第2話 親切な冒険者さんと、悪い冒険者さん
第2話 親切な冒険者さんと、悪い冒険者さん
「あーっ、そのギルドリーヴ、俺が受ける所だったんだよな~!」
グリダニアの冒険者ギルド兼カフェであるカーラインカフェに、悔しがる男の声が響いたのは昼下がりの事だった。 ミコッテの女弓術士がキョトンとした様子で振り返ると、背後には二人組の槍術士が困った様子で彼女の手元に視線を注いでいた。「タッチの差だったな~、本当はそれ、俺達が二人でやる予定だったんだよ~、君、一人でそれやるの、ちょっと厳しいんじゃない~?」「見たところ、若葉の冒険者でしょ君? 先輩冒険者として、手を貸してやっても良いけど、どうする?」「えー、ほんとですかー?」 ぽわーっとした様子の弓術士に、槍術士の二人組は大仰に頷き合う。「若葉の冒険者を導くのは先輩冒険者として当たり前の事だからな~、じゃあ一緒に受けるって事で良いかな?」「ちょっと君達……」 店主が怪訝な表情を覗かせて制止の声を上げようとした、その時。槍術士の男性二人組の後ろから、「あー、じゃあ私もご一緒して良いですかー?」と、更にミコッテの双剣士が割って入って来た。 槍術士の男性二人組は苦い顔をして、「いやー、これ俺達だけで充分だからさ~」「他を当たってくれる~?」と目配せであっち行けと主張していたが、双剣士の女性は「私も若葉の冒険者なんですけどー、ダメですかー?」と人当たりの良さそうな微笑を浮かべて、空気を読まずにそう返した。 双剣士のミコッテは店主に目配せすると、店主も何かに気づいたのか、わざとらしく咳払いして注目を集めた。「そうだね、若葉の冒険者の手伝いをしてくれると言うのであれば、彼女も連れてってくれると助かる。このギルドリーヴは君達四人で申請する、分け前は四等分されちゃうけど、それで良いかな?」 店主の有無を言わさぬ言外の圧を感じたのか、槍術士の二人組は分が悪いと察したのだろう、「ミューヌさんがそこまで言うなら……」「仕方ないな~、まっ、先輩である俺達に任せておけば問題無いさ」渋々と言った様子で了承し、書面に名を連ねていく。「わー、みんなありがとー」弓術士のミコッテが目を細めてぴょんぴょん飛び跳ねる。「みんなと一緒なら、安心してお仕事できる~、やった~」「うんうん、みんなでやればすぐ終わるよ~」 双剣士のミコッテも同調するように目を細めて頷き返し、ギルドリーヴの申請書を店主に手渡す。その時、そっと彼女に顔を寄せ、ぼそりと呟く。「――尻尾を見せたら追い払うだけに留めますので」「……穏便に済ませてくれるんだね、助かるよ」 顔を離し、パッと微笑む双剣士の女性。「では皆さん、宜しくお願いしまーす」「よろしくでーす」 双剣士のミコッテに倣うように、弓術士のミコッテも手を挙げてのんびり声を上げた。 槍術士の二人組は「はいはい~」「よろしくね~」と雑に対応すると、そそくさとカーラインカフェを出て中央森林へと向かって足早に歩き出した。「じゃあ行こっか」「はーい」 ミコッテの二人組もそれを追ってのんびり歩き出す。 カーラインカフェの店主は、また新たに冒険者として活動したいと言う若者の相手をし始め、グリダニアは何も変わらない日常の姿を見せていた。
◇◆◇◆◇
「親切な冒険者さんもいるものですねー」 青狢門から出て、左手に在る再生の根株へ向かう道すがら弓術士のミコッテが感心した素振りでうんうん頷く。 自分の世界に入っていそうな弓術士のミコッテに対し、双剣士のミコッテは「そうですね~、でも、中には悪い冒険者さんも居るから、気を付けた方が良いかもですね~」と相槌を打つように彼女の世界に言葉を掛ける。「なるほど~、勉強になります~」 本当に理解しているのか怪しい雰囲気で応じる弓術士のミコッテに、双剣士のミコッテは苦笑を浮かべながら、うんうんと頷き返した。 先導していた槍術士のエレゼンの男性と、同じく槍術士のヒューランの男性は、ギルドリーヴに記載されていた目標地点――再生の根株に辿り着くと、周囲を見回した後、頷き合った。「よし、誰も居ないみたいだなー」「じゃあ君達、装備品全部ここに置いてってくれる?」 槍術士のエレゼンが再生の根株への出入り口で仁王立ちし、槍術士のヒューランが背に負っていたスピアを抜き放ち、肩に載せて睨み据えてきた。 弓術士のミコッテは不思議そうに小首を傾げ、双剣士のミコッテも同じようにキョトンとしている。「聞こえなかったー? 乱暴されたくなかったら、武器と防具、あと道具も全部そこに置けって言ってるんだけど」「それともこの両手槍でズタズタにされたい? 