2024年2月13日火曜日

011.蛮域〈4〉

【紅蓮の灯、隻腕の盾使い】(モンハン二次創作小説)
011.蛮域〈4〉

011.蛮域〈4〉


「リスタく~ん、シアちゃ~ん、お待たせ~」
 リスタがグレンゼブルを睨み据え、さて攻撃に移ろうかと言うタイミングで、ゼラフとクーリエの二人が戻って来た。
 リスタが目を覚ましている事を確認したゼラフは表情に安堵の色を点し、クーリエも嬉しそうに笑みを刻む。
 リスタはシアから手を離し、「役者が揃ったな。まだ舞えるか?」と、小盾を構えた。
 シアは汗だくの顔を腕で乱暴に拭うと、「……疲れた。から、早めに終わらせて」と、太刀を改めて構え直す。
「バオオオオ―――――ッッ!」
 シアの斬撃で全身裂傷が走るグレンゼブルは併し、勢いが全く衰えないまま、リスタとシアに向かって突進を繰り出した。
 単調な動き。見極めたその攻撃は最早隙だらけの行動に他ならない。リスタもシアも、タイミングを見計らって反撃を喰らわせる態勢に入り――――グレンゼブルはそれを見越したかのように、突然跳び上がり、角を地中に向かって突き刺した。
 角を突き刺した先にリスタもシアも居ない。まだ距離が離れているにも拘らず突き刺した意味。攻撃に他ならない筈のそれが意味する事は――――
「――――シア! 跳べ!」「――――ッ!」
 咄嗟に左右に分かれて飛び込んだリスタとシアの、その元居た場所に亀裂が走り、大量の水飛沫が立ち上がった。マトモに喰らえば水圧で装備諸共引き裂かれていたであろう、その攻撃は、リスタもシアも初めて目にするものだ。
 まだ隠し玉を持っている。グレンゼブルは今まで本気ではなかったのかも知れないと思う程に、徐々に徐々に、その攻撃を苛烈な物にしていく事は、容易に知れた。
「お二方、無事かっ!?」
 ゼラフの悲鳴のような声に、二人は咄嗟に手を挙げて無事を示す。
「一旦体勢を立て直すべく、洞窟に避難すべきではないか!? これ以上戦線を維持しても、体力が保つまい!」
 ゼラフの悲鳴染みた提案に、併しリスタは首を否と振った。
「どうして!?」
「そいつァ無理だ、こいつはどこまでも俺達を追って来るぜ、“そういう病に侵されてる”」リスタは三人に聞こえる程度の声量で呟いた。「聞いた事が有るか知らねェが、こいつァ今、狂竜ウイルスに罹患した病竜だ、最早俺達が如何に善人だって諭そうが、構わずぶち殺しに追い続けるぜ」
「狂竜……?」「ウイルス……?」シアとゼラフが困惑した様子で反芻した。
「詳しい話は後に回すが、最早こいつァこのまま放って帰る訳にゃァ行かなくなった。高地一帯が死の領域になる前に、必ず仕留める必要が有る。他ならぬ俺達の手で、だ」
「グオオオオアアアア―――――ッッ!!」
 グレンゼブルは話など待つ筈も無く、今度は首を大きく空に向かって振り上げると、それを察知したリスタが咄嗟に大声を張り上げる。
「全員伏せろッ!」
 それがどういう理由なのかも分からない。併し――その切羽詰まった命令に、誰もが逆らう意志など持たなかった。
 リスタに合わせるように咄嗟に三人がしゃがんだ、次の瞬間。グレンゼブルは首を大きく半月状に振り薙ぐと同時に流水のレーザーを口から放射――――洞窟の入り口まで届いたそれは、横一文字に全てを切り裂いて消えた。
 ゼラフとクーリエはあまりの出来事に言葉を失い、シアは驚きで目を瞠っていた。
 あのモーション……首を大きく空に向けた、ただそれだけのモーションから今の攻撃を推察したのだとしたら、リスタの慧眼は最早未来予知に匹敵するレヴェルだった。
 驚いて感動している場合ではない。グレンゼブルはやる気に満ち溢れ、リスタも逃げる素振りを見せない。継戦続行――命を懸ける狩猟は未だ終わる事は無かった。

