第7話 一人の限界、二人なら
第7話 一人の限界、二人なら
デネベール関門を抜けると、普段嗅がないような果実の香りが辺り一帯を包むように満ちていた。セクレアさんの話曰く、東ラノシアに位置するワインポートと呼ばれる集落で、海賊達に愛されたワインの醸造で有名な地域らしい。
チョコボ留でチョコボを預け、そこから坂を下って南下……レインキャッチャー樹林へと向かって行く。
「強盗団がレインキャッチャー樹林に逃げ込んだのは、昨日の夜更け。今朝になって冒険者ギルドに依頼の申請が有ったのを、オレが受けた訳だ」ヌハの隣をのんびりした歩調で歩きながら、セクレアさんが説明する。「カストルム・オクシデンス行きの荷物を強奪した海賊を、更に強襲して荷物を強奪、その後レインキャッチャー樹林に逃げ込んだらしくて、依頼主はその荷物を強奪された海賊」
「海賊が冒険者ギルドに依頼するとか有るんですね……」目から鱗だった。「てっきり自分達で何とかするものとばかり……」
「強盗団がよっぽど腕の立つ輩なのか、或いは冒険者を雇わないといけないぐらい海賊が非力なのか……ともあれ、海賊だって冒険者ギルドを頼る事自体は少なくないんだぜ? 海賊は船上でこそ本領を発揮する訳で、陸に上がっちまったら魚と一緒、情けなく俎上に載せられるのが関の山だ」けらけらと笑いながら説明するセクレアさんだったけど、急に真顔になって考え込む素振りをする。「ただまぁー、今回の依頼が不思議な背景ってのは頷くぜ。帝国軍から海賊が強奪して、そのまた海賊が強盗団に強奪されてるんだからな。海賊が間抜けなだけなら良いが……妙ちきりんな話だよな」
私は単に、海賊が冒険者に頼る事自体が変な話だなと思っただけだったのだけれど、セクレアさんは別のところが気に掛かってるらしく、ブツブツと独り言を呟きながら坂を下って行く。
「帝国軍は、何を強奪されたんですか?」
ヌハの背に跨って、私は楽してセクレアさんのお供をしているのだけれど、降りて一緒に歩くと言ってもセクレアさんに止められてしまった。何でもこの辺のモンスターは私ではとても敵わないぐらい強いそうで、戦おうものなら一撃でノックアウト……ともすれば冒険者稼業を断念せざるを得なくなるどころか、命を落としかねないのだそうだ。
なのでヌハの背と言う安全地帯からセクレアさんに声を掛けると、彼女は「んー?」と独り言の世界からゆっくりと帰ってきた。
「冒険者ギルドに伝わってるのは、小型の爆弾だな。何でも最新の炸薬で作られた試作品らしくて、爆発すればワインポートなんて一発で焦土と化す性能なんだとさ」
「え……そ、そんな大変な物が、その……強盗団に強奪されたんですか……!?」
急に話が大きくなって、私は思わず悲鳴染みた声を上げてしまった。
セクレアさんは「そう、だから早めの解決をお願いされたし、オレら以外にも依頼を受ける冒険者は居るだろうな。オレは偶々依頼が来たタイミングで見掛けたから受けたけど、冒険者ギルドも追って募集を掛けるみたいだったぜ?」と、特別気負いした様子も無く答えた。
そんな爆弾が見つからずじまいだったら、大変な事態ではないのだろうか。ワインポートを一発で焦土と化せる性能を有する爆弾であれば、それこそリムサ・ロミンサで爆発すれば……想像する事も出来ない規模の人災が起きるのは明白だ。
そんな重大事件に、ただ話し相手としてついてきている私の立場は……と、いよいよ申し訳なくなってくる。
「あのぅ……そんな依頼、私じゃなくて、もっと頼りになる冒険者さんを連れて行った方が良かったんじゃないですか……?」
もう堪えきれなくなって、思わず尋ねてしまったけれど、セクレアさんは不思議そうに私を見つめ返した。
「何で? オレはウイが付いてきてくれるだけで充分だぜ?」
「充分って……私、呪術も碌に扱えない呪術士なんですよ? とてもお役に立てるとは……」
「おいおい、またその話かー?」呆れた風に肩を竦めるセクレアさんだ。「呪術が使えない呪術士だから何だってんだよー、実際今、オレの話し相手になってくれてんだから良いじゃんかよー」
「……話し相手って、そんなに大事なんですか……?」
思い切って尋ねてみる。私は、ただ居るだけで良いなんて、全然思わない。戦力外の冒険者を連れて依頼を受けるなんて、どうかしてると思う……或いは、そういう苦境を自らに強いて、より困難な依頼を達成する事に興奮する、変態さんなんだろうか……って。
セクレアさんは私の疑念に、あっけらかんと応じる。
「ったりめーじゃねーか。話し相手が居るって事は、オレ一人じゃ考え付かねー事を考え付いたり、オレ一人じゃ辿り着けねー結果に辿り着かせたりするんだぜ? こんな有り難い存在、他に有るかよ」
「セクレアさん一人じゃ、辿り着けない結果……?」
