2025年1月24日金曜日

第19話 信じてくれる人、不安にさせる人

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第19話 信じてくれる人、不安にさせる人

第19話 信じてくれる人、不安にさせる人


「いらっしゃいませ。チョコボポーターのご利用は……おや? そちらのチョコボは……」
 物流の中継地点、ホライズン。海路で運ばれた荷は、西のベスパーベイで陸揚げされ、このキャンプを中継してウルダハ方面に運ばれる。
 サンライズ門から入ってすぐで営業しているチョコボポーターこと、ララフェル族のチョコボ屋さんに駆け寄って、私は拙いながらも説明した。
 高地ドラヴァニアから輸送されてきたチョコボさんが脱走した事、そのチョコボさんを保護した時に、行商人がチョコボさんに対して悪い事をしていたと言う話を、チョコボさん本人から聞いた事。
 チョコボ屋さんはチョコボのマスクをしているせいで表情は窺えなかったけれど、真剣に私の話に耳を傾けて、時折相槌を打ちながら、最後まで遮らずに聞いてくれた。
「……なるほど、不滅隊に送られるチョコボがそんな目に……」
 チョコボ屋さんは顎に指を添えて深く考え込むように俯いてしまった。
 私はチョコボさんと視線を交わして、少し不安げにチョコボ屋さんに視線を転ずる。
「あの……失礼な事を訊きますけど、今の話、信じてくれるんですか……?」
 私はまだまだ実績の伴っていない冒険者で、信頼される程の実力も無いと思っている。そんな若葉の冒険者の話を鵜呑みにするとは思えなくて、説明しながらもどうしたら信じて貰えるか考えていたのに、チョコボ屋さんは何の疑いも無く聞き入れてくれているようで、拍子抜けと言うか……本当に大丈夫なのか、逆に心配になってしまったのだ。
 チョコボ屋さんは「え? 今の話、嘘なんですか?」と不思議そうに小首を傾げた。
「いやっ、嘘ではないんですけど……」思わず声が上擦ってしまう。「チョコボさんの話をその……聞こえるの私だけみたいで、本当に信じて貰えるか、分からなかったので……」
 思わず人差し指を突き合わせてもじもじすると、チョコボ屋さんはマスク越しでも分かるぐらいに表情を綻ばせた。
「チョコボの言葉を正確に理解できる人は、この広いエオルゼアでもそう見ないですし、私自身チョコボの言葉は分かりません」おほん、と空咳を挟んでチョコボ屋さんは表情を引き締めた。「ですが、その保護されたチョコボが、あなたに信頼を寄せている事は、一目見て分かるぐらいには、私もチョコボの事をよく分かっているつもりです」
 チョコボ屋さんの視線がチョコボさんに向く。チョコボさんは「クエ!(そうだよ! ウウイちゃんは、良い人だもん!)」と嬉しそうに鳴いてから、再び私の横顔にスリスリと頬擦りした。
「今も、あなたに対して負の感情を一切懐いていない事が伝わってきます」チョコボ屋さんが小さく首肯を見せた。「私はチョコボを扱う者として、保護したばかりのチョコボにそれだけ懐かれた、あなたの話を信じたい。それだけの事です」
「チョコボ屋さん……」思わず涙が零れそうになっていた。「有り難う御座います……!」
「いえいえ。それよりも問題は件の行商人です。チョコボの証言だけで糾弾する事など出来ないでしょう。私個人の話で言えば、あなたの話を信じていますが、それが公の場ともなれば話は別です。あなたの発言を信じてくれる人がどれほど居るか……」
 チョコボ屋さんの言う通り、あくまで証言してくれているのはチョコボさんで、その言葉を理解できるのはこの場に私一人だけ。どれだけチョコボさんが訴えても、揉み消されるのが関の山だ。
「ともあれ、事情は分かりました」コクン、とチョコボ屋さんは頷いた。「ひとまずウルダハで営業しているチョコボ屋に連絡を入れておきます。行商人が勝手に取引を始めないように」
 そう言ってチョコボ屋さんはリンクシェルで連絡を取り始め、手持ち無沙汰になった私はチョコボ留の近くでチョコボさんと見つめ合う。
「私一人じゃ無理かもだけど、チョコボ屋さんと一緒に何とかするから、もう少しだけ我慢してね……!」
 チョコボさんを撫でると、彼は「クエ!(ありがとう! ウウイちゃんは優しいね、えへへ)」とくすぐったそうに身をよじった。
 そんなチョコボさんの様子に頬を緩ませていたけど、問題はここからだ。信頼できる人に話は通した。ウルダハのチョコボ屋さんも、解決に向けて動いてくれるかも知れないのに、私一人がここで立ち止まっている訳にはいかないだろう。
 私に出来る事は……と沈思に入っていると、不意に横合いから人影が飛び出して来た。
「話は聞かせて貰ったぜ? 事件だろ? なぁ、事件だろこれは?」
「え?」
 大柄な体躯の冒険者……じゃなかった、恰好から察するに、銅刃団の人だ。ヒューラン族の中の、ハイランダー族と呼ばれる、筋骨隆々のお兄さんだ。
 小麦色に焼けたムキムキの筋肉の上に、銅刃団の制服を纏っていて、一目でウルダハでよく見掛ける銅刃団の一人だと分かった。
「お前今話してたよなぁ? チョコボを載せて来た行商人が、悪い事してる……だが、それは脱走したチョコボがそう話してただけで、証明する事が出来ないって……そうだろ?」
「え、えぇ、はい、そうですが……」
「それがもし事実だとしたら! ……臭うぜ、手柄の臭いがプンプンしやがるぜオイ!」
 銅刃団のお兄さんは勝手に盛り上がって肉体美を誇るポーズをし始めて、私は困惑したまま言葉を失っていた。
「おっと! 自己紹介を忘れてたぜ! 俺様はホルガー! 栄えある銅刃団、ローズ連隊の隊士だ! 今一番欲しい物は手柄! 好きな言葉は横取りだ!」
「は、はぁ……」
「それで!? 冒険者のお嬢さんよ! このまま事の推移を見守っている訳ではないのだろう!? 悪しき行商人を叩きのめして、手柄を独り占め……ゴホゴホ! 己の手で正義執行したいとは思わないのか!?」
「それは……」
 ホルガーさんが滅茶苦茶言ってるのは流石に分かるけれど、私自身、このままチョコボ屋さんに全てを任せるのは、何か違うなって思っていた。
 思ってはいるけれど、どうしたら良いのか分からない、と言うのが実情だった。
「冒険者のお嬢さん、よく聞け!」両肩を鷲掴みにされて、思わず悲鳴が上がりそうになった。「この場を取り仕切る銅刃団ローズ連隊で戦功著しい期待のホープであるこの俺様、ホルガー様が手を貸してやる! 共に行商人を叩きのめして手柄を独り占め……ゴホンゴホン! 俺達の手でこの事件を解決に導こうではないか! ナァ!?」
 サークレットで目元が見えないから実際は分からないけど、何かしらの薬物をキメてるんじゃないかってぐらい押しが強いよこの人……!
 たじたじになって「は、はひ……」と言葉にならない返事を絞り出すと、彼は「よく言った! それでこそ冒険者だ! そうと決まれば早速作戦会議だ! おっと、この話は俺様と冒険者のお嬢さんの二人だけの秘密だぞ!? 手柄は誰にも渡さねえからな!!」ガハハ! と哄笑を始めてしまい、私はもうどうにでもなれ~みたいな気持ちで事の成り行きを見守るしかなかった。
 でも……それはそれとして、もう私一人じゃどうにもならないかも知れないと言うタイミングだったから、心なしか励まされた感じがして、悪い気はしなかった。
 一人よりも二人。一人では出来なかった事も、二人でなら出来るかも知れない。
 セクレアさんの受け売りみたいなものだけど、もしかしたら私にも何か出来る事が有るかも知れないって、前向きになれた。
「取り敢えず行商人を襲撃するのはどうだ!? ボッコボコにしたら降参して悪い事をしたと認めないか!?」
 ……でも、こんなとんでもない人と一緒に事件を解決できるのか、私……
 先行きが不安のままチョコボさんに顔を向けると、彼もどこか呆れた様子で「クエ……」と溜め息を漏らすのだった。

