004.紅蓮の灯〈1〉
004.紅蓮の灯〈1〉
「……それで、私の到着を待たずしてディノバルドを討伐した、と」 ディノバルドの遺骸が狩人都市の運搬屋によって運び出されている光景を背景に、醒めた表情のセンリが、ばつが悪そうにしているリスタとシアを睨み据えていた。「……先に言えよ、捕獲任務だったって……」ぼそりと恨めしそうにぼやくリスタ。「私は言った筈だ。見つけ次第、報告しろと」葉巻を銜えたまま、冷厳な眼差しをリスタに突き刺すセンリ。「お陰で依頼は失敗した。良かったなリスタ、お前のお陰で私も一緒に手を振って凱旋できそうだ」 そう、センリは明言していなかったが、ディノバルドの捕獲が、正規の依頼だったのだと、今し方判明したところだった。 併しそれを伝える前にリスタは独断専行、無事にディノバルドは頭部を滅多打ちにされ昇天、捕獲と言う枠を通り過ぎ、討伐……つまり、依頼失敗と言う形で締め括られようとしていた。「違約金は確か、一千万ゼニーだったか」ふぅ、と溜め息を漏らすセンリ。「勉強代が高くついたな」「……ッ!」ギリ、と奥歯を噛み締めるリスタ。「待てよ、その違約金……」「貴様には何も期待していない」ぴしゃりと発言を遮るセンリ。「外様の問題児に支払わせる訳にもいかんしな。とっとと凱旋とやらをしてこい。ここから先は“ハンター”が負うべき問題だ」「待てよ」思わずと言った様子でセンリに掴みかかるリスタ。「お前さっきから……」「何だ? 更にトラブルを重ねるつもりか? 良いとも、次はどんな凱旋を飾るんだ? 傷害罪か? 脅迫罪か? 今更何も驚かないとも、人の話を碌に聞かない輩がやらかす所業など高が知れている」 センリがそこまで煽りに煽りを重ねたところで、リスタは彼女から手を離し、跪いたかと思いきや、そのまま地面に額を擦りつけた。「――――俺が悪かった。その違約金の代わりになるとは思えねェが、俺を好きに使ってくれ」 傲慢の塊に見えたリスタが土下座する姿を見下ろしてから、センリはシアに視線を向けた。 シアは無表情ながら、どこか悄然としていた雰囲気を一変し、ゆっくりとした所作で膝を突き、リスタと同じように頭を下げた。「ボクも、お願いします」小さく、けれど通る声で、シアは呟いた。「止められなかった、ボクにも責任、有る。だから……」「……ふん、初めからそれだけ謙虚であれば問題は生じなかった、そう思わないか?」 センリの言葉の棘に、リスタもシアもぐうの音が出ない様子だった。「まァ良い。貴様らが今更どれだけ誠意を見せようと、結果は変わらんし、処遇も然りだ。違約金を支払うのは私で、貴様らは依頼を失敗した事を存分に悔いながら、“次に活かせば良い”」「……お前、そんな大金持ってるのか……?」「目上の者をもっと敬え馬鹿者」「ぐっ……」 思わず頭を上げたリスタの両頬を右手だけで掴み上げ、ギリギリと締め上げるセンリ。リスタは間抜けな顔を晒して苛立っているようだったが、構わずにセンリは続けた。「私が支払えるだけの大金を持っていなかったら、どうだと言うんだ? 貴様は代わりに支払えるだけの大金を持っているとでも?」「……ッ」「依頼主は、私の腕を見込んで、信頼して、依頼を出した。それを私は、貴様らと言う不確定要素を組み込んだ。それ故に失敗した。責任は誰に有ると思う? 貴様が負い目を感じる必要が、どこに有ると言うんだ?」「……ッ!」「――“もし”。もし貴様がこの件に対して何らかの誠意を見せたいと言うのであれば、私から一つ、依頼を出そう。それが出来ない程度の誠意なら私には不要だし、貴様と係わるのも金輪際にしよう。どうだ?」 挑発的な笑みで紫煙を吐き出すセンリに、リスタはやっと自信を取り戻したかのように口の端を歪め、挑発し返すように笑みを返した。「――“やるぜ”。これを受けねェようじゃ、ハンターなんざ名乗れねェし、男でもねェ。そうだろ?」「ボクは男じゃないけど」透かさず背後からツッコミが挟まれた。「ボクも、やる。男じゃないけど」「……貴様らは本当に分かり易いな。分かり易い馬鹿だ」呆れ果てた様子で肩を竦めるセンリ。リスタから手を離し、背を向ける。「二人で猟団を結成しろ。