2024年12月14日土曜日

第10話 見えなくなる人、視えてしまった人

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第10話 見えなくなる人、視えてしまった人
第10話 見えなくなる人、視えてしまった人

「明日、陽が昇ったらお前の呪術を見せてくれ。気づいた事が有れば伝えると約束しよう。今日のところはこの暗さだ、見てやるにしても視界が悪い」
 ガージアさんはそう言って、もう焚火の前から動く気配は無さそうだった。
 私も勿論焚火の前から動く気は無かったので、それは有り難い申し出だった。
 遠くのような、近くのような、辺りに反響して聞こえてくるのはモンスターの鳴き声。この辺にはクァールやグゥーブー、ギガントードなどが生息していると聞いて、迂闊にセクレアさんから離れようものなら一息で仕留められちゃうと、先ほど改めて伝えられたからだ。
 そんな危険地帯でヌハから離れたのは如何に危なかったか、セクレアさんは言外に言い含めて優しく注意してくれた。
 モンスターが蔓延る、街の外の世界。ウルダハから一歩外に出ただけでも、カクターやマーモットと言った大人しいモンスターだけじゃなく少しでも道を逸れるとモングレルやペイストと言った凶暴なモンスターが襲い掛かって来る事が有る、と聞いている。
 私はまだ、ウルダハから離れた場所まで冒険できる程の力も無ければ、知識も仲間も無い。だから近場で大人しいモンスターの駆除や、落とし物探しや荷物の運搬などが主な依頼で、呪術士としての力が必要とされる事なんてあんまり無かったけれど……
 ここは、その呪術士としての力が無いと生き残れない、そういう場所だ。セクレアさんも、ガージアさんも、それだけの力を持っているからこそ、こうして平然とモンスターが闊歩する地域でも会話が出来ているんだろう。
 いいや、きっと力だけではない。知識や情報、度胸や心構え、色々な力が総合的に備わっているからこそ、なんだと思う。私は冒険者として、まだまだ若葉だから、足りない物より、足りている物を数えた方が早いと言うものだ。
「ん、そういう事ならとっとと寝な。明日も朝一で強盗団を探さなきゃならねーんだからな」セクレアさんがヌハに手招きを始めた。「ヌハ、ウイに添い寝してやれよ。オレだとまた潰しかねねーからさ」
「クエェ?(添い寝? 別に良いけど)」ヌハが私に覆い被さるように羽で私の体を覆ってくれた。「クエ!(温かいでしょ? 安心して眠って良いからね!)」
「ヌハ、有り難う……!」ふわふわの羽毛に包まれて、あっと言う間に眠気が顔を出してきた。「す、済みません、お先に……失礼しま……す……」
 急激に襲われた眠気に、そのまま意識を手放してしまう。
 ふわふわした気持ちで、雲の中を漂っているような感覚に包まれる。
「――――本当に、俺が強盗団ではないと信じてるのか?」
 雲の隙間から、人の話し声が聞こえてくる。
「さぁね。オレはただ、説明された事を先入観無しに認めてるだけだ。お前が強盗団の一人だと自白するなら、それはそれで、首輪でも付けてリムサ・ロミンサまで連行するだけだが?」
「……そこの小娘が危険に晒されたとしても、同じセリフを吐けるのか?」
「オレがそんな間抜けに見えてるってんなら早急に眼鏡を買った方が良いぜ?」
「……食えない女だ」
「ったりめーよ、煮ても焼いても食えねえ冒険者じゃなけりゃ、この世は渡っていけねえさ」
 ……そこで声は鳴り止んで、私は気づいたら目が覚めていた。
 辺りは薄い靄が掛かってはいるが、薄暗かった世界が今や光に満ち溢れている。
 ヌハの羽毛に包まれていたまま、すっかり爆睡していたようだ。ヌハも気持ちよく寝ているみたいで、私を抱き締めたまま規則正しい寝息を漏らしている。
 焚火は消えていて、近くにはセクレアさんが立膝を着いたまま眠りに就いている姿が見えた。
「うぅ……ん、初めて野宿しちゃったな……」
 ウルダハの宿屋、砂時計亭の客室以外での、初めての朝に、私は大きく伸びをして、……脱力。
 モンスターに襲われなかったのは、単純に運が良かっただけなのか、それとも二人の強い冒険者に恐れを為して近寄って来なかっただけなのか、結局判然としないままだった。
「って、アレ? ガージアさんは……」
 辺りに姿は無く、セクレアさんはスヤスヤ眠ったまま気づいた様子が無い。
 どこに行ったんだろう、と思ってヌハの羽毛から這い出て、辺りをきょろきょろ見回す。
「ガージアさん……呪術を見てくれるって言ってたけど、急用でも出来たのかな……」
 そう口に出す事で、自分の中に塞ぎ込まれていた可能性を、何とかして表出しないように思い込む。
 ガージアさんが、本当は強盗団だったら、と言う考えたくない可能性。
 状況証拠は揃っていたし、本人も否定する事は無かった。だけど、何と無く一緒にご飯を食べて、少しだけお話をする機会に恵まれて、もしかしたら私の思い違いで、たまたま居合わせただけの冒険者だったんじゃないかって、ずっとそう、思い込みたくて……