よく分からない、と言った態でオウム返しするも、セクレアさんは「そうだぜ、ウイも冒険者としてあちこち冒険するならな、話し相手は居た方が良いぜ、これは絶対だ。一人より二人! 二人より三人! 三人より四人だ! 多ければ多いだけ、知恵も技術も集まってくる。力が無いなら力を合わせりゃ良い、それだけの話だろ?」
「力が無いなら、力を合わせる……」
セクレアさんは、何も不思議な事も変な事も言っていない。当たり前だと感じている事を、当たり前のように答えているだけ。
なのに私は、そこに何か、未来に対する手掛かりを得たような想いで、その言葉を反芻していた。
「ほら、何か気づいたって顔してんじゃねーか」セクレアさんが私を指差して微笑む。「一人で考えてたって、大抵は碌な考えはしねーもんだ。口に出して、誰かに聞いて貰う。聞いて貰ったら、意見を言って貰う。そうやって自分一人じゃ気づきもしねー考えが得られるんだから、ほらな? 話し相手は必要だろ?」
そう言ってけらけら笑うセクレアさんに、私は「なるほど……確かに、そうかもです……」と思わず頷いていた。
自分一人じゃ考え付かない事を得る為に、話し相手は居る。
思えば今までずっと、一人で何とかしようと、積極的に人と係わる事を避けていたように思う。
初めて出来た、友達みたいな距離で接してくれた、マテオさんを思い出す。
彼は、錬金術に没頭して倒れていた私に話しかけてくれるぐらいには、私の事を気に掛けてくれていたし、うっかり話してはならない事まで口走っちゃうぐらい、親身になって話を聞いてくれる相手でもあった。
途端に、彼と顔を合わせて話したくなった。何も言わずにウルダハを出て行った事を謝りたくなった。言わなくて良い事を言ったのは事実だけど、それで彼がどう思ったのか、私はまだ聞いていない。
「セクレアさん、有り難う御座います! 何か、急に帰りたくなってきました!」
ヌハの背の上から、ペコリとセクレアさんに頭を下げると、彼女は、「おう! 何か得る物が有ったみてえだな! だが帰るのはダメだ! オレの依頼が終わるまで話し相手になって貰うぜ!」と、サムズアップしながら首を横に振るのだった。
それはそうだ、と思わず自分の軽率な発言に赤面しながらも、私は「分かりました!」と頷いた。
ウルダハに帰ったら、真っ先にマテオさんに会おう。そして、この冒険で得た話をして、彼の感想を聞きたい。
そう思うと、急に何だか視界が開けてきたような気がした。呪術を扱えない呪術士なのに、冒険者として活動できる未来を、勝手に投影してしまう。
もう少し、私にも出来る事を考えてみたい。セクレアさんと話しただけで、悲観的な未来が、少しずつ開かれていく……そんな気にさせられてしまった。
🌠後書
2日連続更新になります! 昨夜は突然ファビョって申し訳ありませんでした…(謝罪スタート)
結局設定上問題無く、オンラインの資料も問題無く、問題が有ったのはわたくしの頭だけでした。ボケてんのか????
ご迷惑&ご心配お掛けしまして大変申し訳ありません。今後はしっかり実地調査して参ります! 流石に懲りたよ!w
と言う訳で今回のお話。私自身が一人で無限に考え込んで妄想をアウトプットする系の作者なので、セクレアさんの発言にはもう、ね。ぐうの音も出ないし、本来そうありたいよ僕だってー!wwって言う奴ですw
一人では考え付かない事が考え付き、一人では辿り着けないところに辿り着く。それが人間であり、同志であり、仲間であり、友達です。もっと話したいね(切実)。
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
更新お疲れ様ですvv
返信削除「三人寄れば文殊の知恵」ってやつですよね!
何人かで集まってあーでもないこーでもないやりながら一つの物事を組み立てていくのは結構楽しいですw
セクレアさんが有能な上司っぽくて好感度爆上がりです!w
依頼のきな臭さだけが気がかりなりよ…
いざとなったらパパがアルテマウェポンで助けに来てくれるので心配はいらない。(いらない。
今回も楽しませていただきました!
次回も楽しみにしてますよーv
>とみちゃん
削除感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
それそれ! まさに三人寄れば文殊の知恵って奴!!
みんなでやんややんや話し合って物事に当たるのって楽しいですよね…!w
有能な上司!ww セクレアさんの好感度が爆上がりしたの嬉しさしかないな…!ww 先輩冒険者を描く上でこんな誉め言葉はないですよ!(´▽`*) ありが㌧!
依頼のきな臭さ、どう転んでいくのか、どうか見届けて頂けますと幸いです…!
パパwwwwwwwアルテマウェポンで助けに来てくれるぐらい溺愛してるならもっと早く助けに来てもろてwwwwwww(笑)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!(´▽`*)