012.紅蓮の灯〈2〉
012.紅蓮の灯〈2〉
晴れ間が覗く高地で、四人のハンターは満身創痍の態で蛮竜・グレンゼブルから素材を剥ぎ取っていた。「また、目的じゃない事、やってる」シアが表情を変えずに、溜め息を吐きながら剥ぎ取りナイフでグレンゼブルの鱗を剥ぎ取る。「イワヒメ草の採取、忘れてない?」「三歩闊歩しただけで忘れる鳥竜種じゃねェーんだ、そこまで見縊られちまったら霊長類の名が廃るってもんだろ」右手だけで器用に剥ぎ取りナイフを繰り、グレンゼブルの甲殻を剥ぎ取るリスタ。「まずは自然界に還る前のこいつから、有り難~く素材を剥ぎ取って、今後に活かすべき、だろ?」「よもや未知の飛竜種を我らだけで討伐し得るとは、流石の私も目から鱗が落ちると言うもの……緋色の盾使いの技量には驚かされるばかりだ」剥ぎ取った素材をポーチの中にしまっていくゼラフ。「佳き経験を積ませて貰った事、感謝するほか有るまいな。なぁクーリエ?」「うんうん~♪ 実戦形式で~、こういう体験をさせてくれるのは~、新米ハンターとして~、とぉ~っても~、助かるよねぇ~♪」辺りを警戒しながら応じるクーリエ。「ところで~、リスタ君の言ってた~、狂竜ウイルスって~、何だったの~?」 グレンゼブルから剥ぎ取れる資源を粗方剥ぎ取り終えたリスタは、返り血を拭いながら三人を振り返る。三人も剥ぎ取りナイフをしまい、リスタの話を聴く準備は整っていた。「黒蝕竜、ゴア・マガラ。災厄の黒き蝕、なんて呼ばれたりもするようだが、そう呼ばれる所以は、撒き散らす鱗粉を吸った生物がおかしくなる事に由来するんだ」体力回復に努める為だろう、その場に座り込んで話し始めるリスタ。「初期症状は、神経系・身体能力の異常、抵抗力の低下ぐらいの、人間様で言やぁ風邪の引き始めみたいな症状だ。これが深刻化すると、さっきまで暴れ回っていた蛮竜のように、常軌を逸した狂暴性を発揮するようになる。それ故にハンターズギルドではゴア・マガラの鱗粉を“狂竜ウイルス”と呼称し、これによって発症した症状を“狂竜症”と名付けるに至る……ってのが、最新のハンターズギルドの見解だな」 三人は初めて聴く単語の連続に、目を白黒させていた。「未知なるフレーズがあまりに多いな……緋色の盾使いが知識として有していると言う事は、ハンターズギルドも表立って周知している情報なのだろうが……」ゼラフは顎を摘まみながら唸り始めた。「併し、この場に居合わせる者、緋色の盾使い以外は誰も知り得ていないと来た。疑う訳ではないが、確度の高い情報なのか?」「さぁな。実際のところ、俺もこの話がどこまで真実で、どこまでハンターズギルドのお偉方が勝手に出した見解なのか、知る由もねェーってのが正直な話だ」大仰に肩を竦めるリスタ。「俺ァ師匠経由でそういう知識を得ているだけで、師匠自体が間違った情報を掴まされてる可能性は否めねェしな。俺が勝手に師匠を盲信してるだけとも言い換えれる。その程度の情報だ」「リスタ君の師匠って~、情報通なんだねぇ~」 ほわほわ~っとクーリエが相槌を打つと、リスタはそこで初めて苦笑を覗かせた。「まァな。世界に名を馳せるハンターで、知名度だけで言えば誰でも知ってるヒーローだからよ」「……? そんなハンター、居るの?」 シアが不思議そうに小首を傾げるが、リスタはお手上げのポーズを返した。「師匠の話は別に良いだろ。要はその狂竜ウイルスに、あのグレンゼブルは侵されていた可能性が有って、それ故に高地で暴れ回っていた。その被害拡大を防ぐ為にも俺達はこうして目的に無かった討伐を成し遂げた。それが全てだ」「釈然としないが……他に説明の余地も無いしな……」ゼラフが難しい表情で俯く。「我が才腕で以てしても敵わぬ飛竜種と相対して討滅できた事、それだけで今夜の肴は決まったも同義。私からわざわざ口を挟む事も無いな」「私達の実力じゃあ~、何も出来なかっただろうしね~。