第18話 あなたの声、必ず届けるから
第18話 あなたの声、必ず届けるから
西ザナラーン方面へ向かってひたすら駆けて駆けて駆け続けて、キキルン族の怒号が聞こえなくなった頃。
西ザナラーンの北東部である、ホライズン・エッジまで辿り着いていたみたいで、私は息が上がって脚に手を付いて呼気を落ち着かせながら、辺りに視線を配った。
近くにはカッパーベル銅山へ向かう道と、ホライズンに向かう道、そしてウルダハへと向かう道が見える。街道を逸れればモンスターがうろつく場所には違いなく、チョコボさんを一羽で放っておくのは大変だ。
「はぁ、はぁ……チョコボさん……どこ行ったんだろ……はぁ、はぁ……」
汗だくになった額を拭って、またチョコボさんの痕跡を探す。あれだけ全力疾走で駆け抜けて行ったのだ、恐らくはチョコボの羽根がどこかに……
「……はぁ、はぁ……あ、有った……!」
街道の隅に、抜け落ちたばかりであろう黄色い羽根が落ちているのが確認できた。フサフサのそれは、ついさっき抜けたばかりだと言える鮮度を保っている。
ここまで逃げて来たのは確かで、まだ近くに居るかも……と、辺りを隈なく走査すると、――見つけた。
また黄色いフサフサの尻尾だけが、岩場の陰から飛び出ている。上手く隠れているつもりなのかも知れないけれど、隠れているのは頭だけで、どうしてもその可愛らしいお尻は隠し切れないようだ。
私は出来る限り驚かせないように、近づき過ぎない距離から、小声で話しかけた。
「チョコボさーん……私の声、聞こえますかー……?」
「…………」
「チョコボさんに、危害を加えるつもりは無いので、どうかそのまま聞いてくださーい……」
「…………クエ?(あれ、もしかしてバレてる?)」
「えーと……バレてると言うか、見えてると言うか……」
岩場から恐る恐ると言った態で頭を引っこ抜いたチョコボさんと、私の目が、合った。
「クエ……!(ひぇ……! み、見つかっちゃった……!)
「だ、大丈夫です! 私は、チョコボさんに危害を加えません! 何もしないから、話だけ聞いてくださいっ!」
バッと両手を挙げて、襲うつもりが無いと言う意志を示すと、チョコボさんの恐怖に引き攣っていた表情が、徐々に落ち着いた色に戻りつつあった。
「ク……クエ……?(ほ……本当に襲わない……?)」
「は、はいっ! 襲わないですし、チョコボさんが良いって言うまでここから動きません!」
「ク、クエ??(え……? きみ、ぼくの言葉が分かるの……??)」
「あ、えと、そうなんです、チョコボさんの言葉が分かる、変な体質でして……」
「クエ!(えー! そんな人、初めて見た!)」
チョコボさんは急に嬉しそうな表情になって、ぴょこぴょこと無警戒に私の傍まで駆けて来た。
確かに小さなチョコボだった。子供、と言う訳ではなさそうだったけれど、ララフェル用、と言われるだけあって、とても小柄なチョコボだ。
「クエ? クエ!(きみ、名前は何て言うの? ぼくはまだ名前が無いんだけど、聞かせて欲しいな!)」
「私の名前? ウウイ・ウイって言います」スリスリと横顔同士を擦り合わせてくるチョコボさんに、くすぐったい感覚に満たされながら横顔を撫でてあげた。「えと、ご主人が決まってから名付けられるんでしたっけ、チョコボって」
「クエ! クエ!(そうなんだ! だからぼくはまだ名無しなんだよ!) クエ……(あいつらからは、一番とか、二番とか、そんな感じで呼ばれてたけど……)」
突然しょんぼりと項垂れ始めたチョコボさんに、私は不審に思って、顔を覗き込むように小首を傾げた。
「あいつらって……チョコボさんを不滅隊に届けようとしてる、行商人さんの事?」
「クエェ……(ぼく達、罠に掛かって、あいつらに嫌な事をされて、ここまで連れて来られたんだ……)。クエ……クエェ……(狭くて暗いから鳴いただけなのに、うるさい! って、バリバリする棒を押し付けられたりして……もう戻りたくないよ……)」