そして――、」背を向けたまま、シアを指差す。「シアの預言を覆してみろ。依頼は以上だ、励めよ」 それだけ告げると、センリは別れの言葉も無く立ち去ってしまった。「猟団を結成しろ……?」訳が分からないと言った様子で小首を傾げるリスタ。「それにお前の預言って……どういう事だ、説明しろ」「……マスター、初めから、こうするつもり、だったな……?」どこか惚けた様子で呟くシアだったが、詰め寄るリスタに気づいて咳払いすると、彼女はいつもの無表情のまま、右手を差し出した。「これから宜しく、リスタ」「……何か訳分からねえ事になってきたが、あんな啖呵切ったんだ、後は野となれ山となれだ」シアの右手を掴んで握手を返すリスタ。「で、何だ? その預言とやらは」「――――“紅蓮の灯”」 シアはリスタの瞳を正面から見据えながら、ポツリと零した。「ボクは、紅蓮の灯を、探してる」
◇◆◇◆◇
「……紅蓮の、灯……?」 狩人都市・アルテミスに一度帰還し、酒場の一角で二人は今後に就いて話し合う事にした。 日が暮れ、狩場から依頼達成の喜びと共に帰ってくる者、これから反省会をするために悄然と顔を伏せた者、これから夜間の狩猟に繰り出すために精を付けに来た者と、酒場は喧噪の渦に呑まれていた。 リスタとシアは、互いにハチミツミルクだけを頼んで、隅の席で話し合いに耽っていた。「ボクの一族は、自然と対話して、星の声を聴いて、未来を選定する。そういう、一族」 コトリ、とハチミツミルクの入ったジョッキを下ろすと、シアは逡巡するように、リスタを覗き込んだ。「……嘘じゃ、ないよ?」「何も言ってねーだろうが」「今まで、信じてくれた人、いなかった。……マスター以外」「そりゃま、頭のネジが外れてんのかなとは思うわな」 勃然とシアはリスタを睨んだが、彼は悪気が有るようではなく、真剣な表情で彼女を見返した。「迂闊にそんな妄言信じれる輩ってのは、そもそも詐欺師か阿呆のどっちかって相場が決まってんだ」チビリとハチミツミルクを舐めると、リスタは真剣な表情を崩して、悪辣に笑った。「まッ、俺は阿呆だからな、信じてやっても良いぜ、その話」「……性格悪い」「何か言ったか?」「性格悪いって言った」「そこは明言化するのかよ! 何でもないって言っとけよ!」 全く……、と肩を竦めて浮かした腰を戻したリスタに、シアは無表情の中に薄っすらと喜色を混ぜながら、話を続けた。「預言が、託されたの。“均衡が崩れる。闇が来る。灯せ、紅蓮の灯を”……と」「おい、まさか今の三行で済んだ文言が、預言なのか?」「そう」「おいおい……」 あまりに抽象的だ、とツッコミを入れようかと思ったが、それは詮無い事だろうとリスタは黙した。 その程度の預言、誰でも出来るだろう。不安を煽らせ、対策を練らせるように、己の利になるものを買わせようとする……詐欺師が宣言する文句と大して差が無い。 そう思って一笑に付したかったが、シアは真剣そのものだった。リスタも表情筋を勝手に緩めようとはしなかった。「……ボクは、灯さなければ。紅蓮の灯を」「そもそも何なんだ、その紅蓮の灯ってのは」「分からない。分からないけど、灯さなければ」「お前なぁ……」 どうしたものかと溜め息を吐き散らすリスタの元に、「リスタ~! 探したにゃ~!」と、メイド姿のアイルーが駆け込んできた。「おっ、フレア今まで何してたんだ、いつの間にか居なくなってたが」「リスタが置いて行ったんじゃにゃいか~!! 知らにゃい街に一匹にして……! 心細かったにゃ~! にゃぁーん!」 めそめそと泣き始めるメイド姿のアイルーをぞんざいに撫でるリスタを見つめながら、シアはことんと小首を傾げた。「見た気がする、アイルー」「ああ、こいつか? こいつは俺のオトモ……みたいな奴だ。名前はフレア」「あっ、初めましてにゃ! リスタのお世話係を仕っております、フレアと申しますにゃ! 宜しくお願い致しますにゃ!」ぺこりと丁寧にお辞儀をするアイルー・フレア。「ところで貴女様は……? リスタのお友達ですにゃ?」「ボク、シア。今日からリスタと、猟団を結成する事になった。宜しく」「ふむふむにゃるほど……」腕を組んでうんうん頷くフレア。