リスタ君達には~、感謝しかないよ~♪」クーリエが嬉しそうに手を合わせる。「本当に~、ありがと~♪ この素材を売れば~、暫くご飯に~、困らないだろうし~♪」「カッ、俺が独りで何とか出来てたなら満更でもねェんだがな。今回ばっかりはテメエらに助けられたぜ」照れ臭そうに手を振るリスタ。「特にゼラフよ。お前、ちゃんと漢じゃねェか。俺の人を見る目が腐ってねェ事を証明できて何よりだぜ」「……もしかして、私の事を見縊っていたのかな? ん? どうなんだ??」 ゼラフが不愉快な表情でリスタに詰め寄ってくるのを、シアは表情筋も変えずに噴き出し、クーリエも思わずと言った様子で笑い出してしまった。 緊張の糸が切れてしまった感覚に満たされた四人は、徐々に失われつつあるグレンゼブルの死骸を前に、暫く笑い声の絶えない時間を過ごすのだった。
◇◆◇◆◇
「遅イっぢゃ! 待ヂ草臥れて、迎エにギたっちゃ!」 暫く放心して笑い転げていた四人の元に、洞窟の方からチャチャブーの五人組……フウッチャとその取り巻きが、ランポスに跨って駆けてきた。「おう、悪ィな。緊急な狩猟が始まっちまって、ちっと休憩してたところだ。今から本来の目的、イワヒメ草を探しに行くところだぜ」回復した体を確かめるように、立ち上がって手を握り締めたり開いたりする。「テメエらはもう用事が済んだのかよ?」「済ンだっぢゃ! 見ロ、こノりギ作を!」 そう言ってフウッチャが掲げたのは、フウッチャの体ほどの大きさの画板で、そこには高地から見晴るかせる広大な景色を事細かに描写した絵画が描かれていた。「ヒュゥ、こいつァすげェ。よくまァこの短時間でここまで描けるもんだ」リスタが感嘆した様子で口笛を吹いた。「この為にここまで来たって事か?」「佳イ景色、描グ、そレがオイの目的っぢゃ! もウ達成しダがら、帰ルっぢゃ! 帰ルっぢゃ!」「おいおい、だから本来の目的が――――」 突然黙り込んだリスタに、シアが「どうした、の?」と不思議そうに小首を傾げると、彼はフウッチャに視線を向けて、怪訝そうに尋ねた。「おい、フウッチャ。お前、これどこで描いた?」「こレっぢゃ? ベーすキャんぷ、で、描イだ!」「間違っても誇張はねェだろうな?」「オイ、ちゃンど描イだ! 間違イ、なイ!」「如何した緋色の盾使い? この美しき絵画に風評を付けたいのか?」シアに続いてゼラフも不思議そうに声を掛ける。「奇面族にこのような類い稀なる才覚が有る事に疑念を覚えるのも分からんではないが……」「……カッ。だとしたら待てよ、ククッ、俺達はマルッと無駄足を踏んだようだな、ハハハッ」 ゲラゲラ笑い転げるリスタに、三人は再び顔を見合わせて小首を傾げてしまう。 笑い過ぎて使い物にならなくなったリスタが元に戻るまで、三人は呆れてお手上げのポーズを取るのだった。
◇◆◇◆◇
「……それで、その、チャチャブー? が描いた絵の中に、イワヒメ草が描かれてて、そこに向かったら本当に有って、採集してきた……って事?」 狩人都市・アルテミスに帰還したリスタ達を出迎えたギロウは何を言っているのかよく分かっていない風に、瞬きを何度もして困惑していた。 ギロウの手には確かにイワヒメ草が握られていて、それを手渡したリスタは笑いを堪え切れない様子で、「あぁ、そういうこった。灯台下暗しとはまさにこの事でな? 面白過ぎて腹がよじれるかと思ったぜ」と、未だに笑顔が隠し切れない様子だった。「笑い事、じゃない」ハァーッと溜め息を落とすシア。「グレンゼブルと、無駄に死闘して、疲れた。報酬上乗せ、期待してる」 シアの視線の先にはギロウではなくリスタが居た。彼は剽げた様子で肩を竦めるだけで、取り合うつもりは無さそうだった。「よく分かんないけど……有り難う、兄ちゃん、姉ちゃん! これで姉ちゃんを喜ばせられるよ! 本当に、有り難う!」 