第6話 あなたの相棒と言葉交わして
第6話 あなたの相棒と言葉交わして
「これオレのチョコボ。名前はヌハってんだ。気性が荒い奴だから、噛みつかれないように気をつけろよ~」
リムサロミンサのチョコボ留にやって来ると、一羽のチョコボが自らセクレアさんに歩み寄り、カプリと頭から嚙みついた。
「わぁー!?」思わず悲鳴を上げてしまった。「セ、セクレアさん!?」
「いってえなバカ! 耳千切れるだろ!」鮮やかな黄色い地毛のチョコボの横っ面を殴り、吐き出されるセクレアさん。「いつもこんな感じなんだ、じゃれてんだろうけど、いてえんだよなー」
「そ、そうなんですね……」
突然の出来事に心臓が止まりかけたけれど、チョコボ――ヌハの瞳は大人しそうな色をしている事に気づいた。
私と目が合って、じぃ、と見つめ合っていると、チョコボが小さく鳴いた。
「クエェ(こんにちは)」
「こ、こんにちは……」
「クエ?(アレ? 僕の言葉、分かるんですか?)」
「え? え……? あ、あのセクレアさん……」
ヌハに荷物を積載しているセクレアが「んー? どした?」とこちらを見つめて小首を傾げる。
「チョコボってその……いや、チョコボの言葉って、分かりますか……?」
「チョコボの言葉ぁ? いや、何と無く怒ってんだろーなーとか、何と無く腹減ってるんだろーなーって事は分かるが……何々? ウイ、お前チョコボの言葉分かんのか?」
荷物の準備を程々に残して私の前まで戻って来たセクレアさんは、ヌハを見上げて、「おい、何か喋ってみろよ」と横っ面をペシペシ叩き始めると、再び頭からカプリと噛みつかれた。「いでぇーっ! だからそれやめろって!」
セクレアを吐き出したヌハは、「クエーッ!(だってセクレア、生意気なんだもん!)」と鳴き声を上げて、険悪な表情でセクレアを睨み据える。
「今こいつが怒ってるのは分かるけど、アンタ、何て鳴いてるのか分かるのか?」
面白い玩具でも見つけたような表情で瞳を輝かせて迫るセクレアさんに、私は「えと……セクレアさんの事、生意気って言ってますね……」ぽそぽそと返した。
「クエーッ!(エエーッ! ほんとに僕の言葉、分かるんだ!?) クエーックエーッ!(凄いすごーい! こんな人、初めてだ~!)」
ヌハが興奮した様子で飛び跳ねているのを見て、セクレアさんは「おっ、突然嬉しくなったみてぇだけど、オレが生意気だっつって喜んでるってどういう事だこいつ……?」と、訝しげにヌハを見上げる。
「こんな人初めてって喜んでますね……あ、あの、本当にチョコボの言ってる事ってその、分からないんですか……?」
「おう、分からねえな。寧ろそんな冒険者、今まで見た事も聞いた事もねえ。いや、風の噂にそういう変わった冒険者も居るって話は聞いた事が無い訳じゃないが……実際に見たのはウイが初めてだな」記憶を浚っているのだろう、考え込むように額に中指を当てて唸っていたセクレアさんだったけど、ふと何か思いついたように私に視線を向けた。「昔からそうなのか? 例えば、モンスターの言葉とかも理解できるとか?」
「え? いや、そう言えば……今までチョコボを見掛けた事は有っても、言葉が分かるって事は無かった気がします……今初めて、チョコボの……ヌハの声が、何て言うか……意味として伝わったって言うか……」
「クエー、クエー?(ウイって言うんだね。セクレアの友達なのかな?)。クエェ(こいつ生意気だから気を付けてね)」
「この舐め腐った顔……何を言ってるかは分からねえが、どうせオレの悪口言ってんだろ?」
「いや、えぇと、そのぅ……」
「おぉーい、そこで立ち話されると商売の邪魔だよ~。チョコボポーターを利用するのかい、しないのかい?」
チョコボマスクを被った店員さんが迷惑そうに声を掛けてきて、この話はここまでになった。
チョコボポーターでレンタルチョコボを借り、私はララフェル用のチョコボに跨って、東ラノシアを目指して、ゼファー陸門から中央ラノシアを北上……リムサ・ロミンサを横目にローグ川を渡って更に北上していく。
セクレアさんに渡された世界地図と睨めっこしながら、右手に見えるシーソング石窟を通り過ぎたのだと知り、更に北上……アジェレス川を渡って、サマーフォード地区と、スリーマルム・ベンド地区を分断するデセント断崖へと辿り着く。
「この断崖絶壁、元は同じ高さの土地だったのによ、第七霊災の衝撃でこうなったんだとさ。第七霊災の影響は色んな所に残されてるが、これもその一つなんだぜ」
セクレアさんがヌハに跨って、私の隣を並走しながらそんな解説をしてくれた。
