2025年1月7日火曜日

第14話 可能性を視て、未来を書き換えて

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第14話 可能性を視て、未来を書き換えて

第14話 可能性を視て、未来を書き換えて


「あ……!」
 全身がゾワリと粟立つ感覚が走り、直感として“悪い事が起こる”と分かっても、何がどう、悪い事なのか、そこまで意識が回らない。
 セクレアさんがヒューラン族の男の担ごうと屈み、手を差し伸べた瞬間だった。
 時間がスローモーションに流れるような錯覚に陥り、コマ送りで世界が動く。
 ヒューラン族の男の懐から赤熱して、セクレアさんが瞠目して、ガージアさんが咄嗟に「セクレア!」と怒号を張り上げながら彼女の体を押し倒そうとしたのに、全てが間に合わなくて。
 ヒューラン族の男を中心に吹き荒れた爆発で、セクレアさんも、ガージアさんも、全身をズタズタに引き裂かれて、抵抗する余地も無く吹き飛ばされ、私の元まで駆け抜けた爆風は、血と肉片と火薬の臭気を携えて纏わりつき、無事に解決したと思われた現場は、凄惨な事故現場に様相を変えてしまった。
 セクレアさんも、ガージアさんも、一目見て分かる程に肉体の損傷が激しく、とてもではないけれど、存命の可能性は絶望的だった。
「あ……あ……!」
 言葉にならない嗚咽が零れ出る。
 こんなの、誰も防げない。熟練の冒険者であっても、刹那に命を刈り取られて死んでしまうなんて。
「クエーッ!」
 ヌハの悲鳴が響き渡り、私はその反動でヌハの背から転げ落ち、尻餅を着いてしまった。 
 お尻が痛かったけれど、もうそんなのどうでもいいぐらいに、眼前には地獄が広がっている。
 肉片と鮮血が飛び散り、辺りは濃厚な死の匂いで充満していた。
 依頼は、達成したのかも知れない。事態は、収束に向かうのかも知れない。でも、だからって、こんな結末は……
「セクレア……さん……」
 震える声で漏れた呟きは、あまりにか細く、消え入りそうな程に弱々しかった。
 どうしたら、彼女を、二人を、助けられたんだろう。
 思考が空転する。結実した現実に、思考が明後日の方向に向かっている。
「クエーッ!」
 ヌハの声が遠い。意識が遠退いていくのを感じた。
 ごめんなさい。誰に謝っているのか分からないけれど、頭の中は謝罪の言葉で一杯だった。
「――――ハハハ、終わり良ければ全てヨシってな!」
 パチリと。目が覚めた感覚で、意識が現実に戻ってくる。
 目の前には、セクレアさんが居て、ガージアさんが居る。
 五体満足の、傷らしい傷が無い、息をしているセクレアさんと、ガージアさんが。
「え……?」
 私は瞠目して、言葉を失っている事に、二人は気づかない。
 ガージアさんの視線の先にはセクレアさんが居て、セクレアさんはヒューラン族の男の遺体に向かって手を伸ばそうとしていた。
「さっ、帰って報告だ報告! 依頼は依頼人にしっかり報告するまでが依頼だぜ?」
 セクレアさんが、油断しきった顔でヒューラン族の男の遺体を担ごうとした瞬間。私の意識は完全に覚醒し、今すべき事を、どうやったら叶うのか、どうすれば出来るのか、あらゆる思考をかなぐり捨てて、ヌハの背の上でスタッグホーンスタッフを抜き放ち、全身が脈打つ程のエーテルを感じながら、叫んだ。
「――――ブリザド!!!」
 スタッグホーンスタッフは、詠唱を破棄した呪術を履行し、先端から迸り出た冷気は過たずヒューラン族の男の遺体に着弾し、爆発の始まっていた何かを、直前で凍てつかせた。
 咄嗟に。呪術は詠唱無しでは行使できないと頭でも理性でも本能でも理解できていた筈なのに。あらゆる工程をスキップして、呪術それ自体を一言で発現できて、私は自分のした事に瞠目して、直後に意識が回転した。
「あ、おい、ウイ!」
 セクレアさんの声が遠い。ガージアさんも駆け寄って来る気配が有ったけれど、私はそこで意識を手放し、闇の中に溶け込んでいくのだった。
 不思議と恐怖は無く、安堵の感情が一杯で意識は途絶えた。

