2025年1月10日金曜日

第16話 追い駆ける背は、とても遠いけれど

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第16話 追い駆ける背は、とても遠いけれど

第16話 追い駆ける背は、とても遠いけれど


「帰ってきちゃった……けど……」
 錬金術師ギルドの前で、ピタリと足が止まってしまった。
 ベスパーベイからウルダハに戻るまでは、どういう挨拶で錬金術師ギルドに入ろうかと考えていたのに、いざ目の前まで来ると、あれだけ自信満々でフェリードックから定期便に乗り込んだのに、あっと言う間に霧散してしまった。
 マテオさんに話したあの秘密が、みんなに知れ渡っていたら。入った途端に石でも投げつけられたら、もう立ち直る事なんて出来そうに無い。
 ゴクリ、と生唾を呑み込んで立ち竦んでしまう。今度セクレアさんに会ったら、自信が付いた自分で見返してやろうと思った意気込みはすっかり引っ込んでしまい、いつもの狼狽した己が顔を覗かせていた。
「そこで立ち止まられると通行の邪魔だよ?」
 背後から声を掛けられ、「はいッ!? ごめんなさい!」と慌てて横にズレて、ズレてから、声を掛けてきた相手がマテオさんだって気づいた。
「あ……マテオ、さん……」
「ん? ってウイさんじゃん。今までどこ行ってたのさ、錬金術師ギルドの仕事溜まってるよ?」
 三日前に別れた時と同じ雰囲気で、マテオさんは私の背を押して錬金術師ギルドこと、フロンデール薬学院へと足を踏み入れる。
「えっ、あのっ、えぇっ?」
 戸惑いながらも中に入ると、錬金術師さん達が一斉にこちらを見て――――安堵した表情を一斉に見せた。
「良かった~! ウイさんやっと帰って来たぁ~!」「依頼が山のように溜まってるんだよ早く何とかしてくれぇ~」「この忙しい時にどこ行ってたの? 怒らないからお兄さんに話してご覧? ん?」「これで残業地獄から解放されるぞフゥ~ッ!」
 あっと言う間に周りを固められて、神輿のように担ぎ上げられて、気づいたらいつものスペースに下ろされて、その隣に山のような依頼書を置かれた。
「「「「「じゃ、そういう事で!」」」」」
 錬金術師さん達は嬉しそうな笑顔を浮かべて、あっと言う間に自分の持ち場に帰って行った。
 私は何が起こっているのか分からないまま、困惑した表情をマテオさんに向けて、「これは……??」と恐る恐る説明を求めると、彼は苦笑を浮かべて肩を竦めた。
「ウイさんが出掛けてた間に、繁忙期レベルの依頼が舞い込んでね。この三日間、みんな泣きながら徹夜して仕事に当たってたって訳。ウイさん、砂時計亭にも居なかったから、連絡付かなくてさ。もうみんな上へ下への大騒ぎさ」
「ご、ごめんなさい……そんな忙しいタイミングで、私……」
 申し訳なさで俯いてしまうと、マテオさんはそんな私の頭をポン、と撫でた。
「気にしないで。タイミングが悪かっただけだし、ウイさん、ちゃんと帰って来たし」
 涙目になりながら顔を上げると、マテオさんは穏やかな表情で微笑んでいた。
「それに、ウイさんが気にしてるかも知れないから念の為言っておくけど、」こほん、と空咳を挟むマテオさん。「ウイさんの出自と、錬金術の腕前は関係無いし、もっと言えば、冒険者とも関係は無いんだから、気にする事は無いし、僕らも気にしないからね。それだけは、言葉にしておくよ」
「マテオさん……」
「さ、それよりもだ」ポン、と私の肩を叩いて、昇天しそうな表情で私を正視するマテオさん。「ほんとまじでヤバい量の依頼が来てるから、頑張って乗り切ろうねウイさん!」
「は、はいぃ!!」
 あっと言う間に流されてしまったけれど、マテオさん、きっと誰にも話してないだろうし、分かっててそう言ってくれたんだなって思うと、心がポカポカしてきて、私は嬉しさで口の端が緩んでしまうのだった。
 それはそれとして、本当に依頼の量が尋常じゃない上に、期限もあんまり無くて、その日からほぼ徹夜で錬金薬や蒸留酒、繊維の染料なんかを作り続ける事になるのだった。