第七霊災。エオルゼアを襲った未曽有の危機。誰もその結果を記憶してなくて、そこで活躍していた英雄さんが、焼き付いた書物のように、言葉にしようとしても言葉にならず、姿を思い出そうとしても光の中の影のようにしか思い出せず、それ故に光の戦士なんて言われている、最新の伝説だ。
約五年前の出来事だけど、私も殆ど記憶が無い。蛮神と呼ばれる大きなドラゴンが地平を薙ぎ払い、世界は死滅する……その間際、姿も声も思い出せない英雄が力を尽くしてくれたお陰で世界は救われ……救われたと言う事実だけが残り、一切の記憶は失われてしまった。
その英雄である光の戦士を目指して冒険者になる者が後を絶たず、斯く言う私も、巷に溢れ返る「光の戦士の再来」と呼ばれる冒険者に憧れて、こうして冒険者になった訳だけど……。
冒険者として活動する為に、冒険に必要な力や技術を得るべく、呪術士ギルドの門戸を叩いたと言うのに、結局魔力の器とでも言うべき器官が人より格段に小さい事が分かって、その道が閉ざされようとしているのだ。
そんな私が……と考えたところで、首をフルフルと振る。
セクレアさんは、そんな私でも冒険のお供に連れ出してくれた。役に立つか否かと問われれば、確実に役立たずのお荷物なのにも拘らずだ。
彼女の意図している考えは未だに分からないけれど、いや、それこそ本当にただ、話し相手が欲しかっただけの可能性も大いに有り得るけれど、それでも……呪術を扱えない呪術士の私でも、何か出来る事が、役立てる事が有るかも知れない、見つかるかも知れないと信じて、彼女の傍に居てみたいんだ。
やがてチョコボは断崖絶壁を下りきり、中央ラノシアを抜けて東ラノシアへと入って行く。
🌠後書
約10日振りの最新話更新です! ちょっぴりお待たせ致しました!
ウイちゃんが何故かチョコボと会話できるのは、敢えて伏せておきますけれど、たぶんFF14を程々にPlayされてる方なら何と無く分かると思いつつも、FF14内でそういう描写が無ければ、そういう事が出来る冒険者ないし人間って出てこないんですよね、私の見落としが無ければの話ですが。
言語の壁を超える力が有るのなら(言っちゃった!)、チョコボとも会話が出来ると思うんですよ私は。相棒のチョコボと会話するシーンが一切無くても、そういうシーンが有るんだろうなって妄想する分には良いと思うので、今回はその辺を綴りたくて綴った次第ですw
これは光の戦士に憧れて冒険者になったウイちゃんの、光の戦士ほどではないにしても、一人の冒険者としてエオルゼアを生きた少女の、頑張れー!って言いたくなる冒険譚です。1話完結式ではない、長い長い物語になる予感がしてきたので、完結までに蒸発しない事を祈るばかりです…笑
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
更新お疲れ様ですvv
返信削除これあれだな、バエサル家に代々伝わる特殊能力。
「言語の壁越え」であろう。(言っちゃった
いつもあたふたしているイメージのウイちゃんですが、今回はちょっとだけ落ち着いた感じ。
動物って言葉は喋れないけど、一緒にいると十分意思疎通できるようになるよね。
それを初見でやってのけちゃうウイちゃん流石ですw名門出身はやっぱちがうぜ!
楽しげな二人が想像できておなかいっぱい!
今回も楽しませていただきました!
次回も楽しみにしてますよーv
>とみちゃん
削除感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
バエサル家にそんな特殊能力が代々伝わってたなんて…!wwww(笑) だったらガイウスさんもっと優しく育ってくれても良くない!?!!?wwwww(笑)
いつもアタフタしてるイメージww 確かに過ぎて笑ってしまいましたww
一緒に居ると充分意思疎通できるようになる…! そういう話聞きたかった奴~!! やっぱりそういうものなんですね…! 今まで動物を飼った事が無い身なので、そういう話が貴重過ぎてとてもありがたいです…! 自然と心を通わせられるようになるの、とてもイイ…
名門出身www初見でやってのけたのはやはりそこなんですね!wwww(笑)
ヤッター!┗(^ω^)┛ 楽しい雰囲気でお腹一杯なら最高です!! 幸せじゃーん!!!(´▽`*)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
次回もぜひぜひお楽しみに~!(´▽`*)