 悄然と、実際は考えるまでも無くそうだったでしょ? と現実に嗤われているような気がして俯いていると、すぐ近くに人の気配がして、「あっ、帰ってきた――」とまで口にしかけて、言葉が喉に痞えた。
 二人組の男だった。ヒューラン族の男と、ルガディン族の男。二人ともしっかりした服装を纏っていて、それがリムサ・ロミンサに居た時に教えられた、黒渦団の正装だと一目で分かった。
 ルガディン族の男が私に気づいて、愛想笑いだと分かる、どこか薄い笑みを浮かべて会釈をした。
「冒険者の方かな? 私達は黒渦団の者なのだが、今ね、人を探していてな。エレゼン族の男なのだが、心当たりは無いだろうか?」
「え……」
「奴は凶悪な無法者でね、もし見掛けたのならどこに行ったのか知りたいのだが……」
 顔から血の気が引いていく想いだった。段々と足から力が抜けていって、気づいたら尻餅を着いていた。
 やっぱり、ガージアさんは強盗団だったのだろうか。黒渦団の人が言う特徴とも当て嵌まるし、だとしたら私は……
「あ、あぅ、その……」
 ルガディン族の男とヒューラン族の男が顔を見合わせ、先ほどより険しい表情で私を見つめる。
「……心当たりが、有るんだな? 聞かせて貰えないか、奴は今、どこに居る?」
「あ、あぅ……えと……」
「おい、大事な話なんだ。日和ってねえでとっとと言わねえか!」
 ヒューラン族の男が怒鳴り散らすと、私は驚きのあまり全身を震わせて瞑目してしまう。
 怖い。でも、ちゃんと伝えなきゃ。
 そう思って目を開けた時、視界に真っ先に飛び込んできたのは、ルガディン族の男の腰に提げられた武器だった。
 私はあんまり詳しくないけど、それは銃と呼ばれる武器だ。黒渦団は元々海賊の都で活動する組織、船上で戦う事も有るだろうから、武器に銃を備えておくのだろう。
 その銃に視線が吸い込まれるように、視界が段々とノイズ掛かっていく。頭が割れるような頭痛と、音と映像が崩壊していく恐ろしい感覚に襲われて、私は声も出せずに助けを求めて――――次の瞬間、視界が戻ってきた。
 しかし、見えている物がちぐはぐだった。普段の自分とは異なる視点……それが一瞬で理解できるぐらいには、視座が高い。
 視界には、先ほど眼前で怒鳴り散らしたヒューラン族の男が映っていた。
「見つからねえな……このままだと計画がパァじゃねえか。どうすんだよ、帝国のクズ共と取引してまで手に入れた爆薬……タイタン様にどう申し開きすりゃ……」
「落ち着けよ、野郎は肩に一発、銃弾喰らってんだ、そう遠くまで逃げられねえ筈だ。冒険者ギルドが勘付く前にとっ捕まえて、その辺に死体をぶち撒きゃ良いだろ。クァール共が骨まで残さず食い尽くしてくれるだろうよ」
「ああくそッ、あの野郎、タイタン様に忠誠を誓ってるように見せかけてるだけで、ずっと俺達の事を監視してたって知った今、見つけ次第どうぶち殺してやろうかってばかり考えちまうぜ……!」
 ヒューラン族の男と、ルガディン族の男の会話が、音としてではなく、感覚でこう言っている、と伝わってくる。
 その悍ましい会話が締め括られようとしたその時、私のノイズ交じりの視界には、何故か、“私の姿が映り込んだ”。
「――――“冒険者の方かな?”」と、確かに視界の主はそう言って、私の視界はノイズが消え去り、元の視界……見上げるほど大柄なルガディン族の男が、冷たい表情で私を見下ろしている姿が――――
「……? どうした? 何か思い出したか?」
 ルガディン族の男がスッと手を差し出してきた瞬間、尻餅を着いたまま後じさりしてしまった。
「あ、これは、その……」
「…………」
 ルガディン族の男は、冷たい表情のまま私を見下ろすだけで、声は掛けてこなかった。
 その手の指が、ゆっくりと腰に提げられた銃に向かっている事に気づいて、私は思わず声を上げようとして――――「おぅ、どうしたウイ? またトラブルか?」と、背後からセクレアさんの声が聞こえた。
 ルガディン族の男の指が止まり、ヒューラン族の男も醒めた表情で私の背後に視線を向ける。
「何だぁ? どういう状況だ? 説明してくれ」
「あ、あの……!」と言いかけて、やっと立ち上がる事が出来た。「そ、その人なら、たぶん、ワインポートの方に行ったのを……見た……気がします! たぶん!」
 ルガディン族の男とヒューラン族の男は顔を見合わせ、改めて私に視線を向けた。
「ワインポート、ね。情報提供助かる」ルガディン族の男は軽く会釈をすると、ヒューラン族の男の肩を叩いた。「ワインポートからデネベール関門を抜けられると厄介だ、急ぐぞ」
「ちッ、手間掛けさせやがって……」ヒューラン族の男は舌打ちをしてから、振り返りもせずに走り去って行った。
 残されたセクレアさんが「何だったんだ?」と私に説明を求めていたけれど、私は暫く放心していて、何が何だかと言う態で、事情も知らない彼女に助けを求めるような顔を向けてしまうのだった。