◇◆◇◆◇

「お疲れ様です。急ぎの依頼品に関してはこちらで納品してきますので、皆さんは一旦休憩なさってください」
 個人でチョコボを飼っている錬金術師さんが、依頼品を纏めて背負い込み、急ぎの品だけでも依頼人を回って納品してくると申し出たので、私達はそれを見送って、――大の字になって倒れ込んだ。
「これでやっと急ぎの依頼は終わったけど……全体で見ればまだ半分なんですよね……」マテオさんが白目を剥いている。「エナジー系のドリンクキメないともう動けないよ……」
「は、繁忙期ってこんな忙しいんですか……?」目を回しながら、私は隣に倒れ込んでいるマテオさんに声を掛けた。「蒸留酒がこんなにたくさん注文が入るなんて、初めての経験で……」
「あー、何かね、戦没者追悼式典が急に開催される事になってさ。その参加者に配るんだって、蒸留酒」マテオさんが起き上がりながら応じる。「光の戦士の再来って言われてる冒険者が焔神イフリートを討滅したって話も出てるし、もうウルダハはお祭り騒ぎさ」
「そうなんですね……!」
 確かに、ベスパーベイからウルダハに入ってすぐに感じたのは、未だかつて無いほどの活気だった。富者貧者問わず、みんな浮かれ切った感じで、何か良い事でも有ったのかな? 程度の認識でしか見えてなかったけど、そんな大変な事が有ったんだ。
「焔神イフリートって、蛮神、と呼ばれる奴ですか……?」
 つい先日、セクレアさんと冒険に出ていた時の事を思い出す。あの時に出てきた単語は、岩神タイタンだった。それとはまた異なる蛮族の神様……って事なんだろうか」
「僕も詳しくは知らないんだけどね。噂では、アマルジャ族って蛮族が信奉する蛮神らしいよ。神降ろしを成功させた事で、不滅隊や銅刃団にも凄い被害が出てるんだって」
「…………」
 聞いていて、私が体験した出来事を照らし合わせて、あれが如何に深刻な出来事だったのか、じわりじわりと実感が染み込んできた。
 光の戦士の再来とされる冒険者さんが討滅した、と言う話は、輝かしい戦果として語られているのだろうけれど、テンパード……その信徒と遭遇した私は、それがとても大変な事態……死と隣り合わせだったろう戦場を生き抜いたと言う、地獄からの生還者みたいなイメージの方が先に来てしまった。
 蛮神と直接対面したって事は、テンパードと対決しない訳が無い。どれだけ過酷で、どれだけ重い選択をしたのか、想像に難くなくて、咄嗟に返答の言葉が出てこなかった。
「……ウイさん?」不審に思ったのか、マテオさんが怪訝な面持ちで顔を覗き込んできた。「どうしたの? そんな怖い顔して」
「あっ、いえ……その冒険者さんも、大変だったろうな、って思っちゃって……」
「だよねぇ。蛮神と戦うってだけでも全身が震え上がっちゃうのに、討滅すらしちゃうなんて、僕らじゃ想像もつかない強さなんだろうね」
「……私達じゃ、想像もつかない強さ……」
 セクレアさんも、ガージアさんも、とても強そうな冒険者だと、……いや、とても強い冒険者だと、私は信じてる。
 そんな冒険者ですら、一手、一瞬選択を間違えただけで、呆気無く命を終える事を、知ってしまった。
 光の戦士の再来と言われている冒険者さんも、確かに強いのだろう。強くなければ、蛮神を討滅なんて出来っこないだろうし。でも、何より、それよりも。
 きっとその冒険者さんは、命の選択を間違えない、間違えたとしても生存に繋げられるだけの力が……あらゆる困難を超えていけるだけの、途轍もない力が……
「……もしかして、その冒険者さんって……」
 私と同じように、超える力を持っているのかな?
 もしそうだとしたら、ちょっぴり誇らしくなってくる。未来の英雄と同じ力で、誰かを助けられる、その可能性が。
 きっとそれは内緒にしておくべき事で、私も誰彼構わず吹聴なんてしないけれど。
 その冒険者さんが頑張るのなら、私も同じだけ頑張って、いつか追い着けるように。ううん。いつか、隣に並べるように。
 そんな冒険者になれるように、頑張らなくっちゃ!
「……ウイさん、何か嬉しそうだね?」
 マテオさんが不思議そうに声を掛けてきたので、私は微かに笑って、頷いた。
「へへ、私も負けていられないなって思っちゃって」言いながら立ち上がり、腕捲りする。「よーし、残りの依頼品に取り掛かっちゃいますよ! 次は錬金薬でしたね?」
 やる気満々で、目の前の仕事に取り掛かる。冒険者としては地味かも知れないし、光の戦士の再来と言われている冒険者に追い着く為には遠い遠い回り道かも知れない。
 それでもきっと。いつかその道が交わる日が来る事を信じて。
 未来の私が、冒険者になった事を誇れるように、頑張り続けるんだ。

🌠後書

 2日連続の更新です! 頑張り過ぎでは???(自画自賛)
 と言う訳でやっと1部完、みたいなところまで辿り着きましたw そう、まだ1部(序章?)なので、何か最終話みたいな終わり方してますけど、まだまだ続きます!w
 今回の物語は、FF14のメインクエストと並列する形で、光の戦士の傍らで、光の戦士にはなれないけれど、頑張っている冒険者さんも居るんだ、みたいな話に仕上がりつつあります(当初の構想をあんまり憶えてない奴)。
 今やっとイフリート討滅なので、光の戦士さんは今やっとLv20ぐらいかな? みたいなアレですw Lvだけで見たらウイちゃんとあんまり変わらないかもですね…!w(迅速魔を覚えるのがLv18)
 次のお話の構想もふわっと浮かんでいるので、次話もあんまり待たせずに投稿できると思います(´▽`*) 次のウイちゃんの冒険も、どうかお楽しみに!
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

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