2025年1月27日月曜日

第20話 空回る想い、囚われる二人

呪を言祝ぐ冒険者(FF14二次創作小説)
第20話 空回る想い、囚われる二人

第20話 空回る想い、囚われる二人


「ウダウダ考えたって仕方ねーぜ! 手っ取り早く行こう! その行商人とやらに突撃するぞお嬢さん!」
 ホルガーさんは私の話など毛頭聞く気が無さそうな雰囲気で、勝手に中央ザナラーンに向かって駆け出して行ってしまい、私は「えええ、そんな無策で突撃して大丈夫なんですか……?」と思わずその背に声を掛けたのだけれど、案の定聞こえなかったみたいで、ホルガーさんはあっと言う間に小さくなっていく。
「ウイさん、ウルダハのチョコボ屋に連絡を取りました。これで行商人との取引はすぐには始まらないと思います」ララフェル族のチョコボ屋さんが戻って来て、途方に暮れてる私を見て小首を傾げた。「? どうかなさったのですか?」
「い、いえ……ちょっと新しいトラブルが始まっちゃったみたいで……」頭痛がしそうな想いで頭を支える。
「? 話は戻しますが、行商人の情報が少し得られまして」チョコボ屋さんがこほん、と空咳を挟んだ。「“フレン鳥”と言う名前の組織のようで、不滅隊との取引はこれが初めてなのだそうです。ウルダハに居る同僚が、不滅隊と情報を共有して、そこまで知る事が出来ました」
「あ、有り難う御座います!」思わぬ情報提供に、思わず頭を下げてしまう。「不滅隊も、新規で取引を始めたって事なんですかね……?」
「焔神・イフリートが顕現したって事件はご存知ですか?」チョコボ屋さんが少し声のトーンを落として呟いた。「その件で、大量のチョコボを損失してしまい、その穴埋めに質より量でチョコボを買い叩いた、と言うのが始まりのようです」
「質より量……と言う事は、不滅隊も、もしかしたら正規のルートを通っていないチョコボだったかも知れない、みたいな認識が有ると言う事ですか……?」
 だとしたら許せないと言う想いはどこに持っていけば良いのか分からなくなる。元々密猟で得たチョコボであったとしても構わない、と言う話で進んでいたのであれば、私が今やろうとしている、行商人への糾弾と言うのは、彼らの間には不要な代物でしかないのだから。
 そう思って曇りかけた表情を見て取ったのか、チョコボ屋さんはフルフルと頭を振って否定した。
「不滅隊も一枚岩ではないみたいでして、取引を行っている隊士と、上層部ではまた見解が違うみたいで……その確認を今しているところです」チョコボ屋さんは憂鬱そうに溜め息を零した。「もし仮に、不滅隊の総意として、不当な扱いを受けたチョコボであっても取引に応じる、などと言う表明が出た時は、私達も対応を考えなくては……」
 チョコボ屋さんが悩ましげに溜め息を零しているのを見て、もしかして私は今、大変な事態の引鉄になっているのでは? と言う事を自覚し始めた。
 初めは保護したチョコボさんには救われて欲しい、ちゃんとしたところに引き取って貰いたい、ぐらいの認識でチョコボ屋さんに話を持ち掛けた訳だけど、このまま行けばもしかしたら、ウルダハからチョコボポーターが無くなる可能性まで有るのではと、段々と怖くなってきた。
 私が「はわわ……」としていると、チョコボ屋さんは私を宥めるような手振りを交えて苦笑を浮かべた。
「あまり気負わないでください。もしあなたがこの問題を私達に提起しなくても、何れは露呈していた事でしょうから。寧ろ取引前に気づけた事は僥倖です。一ギルたりとも行商人に金銭を渡さずに済むかも知れないのですから」
「な、なるほど……」
 行商人……と言う単語が出てハッとする。
 もうホルガーさんは見えないところまで行ってしまっていた。
「す、済みません! このチョコボさんを預かって貰えますか!? 私、行商人と話をしに行こうと思いまして!」
「行商人と? あなたが? 何故?」
「す、済みません! 銅刃団の人がもう向かっちゃってて……! あ、後でお話ししますごめんなさーい!」
 大慌てでホライズンを飛び出して、中央ザナラーンへ向かう峠道を駆け抜けて行く。
 銅刃団の一員であるなら、私が考え付くようなトラブルは起こさないと信じたいのだけれど、出会い頭の頓狂な会話を思い出すに、何かしらやらかしてる可能性が捨てきれなくて、私は息切れしそうな想いで走った。
 体力に自信が無いのもそうだけど、こういう時にチョコボさんが居ればなぁ、なんて思わずにいられなかった。

