てるか、どう立ち回れるか、自分で自分を見直す良い機会だと思い直した。
「はい! 宜しくお願いします、セクレアさん! いえ、セクレア先輩!」
 ペコリとお辞儀をすると、セクレアさん、いや、セクレア先輩はむず痒そうに身悶えながら「うへへ、先輩だなんて照れるなぁ……あんまり持ち上げるなよう」と赤面してぐにゃぐにゃになってしまった。
 ……本当に大丈夫なんだろうか? と、不安がちょっぴり湧いてきたけれど、たぶん大丈夫だと思い込む事にした。たぶん……

🌠後書

 2日連続更新です! たぶん明日は無いですたぶんw
 話し相手が欲しいと言うセクレアさんと、先を行く冒険者の依頼を一緒に受けると言う、社会勉強ならぬ冒険者勉強編と言う事になりました。やっと少しずつ綴りたかったところが見えてきたぞw
 FF14本編だと、中々先輩冒険者との絡みみたいなシーンが無かった気がするのです。主人公君、何でも出来ちゃうから先輩居なくても全部自力で踏破しちゃう英雄だから仕方ないんですけどねw
 ところで、この「呪を言祝ぐ冒険者」シリーズは、短編集形式ではなく、長編ストーリーとして綴っているので、たぶん単話形式の話はあんまり無いと思います。「次回へ続く!」タイプの、週刊連載ないし月刊連載方式ですねw
 或る程度先まで見通して綴っているので、暫くはネタのストックも大丈夫だと思うのですが、流石に2日連続更新は頑張り過ぎましたw 次回は来週辺りを予定していますw
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

※2024/12/16■校正済み

2 件のコメント:

  1. 連夜の更新お疲れ様ですvv

    ほんの少しだけ垣間見えるウイちゃんの素性…
    病弱なお母様の記憶が嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになります。

    でも名門ヴァン・バエサル家なんだけどねっ!

    うさみみさんといえばぴょんぴょんしながらぴょんぴょんしちゃうあの方が思い出されますなwセクレアさんもめちゃめちゃ強そうだけど癖も強そう?w

    のんびりいきましょ!

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

    返信削除
    返信
    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!!(´▽`*) 頑張りました!w┗(^ω^)┛

      嬉しいような悲しいような複雑な気持ち…もう会えないと思っていた方に、また会えた嬉しさと、夢の世界でしか会えないと気づいてしまった悲しみ…みたいな感じなんでしょうかね…

      名門ヴァン・バエサル家wwwwwwお父さん出奔したと思ったらめちゃめちゃ活躍してる奴!wwwww(笑)

      うさみみさんと言えばぴょんぴょんwwww懐かしいな!wwwこれから戦闘シーンも出てくるでしょうし、セクレアさんの強さ(癖の強さもw)を楽しみにお待ち頂けたらと思います!ww(´▽`*)

      のんびり参りますぞー! でもやっぱり程々に執筆したい!w(欲望に忠実マンw)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!(´▽`*)

      削除

2025/10/19の夜影手記

2025/10/19の夜影手記 🌸挫け気味なのでこっそり愚痴を吐かせて~😣