◇◆◇◆◇

「…………ここ、は……」
 朦朧とする意識の中。現実感の無い空間を漂っている自分を自覚した。
 大きな大きなクリスタルが眼前に浮いている。そう感じる自分自身も、何も無い空間に浮かんでいて、まるで真っ暗な水槽の中にでも閉じ込められているような感覚に満たされていた。
「……いて、……て、……がえて……」
 頭の中から、微かな女声が響いてくる。
 何を言っているのかまで分からないものの、敵意や害意と言った悪意は感じられない。優しく、何かを教えようと言う意志が仄かに感じられる。
「だれ……?」
「……聞いて、……感じて、……考えて、」
 やっと意味の有る単語として聞き取れたそのセリフは、何故か聞き覚えの有るセリフのように感じられるのに、どこでそのセリフを耳にしたのか思い出せない。
「……世界は……に、……ようとしています……」
 ピントが合わないような、ノイズが走っているような、ぼやけた意識で、女声の言葉を上手く聞き取れないし、受け入れられない。
 困っているようにも感じられるその声は、確かに私に対して何かを求めるように、言葉を紡いでいく。
「……の声を聞く者よ。我が名は、ハイデリン」
「ハイデリン……?」
「星の……は乱れ、世界……闇で満ちようと……」
「……光の意志を持つ者よ。……か、星を滅びより救う為に、あなたの力を……」
 ハイデリンと名乗った声は、そこで更にノイズが強くなり、徐々に声が遠退いていくのを感覚として感じ取った。
「光のクリスタルは……払う力……世界を巡り、光のクリスタルを手に入れるのです……」
「光の……クリスタル……?」
「どうか……あなたの力を……」
 急速に大きな大きなクリスタルから意識が遠退き、ゆっくりと瞼を開けると、雲一つ無い晴天の空が視界一杯に広がっていた。
「お、起きたか?」
 セクレアさんの声が聞こえて、ゆっくりと上体を起こす。辺りに視線を配ると、ワインポートのベンチに寝かされていたのだと分かった。
「私……」
「ウイ、いや、ウウイ。お前のお陰でオレは今こうして傷一つねー姿で居られるんだ。マジで命の恩人だぜ、ありがとな」
 ベンチに腰掛ける私に向かって、跪いて笑いかけるセクレアさんに、私は思わず手をワタワタと拱いてしまう。
「そんなっ、私もよく分かってなくてっ、無我夢中でっ!」
「だとしても、だろ? オレが命を救われた事には違いねーんだ、感謝は素直に受け取っとけよ」
 そう言ってセクレアさんは立ち上がると、そこにガージアさんが駆け寄って来た。
「ウイ……いや、ウウイは大丈夫なのか?」ガージアさんがセクレアさんに問いかけ、それから私に視線を転じると、セクレアさんのように跪いて視線を合わせてくれた。「意識を取り戻したんだな? 良かった。後遺症などは無いか?」
「あ、えと、そのぅ……私は大丈夫です。それより、お二人は大丈夫でしたか……?」
 恐る恐る問いかけると、二人は顔を見合わせ、苦笑を見せ合った。
「つい先日まで呪術が使えないと嘆いていた冒険者に命を助けられた挙句、倒れた自分の事など意に介さず俺の心配をされるとは……流石に立つ瀬が無いぞ」「それな!」
 完敗だ、と言わんばかりに肩を竦めるガージアさんを指差して笑い転げるセクレアさん。
 二人とも、どこにも傷らしい傷が無い事を確認して、私は改めて安堵の溜め息を落とした。
「岩神の信奉者だが、懐に鉱山の採掘用爆弾を隠し持っていたみたいでな。ウウイが咄嗟に放ったブリザドが当たらなければ、間違いなく俺もセクレアも木っ端微塵だった」ガージアさんが立ち上がったのに釣られ、私もベンチから降りて二人を見上げる。「単刀直入に訊く。何故爆弾が有ると分かった?」
 ガージアさんの視線は鋭かったけれど、決して敵意や害意は無いもので、ただ疑問を消化したいと言う意志を感じた。
 私はどう説明すれば良いのか分からなかったけれど、ありのままに伝えるしかないと思い、一度深呼吸した後、拙くは有るけど、口を開いた。
「それが……私、爆弾が爆発したのを見たんです。それで、時間が巻き戻ったような感じで、爆弾が爆発する直前に意識が戻って、もう今すぐにでもどうにしなくちゃって、体が勝手に……」
「そう、ビックリしたぜ。呪術が使えないって言うから、てっきり初歩のブリザドやファイアが精一杯なのかと思いきや、まさかのあの土壇場で迅速魔まで使いこなすとか、中々無いぜ?」
「え? じんそく……ま?」知らない単語に、小首を傾げてしまう。
「え? もしかして知らねーで使ってたのか?」
 セクレアさんと目が合い、私は「え、えへへ……何か勝手に出来たみたいです……」と照れて明後日の方向を向いてしまった。
「……未来視、の一種かも知れんな」ガージアさんがポツリと呟いた。「超える力を持つ者で、稀にそういう力が発現する者が居ると聞く。ただ、その未来視とは、避けられない確定した未来を視るモノであって、ウウイのように未来を変えるとなると、また別物かも知れんが……」
「すげーなウウイ、お前の成長が止まらなくてオレはもう感動が止まらねーよ!」私の頭をわしゃわしゃと掻き混ぜながらセクレアさんが笑う。「とんでもねー逸材に出会っちまったこの感動をどう伝えたら良いんだオレは!」
「お、おちっ、落ち着いてくださいぃ~!」髪の毛がぐしゃぐしゃになってしまって、目を回しそうになる。「お、お二人が無事だったのなら何でも良いです……だから頭を掻き混ぜないでぇ~」
 セクレアさんの暴走が止まるまで散々頭を掻き混ぜられた私は、ボサボサになってしまった髪を梳きながら二人を見上げる。
「これで……依頼は達成、って事で良いんですか……?」
「ん? いーや、さっきも言ったが依頼人に報告するまでが依頼だ。まだ奪取した帝国製の炸薬もここに有る訳だしな」と言ってセクレアさんが胸元をトントンと叩いた。「ウウイが目覚めるのを待ってたんだよ、さっ、リムサ・ロミンサに帰ろうぜ? ヌハもウウイを乗せたくてウズウズしてるみたいだしな」
 セクレアさんが振り向くのを待たずに、ヌハがズズイと身を乗り出してきて、私と顔を合わせた。
「クエ!(さっ、乗って乗って!)」
 嬉しそうに一鳴きするヌハに、私は嬉しくてその横顔を思わず撫でていた。くすぐったそうに目を細めるヌハを見て、やっと実感として、終わったんだと全身が弛緩するのを感じた。
 そうして。突然始まったセクレアさんのお供と言うクエストは、色々なトラブルが起きながらも、無事に終わろうとしていた。