◇◆◇◆◇

 結果から言えばトラブルはまだ起きていなかった。
 ブラックブラッシュ停留所の近くで、双眼鏡を使って様子を窺う不審な銅刃団の人が居たので駆け寄ると、やっぱりホルガーさんだった。
「おう、お嬢さんか。今こっそり偵察中なんだがな、あの大きなチョコボキャリッジ……臭う、臭うぜ! 他に行商人の姿もねーし、間違いなくアレが問題のチョコボに暴行を振るってるであろう手柄の元……ゴホンゴホン! 黒幕だ!」
 ホルガーさんは双眼鏡をしまうと、息が切れて肩で呼吸している私の肩を掴むと、ニカッと笑いかけた。
「と言う訳で、ちょっくら臨検掛けてくるから、問題が起こったらお嬢さんも加わって奴らをボコボコにしてくれ! 頼んだぞ!」
「ぜぃ、ぜぃ……へあぁ!? ちょ、ちょっと待っ……」
 呼気が乱れて声が出なかったせいで、ホルガーさんはもう駆け出していて、私は眩暈で倒れそうだった。
 私が追い着く前に、ホルガーさんは行商人の一人であろうエレゼン族の男の人に声を掛けていた。
「よぅ、そこの行商人。ちと話が聞きてえんだけど、今良いか?」ホルガーさんが大きなチョコボキャリッジをトントン、と叩きながら笑いかける。「ちょっと中を見せて欲しいんだけどよ?」
「……はぁ。先ほど鉄灯団にも見せたんですがね」行商人さんは鬱陶しそうにホルガ―さんを見つめる。「別に構いませんが、あまり商品を怖がらせないでくださいよ?」
「ヨシ、許可は下りたな。じっくり見せて貰おうじゃねえか、へっへっへ」
 ホルガーさんが完全に悪役のセリフを吐きながら大きなチョコボキャリッジの荷台を開けて中の様子を確認し始めたのを、ちょこっと離れた場所から窺う。
 チョコボの取引に来ている筈なら、荷はチョコボだと分かるものの、それが確認できても証拠にはならない。それこそ傷が付いたチョコボが確認できれば即座に訴えられるけれど、そもそも傷が付いたチョコボを商品にするとは考え難い。
 保護したチョコボさんが言うには、ビリビリする棒で殴られたらしくて、併しチョコボさんを見ても傷跡らしい傷跡は確認できなかった。恐らく、傷にならないように、けれど言う事を聞かせる為の、専用の道具が有るのだろう。
 ……胸糞悪い話だけど、実際チョコボには傷が無ければ、商品として問題は無いのだろう。一見しただけでは、普通のチョコボと変わらないのだ、取引には差し支えない。
 もどかしい気持ちで一杯だった。チョコボさんが嫌な目に遭ったと言う証拠は、どうやったら証明できるのだろう。
「……むぅ。本当にただのチョコボだな」
 荷台から顔を引っ込めたホルガーさんが、難しい表情で首の後ろを掻いている。やっぱり証拠が見つからなかったのだろう。
「――どういう意味ですか? まさかワタクシ共が違法な商売をしているとでも?」行商人さんがズズイとホルガーさんに詰め寄った。「どなたがそんな証言をしたのですか? ぜひ聞かせて欲しいのですが」
「そ、それは、だな……」思わず狼狽したホルガーさんがよろめく。「極秘の情報筋からのアレで……」
「銅刃団と言えど、そのような流言に惑わされているとしたら見過ごせませんね。ワタクシ共は正規のルートで商売を行っている者です。もしこれ以上時間を煩わせるのでしたら、ワタクシ共も考えが有ります」ホルガーさんに更に詰め寄り、行商人さんは冷酷な目つきで告げた。「不滅隊との大事な取引を邪魔した銅刃団の隊士のお名前、是非とも聞かせて貰いましょうか?」
 ホルガーさんが言葉を失っている姿に、私はもう居ても立っても居られなくなって、気づいたら飛び出していた。
「わ、私です! 私が証言しました!」
「……誰ですか、あなた? 見たところ、ただの冒険者のようですが……」悩ましげに腕を組み、行商人さんは苛立たしげに私を睨み据える。「営業妨害の自白、と見て宜しいですか? 冒険者ギルド直々に謝状を用意させねばならないようですね?」
 冒険者ギルド――モモディさんにまで迷惑が掛かる、と思うと、肝が縮み上がりそうになったけれど、奥歯を噛み締めて、踏み止まる。
 私がここで挫けたら、チョコボさんは誰が助けるんだ!
「チョコボさんから直接聞きました! あなた達が、高地ドラヴァニアでチョコボを密猟し、不当な扱いをチョコボにして、ここまで運んで来たと!」
 一歩踏み出して、私は声を大にして告げた。ともすれば立ち竦みそうになるほどの恐怖が全身を這い上がってきていたけれど、震えそうになる体を懸命に抑えて、行商人さんを睨み据える。
 行商人さんは冷酷な眼差しで私を睨み据えていたのが、急に小馬鹿にしたような表情に変わり、――鼻で笑った。
「何を言い出すかと思えば……チョコボの声を聞いた? 大人をからかうのはやめて頂きたいですね。そんな妄言、誰が信じるとでも? 冒険者なんぞ廃業して、宣教師でも始められては如何かな?」
 行商人さんが嘲笑うのを見て、悔しさで顔が歪むのを抑えられなかった。
 やっぱり私の力じゃダメなのか……両手をギュッと握り締めて、涙が零れそうになった。
「さて、銅刃団の隊士さん。営業妨害の冒険者さんと一緒にお名前を伺いましょうか? 連名で謝状を要求しますので。良いですね?」
「ぐ、ぬぅ……」
 ホルガーさんがゆっくりと後じさりしてこの場から逃げようとしていたのを、誰かが背後から肩に手を置いて止めた。
 槍術士――? いや、あれは……
「まさか、逃げられると思っているのか?」
 身の丈より大きい両手槍を携えた、細身の甲冑を纏うその人は、確か竜騎士と呼ばれる、ドラゴンと戦う力に特化した騎士……!
 紫色の甲冑を全身に纏う痩身の女性……たぶんエレゼン族の竜騎士は、ホルガーさんを捕まえると、どん、と押し出して行商人さんの前に突き出す。
「あぁ、護衛に竜騎士様を連れて来て正解でしたね。悪い事をする輩はどこにでも居ますから」行商人さんが汚物でも見るような眼差しでホルガーさんを見据える。「アレクシアさん。彼らが逃げ出さないように見張りをお願いしますよ。私は不滅隊に連絡を入れますので」
「任されよう」竜騎士の女性――アレクシアさんが言葉少なに頷くと、ホルガーさんを押し出して私の元まで歩かせた。「おかしな真似はするなよ、私は無用な殺生は好まない」
 兜の下から聞こえてくる冷たい声に、私は悔しさと、そしてこれから起こるであろう事を想像して恐怖で身が竦みかけていた。
 その時だった。視界に、ノイズが走り始めたのは。

