2025年1月6日月曜日

第13話 先達として立ち、信心を絶つ

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第13話 先達として立ち、信心を絶つ

第13話 先達として立ち、信心を絶つ


「帝国軍の最新型炸薬をリムサ・ロミンサまで運搬するのはセクレア、お前に頼みたい。頼みたいが……テンパードと化した黒渦団の二人を、俺とウイだけでどうにかするのは難しいだろう。手を貸して貰えるか?」
「固よりそのつもりだぜ。荒事になる前提でこっちは出向いてんだ、今更逃げの一手で終わらせようなんざ思ってねーよ」
 ガージアさんの申し出に、挑発するように同意するセクレアさんを見てると、この二人が居れば私が居なくても問題無いんじゃないかなって思えてきさえする。
「テンパード……って、何ですか?」
 ヌハに跨りながら、眼下のセクレアさんに問いかける。戦力的には問題無いとは言え、無闇に戦闘をするつもりが無いと言う表明なのか、チョコボの背で待機を命じられてしまったのだ。
 フサフサのチョコボの体毛に癒されながら、セクレアさんを見つめると、彼女は、「あぁ、そう言やテンパードって普通に冒険者やってる分には聞かねえかもな」と頷いて、私を見上げた。
「蛮族が信奉する蛮神……その信徒をテンパードって言うんだけどよ、これが厄介でな。蛮神に見初められた人間……テンパードになっちまった人間は、もう元には戻らねえんだ。生卵を茹で卵にしちまったら、もう生卵には戻せねえみたいな感じだな」
「え……じゃあさっきの二人組は……えぇと、タイタン……と言う蛮神の信徒、って言う事ですか……?」
「そうなるな」首肯を返してくれたのはガージアさんだった。「一度信徒になった者は処分するしかない。生きている限り、あらゆる行動を蛮神に捧げるようになるんだ、このまま逃がす訳にはいかない」
「処分……」
 言い方はキツいけれど、それでもまだ優しい言い方にしてくれたのかな、って思ってしまう。
 つまりあの黒渦団の格好をした二人組は、元々黒渦団の一員だったのかも知れないけれど、タイタンに見初められてしまったばかりに、タイタンにとって都合の良い行動しか出来ないように、或る種洗脳されてしまった……それも、一度掛けたら二度と解けない洗脳を。
 そんな二人をこのまま放置したらどうなるのか。タイタンの元に戻ってまた悪事を働くのかも知れないけれど、今彼らは私の言質通りに行動しているならば、ワインポートに向かって……デネベール関門まで辿り着いているかも知れない。
 リムサ・ロミンサまで陸路で、ガージアさんが見つからないと察した時、どんな行動を起こすのだろう。すごすごと帰途に着くのか、それとも……
「……黒渦団に、もう自分の素性がバレてるってなったら、自暴自棄になって、ワインポートを……リムサ・ロミンサを、襲撃する恐れが有る……?」
 ヌハの背の上で、口元を押さえるようにして漏らした言葉に、セクレアさんもガージアさんも、首肯を返した。
「本来の目的が達成できない敗残兵が何をするか。己の身を偽って所属していた組織にも戻れぬのならば、岩神の居城にただ帰るなど有り得ない」ガージアさんが隣を歩きながら呟く。「殺し、奪い、犯し、燃やす。悪逆の限りを尽くす。作戦失敗の帳尻を少しでも合わせようとする」
「元々キャンプ・オーバールックを焦土に化す予定だったんだろ? それが出来ねえって分かったなら、そりゃ代わりの悪い事をするに決まってる」セクレアさんが手振りを交えて皮肉っぽく笑った。「まだ黒渦団の制服を纏っていても疑われないギリギリまで、その権限で人間様の困る事をやる。それを止めるまでが依頼っつー事だな」
 ガージアさんもセクレアさんも事も無げに告げるけれど、この後待っているのが、黒渦団の制服を纏った信奉者との死闘なのだと、否応にも理解させられた。
 殺めなければ、もっと酷い被害が出る。もっと大変な事になる。それが理解できるだけに、ヌハの手綱を握る指が自然と力強く締められる。
 そう、事も無げに話しているけれど、これから始まるのは、野生のモンスターを相手に戦う自然の摂理ではなく、明確な殺意を伴って襲い掛かってくる人間との殺し合いなのだ。それが恐ろしくない訳が無い。
 でも……何と無く察する。そういう事態も含めて、冒険者は壁を超えていかなければならないのだと。誰かが困っているのなら、それを手助けする為に出来る事を……全力で挑む。それが、誰かの死に繋がるとしても。
 自然と体が震えそうになったけれど、セクレアさんが背中をポン、と叩いて笑いかけてくれた。
「心配すんな。ウイが戦力になるって分かったが、メインで戦うのはオレとガージアだ。無理はさせねーよ」
「は、はい……」
 気遣われているのだと咄嗟に分かってしまった。
 戦闘の経験が全然無い私が足手纏いと言うのは、今に始まった事じゃない。それでも私を鉄火場に連れて行こうとするのは、少しでも生存率を上げる為……作戦の成功率を上げる為に、ゲイラキトンの手も借りたいって事なのだろう。
 足手纏いなりに、二人の邪魔はしないように立ち回りたいのと、彼らが少しでも楽に立ち回れるように、考えて動きたい……そんな思考が、緊張感に支配された頭で沸々と煮えていた。
 正直に言えば、恐怖の方が勝っている。けれど、こんな間近で熟練の冒険者の戦闘を窺い知れる経験なんて、早々積める事は無いだろうって言う事実が、血を沸かせる程に興奮する。
 今私は、きっと危険な場所に居る。危険な場所に居るからこそ積める経験を、今全身で感じているのだ。
「イイ顔してるじゃねーか。冒険者はそうでなくっちゃな!」
