ネトゲ百合とサンタさん
ネトゲ百合とサンタさん
「もうクリスマスかぁ。時が経つのはあっと言う間だなぁ」
ハンドルネーム“座長”は色取り取りのイルミネーションが飾られた大型ショッピングモールの中を歩きながら、感慨深そうに呟いた。
隣を歩く、ハンドルネーム“ジン”も「ですね~、気づいたらあの遭遇から一年かぁ」と、倣うように感慨深そうに吐息を漏らす。
「あれが無ければ、こんな関係にはなってなかっただろうね」ジンを振り返って微笑む座長。「あの時ご飯買いに出掛けたの本当にグッジョブだったと思うワケよ」
「私も丁度あの時ジュースが切れてて、買いに出掛けたら……ですもんね。ほんとあの時の私はグッジョブでした……!」
二人してはにかみ笑い合い、手を繋いで店内を見て回る。
「FPがサ終して暫く経つけど、まだ次のゲーム見つからないね~」座長が溜め息交じりに呟く。「代わりのゲームなんて幾らでも有ると思ったけど、中々これってのが……」
「思い出補正も有りますからね~。座長さんとならどんなゲームでも良いって言った手前、ちょっと申し訳ないですけど……」
「いあいあ、こういうのってフィーリングが大事でしょ。合う合わないはやっぱり有るって」
「そういうものでしょうか……」「そういうもんだよ~」
ジンが申し訳なさそうに項垂れるのを見て、空いた手でポンポン頭を撫でる座長。
ジンはどこか嬉しそうに口元をにやけさせると、不意に前方に立つ人物に目が留まり、立ち止まる。
「メリークリスマス! サンタさんじゃよ!」
赤と白のめでたそうな衣装に身を包んだ、白髭をたっぷり蓄えたお爺さん。名乗った通り、見るからにサンタだった。
「あ、ティッシュは別にいらないです」
サッとお断りのチョップをする座長に、サンタは「へ? アンタ、プレゼントにティッシュ貰うのサンタさんから?」と間の抜けた顔を返した。
「え? 違うの?」不思議そうに問い返す座長。「携帯もまだ買い替える予定は無いよ」
「何でサンタさんが携帯の買い替え勧めるんじゃ……」サンタが不服そうに呟く。「もしやこの世界のサンタさん像、歪んでない??」
「それも違うの? あ、呼び込み? あたしらただ散歩してるだけだからのーせんきゅーなんだけど」
「違わい! 聞いて! サンタさんの仕事は良い子にプレゼントを配る事! そうじゃろ!?」「そんな真っ当なサンタさん初めて見たよ……」「ええ……」
どこか呆れた様子の座長に、更に呆れた様子で肩を落とすサンタ。
「サンタさん、この店の従業員じゃない感じなんです?」ジンが思わずと言った様子で声を掛ける。「勝手に商売したら、警備員が飛んできません?」
「え、そうなの? じゃなくて! ワシ別に商売なんてしとらんよ! 良い子にプレゼントを配ってるだけ! だってサンタじゃもん!」
「何でそんなサンタが店の中をうろついてんだよ……しかもまだ昼間だぞ……」呆れ果てた様子でぼやく座長。「変な奴に捕まっちゃったな~。警備員さん呼んでこよっか?」
「待って待って! ワシほんとただ良い子にプレゼントしたいだけじゃから!! 警備員を呼ぶのは待って!!」思わず座長にしがみつくサンタ。
「座長さん、話だけでも聞いてみては……?」恐る恐ると言った態で声を掛けるジン。「プレゼントも、アレな奴だったら捨てれば良いじゃないですか」
「親切な子かと思ったらエグい事言いよるし……時代が進み過ぎてサンタさんの有り難味が薄れちゃったのかのぅ……」サンタが物悲しげに目元を拭う。「ともあれじゃ、良い子の二人にはプレゼントをやろう! ほれ!」
「ほれ! て……」座長がサンタから受け取ったのは、ティッシュ箱ぐらいのパッケージだった。「ん? なにこれ、ファンタジーポケットオフライン版……?」