🌠後書

 約3日振りの最新話更新です! お待たせ致しましたーッ!
 チョコボ編4話目です。ホルガー君の暴走で暗雲が垂れ込める展開ですが、ここで光の戦士ならではの起死回生の策と言えば…アレです。主人公補正とは言え、ここぞとばかりに発現するのズルいよなーw と思いつつも、本作でもやっぱり使わせて頂きたい奴です(笑)。
 実を言えば今回の話、元々考えていたネタとは全然違う方向に突き進んでいるので、また最初からネタを練り直しみたいな感じで綴っておりますw 大体ホルガー君のせいです(笑)。でもホルガー君ならこうするでしょ~みたいな筆の乗りが有るので逆らえませんでした…ww ホルガー!www(笑)
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

※2025/03/24校正済み

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    チョコボ屋さんが最後の砦か…
    ちゃんとした方々で安心しました。皆が望む解決に至ってくれると良いですね。

    それにしてもホルガーくん…もう少し人の話を聞いてよく考えてから行動しよう!でも……それができたらホルガーくんではないかなw

    そして起こってしまうノイズが現れる怪現象。来た!やつが来たんだ!!「……いて……感……て……」すいません、豆狸インパクト呼んでもらっていいっすか?

    いまだ現れないあの秘密結社の様子を気にしつつ、現場からは異常です。

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよ~v

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

      それwww最後の砦はチョコボ屋さんです…!ww
      ぶっ飛んだ方が居る一方で、やっぱりちゃんとした人も居ると言うアレです。チョコボ屋さんは職業柄マトモな人が多いって信じてる…!w

      ですですwwwそれが出来たらホルガー君じゃないはまさにそれでしてwww(笑) こういうキャラだからこそやってくれるみたいな奴が有りますwww(笑)

      豆狸インパクトでもう腹抱えて笑いましたよねwwwwwwwwwww(笑) やっぱりバケル君もインパクトに乗るんですかねアレ!?!?!wwwwww(笑) 職場で大変ニヤニヤしてしまってもうダメですwwwwwwwwwww(笑)

      秘密結社、どのタイミングで介入してきても暗躍を疑われるアレ…!www(笑) そして現場が異常になってますよ!wwwwwww(笑)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
      次回もぜひぜひお楽しみに~!(´▽`*)

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