「え? 今にゃんと??」「聞いてねーんかい」ビシッとツッコミの手を入れるリスタ。「リスタと猟団を、結成する事に、なった」「にゃぜそんにゃ事に???」頭の上にクエスチョンマークを乱舞させるフレア。「あー……一から説明するの面倒だから、まぁそういう感じだ、理解しろ」「どうしてフレアを除け者にするのにゃ~! 教えて欲しいにゃ~!」涙目でリスタに詰め寄るフレア。「分かった分かった、分かったから座れ、鬱陶しい」諦めた様子でフレアを隣に座らせると、リスタはシアと共に簡単な説明をした。「……んで、俺は何故かこいつと猟団を組む事になった訳。分かったか?」「……リスタの暴走が招いた結果だと言う事は、よぅく、よぉぉぉぅく、分かったのにゃ……」ガッカリと肩を落としているフレア。「フレアが付いていにゃがら……うぅ、ご主人様に申し訳が立たにゃいのにゃ……」「フレアの主人、リスタじゃないの?」キョトンとするシア。「それは――」「はいですにゃ! リスタのお父上様が、フレアのご主人様ですにゃ!」「――言わなくていいだろ……ってもう言ってるし……」はぁーっと重たい溜め息を零して頭を抱えるリスタ。「リ、リスタごめんにゃ……」あわあわと失言を気にした様子のフレアに、「別に良いけどよ……」呆れた様子でそっぽを向くリスタ。「そ、そんにゃ事より! フレア、聞き逃せにゃい単語を聞いたのですにゃ!」「「聞き逃せない単語?」」リスタとシアの台詞が被った。「“紅蓮の灯”――それは、かつてフレアのご主人様が探し求めたものと一緒ですにゃ!」「えっ――?」「何……だと……?」シアの目の色が変わり、リスタの顔に緊張感が走った。「ただ、フレアはそれがどういうものか、一切説明を受けにゃかったので、全く分からにゃいのですが……」ぼそぼそと小声になっていくフレア。「リスタが探すのを手伝うと言うのであれば、不肖フレア、全力で尽力致しますにゃ!」最後は胸を張って宣言した。「……キミのお父さん、何者……?」不思議そうにリスタを見つめるシア。「……しがないハンターだよ。――それはともかくだ!」パンッ、と両手を合わせるリスタ。「目的は決まった。その紅蓮の灯とやらを探せば良いんだろ? だったらもっと見つけ易くする」「もっと、」「見つけ易く……?」フレアの言葉をシアが引き継いだ。「猟団の名前だ。猟団名は――【紅蓮の灯】――これで決まりだ」「……因みに、理由は?」「俺達が有名になればなるほど、その名前の元になった存在の情報が集まるかもって寸法だ。どうだ? 分かり易いだろ?」「そ、それはどうにゃんでしょう……」「――良い。それで行こう」「えええ、良いんですかにゃ……?」複雑そうな表情で腕を組むフレアを無視して、シアが力強く頷いた。 リスタとシアは互いに視線を合わせ、頷き合った。「猟団、【紅蓮の灯】――ここに結成だ」
――“紅蓮の灯”を探し求める猟団【紅蓮の灯】は、こうして結成された。 ……ように、見えた。
「……それで、私の到着を待たずしてディノバルドを討伐した、と」
ディノバルドの遺骸が狩人都市の運搬屋によって運び出されている光景を背景に、醒めた表情のセンリが、ばつが悪そうにしているリスタとシアを睨み据えていた。
「……先に言えよ、捕獲任務だったって……」ぼそりと恨めしそうにぼやくリスタ。
「私は言った筈だ。見つけ次第、報告しろと」葉巻を銜えたまま、冷厳な眼差しをリスタに突き刺すセンリ。「お陰で依頼は失敗した。良かったなリスタ、お前のお陰で私も一緒に手を振って凱旋できそうだ」
そう、センリは明言していなかったが、ディノバルドの捕獲が、正規の依頼だったのだと、今し方判明したところだった。
併しそれを伝える前にリスタは独断専行、無事にディノバルドは頭部を滅多打ちにされ昇天、捕獲と言う枠を通り過ぎ、討伐……つまり、依頼失敗と言う形で締め括られようとしていた。
「違約金は確か、一千万ゼニーだったか」ふぅ、と溜め息を漏らすセンリ。「勉強代が高くついたな」
「……ッ!」ギリ、と奥歯を噛み締めるリスタ。「待てよ、その違約金……」