「そうじゃ! それが有ればどこでもファンタジーポケットが遊べるじゃろ!? ナイスワシ!」グッと自らサムズアップするサンタ。「どれ、君にも同じ物をやろう」
「あ、ありがとうございます……」ファンタジーポケットオフライン版のパッケージを受け取るジン。「でもこれ……マルチプレイ要素無しって書いてありますよ……?」
「ん? それがどうしたんじゃ?」不思議そうに小首を傾げるサンタ。「二人とも、そのゲームが好きなんじゃろ? またプレイできてハッピー! じゃないの?」
「いやまぁ、このゲームは好きだけど……何て言うか、このゲームでチャットをするのが好きだっただけって言うか……」歯切れ悪く頭を掻く座長。「別にゲーム自体は別に……」
「…………」
サンタがスン……と表情を引っ込めて白目を剥いている。
「と言う訳じゃ! メリークリスマス! 良い聖夜を!」
突然走り出して二人の前から姿を消すサンタに、追い駆けるように警備員が「待てそこの不審者! 待ちなさい!」と駆け抜けて行った。
取り残された二人は互いに顔を見据え合い、「何だったんだ……?」「さぁ……?」と小首を傾げ合うと、おかしくなって互いに笑い出してしまった。
「ま、折角のプレゼントだし、帰ったらちょっとやってみよっか。マルチプレイできなくても、今は隣で一緒にゲームできるもんね」
「ですです! またファンタジーポケットに触れられると思ってませんでしたし、サンタさんに感謝しなきゃですね!」
そう言って二人は笑い合い、雑踏の中に消えていく。
その後サンタは警備員に捕まって散々お叱りを受けたそうだが、それはまた別の話。
メリークリスマス!
🌠後書
最終話を迎えてから5ヶ月の歳月を経て、まさかクリスマス短編を綴る事になろうとは(笑)。
単行本が出てないからまだ収録チャンスが有る! と言うのと、今年はクリスマスを迎えるに当たってだいぶ余裕が有ったので、ふわぁ~っと妄想した感じ、今年はネトゲ百合でクリスマスを迎えたいなと思い、筆を執った次第です(´▽`*)
思いの外彼女らのその後を綴りたかった欲が有ったのか、或いは3~4年振りぐらいに登場するサンタが懐かし過ぎたのか、若干筆が踊って楽しく綴れましたw
と言う訳でメリークリスマス! どうか素敵な聖夜を過ごされますように!
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
めるりぃ~くりすま~すvv
返信削除まさかこんなところで再会できるとは…
その後の彼女たちが相変わらずで大変うれしゅうございます!
散々やきもきさせてくれてたそこの二人!末永くお幸せになっ!!!
そしてもうひとり久しぶりな方がww
あ、あれれ…そっそうだよね、お叱りだけでいいんだよね。
毎回流血の惨事は大変だものね。今回ぐらいはね…
次回「血のクリスマス・ショッピングモールの惨劇!」
乞うご期待!!!
今回も楽しませていただきました!
彼女たちが元気で良かったです!!!ありがとうございました!
>つとみサンタさん
削除めるりぃ~くりすま~す!!(´▽`*)
私もまさかあの続きを綴る事になるとは思いませんでしたww それもクリスマス短編で!ww
尤も、書き下ろしを執筆する予定ではいたので、また彼女らの行く末をふわっと綴れたのは嬉しかったです!(´▽`*)
そうお久し振りの方ですwww(笑)
毎回流血の惨事wwwwwしかも避けられたと思ったら避けられてねーじゃねーか!wwwwwwwww(笑)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
元気な姿をお見せできて私も良かったです! こちらこそありがとうございました~!!(´▽`*)