太陽草のように表情を綻ばせて喜ぶギロウに、四人は思い思いに微笑を返し、彼が駆けて行くのを見送った。「さて、俺達を結び付けていた依頼がこれで片付いた訳だが――」リスタはゼラフに視線を向けた。「ゼラフ。ちと訊きてェんだがよ、お前、猟団に興味ねェか?」「猟団?」思わず間の抜けた声を返すゼラフ。「無い訳ではないが……貴殿も分かっていよう、私の才腕では勧誘の声が掛からない事ぐらい」「そうなのか? だとしたらこの街にゃァとんでもなく人を見る目が無い奴しかいねェんだな」 鼻で嗤うリスタに、ゼラフは更に困惑した様子で眉根を顰める。クーリエは既に察しがついたのか、ニヤニヤしながらゼラフの脇腹を小突いた。「ゼラフく~ん、今がアピールするタイミングだよ~♪」「あぴーる……?」「――ゼラフ達を、猟団に誘う、の?」 シアの不思議そうな声に、リスタは笑みを浮かべて頷き、ゼラフは大きく目を見開いた。「試したかった実力は実践で実証済みだ。俺ァこいつらとなら組めると確信した。テメエはどうなんだ、シア?」「……」シアはゼラフを感情のこもらない瞳で見据える。「……ボクも、異論、無い」こくん、と頷いた。「だったら後はゼラフ、テメエらの返答次第だ」ゼラフを睨むように見つめるリスタ。「俺達は或る目的の為に今、猟団を設立しようとしててな。人数が足りなくて立ち上げる事も出来ねえんだが、あと二人ハンターが来てくれりゃあ、ひとまず猟団の態は成せる。勿論数合わせで呼ぶ訳じゃねェ、テメエらの実力なら、俺ァ背中を預けるに足ると思ったから、声を掛けてる」 どうだ? と視線で尋ねてくるリスタに、ゼラフは驚いた表情のまま、あわあわと手を拱いて、クーリエに視線で問いかける。クーリエもほわほわ~っとした笑顔で頷き返すと、ゼラフは生唾を呑み込んで、リスタに向き直った。「よ、喜んひょえ……ひょえ……」思わず舌を噛んで赤面するゼラフだったが、パンッ、と両手で頬を打つと、今し方の失態を無かった事にするように、真顔でリスタに向き直った。「――喜んで拝命仕ろう。この槍は、これより緋色の盾使いの旗下に入る。存分に使ってくれたまえ」「はーい、喜んで~♪ リスタ君、シアちゃん、改めて~、宜しくね~♪」「あぁ、頼むぜご両人」ニヤリと笑いかけるリスタ。「――シア、これで猟団の問題も解決、だな?」 リスタの獰猛な笑みに、シアは感情の乗らない顔のまま、こくん、と頷く。「猟団、【紅蓮の灯】。結成、だ」
晴れ間が覗く高地で、四人のハンターは満身創痍の態で蛮竜・グレンゼブルから素材を剥ぎ取っていた。
「また、目的じゃない事、やってる」シアが表情を変えずに、溜め息を吐きながら剥ぎ取りナイフでグレンゼブルの鱗を剥ぎ取る。「イワヒメ草の採取、忘れてない?」
「三歩闊歩しただけで忘れる鳥竜種じゃねェーんだ、そこまで見縊られちまったら霊長類の名が廃るってもんだろ」右手だけで器用に剥ぎ取りナイフを繰り、グレンゼブルの甲殻を剥ぎ取るリスタ。「まずは自然界に還る前のこいつから、有り難~く素材を剥ぎ取って、今後に活かすべき、だろ?」
「よもや未知の飛竜種を我らだけで討伐し得るとは、流石の私も目から鱗が落ちると言うもの……緋色の盾使いの技量には驚かされるばかりだ」剥ぎ取った素材をポーチの中にしまっていくゼラフ。「佳き経験を積ませて貰った事、感謝するほか有るまいな。なぁクーリエ?」
「うんうん~♪ 実戦形式で~、こういう体験をさせてくれるのは~、新米ハンターとして~、とぉ~っても~、助かるよねぇ~♪」辺りを警戒しながら応じるクーリエ。「ところで~、リスタ君の言ってた~、狂竜ウイルスって~、何だったの~?」
グレンゼブルから剥ぎ取れる資源を粗方剥ぎ取り終えたリスタは、返り血を拭いながら三人を振り返る。三人も剥ぎ取りナイフをしまい、リスタの話を聴く準備は整っていた。