「貴様には何も期待していない」ぴしゃりと発言を遮るセンリ。「外様の問題児に支払わせる訳にもいかんしな。とっとと凱旋とやらをしてこい。ここから先は“ハンター”が負うべき問題だ」
「待てよ」思わずと言った様子でセンリに掴みかかるリスタ。「お前さっきから……」
「何だ? 更にトラブルを重ねるつもりか? 良いとも、次はどんな凱旋を飾るんだ? 傷害罪か? 脅迫罪か? 今更何も驚かないとも、人の話を碌に聞かない輩がやらかす所業など高が知れている」
センリがそこまで煽りに煽りを重ねたところで、リスタは彼女から手を離し、跪いたかと思いきや、そのまま地面に額を擦りつけた。
「――――俺が悪かった。その違約金の代わりになるとは思えねェが、俺を好きに使ってくれ」
傲慢の塊に見えたリスタが土下座する姿を見下ろしてから、センリはシアに視線を向けた。
シアは無表情ながら、どこか悄然としていた雰囲気を一変し、ゆっくりとした所作で膝を突き、リスタと同じように頭を下げた。
「ボクも、お願いします」小さく、けれど通る声で、シアは呟いた。「止められなかった、ボクにも責任、有る。だから……」
「……ふん、初めからそれだけ謙虚であれば問題は生じなかった、そう思わないか?」
センリの言葉の棘に、リスタもシアもぐうの音が出ない様子だった。
「まァ良い。貴様らが今更どれだけ誠意を見せようと、結果は変わらんし、処遇も然りだ。違約金を支払うのは私で、貴様らは依頼を失敗した事を存分に悔いながら、“次に活かせば良い”」
「……お前、そんな大金持ってるのか……?」「目上の者をもっと敬え馬鹿者」「ぐっ……」
思わず頭を上げたリスタの両頬を右手だけで掴み上げ、ギリギリと締め上げるセンリ。リスタは間抜けな顔を晒して苛立っているようだったが、構わずにセンリは続けた。
「私が支払えるだけの大金を持っていなかったら、どうだと言うんだ? 貴様は代わりに支払えるだけの大金を持っているとでも?」
「……ッ」
「依頼主は、私の腕を見込んで、信頼して、依頼を出した。それを私は、貴様らと言う不確定要素を組み込んだ。それ故に失敗した。責任は誰に有ると思う? 貴様が負い目を感じる必要が、どこに有ると言うんだ?」
「……ッ!」
「――“もし”。もし貴様がこの件に対して何らかの誠意を見せたいと言うのであれば、私から一つ、依頼を出そう。それが出来ない程度の誠意なら私には不要だし、貴様と係わるのも金輪際にしよう。どうだ?」
挑発的な笑みで紫煙を吐き出すセンリに、リスタはやっと自信を取り戻したかのように口の端を歪め、挑発し返すように笑みを返した。
「――“やるぜ”。これを受けねェようじゃ、ハンターなんざ名乗れねェし、男でもねェ。そうだろ?」「ボクは男じゃないけど」透かさず背後からツッコミが挟まれた。「ボクも、やる。男じゃないけど」
「……貴様らは本当に分かり易いな。分かり易い馬鹿だ」呆れ果てた様子で肩を竦めるセンリ。リスタから手を離し、背を向ける。「二人で猟団を結成しろ。そして――、」背を向けたまま、シアを指差す。「シアの預言を覆してみろ。依頼は以上だ、励めよ」
それだけ告げると、センリは別れの言葉も無く立ち去ってしまった。
「猟団を結成しろ……?」訳が分からないと言った様子で小首を傾げるリスタ。「それにお前の預言って……どういう事だ、説明しろ」
「……マスター、初めから、こうするつもり、だったな……?」どこか惚けた様子で呟くシアだったが、詰め寄るリスタに気づいて咳払いすると、彼女はいつもの無表情のまま、右手を差し出した。「これから宜しく、リスタ」
「……何か訳分からねえ事になってきたが、あんな啖呵切ったんだ、後は野となれ山となれだ」シアの右手を掴んで握手を返すリスタ。「で、何だ? その預言とやらは」
「――――“紅蓮の灯”」
シアはリスタの瞳を正面から見据えながら、ポツリと零した。
「ボクは、紅蓮の灯を、探してる」
◇◆◇◆◇
「……紅蓮の、灯……?」
狩人都市・アルテミスに一度帰還し、酒場の一角で二人は今後に就いて話し合う事にした。
日が暮れ、狩場から依頼達成の喜びと共に帰ってくる者、これから反省会をするために悄然と顔を伏せた者、これから夜間の狩猟に繰り出すために精を付けに来た者と、酒場は喧噪の渦に呑まれていた。