 バンバンと背中を叩かれて、私は思わず噎せ返りそうになった。
 セクレアさんはニカッと、いつものやんちゃな少年っぽい笑顔を覗かせると、一歩先に前に出た。
「ヌハ、そこで待機してろ。まずはオレが出る」
 ワインポートに入ろうとした、その時だ。
 丁度中から例の二人組が剣呑な表情で出てきたところと遭遇し、セクレアさんが前に出て、二人組に向かって進んで行く。
 いつの間にかガージアさんは姿を消していて、私は息の詰まる想いでセクレアさんを見つめる。
「あぁ、先程の冒険者か」黒渦団の制服を纏ったルガディン族の男がセクレアさんに気づく。「こちらに向かったとの話だが、間違いないのかね? 目撃証言が今一つ……」
「おぅ、オレも訊きたい事が有ってよ。おたくら、筋肉ダルマの岩神の信奉者って本当か?」
 真正面から。奇を衒うでも無く、ごく自然にそう問いかけるセクレアさんの胆力には、最早感動すら覚えるレベルだった。
 問いかけられたルガディン族の顔は急に真顔になり、隣に立っていたヒューラン族の男も眼光鋭くセクレアさんを睨み据え、一触即発の空気が張り詰める。
「……何を言ってるか分からないな」ルガディン族の男が、真顔のまま、ゆっくりと腰に提げた銃に指を滑らせる。「もしそうだとしたら、どうするのかね?」
「セクレアさん――――?」
 ルガディン族の男が銃を握ろうとしている事を注意しようと悲鳴を上げそうになったが、セクレアさんは背に負った両手鎌を構えようともせずに、ルガディン族の男に向かって告げる。
「どうするって、そりゃ――殺すだろ?」
「そうか。ならば――殺すしかあるまい」
 ルガディン族の男が銃を構えるより早く、セクレアさんの背から両手鎌が消えた。
 まるで早撃ち勝負のそれだった。先にルガディン族の男が抜いたにも拘らず、セクレアさんはそれを視認してから両手鎌を抜き、抜き放ちながら空を滑らせ、ルガディン族の男の銃身を一挙手で切り落とした。
 切断された銃身が宙を舞い、銃は暴発――ルガディン族の男の手の中で爆発し、爆音と共にルガディン族の男の手がズタズタに引き裂かれたのが、ヌハの背の上からでも窺えた。
「ぐッ、アァァァッ!!」
 ルガディン族の男の悲鳴が上がったと同時に、ヒューラン族の男が瞠目した様子でセクレアを見つめるも、彼女は動揺するテンパードに全く手加減を許さず、返す刃でヒューラン族の男の腿を切り裂き、行動不能に陥れる。
「アァァッ!?」
 腿からの出血に驚き、跪いて慟哭を上げるヒューラン族の男の頭の上に踵を振り下ろし、一撃で足蹴にするセクレアさん。
 あまりにも鮮やかな手腕に、私はただ見惚れている事しか出来なかった。
 たぶん、一秒にも満たない時間だ。その刹那で、たった一人で、二人のテンパードを行動不能にしてしまった。
「悪ィな、抜かれちまったらこっちも抜かざるを得ないんでね」両手鎌の白刃をルガディン族の男の首元に添えながら嘯くセクレアさん。「言いたい事が有るなら聞くぜ? オレは先入観無しに話を聞きてえからな」
「取り消せ……ッ! タイタン様を罵る罵詈を、取り消せ……ッ!」歯を食い縛ってズタズタになった手を握り締めるルガディン族の男の形相が、怒り狂ったモンスターのそれへと変貌していた。「さもなくば死ね……ッ! 岩石に挟まれ圧潰しろ……ッ!」
「はぁ~……そうだよな、自分の信奉する神様を罵られたらそうなるよな、うんうん、仕方ないよな」
 諦観を伴った表情で溜め息を零すと、セクレアさんの両手鎌が振り薙がれ、ルガディン族の男の首が宙を舞った。
「え?」
 ルガディン族の男の怒り狂った顔が突然虚無に戻り、何が起こったか分かっていない様子で地面に転がると、あっと言う間に意識が剥がれたのだろう、地面を二転する頃には表面に刷かれていた感情が無くなっていた。
「お前ェッ!! タイタン様を侮辱しやがってッ! 殺す! 殺してやる!!」
 ヒューラン族の男の方も気が狂ったように吼えていたけれど、次の瞬間には頭頂に両手鎌の白刃が突き刺さり、あっと言う間に意識が薄れていった。
 物言わぬ骸が二つ転がり、セクレアさんは軽やかに両手鎌を振るって血液と脳漿を飛ばすと、何事も無かったように背に戻した。
「あ? ガージアの奴、また隠れちまったのか? 別に隠れねーでも良いのにな」辺りを見回しながら呟くセクレアさん。「オレがそんなヘマする訳ねーのによ」
「……まさかここまで躊躇が無いとは思わなくてな」
 ガージアさんが出てきたのは、岩場の陰からだった。よくあの長身で姿を完全に隠しきれるな、と思いながら見つめる。
「こいつらが強盗団で間違いねーな? じゃなかったとしても、岩神の信奉者には違いなかったけどよ」
「……あぁ、間違いない。数日間の付き合いだったが、タイタンの信奉者だったよ」転がった生首の両瞼を下ろし、ガージアさんは瞑目して黙祷を捧げている様子だった。「俺もウイも必要無い程に鮮やかな手並みだった」
「悪ィな、二人の出番を奪っちまって」ヒヒ、と悪戯っぽく笑うセクレアさん。「さて、じゃあこの遺体を持ち帰って、冒険者ギルドに報告したら終わりかな」
「あぁ、そうなるな」立ち上がり、私とセクレアさんに向かって頭を下げるガージアさん。「何から何まで助かった。感謝する」
「わたっ、私は何も……っ」ワタワタと手を拱いてしまい、釣られるように頭を下げてしまう。「こちらこそ、です……!」
「ハハハ、終わり良ければ全てヨシってな! さっ、帰って報告だ報告! 依頼は依頼人にしっかり報告するまでが依頼だぜ?」
 そう言いながらセクレアさんがヒューラン族の男の死体を担ごうとした瞬間だった。
 強烈な嫌な予感が、私の総身を駆け抜け、息が詰まりそうになった。

