第15話 いつかまた会えると信じてるから
第15話 いつかまた会えると信じてるから
リムサ・ロミンサのゼファー陸門に辿り着く頃には陽が傾き、夕暮れが綺麗に海面に反射して、都市全体が橙色に染め上げられていた。
私は帰り道、ヌハの背の上で気づいたらうたた寝していて、気づいた頃にはチョコボ留でヌハに揺さ振られておきる始末だった。
「ご、ごめんなさい、何かとても眠くて……!」
「良いって良いって。色々有り過ぎて疲れたんだろ?」チョコボポーターにヌハを預けながら、セクレアさんが笑いかける。「刺激が多過ぎて消化しきれなかったんじゃねーか? 冒険者をやっていけば、どんどんこういう経験が増えてくんだ、堪らねえよな?」
「クエ!(早く帰ってきてね!)」ヌハがセクレアさんに向かって鳴くと、彼女は「ん? 何て言ったか分かるかウウイ?」と私に向かって首を傾げた。
「あ、早く帰ってきて、って……」
「おいおい、可愛げ有るとこ見せんじゃねーよ、扱い難くなるだろてめー」
ウリウリ、とヌハの嘴を撫でるセクレアさんに、ヌハは「クエェ……(分かったから早く行きなよ、報告がまだなんでしょ?)」と呆れた様子で鳴いた。
「どうだ? ヌハの奴、喜んでるか?」セクレアさんがウキウキした顔で私を振り返る。「テンションは落ちてるみてーだけど」
「あはは……」流石に言葉に出来なくて、苦笑いで誤魔化す事にした。
「それでは俺はここで失礼する」
先にブルワークホールを示したガージアさんは、優雅なお辞儀を見せてくれた。
「お前達が居なければ、ここまで滞り無く問題を解決できなかっただろう。心の底から感謝している。助かった」
「いえっ、そんな……!」慌ててフルフルと頭を振る。「私の方こそ、こんな素敵な呪具を頂いてしまって……っ!」
言いながらスタッグホーンスタッフを掲げるも、彼は思わず微笑を浮かべて、小さく頭を振ってから告げた。
「礼には少な過ぎる代物だ。後日改めて謝礼に伺いたいと思っている」言ってから、ガージアさんは何かを思い出したのか、走り書きの紙切れを手渡してきた。「西ザナラーンの、ベスパーベイに在る砂の家と呼ばれる場所に、俺の所属している秘密結社の本拠地が有る。もし興味が有れば訪ねてみてくれ」
手渡された紙切れには、ベスパーベイの詳細な地図と、恐らくは砂の家と呼ばれる場所の所在地が記されていた。
「有り難う御座います! でも私、お役に立てるとは……」
「お前の気が向いた時で構わないさ。困った事が有ったらいつでも訪ねてきてくれ。ではな」
柔らかく微笑むと、ガージアさんは颯爽と歩き出し、あっと言う間に雑踏に紛れて見えなくなってしまった。
「こっちの挨拶も待たずに立ち去るとは、よほど当主に早く伝えたかったんだろうな」クク、とおかしそうに笑うセクレアさん。「ま、構いやしねーけどな。俺達も行こうぜ、依頼の報告に」
「は、はいっ!」
セクレアさんに連れられ、ブルワークホールからクロウズリフトに乗って、二階の溺れた海豚亭に辿り着くと、そのままギルドリーヴの受付に向かって行った。
私は溺れた海豚亭の只中で報告が終わるのを待機していたのだけれど、辺りから漂う美味しそうな香りに、お腹がキュルキュルと鳴り出して、だいぶ恥ずかしい想いだった。
「おぅ、待たせたな。無事報告完了! これで依頼は完遂だ、やったな!」
「いえーい!」とハイタッチの仕草をするセクレアさんに、私も「い、いえーい」とハイタッチを交わして、恥ずかしかったけど嬉しい気持ちで胸がホクホクした。
「じゃ、ほい。これがウウイの取り分な」
そう言って手渡された金貨袋の重みに、私はギョッと目を瞠った。
「す、凄い重いですよ!? こんな頂いちゃったらセクレアさんの分が無くなるんじゃ……!?」
「無くならねーよ!」思わず噴き出すセクレアさん。「正当な報酬だ、しっかり受け取ってくれよ? それはお前が冒険者として正規に活動して得た報酬なんだ、もう一端の冒険者だな!」
ヒヒヒ、と意地の悪い笑い声を漏らしながら頭を掻き混ぜてくるセクレアさんに構えないほど、私は金貨袋の重みを感じるので一杯で、思考がすっかり飛んでいた。
これが、私が冒険者として活動して得た、報酬……
セクレアさんのお供をするだけだったのが、ガージアさんと出会って、強盗団と本当に遭遇して、セクレアさんが凄い勢いで倒しちゃって、最後の最後で大惨事を防げて……
ガージアさんから受け取ったスタッグホーンスタッフをギュッと握り締める。私でも、冒険者を続けても良いんだって勇気と、度胸を、先達の二人から受け取ったような、そんな想いだった。
「……あの、セクレアさん」
「ん? どした?」
私の頭を掻き混ぜていた手を止めて、セクレアさんは私に視線を合わせた。私はそんなセクレアさんを正視して、口を開いた。