リスタとシアは、互いにハチミツミルクだけを頼んで、隅の席で話し合いに耽っていた。
「ボクの一族は、自然と対話して、星の声を聴いて、未来を選定する。そういう、一族」
コトリ、とハチミツミルクの入ったジョッキを下ろすと、シアは逡巡するように、リスタを覗き込んだ。
「……嘘じゃ、ないよ?」
「何も言ってねーだろうが」
「今まで、信じてくれた人、いなかった。……マスター以外」
「そりゃま、頭のネジが外れてんのかなとは思うわな」
勃然とシアはリスタを睨んだが、彼は悪気が有るようではなく、真剣な表情で彼女を見返した。
「迂闊にそんな妄言信じれる輩ってのは、そもそも詐欺師か阿呆のどっちかって相場が決まってんだ」チビリとハチミツミルクを舐めると、リスタは真剣な表情を崩して、悪辣に笑った。「まッ、俺は阿呆だからな、信じてやっても良いぜ、その話」
「……性格悪い」「何か言ったか?」「性格悪いって言った」「そこは明言化するのかよ! 何でもないって言っとけよ!」
全く……、と肩を竦めて浮かした腰を戻したリスタに、シアは無表情の中に薄っすらと喜色を混ぜながら、話を続けた。
「預言が、託されたの。“均衡が崩れる。闇が来る。灯せ、紅蓮の灯を”……と」
「おい、まさか今の三行で済んだ文言が、預言なのか?」
「そう」
「おいおい……」
あまりに抽象的だ、とツッコミを入れようかと思ったが、それは詮無い事だろうとリスタは黙した。
その程度の預言、誰でも出来るだろう。不安を煽らせ、対策を練らせるように、己の利になるものを買わせようとする……詐欺師が宣言する文句と大して差が無い。
そう思って一笑に付したかったが、シアは真剣そのものだった。リスタも表情筋を勝手に緩めようとはしなかった。
「……ボクは、灯さなければ。紅蓮の灯を」
「そもそも何なんだ、その紅蓮の灯ってのは」
「分からない。分からないけど、灯さなければ」
「お前なぁ……」
どうしたものかと溜め息を吐き散らすリスタの元に、「リスタ~! 探したにゃ~!」と、メイド姿のアイルーが駆け込んできた。
「おっ、フレア今まで何してたんだ、いつの間にか居なくなってたが」
「リスタが置いて行ったんじゃにゃいか~!! 知らにゃい街に一匹にして……! 心細かったにゃ~! にゃぁーん!」
めそめそと泣き始めるメイド姿のアイルーをぞんざいに撫でるリスタを見つめながら、シアはことんと小首を傾げた。
「見た気がする、アイルー」
「ああ、こいつか? こいつは俺のオトモ……みたいな奴だ。名前はフレア」
「あっ、初めましてにゃ! リスタのお世話係を仕っております、フレアと申しますにゃ! 宜しくお願い致しますにゃ!」ぺこりと丁寧にお辞儀をするアイルー・フレア。「ところで貴女様は……? リスタのお友達ですにゃ?」
「ボク、シア。今日からリスタと、猟団を結成する事になった。宜しく」
「ふむふむにゃるほど……」腕を組んでうんうん頷くフレア。「え? 今にゃんと??」「聞いてねーんかい」ビシッとツッコミの手を入れるリスタ。
「リスタと猟団を、結成する事に、なった」
「にゃぜそんにゃ事に???」頭の上にクエスチョンマークを乱舞させるフレア。
「あー……一から説明するの面倒だから、まぁそういう感じだ、理解しろ」
「どうしてフレアを除け者にするのにゃ~! 教えて欲しいにゃ~!」涙目でリスタに詰め寄るフレア。
「分かった分かった、分かったから座れ、鬱陶しい」諦めた様子でフレアを隣に座らせると、リスタはシアと共に簡単な説明をした。「……んで、俺は何故かこいつと猟団を組む事になった訳。分かったか?」
「……リスタの暴走が招いた結果だと言う事は、よぅく、よぉぉぉぅく、分かったのにゃ……」ガッカリと肩を落としているフレア。「フレアが付いていにゃがら……うぅ、ご主人様に申し訳が立たにゃいのにゃ……」
「フレアの主人、リスタじゃないの?」キョトンとするシア。
「それは――」「はいですにゃ! リスタのお父上様が、フレアのご主人様ですにゃ!」「――言わなくていいだろ……ってもう言ってるし……」はぁーっと重たい溜め息を零して頭を抱えるリスタ。