「…………何だって?」
聞き捨てならない言質が出てきて、私は思わず表情を険しくしてしまった。それに驚いたのか、チョコボさんが怯えた様子で「クエ!(ご、ごめんなさい! もう鳴かないから打たないで!)」と縮こまったのを見て、確信した。
私は咄嗟に表情を和ませて、チョコボさんを優しく撫でながら、「こ、こちらこそごめんなさい、驚かせるつもりも、怒るつもりも無かったの。私は、あなたにそんな酷い事はしないから、安心して……?」と、宥めるように丁寧に丁寧に撫で続ける。
チョコボさんは悲しそうに瞳に涙を湛えながら、「クエ……クエ……(ごめんなさい、ごめんなさい……)」と心細そうに鳴いている。
……チョコボさんの事情は、ただ臆病で、キャリッジを壊して逃げ出したとしか聞いてなかったけれど、チョコボさん本人(本鳥?)から直接こんな話を聞いてしまったら、話は変わってくる。
キャリッジを壊して逃げ出さないといけないぐらい、劣悪な環境に閉じ込められていたのであれば。私はこのままチョコボさんを素直に行商人の元に届ける事は出来なかった。
「チョコボさん、話を聞かせてくれて有り難う」宥めるように、チョコボさんを撫でながら、私は柔らかく微笑みかける。「チョコボさんを、そんな恐ろしいところには連れて行かないから、安心して!」
「クエェ……?(本当……? ウウイちゃん、嘘つかない……?)」
不安そうに見つめてくるチョコボさんに、私は力強く頷き返す。
「チョコボさん。思い出すのも辛いと思うけど、聞かせて欲しいの。チョコボさんが、その行商人さんに、どんな酷い事をされたのか。私はそれを、チョコボさんを守ってくれる人に伝えるから、チョコボさんは信じて待ってて欲しいの。出来る……かな?」
不安そうなチョコボさんと目線を合わせて、尋ねる。
チョコボさんが嫌がるなら、この話はここまでにして、今聞いた話だけでも、信頼できる人に話してこよう、そう思って彼を見つめていたら、チョコボさんは意を決した様子で、口を開いた。
聞かされたのは、腸が煮え繰り返りそうになる、チョコボさん達に対する非道な行いの数々だった。私はそれを歯を食い縛って聞き届け、そんな事を言わせてしまった事を悔いた。
高地ドラヴァニアで、不覚にも罠に掛かってしまったばかりに、ここに来るまでに散々嫌な事をされながら運ばれて、何も知らないままに不滅隊に売り渡されようとしていた事を確認して、私は怒りでどうにかなってしまいそうな想いを腹の底に抑え留めて、チョコボさんを撫でた。
「そんな辛い想いをさせて、ごめんね……。今、信頼できる人に伝えて、チョコボさんにとって良くなる道を考えるから、待ってて」チョコボさんを撫でながら、私は涙を流している事に気づいた。チョコボさんが今まで味わった地獄に想いを馳せて、それがあまりにも悔しくて、自然と涙が零れてた。「絶対に何とかするから……絶対に……!」
「クエ……(ウウイちゃん……ありがとう……)」
一緒に涙するチョコボさんの涙を拭うと、私は自分の目元を乱暴に拭って、頬をピシャリと叩いて意識を引き締めた。
「チョコボさん。ここで待ってて貰っても良いけど、モンスターに襲われるかも知れないから、もしチョコボさんが私の事を信じてくれるなら……一緒に付いて来て貰っても、良い……かな……?」
人間不信になってもおかしくない事をされてるんだ、ここは無理を言わずに、ここで待機して貰うべきだとも考えた。
……けれど、もし万が一モンスターに襲われでもしたら、その時私はすぐに助けに行けないところに居るかも知れない。そう考えると、出来れば安心できる場所で待機して貰いたい、と言う気持ちが強くなったのだ。
「クエ?(ウウイちゃんに付いて行けば良いの?)」コテ、と小首を傾げるチョコボさん。「クエ!(良いよ! ぼく、ウウイちゃんに付いてく!)」