「この報酬で、セクレアさんにご飯を奢りたいのですけど……良いですか?」
「へ? あぁ、別に構わねえけど……何でまた?」
「私、セクレアさんと出会ってなかったら、きっと……冒険者、辞めちゃってたと思うんです。だから、お礼、したくて……」
セクレアさんの事をそこまでよく知っている訳ではない。けれど、予感が有った。明日にはきっと、もう彼女とは別れている、と。
ガージアさんのように、別れを言う暇さえ無く。きっと、明日には私の目の前から居なくなっている。そんな予感が有ったからこそ、今夜の内に、お礼をしたかった。
セクレアさんはそんな私の意図を見抜いたのか分からなかったけど、ニヤリと口の端を歪めると、ポン、と私の頭を撫でた。
「そういう事なら断る訳にゃあいかねーな! たっぷりご馳走して貰うとするかぁ!」
「やった! 有り難う御座います!」
「おいおい、何で奢られる側が感謝してんだよ、まぁいいけどさ!」言いながらセクレアさんは溺れた海豚亭のテーブルに着き、手を上げながら声を上げた。「おーい! こっちにキンキンに冷えたエールいっちょー! いや、にちょー!」
店員が大声で反芻し、準備を始めたのを見送りながら、私もセクレアさんと同じテーブルに着く。
たぶん彼女と最後の晩餐になるだろうこの時間は、きっと幸せな時間だと確信して、私は自然と笑顔になって、彼女と乾杯を交わすのだった。
◇◆◇◆◇
「……い、おーい、お嬢ちゃん、いつまでもそこで寝られてたら困るんだがね?」
「…………ふぇ?」
思わず顔を上げて辺りを見回すと、場所は溺れた海豚亭だと分かったが、外はすっかり夜明けを迎えて燦々とした陽光が差し込んでいるし、店内はエールを求めてではなくブレイクファストを食べに来ている客が集まりだしているところだった。
当然のようにセクレアさんは居なかったし、テーブルに山と積まれていた空の皿もすっかり片付けられてしまった後だった。
「あ、あの、一緒に居たヴィエラ族のお姉さんは……」
「ん? とっくの昔に出て行っちまったが……お前さんの事は自然に起きるまで起こさないで良いと言われちまってね。ただまぁこっちも商売してんでな、いつまでもって訳には……」
「そ、そうですか……ご、ごめんなさい……」
慌てて口元に広がっていた涎を拭って立ち上がると、御代を支払おうと金貨袋を開けると、店主さんは「おいおい、もう御代は頂いちまってるぜ?」と手で制止した。
「え? でも私……」
「ん? ……ははーん、じゃああのヴィエラ族の姉さんが気を利かせてくれたってこった。良かったな、ここじゃ悪い冒険者に捕まったら、今頃お前さんに大量の請求書が押し付けられてた筈だぜ?」
おかしそうに笑いながら立ち去って行く店主さんを、納得いかない顔をして見送った後、ふと金貨袋に小さな紙切れが入っている事に気づき、取り出して広げてみる。
『楽しかったぜ! 次会う時はもっと自信つけとけよ!
セクレア・グディーエ』
あまりに簡潔なその置手紙に、私は思わず噴き出しちゃって、暫くお腹を抱えて笑った後、お客さんに変な視線を向けられながら、溺れた海豚亭を後にした。
セクレアさんに、最初から最後までしてやられたけれど、次は絶対に、彼女の隣に立っても遜色無い冒険者になって、見返してやる!
そう決意を新たに、フェリードックへ向かう。
帰るんだ、ウルダハへ。その歩みに、もう迷いは無かった。
🌠後書
2日振りの最新話更新です! 今週3話目とか頑張ってるなぁ!(自画自賛
と言う訳で今回のお話。長かったセクレアさんのエピソードは一旦お終いです。一旦なので、またいつか出番が有るかも知れませんが、その時にはウイちゃんがしっかり成長した姿でだと信じてるので、いつになるかな…ww(笑)
凄い時間が経過しているようで、これたった二日間の出来事なんですよね…なんて濃厚な時間なんだ…!ww
英雄様と比較するのもアレですけど、凄まじい速度で成長しているウイちゃん。ウルダハに帰ってきたら何が待っているのか…お楽しみに!
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
更新お疲れ様ですvv
返信削除いやぁ~堪能させていただきました!
これだから冒険者はやめられねぇよなぁw良い仲間に恵まれて、少し(いや、かなりw)成長したウイちゃん…これからも楽しみにしていきます。
セクレアさんはこれからもう一件帝国で報告があるはずです。そしてこれからも電柱や柱の影からウイちゃんを見守っていくはずです。
ガーシアさん…秘密結社の本拠地はマジでやばいっす。どうしても行ってみたいときの合言葉はノギクだぜウイちゃん!(どうしてもいかせたくないww)
これからどうなっていくのでしょうか…楽しみに待ってますね!
今回も楽しませていただきました!
次回も楽しみにしてますよ~v