「黒蝕竜、ゴア・マガラ。災厄の黒き蝕、なんて呼ばれたりもするようだが、そう呼ばれる所以は、撒き散らす鱗粉を吸った生物がおかしくなる事に由来するんだ」体力回復に努める為だろう、その場に座り込んで話し始めるリスタ。「初期症状は、神経系・身体能力の異常、抵抗力の低下ぐらいの、人間様で言やぁ風邪の引き始めみたいな症状だ。これが深刻化すると、さっきまで暴れ回っていた蛮竜のように、常軌を逸した狂暴性を発揮するようになる。それ故にハンターズギルドではゴア・マガラの鱗粉を“狂竜ウイルス”と呼称し、これによって発症した症状を“狂竜症”と名付けるに至る……ってのが、最新のハンターズギルドの見解だな」
三人は初めて聴く単語の連続に、目を白黒させていた。
「未知なるフレーズがあまりに多いな……緋色の盾使いが知識として有していると言う事は、ハンターズギルドも表立って周知している情報なのだろうが……」ゼラフは顎を摘まみながら唸り始めた。「併し、この場に居合わせる者、緋色の盾使い以外は誰も知り得ていないと来た。疑う訳ではないが、確度の高い情報なのか?」
「さぁな。実際のところ、俺もこの話がどこまで真実で、どこまでハンターズギルドのお偉方が勝手に出した見解なのか、知る由もねェーってのが正直な話だ」大仰に肩を竦めるリスタ。「俺ァ師匠経由でそういう知識を得ているだけで、師匠自体が間違った情報を掴まされてる可能性は否めねェしな。俺が勝手に師匠を盲信してるだけとも言い換えれる。その程度の情報だ」
「リスタ君の師匠って~、情報通なんだねぇ~」
ほわほわ~っとクーリエが相槌を打つと、リスタはそこで初めて苦笑を覗かせた。
「まァな。世界に名を馳せるハンターで、知名度だけで言えば誰でも知ってるヒーローだからよ」
「……? そんなハンター、居るの?」
シアが不思議そうに小首を傾げるが、リスタはお手上げのポーズを返した。
「師匠の話は別に良いだろ。要はその狂竜ウイルスに、あのグレンゼブルは侵されていた可能性が有って、それ故に高地で暴れ回っていた。その被害拡大を防ぐ為にも俺達はこうして目的に無かった討伐を成し遂げた。それが全てだ」
「釈然としないが……他に説明の余地も無いしな……」ゼラフが難しい表情で俯く。「我が才腕で以てしても敵わぬ飛竜種と相対して討滅できた事、それだけで今夜の肴は決まったも同義。私からわざわざ口を挟む事も無いな」
「私達の実力じゃあ~、何も出来なかっただろうしね~。リスタ君達には~、感謝しかないよ~♪」クーリエが嬉しそうに手を合わせる。「本当に~、ありがと~♪ この素材を売れば~、暫くご飯に~、困らないだろうし~♪」
「カッ、俺が独りで何とか出来てたなら満更でもねェんだがな。今回ばっかりはテメエらに助けられたぜ」照れ臭そうに手を振るリスタ。「特にゼラフよ。お前、ちゃんと漢じゃねェか。俺の人を見る目が腐ってねェ事を証明できて何よりだぜ」
「……もしかして、私の事を見縊っていたのかな? ん? どうなんだ??」
ゼラフが不愉快な表情でリスタに詰め寄ってくるのを、シアは表情筋も変えずに噴き出し、クーリエも思わずと言った様子で笑い出してしまった。
緊張の糸が切れてしまった感覚に満たされた四人は、徐々に失われつつあるグレンゼブルの死骸を前に、暫く笑い声の絶えない時間を過ごすのだった。
◇◆◇◆◇
「遅イっぢゃ! 待ヂ草臥れて、迎エにギたっちゃ!」
暫く放心して笑い転げていた四人の元に、洞窟の方からチャチャブーの五人組……フウッチャとその取り巻きが、ランポスに跨って駆けてきた。
「おう、悪ィな。緊急な狩猟が始まっちまって、ちっと休憩してたところだ。今から本来の目的、イワヒメ草を探しに行くところだぜ」回復した体を確かめるように、立ち上がって手を握り締めたり開いたりする。「テメエらはもう用事が済んだのかよ?」