フリフリと尻尾を振って笑いかけるチョコボさんに癒されながら、私は頷き返すと、視線を北西――ホライズンに向け、指差した。
「あそこに向かおう! あそこに居る、チョコボポーターさんなら、チョコボさんを悪いようにはしないよ!」
そう言って、私はチョコボさんを連れて駆け出した。
チョコボさんが追い駆けて来る足音を聞きながら、頭の中はずっと、行商人さんに対してどうやってアプローチするのがベストなんだろう、ってずっと考えていた。
悪い事をしているのは間違いないけど、その証拠は、私しか聞こえないチョコボさんの言質が全て。
チョコボさんがこう言ってました! って問い詰めたとしても、幾らでも引っ繰り返せるだろうし、そもそも私みたいな若葉の冒険者の発言なんて、誰も信じて貰えないだろう。
どうしたら良いんだろう……私の頭の中は、その思考だけで一杯になって、暗雲が垂れ込めたように曇り始めるのだった。
🌠後書
約10日振りの最新話更新です! 大変お待たせ致しました!
と言う訳でチョコボ編第2話です。チョコボの声が分かる事が起因し、まさかの展開に!
ここで裏話と言うか、このエピソードを綴り始めた理由と言うのが、母上がチョコボ推しと言いますか、このクエクエ言ってる子はもう出てこないの? ってしょんぼりしてたので、であればチョコボメインの話を綴るっきゃねえ! みたいなアレですw
FF14のメインクエストでは別の生き物で、ご主人ともっと一緒に居たかった、って想いに耽るシーンが有るのですけど、ほんとにも~そのシーンが良過ぎてずっと泣いてた思い出が有るので、そんな感じの、異なる種族が想いを通じ合わせるシーンが綴りたいな…! って想いも有りました。
果たしてそんなシーンがこの後出てくるのか分かりませんが(w)、どうか彼女らの行く末を見守って頂けたら幸いです!(´▽`*)
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
※2025/02/19校正済み
更新お疲れ様ですvv
返信削除遅くなりましたー
ウイちゃんなんだかとっても格好良いです!なんとかうまいことまとまってほしいですが…
チョコボさんの証言だけでは…理解できるのウイちゃんだけだし。
前途多難ではありそうですが無事を祈ります!
いざとなったらパパに頼んでアルテマウェポンで焼き払っty(以下略
異なる種族で言葉が通じなくても一緒にいると意思疎通ってできるんですよね。お互いが信頼しあえれば何を思うのか感じられます。
そんなつながりを大事にしよう!
秘密結社の暗躍が気になります…
今回も楽しませていただきました!
次回も楽しみにしてますよ~v
>とみちゃん
削除感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
寧ろ早いですって!www(笑)
ウイちゃん、カッコよく見えてきましたかね!?!?! 前回のエピソードで急速に成長した影響かも知れません…!
そうなんですよね、チョコボさんの証言と言っても、それを訴えられるのがウイちゃんだけと言うのが…だいぶ心許無い。
いざとなったらパパに頼んでアルテマウェポンでもう笑い転げてますwwwwwwパパにアルテマウェポン出して貰うんだから!wwwwww(笑) とんでもないお子さんですよ!wwwwwwww(笑)
言葉が通じなくても、一緒に居ると意思疎通が出来る。お互いが信頼し合えれば何を思うのか感じられる。
ほんともう、そういう関係と言うのがあまりにも素敵で、今後も大切にしていきたいと思える奴です…!(´▽`*)
秘密結社の暗躍wwwwwどこで見てるか分かりませんからねあの秘密結社…!www(笑)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!