🌠後書

 2日連続更新になります! 頑張った!!┗(^ω^)┛
 と言う訳で今回ですが、不穏を無事に解決するウイちゃんでした。いやもうこれどうするんだこれ…からの逆転勝利です。やっぱり冒険者ってこうでなくっちゃさぁ!!(会心の笑み)
 これでやっと今回の依頼も無事に終わりそうで人心地ですw いやまぁ依頼人に報告するまでが依頼とあるように、ちゃんと報告できるまで安心して良いのか疑問ですが! なのでもうちょっとだけセクレアさんとのお話は続きます。
 ウイちゃんの成長速度が尋常ならざる速度と言えばそうなのですけれど、FF14本編の主人公も大概な成長速度でしたよね…英雄になるまでの工程があまりにも短過ぎると思うの私!ww(笑)
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

2 件のコメント:

  1. 連夜の更新お疲れ様ですvv

    (ノ∀`)アチャーってなりましたよ…
    そこからまさかのロールバック戻します発動、ギウラスもびっくりですよww
    否応なしに巻き込まれていってしまう物語に魅入られてしまった冒険者がまた一人…

    ウイちゃんさすがです、あたふたばっかりじゃないってところ、見せていただきました。もうなにもないよね?w

    ハイデリン…やばいですね、これは異能を集め囲っている集団の長みんf(おっと さんがしれっと「あなたが噂の冒険者ねっ!」とか言いながらすげー勢いで距離を詰めてきそうです。ウイちゃん!はやくっ!!

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

    返信削除
    返信
    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
      返信遅くなってごめんね!

      アチャーってなりますよね…!ww もうダメかぁ~からのロールバック戻します!! ギウラスの名前がここで出るのがもう流石としかwwwwww(笑)
      (ΦωΦ)フフフ…また冒険者が一人、物語に魅入られてホクホクです…!w┗(^ω^)┛

      ウイちゃん、やる時はやってくれる子と言うのをばっちり描写できてたみたいでホッとしました…!w さ、流石にもう何も無い…んじゃないかな…!wwww(笑)

      みんf(おっと さん、もうガージアさん経由でロックオンされててもおかしくない活躍をしてしまいましたからね…!www 遠くない未来でそのセリフが聞けるかも知れません…!wwww(笑)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

      削除

第14話 可能性を視て、未来を書き換えて

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説) 第14話 可能性を視て、未来を書き換えて