言っとくけど、俺一人で君ら二人纏めて仕留められるから、そのつもりで」 ヘラヘラした態度が一転、眼光鋭く睨み据えてくる槍術士の二人組に、弓術士のミコッテはよく判っていない様子で、やっぱり不思議そうに小首を傾げるだけだった。「ギルドリーヴに、そんな内容、書かれてたっけ~?」「……書かれてなかったねぇ」合いの手を入れるように双剣士のミコッテが素知らぬ顔で呟く。「お兄さん達の前で、脱げって事~? えっちだな~」 むぅ、と顔を顰めて自分の体を抱き締める弓術士のミコッテに、槍術士の二人組は同時に舌打ちを返した。「話にならねぇな、やるか」「手早く済ませようぜ、あんな新米装備でも状態が良けりゃ良い値段で売れる」 槍術士の二人が最早確認も取らずに両手槍――スピアを抜き放ち、距離を詰めて来るのを見ても、弓術士のミコッテは「えー、ツトミ分かんなーい」と背に負ったショートボウを構えようとすらせずに驚いた反応を見せるだけだった。 刹那に間合いが詰められ、スピアの穂先が弓術士のミコッテの喉元を貫く――――その寸前、凄まじい轟音と衝撃が迸り、弓術士のミコッテは「わぁー」と驚いた様子で尻餅を着いてしまった。「カ……ァ……」 弓術士のミコッテが次に目を開くと、眼前に迫っていた槍術士のヒューランが真っ黒に焦げて膝を折る瞬間だった。 槍術士のエレゼンが何が起こったのか分からず立ち竦んでいると、双剣士のミコッテが両手で何かしらの印を結んでいる事に気づいたが、それが何を意味するのかまでは分からなかった。「あちゃー、悪い事をする冒険者さんに天罰が下ったみたいですね~」双剣士のミコッテがわざとらしく警戒心の一切感じさせない微笑を浮かべて呟く。「貴方も、早く逃げないと天罰が下るのでは~?」「――――ッ! 何をふざけた事を――ッ」 槍術士のエレゼンは激昂した様子で、標的を弓術士のミコッテから双剣士のミコッテに切り替え、その喉元を瞬時に刺し貫こうとして、――その前に双剣士のミコッテは印を結び、冷徹な眼差しを槍術士のエレゼンに向ける。「――雷遁」 再び轟音と衝撃が奔り、今度は槍術士のエレゼンが黒焦げになって、その場に崩れ落ちた。 二度も轟いた雷に、弓術士のミコッテは目をぱちくりして、何が起こっているのか分かっていない様子で双剣士のミコッテに視線で問いかける。 双剣士のミコッテは静かになった槍術士の二人組を見下ろした後、リンクシェルで連絡を取り始めた。「……ツバキです、双剣士ギルドの。若葉狩りの現行犯を捕らえましたので、急ぎ中央森林、再生の根株まで来て頂けると。……えぇ、大方の予想通り槍術士を騙った賊でした。……はい、後は宜しくお願い……あ、あと弓術士さんが一名巻き込まれたので、そのケアもして頂けると……はい、はい。では」「お姉さん、もしかして凄い人~?」 リンクシェルの通信が終わった瞬間、弓術士のミコッテが声を掛けてきた。 双剣士のミコッテ――ツバキは振り返りながら、「別に凄くは無いけど……」と返すと、そこには瞳をキラキラに輝かせて自分を見つめる弓術士の姿が有った。「凄かった~、ドーンッ! って! 一撃だったね~! もしかして魔法が使えるの? サンダー! みたいな? でも双剣使いなんだよね? 凄いね~!」 矢継ぎ早に捲くし立てられ、返答すら出来ない状態で詰め寄られたツバキは、「うあー、待って待って、そんな一気に来られると何も言えなくなるぅ~」とたじろいでしまう。 そんなツバキの様子を薄目で確認していた槍術士のヒューランは、油断している今が好機と判断、咄嗟に立ち上がって再生の根株から逃げ出そうと駆け出す。「――――あ」それに数瞬遅れて気づいたツバキは咄嗟に印を結ぼうとするも、既に射程外だと気づき、思わぬ失態に「くそっ、あいつまだそんな気力が――っ」と悪態を吐きながら弓術士のミコッテを押しやって駆け出そうとして―― 頬をすれすれに擦過していった鏃が、槍術士のヒューランの膝に命中し、「ぐああーっ!」っと悶絶しながら転倒した姿を見て、驚いて立ち止まってしまうツバキ。 振り返ると、真剣な表情でショートボウを構えた弓術士のミコッテの姿が映った。「えへへー、わたしもやればできるのでーす」 真剣な表情だったのは一瞬で、すぐに日溜まりのような無邪気な笑顔を向けてくる弓術士のミコッテに、ツバキは驚いたのも束の間、ホッと安堵の吐息を落とすのだった。
◇◆◇◆◇