「済ンだっぢゃ! 見ロ、こノりギ作を!」
そう言ってフウッチャが掲げたのは、フウッチャの体ほどの大きさの画板で、そこには高地から見晴るかせる広大な景色を事細かに描写した絵画が描かれていた。
「ヒュゥ、こいつァすげェ。よくまァこの短時間でここまで描けるもんだ」リスタが感嘆した様子で口笛を吹いた。「この為にここまで来たって事か?」
「佳イ景色、描グ、そレがオイの目的っぢゃ! もウ達成しダがら、帰ルっぢゃ! 帰ルっぢゃ!」
「おいおい、だから本来の目的が――――」
突然黙り込んだリスタに、シアが「どうした、の?」と不思議そうに小首を傾げると、彼はフウッチャに視線を向けて、怪訝そうに尋ねた。
「おい、フウッチャ。お前、これどこで描いた?」
「こレっぢゃ? ベーすキャんぷ、で、描イだ!」
「間違っても誇張はねェだろうな?」
「オイ、ちゃンど描イだ! 間違イ、なイ!」
「如何した緋色の盾使い? この美しき絵画に風評を付けたいのか?」シアに続いてゼラフも不思議そうに声を掛ける。「奇面族にこのような類い稀なる才覚が有る事に疑念を覚えるのも分からんではないが……」
「……カッ。だとしたら待てよ、ククッ、俺達はマルッと無駄足を踏んだようだな、ハハハッ」
ゲラゲラ笑い転げるリスタに、三人は再び顔を見合わせて小首を傾げてしまう。
笑い過ぎて使い物にならなくなったリスタが元に戻るまで、三人は呆れてお手上げのポーズを取るのだった。
◇◆◇◆◇
「……それで、その、チャチャブー? が描いた絵の中に、イワヒメ草が描かれてて、そこに向かったら本当に有って、採集してきた……って事?」
狩人都市・アルテミスに帰還したリスタ達を出迎えたギロウは何を言っているのかよく分かっていない風に、瞬きを何度もして困惑していた。
ギロウの手には確かにイワヒメ草が握られていて、それを手渡したリスタは笑いを堪え切れない様子で、「あぁ、そういうこった。灯台下暗しとはまさにこの事でな? 面白過ぎて腹がよじれるかと思ったぜ」と、未だに笑顔が隠し切れない様子だった。
「笑い事、じゃない」ハァーッと溜め息を落とすシア。「グレンゼブルと、無駄に死闘して、疲れた。報酬上乗せ、期待してる」
シアの視線の先にはギロウではなくリスタが居た。彼は剽げた様子で肩を竦めるだけで、取り合うつもりは無さそうだった。
「よく分かんないけど……有り難う、兄ちゃん、姉ちゃん! これで姉ちゃんを喜ばせられるよ! 本当に、有り難う!」
太陽草のように表情を綻ばせて喜ぶギロウに、四人は思い思いに微笑を返し、彼が駆けて行くのを見送った。
「さて、俺達を結び付けていた依頼がこれで片付いた訳だが――」リスタはゼラフに視線を向けた。「ゼラフ。ちと訊きてェんだがよ、お前、猟団に興味ねェか?」
「猟団?」思わず間の抜けた声を返すゼラフ。「無い訳ではないが……貴殿も分かっていよう、私の才腕では勧誘の声が掛からない事ぐらい」
「そうなのか? だとしたらこの街にゃァとんでもなく人を見る目が無い奴しかいねェんだな」
鼻で嗤うリスタに、ゼラフは更に困惑した様子で眉根を顰める。クーリエは既に察しがついたのか、ニヤニヤしながらゼラフの脇腹を小突いた。
「ゼラフく~ん、今がアピールするタイミングだよ~♪」
「あぴーる……?」
「――ゼラフ達を、猟団に誘う、の?」
シアの不思議そうな声に、リスタは笑みを浮かべて頷き、ゼラフは大きく目を見開いた。
「試したかった実力は実践で実証済みだ。俺ァこいつらとなら組めると確信した。テメエはどうなんだ、シア?」
「……」シアはゼラフを感情のこもらない瞳で見据える。「……ボクも、異論、無い」こくん、と頷いた。