🌠後書

 2日振りの最新話更新です! 仕事が早い!(自画自賛)
 母上がお仕事で参ってるみたくて、私の小説を読まないと癒されないよ~と言うLINEを頂いてしまったので、大慌てで執筆してた奴です(´▽`*) 今週はニコ生は程々に、原稿に向き合うウィークとします!(現金な奴)
 と言う訳で今回のお話ですが、正直にお話しします。こんなサクッと戦闘が終わるとは思ってなかった!ww セクレアさんがあまりにも強過ぎて戦闘にすらならないまである!ww 本当はガージアさんも含めて、ウイちゃんも一緒に大立ち回りする予定が、一瞬で…ww こんな筈では…!www(いつもの綴ってみるまで分からないパターン)
 と言う訳で軌道修正と言うほどでも無いですけれど、もう少しだけ不穏が続く事になりました。流石に主人公が見守るだけで終わるほど、冒険者は甘くないって事!(に、したいだけw) 次回、不穏が巻き起こるのでどうかお楽しみに!(´▽`*)
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
(ロードストーンも一緒に更新したかったのですが、課金が切れてて更新できない事に気づきました…w 後ほど更新しますので、どうかお待ち頂けたらと思いますw)

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    えっ、えっ、そうなの?散々引っ張っておいてこれ?って思ったのですが…
    そうは問屋が卸さないwちゃんと不穏が用意されておりましたww
    そうだよね、ウイちゃんの活躍も見たいもの!

    強さと躊躇のなさ…セクレアさんかっこよすぎるwひょっとして第XIV軍団所属の密偵でパパの秘密のお願いでウイちゃんのサポートに派遣されている可能性もあるなと(多分ない

    不穏!不穏!不穏!きになるぅ~

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

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    返信
    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

      それwwww私も作者でありながら同じ感想だったものでwwwwしっかり不穏を用意しておきました…!www(笑)
      ですよね! ウイちゃん、もっと活躍させたい!!!

      第XIV軍団所属の密偵のくだりでもうアホほど笑いましたwwwwwww職場で顔面が大惨事になってたよ!wwwwwwwwwwww(笑)
      もう最高ですわwwwwwwwこの感想で今日生き抜けたまであるwwwwwwww(笑)

      不穏!不穏!不穏! 次回も早めにお届け致しますので、どうかお楽しみに~!!(´▽`*)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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