🌠後書

 3日振りの最新話更新です! お待たせ致しましたーッ!
 と言う訳でチョコボ編第3話です。新キャラのホルガー君登場です。こちらもまた、原作(FF14)には存在しないNPCですし、冒険者さんをお借りした訳でも無いオリジナルのキャラクターになります。
 予定通りの人格付をしたところ、あまりにも面白過ぎてこれ、今回のエピソードだけの登場が惜しいなって気持ちが早くも湧きつつあります(笑)。銅刃団で腐らせるの勿体無いよ…冒険者やって手柄横取りしない??ww
 セクレアさんの意志をしっかり引き継いで、「一人じゃ難しくても二人でなら!」精神が息づくウイちゃん、この問題をどう解決していくのか、どうか温かく見守って頂けると幸いです!(´▽`*)
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

※2025/02/19校正済み

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    チョコボ屋さんが良い人でほんとうに良かった…
    ウイちゃんとチョコボさんの様子を見ればわかってもらえるはず!がんばれウイちゃん!!

    しかし、まぁ、また癖の強そうな方がいらっしゃいましたw
    これきっとあれだ、パパの密偵2号(パパの配下には御庭番と呼ばれる隠密組織があり(以下略…)でウイちゃんがピンチになったときゴエモンインパクトを呼ぶ係。
    やっと腑に落ちたぜ。

    そしていざとなったらアルテマウェポンが一面焼けのh(以下略…

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

      私の中のチョコボ屋さんのイメージがこれでした…! チョコボに携わる職業と言うか、共に有るお仕事だからこそ、こういう気質の人が多いんじゃないかなって…!
      そういう人がチョコボさんを見れば、きっとこういう反応をしてくれると信じての描写でした(´▽`*) 応援有り難う御座います!!┗(^ω^)┛

      ゴエモンインパクトで崩れ落ちましたwwwwwwww遂にエオルゼアにゴエモンインパクトまで来てしまった!wwwwwwww(笑) もうアルテマウェポンの比じゃないですよこれ!wwwwwwwww(笑)

      しかもアルテマウェポンもまだ脅威として存在するってもうwwwwwwwwwウイちゃん一人にどれだけの高性能兵器が出張ってくるんだこれ…!wwwwwwww(笑)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!(´▽`*)
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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2025/10/19の夜影手記

2025/10/19の夜影手記 🌸挫け気味なのでこっそり愚痴を吐かせて~😣