その後、駆けつけた神勇隊によって槍術士の二人組こと、若葉狩りと呼称された賊は捕縛され、ツバキはカーラインカフェの店主ことミューヌに改めて感謝される事になった。「普段の仕事着じゃなかったから、一瞬本当に若葉の冒険者かと勘違いしてしまったけど……君のお陰で、グリダニアの新芽は守られたよ、本当にありがとう」「いやー、たまたまカーラインカフェに立ち寄ったら遭遇しちゃった感じで……冒険者の態ですり寄ってくる輩ですから、ミューヌさんでは断る事も出来ないだろうなって思って、つい手を出しちゃいました」 微苦笑を浮かべて、カーラインカフェの名物料理であるラプトルシチューを口に運ぶツバキ。ミューヌがお礼にと、御馳走を振る舞うと言い出し、その厚意に甘えてご相伴に与っていた。「助かるよ……君みたいな冒険者がたくさん居てくれると、僕も安心して任せられるからね。また手を貸してくれると嬉しい」 そう言って微笑むと、ミューヌは再びカウンターに戻って、次々に訪れる冒険者の相手を始めた。 ツバキが報酬のラプトルシチューに舌鼓を打ちながら、次の仕事の準備でもしようとテーブルに書類を並べ始めた時、向かいの席に冒険者が腰掛けた。 誰だろうと顔を上げると、先程の弓術士のミコッテだった。「――お姉さん、仕事できる人だね?」「お、おう?」「良かったらフレンド登録してほしいな!」 ニパーッと、陽の者を感じさせる眩い笑顔に、ツバキは「うあー、何、突然」と、たじろいでしまう。「お姉さんみたいな冒険者が一杯居たらいいんでしょー? じゃあ、わたしもお姉さんを見習って冒険者するから~、まずはお姉さんと一緒に居ないと! でしょー?」「でしょー? って言われても……」「お姉さんは、ツトミとフレンドになるの、イヤー?」「イヤーではないけど……」「じゃあ今日からツトミとお姉さんはフレンド! よろしくね~」「よ、よろしく……」 終始弓術士のミコッテこと、ツトミのペースでフレンドになる事になったツバキだったが、こういう緩い関係も偶には良いかぁ、とすんなり受け入れてしまうのだった。「じゃーあー、そのラプトルシチュー、ちょっと分けて貰っても良い~? ツトミ、もうお腹ぺこぺこー」 もしかしてただたかられているだけなのか?? などと考えてしまうツバキなのだった。
🌟後書
今回も前回に引き続き、必殺仕事人感を出しつつ…お友達のツトミちゃんに出演して頂きました! ギャルっぽさを感じさせるキャラクターに仕上げたかったので、前世のツトミちゃんとは人格がちょこっと変わっておりますが、これがまー中々難しいw ぽわぽわ~っとした雰囲気を出して試行錯誤しておりますが、未だに安定しておりませんw 要勉強だ…!w 少しでもぽわぽわ~って雰囲気が伝われば良いな…! と思いながら今も(11話前後)綴っておりますw 何だかんだでめちゃんこ長い付き合いのツトミちゃんですから、少しでも可愛く…! 少しでも魅力的に…! と思いながら毎度綴っておりますが、日々勉強ですw 今後も可愛さとぽわぽわ~感を出せるように頑張ります!┗(^ω^)┛ あと性癖的な話になりますが、普段はぽわぽわ~ってしてるのに、いざって時は真剣な表情で凄い事をやってのけるキャラクターが好きなので、ツトミちゃんには毎度そういうキャラクターを演じて貰ってる気がします…w 性癖だから仕方ないね!w と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
🌸以下感想
とみ
更新お疲れ様ですvv
可愛く仕上げてもらってーテンアゲなんですけどぉ~マジギャルしか勝たん!
そういうツバキちゃんもマインドギャルなんでは~?チョーうけるんですけどーw
頭痛くなってきた…
多分10年以上のお付き合いにwすっかりぽぇフレンズだよねぇww
これからもよろしくってことで!
今回も楽しませていただきました!
次回も楽しみにしてますよーv
2024年1月13日土曜日 21:40:29 JST
夜影
>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
可愛く仕上がってたなら良かった~!(´▽`*) マジギャルしか勝たん!www
マインドギャルwwwwそんな言葉が存在するんですね!?!?!
って無理スンナwwwww(笑)
ですねぇ、もう10年以上のお付き合いになりますか…ぽぇフレンズwwwww(笑)
こちらこそこれからも宜しくって事で!(´▽`*)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!
2024年1月13日土曜日 22:05:16 JST
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