「リ、リスタごめんにゃ……」あわあわと失言を気にした様子のフレアに、「別に良いけどよ……」呆れた様子でそっぽを向くリスタ。
「そ、そんにゃ事より! フレア、聞き逃せにゃい単語を聞いたのですにゃ!」
「「聞き逃せない単語?」」リスタとシアの台詞が被った。
「“紅蓮の灯”――それは、かつてフレアのご主人様が探し求めたものと一緒ですにゃ!」
「えっ――?」「何……だと……?」シアの目の色が変わり、リスタの顔に緊張感が走った。
「ただ、フレアはそれがどういうものか、一切説明を受けにゃかったので、全く分からにゃいのですが……」ぼそぼそと小声になっていくフレア。「リスタが探すのを手伝うと言うのであれば、不肖フレア、全力で尽力致しますにゃ!」最後は胸を張って宣言した。
「……キミのお父さん、何者……?」不思議そうにリスタを見つめるシア。
「……しがないハンターだよ。――それはともかくだ!」パンッ、と両手を合わせるリスタ。「目的は決まった。その紅蓮の灯とやらを探せば良いんだろ? だったらもっと見つけ易くする」
「もっと、」「見つけ易く……?」フレアの言葉をシアが引き継いだ。
「猟団の名前だ。猟団名は――【紅蓮の灯】――これで決まりだ」
「……因みに、理由は?」
「俺達が有名になればなるほど、その名前の元になった存在の情報が集まるかもって寸法だ。どうだ? 分かり易いだろ?」
「そ、それはどうにゃんでしょう……」「――良い。それで行こう」「えええ、良いんですかにゃ……?」複雑そうな表情で腕を組むフレアを無視して、シアが力強く頷いた。
リスタとシアは互いに視線を合わせ、頷き合った。
「猟団、【紅蓮の灯】――ここに結成だ」
――“紅蓮の灯”を探し求める猟団【紅蓮の灯】は、こうして結成された。
……ように、見えた。
🌟後書
謎の単語「紅蓮の灯」を追い求める物語がやっと始まりました! 週刊少年誌っぽさを出したかったので、それっぽい展開に終始しております。リスタ君のお父さんが探していた「紅蓮の灯」、シアちゃんの一族が預言した「紅蓮の灯」、まだまだ謎だらけの代物です(始まったばかりですしね!ww) さておき、「猟団」と言う言葉があまりにも懐かしくてニヤニヤしてしまいますね…w 猟団システムはMHFが初出だと思いますので、当時を懐かしみながら、彼らが築く猟団がどうなっていくのか、ぜひ楽しみに見守って頂けたらと思います(´▽`*) と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
🌸以下感想
とみ
更新お疲れ様ですvv
やっちまいましたねw若気の至りとはまさにこの事か…
それにしても何もかもお見通しのようなセンリさんは気になりますね。
懐かしいです「猟団」みんなどうしてるかなー?
随分昔のことだけど、今でも思い出しちゃうのはそれだけ思いがつまってたのかもしれないです。
二人の猟団見守っていきますぞ!
今回も楽しませていただきました~(いただき女子 とみちゃん!
次回も楽しみにしてますよーv
2024年1月25日木曜日 21:33:28 JST
夜影
>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
やっちまいましたねwwまさに仰る通り、若気の至りって奴でして…ww
センリさん、一日の長が有るって感じの先達ハンター感を出したくてこんな感じに…!
懐かしいですよね「猟団」! あの頃からまだ付き合いが有るのってとみちゃんとゆえさんぐらいなので、皆さん今頃どうされてるのやらw
ですねぇ…たくさんの思い出が詰まってましたから…
二人の猟団、ぜひぜひ温かく見守って頂けたら幸いです!(´▽`*)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!(いただき女子!?!?!?wwwww
次回もぜひぜひお楽しみに~!!
2024年1月26日金曜日 8:10:56 JST
0 件のコメント:
コメントを投稿