🌠後書

 約1週間振りの最新話更新です! 程々にお待たせ致しましたーッ!
 と言う訳でいよいよおかしくなってきちゃったウイちゃんの回でした。FF14メインクエストでも思いますけれど、あんなピンポイントで過去の映像が見られちゃったら、そりゃもう無双にもなりますよそりゃあw
 FF14メインクエストとは異なる形のと言うか、異聞と言う形での光の戦士の物語なので、本編と似たような力が使えたり使えなかったりするウイちゃんです。英雄様と呼ばれるようになるにはまだまだですけれど、もしかしたらそのうち…! ね!w
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

※2024/12/22■校正済み

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    視えちゃったかぁ~…星に巣食う病巣とまで言われたはいでりんに取り憑かれてしまったわけですね。(言い方
    ばんばん力を蓄えて、お父上を超える存在になれるようしっかりやりなさいとhでりんが言ってますよ。あしえん方面からも応援メッセージが届いています!

    ちょっと予想もしなかった展開にびっくりw
    でも…すっごくありだと思います!
    見えなくなっちゃった人はよかった、ほっとしました。でも早めのフォローをお願いするます。

    どう転んでも面白そうにしかならない予感!がんばれウイちゃん!!

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

      視えちゃいました…!ww はいでりんぼろくそに言われててめちゃ笑ったwwwwwそれだよそれそれwwwwwww(笑)
      あしえん方面からも応援メッセージが!wwww御父上閣下を超える存在ともなるともう完全に英雄ですね…!www(笑)

      おおお!ww 予想を超える展開を綴れたみたいで嬉しいですぞ~!(´▽`*)
      ですね! あの二人なら早急にフォローしてくれると思いますので、ご安心ください!

      ウイちゃん、どんどん面白い方に転がっていくので、どうかお見逃しなくーっ!!┗(^ω^)┛ 応援有り難う御座います~!!(´▽`*)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!(´▽`*)
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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第14話 可能性を視て、未来を書き換えて

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