書き下ろし その後の二人
書き下ろし その後の二人
「ふぃ~……極楽極楽」
蒼天街の露天風呂にて。水着姿で入浴しているミコッテ族の女――ヤエが惚けた表情で声を漏らした。
隣で浸かっていた同じくミコッテ族の女――ツトミが、肩まで湯船に浸かった状態で、ヤエに視線を向ける。
「ヤエちゃん~、やっぱり寒いよ~、もっと暖かいところに行かない~?」
「暖かいところって言うと、ザナラーンとか? 南ザナラーンにミコッテ族が暮らす集落が有るって聞いた事が有るけど、流石に生活が不便そうな気がしちゃうんだよね」
「寒いより良いよ~ぶるぶる」
「どんだけ寒いの嫌なのさ……」
湯船のお湯で顔を洗い、ヤエは再び大きく溜め息を吐き散らす。
「ヤエちゃん、傷だらけだね」
「ん?」
ツトミがジッと見つめる先には、ヤエの肢体が有った。水着を着ている彼女の肢体には至る所に切り傷が刻まれ、今までの戦闘が過酷だった事が窺える。
ヤエは改めて自分の体を見下ろすと、「そうだね~、ずっとお仕事で刃傷沙汰が多過ぎたから……」と苦笑を返して裂傷痕が刻まれた腕を撫でる。
「そんなんじゃお嫁に行けないぞう」クスクス笑うツトミ。「まぁ、ヤエちゃんにはツトミちゃんが居るから良いけどさ」
「何だよそれ~」
思わず噴き出して笑いかけるヤエに、ツトミもけらけら笑い返す。
「今頃みんな、冒険者やってるのかな」
ヤエの何気無い独り言のような吐露に、ツトミはゆっくりと両腕を伸ばして仰向けになった。
「きっと頑張ってるよ~、みんな。ツバキちゃんが居なくなって悲しんでるのに、こんなところで温泉に浸かってのんびりしてるなんて、誰も思わないよ」
「それは言わない約束でしょ~? 仕方なかったんだって~」
「どうかな~ツバキちゃん悪い子だからな~」
けらけら笑うツトミに、ヤエも釣られるようにけらけら笑った。
「みんなには悪いけど、今はこの平穏を噛み締めるよ。どこかでまた会えるかも知れないしね」
「うんうん、ゆっくり休んじゃお~。ツバキちゃん……じゃなかった、ヤエちゃんは働き過ぎなの。羽を休めて~……ゆぅ~っくり、まぁ~ったり、しちゃお~」
「ツトミちゃんはいつもまったりし過ぎじゃない?」
「ツトミは~、まったりするのがお仕事ですから~」
「あはは、良いねそれ。私もそれは見習わなきゃだ」
二人して湯船に浸かり、白い息を吐き出す。
「――――さて、そんな二人に新しい依頼だ」
そんな二人の間に、突然ヒューラン族の男が割り込むように湯船に浸かった。
二人は驚いてヒューラン族の男を見やると、彼が普段、リムサ・ロミンサの八分儀広場で依頼を言い渡してくる双剣士ギルドの男だと気づいた。
ヒューラン族の男は二人の反応にニヤリと笑うと、ポンポンと二人の肩を叩いた。
「双剣士ギルドを出し抜こうなんざ考えないこった。掟破りはどこまでも追い詰めるし、必ず見つけ出す。そういうところだっただろ?」
「……あはは、そういうところでしたね……」「えー、ツトミもっと休みたいなー」
「休暇も大事だが、仕事も大事だよな? 特にツトミ、お前依頼をほっぽり出して有給休暇とは良いご身分だな? 覚悟は出来てるな……?」
「ヨシ、逃げちゃおうか」「うんうん、逃げちゃお逃げちゃお」
ざばぁーッと湯船から立ち上がると、水着姿のまま駆け出すヤエに、ツトミも追い駆けるように走り出す。
ヒューラン族の男は突然の出来事に面食らうも、「お、おい待て、待たんかーっ! お前らを探し出すまでどれだけ労力が掛かったと……! ってもう聞いてねえし! 待ちやがれーっ!!」
二人のミコッテ族の女は笑いながら駆けて行く。
その後、双剣士ギルドにしっかり捕まって、散々お叱りを受ける事になるのは、また別の話……
そうしてまた、彼女らの日常は続いていくのだった。
【おしまい】
🌠後書
単行本を刊行しようと思っていましたが、暫く時間が掛かりそうな事と、もしかしたら刊行されないかもって話に移ろいつつあるので、書き下ろした書き下ろしを公開しちゃう事にしました。
これでツバキちゃんの物語は本当にお終い。寧ろこれから始まった感有りますけれど、これにて彼女らの物語は終着です。長い間、お付き合い頂きまして有り難う御座いました(´▽`*)
ヤエちゃんの物語として綴るのはどうなんだとか考えましたけれど、それこそ蛇足も蛇足。ここから先はウイちゃんにバトンをタッチする事にしますw
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
更新お疲れ様ですvv
返信削除なんかこう…涙でちゃったw
彼女たちのその後がちょっとだけ見ることができてもう大満足!
たまーに妄想して楽しませていただきますね。
長い間本当にありがとうございました。
彼女たちが末永くまったりしていけるとよいなぁw
今回も楽しませていただきました!
ありがとうございました!!!!!!!!
>とみちゃん
削除感想コメント有り難う御座います~!!(´▽`*)
涙が出ちゃうほど…! であれば書き下ろしを綴れて良かったな~って気持ちで一杯です! こちらこそありがとうございます!(´▽`*)
たまーにw そう、たまーに妄想して楽しんで頂けたら、作者としてこれ以上ない喜びですw
どこかでまったり過ごしている彼女らをふんわり妄想しながら、今回は締め括らせて頂きたいと思います!
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
長い間お付き合い頂き有り難う御座いました!!!!!!!!