「だったら後はゼラフ、テメエらの返答次第だ」ゼラフを睨むように見つめるリスタ。「俺達は或る目的の為に今、猟団を設立しようとしててな。人数が足りなくて立ち上げる事も出来ねえんだが、あと二人ハンターが来てくれりゃあ、ひとまず猟団の態は成せる。勿論数合わせで呼ぶ訳じゃねェ、テメエらの実力なら、俺ァ背中を預けるに足ると思ったから、声を掛けてる」
どうだ? と視線で尋ねてくるリスタに、ゼラフは驚いた表情のまま、あわあわと手を拱いて、クーリエに視線で問いかける。クーリエもほわほわ~っとした笑顔で頷き返すと、ゼラフは生唾を呑み込んで、リスタに向き直った。
「よ、喜んひょえ……ひょえ……」思わず舌を噛んで赤面するゼラフだったが、パンッ、と両手で頬を打つと、今し方の失態を無かった事にするように、真顔でリスタに向き直った。「――喜んで拝命仕ろう。この槍は、これより緋色の盾使いの旗下に入る。存分に使ってくれたまえ」
「はーい、喜んで~♪ リスタ君、シアちゃん、改めて~、宜しくね~♪」
「あぁ、頼むぜご両人」ニヤリと笑いかけるリスタ。「――シア、これで猟団の問題も解決、だな?」
リスタの獰猛な笑みに、シアは感情の乗らない顔のまま、こくん、と頷く。
「猟団、【紅蓮の灯】。結成、だ」
🌟後書
と言う訳で、無事にゼラフ君とクーリエちゃんを仲間に引き入れ、猟団【紅蓮の灯】始動です! リスタ君の師匠に関しては今のところ情報があんまり無いのですが、もしかしたら今後登場するかも(名前だけかもですが)知れませんので、どういう風に物語に絡んでくるのか、今から楽しみにして頂けたらと思います!(´▽`*) そして次回からは狩猟シーンではなく日常パートと言いますか、モンスターが出てこないシーンになる予定です。私のモンハン小説は寧ろこちらが本編まである奴!www(笑) と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
🌸以下感想
とみ
更新お疲れ様ですvv
「よ、喜んひょえ……ひょえ……」
素のゼラフくんめっちゃかわいい問題w
実際、リスタくんがいるとはいえグさんを狩猟できたんだからそれなりの実力はあるハンターですよね。今後の成長に期待!
そしてまさかのイワヒメ草wフウッチャくんナイスです!
それにしても絵画の中からイワヒメ草を見つけるリスタくんとそれを描いてしまったフウッチャくんに拍手!!
猟団の話は色々思い出されてこみ上げるものがいっぱいあるですよw
師匠はあの方で決定じゃないの?えっ、もっとすごいのいるのww
今回も楽しませていただきました~!
次回も楽しみにしてますよーv
2024年2月24日土曜日 10:00:49 JST
夜影
>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
素のゼラフ君めっちゃかわいい問題wwwwゼラフ君、格好つけたさが溢れてるのに、素が可愛過ぎてカッコ良さが…!wwwww(笑)
ですです! リスタ君の力を借りてこそいますけれど、ちゃんと立て直して狩猟に参加していたのですから、それなりの実力がある筈なのです! ぜひぜひ今後とも見守って頂けたら幸いです!(´▽`*)
イワヒメ草、絵画の中から見つけ出すと言う荒業でクリアしちゃいました…!w フウッチャ君の描画力も然る事ながら、そこから見つけ出すリスタ君もやっぱりしゅごいと言う…!w
ですよね!ww 私も色々込み上げながら猟団の話を綴っておりますゆえ、気持ちが分かる…!ww
師匠はまだ何とも言えない奴です…! この世界、色々ヤバい人が多そうですから…!www(笑)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!(´▽`*)
次回もぜひぜひお楽しみに~!
2024年2月24日土曜日 10:12:09 JST
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