◇◆◇◆◇

「――――くッ!」
 グレンゼブルの突進――からの角を振り回す攻撃に、リスタは咄嗟に回避行動に移るも間に合わず、小盾で辛うじて衝撃を殺しながら後退する。
 誰の目にも明らかなのは、リスタの動きが鈍っている事。
 狩猟が始まってすぐの頃の、キレの有る動きは見る影も無く、攻撃も防御も回避も、精彩を欠いていた。
 理由は知れている。落雷の直撃を受けたのだ、すぐに動き出せる事自体が最早奇蹟と言っても過言ではない。
「――クーリエ! しゃがめ!」「――――っ!」
 グレンゼブルの挙動を見越して指示を出すのもリスタの役目と化している現状、彼が居なければそもそも成立しない狩猟となっていた。
 グレンゼブルの水圧の薙ぎ払いレーザーをしゃがんで躱したクーリエは、回避行動から即座に攻撃に移り、通常弾をグレンゼブルの頭に何度か叩き込む。
「……どうして、斬れない……?」
 グレンゼブルの背後に回っていたシアが、何度も何度も、それこそ通常の飛竜種であれば明らかに切断できていてもおかしくない程に斬撃を加えているにも拘らず、グレンゼブルの刺々しい尻尾は未だ健在で、斬れる予兆すら見せていなかった。
「緋色の盾使いよ! 一旦距離を取れ!」
 リスタへの攻撃を庇うように大楯を振るうゼラフに、リスタは眩暈を起こしているかのように瞳をチカチカさせた後、右手で頬を張り、「ダンスホールを降りるにゃまだ早ェだろうがよ……ッ!」と、無理矢理獰猛な笑みを刻んで一歩踏み込む。
 グレンゼブルの肉体には全身に裂傷、弾痕、打撲の痕が刻まれていたが、それでもまるで衰えない攻撃の苛烈さに、リスタだけでなく、シアもゼラフもクーリエも、疲労困憊の態で防御と回避を余儀無くされていた。
 攻撃の手を緩ませるなんてとんでもなく、そもそも攻撃を与えるタイミングが徐々に徐々に失われつつあった。
 ダメージを幾ら与えてもまるで動じない蛮竜に、ハンターの精神は蝕まれるように削られていく。
 もしかして意味の無い事をしているのでは?
 自分の攻撃は一切通じていないのでは?
 そんな暗澹たる想いが沸き上がり、止められない。
 撤退――――その二文字は何分も前から脳裏を支配していたが、リスタがその言葉を口にしない限り、許されざる行為なのだと、三人は信じていた
「そろそろピークだろ……アイツも、俺達も……だからこそ踏ん張れよテメエら、あと一歩、踊り切った奴が勝者だ……!」
 リスタの息の上がった台詞に、ゼラフは息を呑む。こんなにボロボロになってまで、自分の命を限界まで削ってでも、グレンゼブルを狩猟する意味は有るのか。そんな想いすら蹴散らしかねない強靭な意志で、彼は更に一歩、前進する。
「リスタ君、君は……」
 ゼラフは思わず何か言いかけたが、呑み込んだ。
 彼に馳走された恩義の為にここまで赴いたに過ぎないゼラフだったが、ここに至り、目指すべき目標として認めざるを得なかった。
 何より彼は、格好良かったのだ。諦めを知らず、敗北を知らず、限界を知らない。どこまでも純粋に自然と格闘し、剰え勝利を強奪するその貪欲さに、ゼラフは憧れた。
 己の弱さすら克服できていないゼラフにとって、リスタはただただ眩いハンターとして、両眼に映るのだった。
「――緋色の盾使いよ。あと何度、打ち込める?」
 故にこそ、己もまた、目指すべき目標に辿り着けるよう、誠心誠意、彼に向き合う事を腹の底で誓う。
 今はまだ彼には遠く及ばない、路傍の石も同然だとしても、何れ彼の隣に立って遜色ないハンターと言われるようになる為にも、ここで挫ける訳にはいかなかった。
 そんな想いが隠し切れない表情のゼラフに、リスタは最早見えているのかすら定かではない焦点の合わない右目を向け、口唇に獰猛な笑みを刻む。
「カッ、流石にバレてるか。……振り絞っても、あと一度でソールドアウトだ。もう何も出せるモンはねェ」
「その会心の一撃、お膳立てさせて貰おうか」
 ゼラフもまた、幾度と無くグレンゼブルの猛攻を大楯で凌いできたものの、体力も精神も限界に達している。大楯を掴む指は青黒く変色し、腕は痙攣でも起こしているかのように震えが止まらない。
 保ってあと一撃凌げるかどうか。それでもやらねばならない。生きて帰るには、奴を仕留める以外に道は無いと知っているから。
 ゼラフの瞳には恐怖の色が濃く浮かんでいるのを、リスタは見て取っていたが、口唇が笑みの形を強く刻んで了承の意を返した。
「漢じゃねェかゼラフ! その意気や良しって奴だ、頼んだぜ!」
「あぁ、貴公だけに良い格好させられるか! クーリエ! 援護射撃を頼む!」
 突然のゼラフからの注文であっても、クーリエは驚く事無く動じずに「はいは~い♪」とライトボウガンを構える。
「……あと少し、あと、少し……!」
 三人の会話に混ざる事無く、揺れ動く尻尾を見定めて、無感情に呟くシアが、――――動いた。
「気刃斬り――――ッ!」
 全身の練気を使い切る勢いで放たれたその斬撃は、遂にグレンゼブルの刺々しい尻尾を両断せしめた。
「ガァァァァッッ!?」
 つんのめる形で倒れ込みそうになったグレンゼブルに、合わせるように突進するゼラフ。
「クーリエッ!」「任せて~♪」
 放たれた弾丸は徹甲榴弾――角に突き刺さったそれらは、時間差で爆裂――グレンゼブルの頭が衝撃で激しく揺さ振られる。
 明滅する意識を繋ぎ止めようとするグレンゼブルの目前に迫るのはゼラフ。その大楯が加速度的に迫り、思いっきり振り上げたその大楯が、グレンゼブルの大角に突き刺さる。
「ガ……ッ、ァ……ッ!」
 ヨタヨタと、それでも前進が止まらないグレンゼブルの前に立ちはだかるのは、隻腕の盾使い。
「――おいおい足下がふらついてるぜ? おねんねの時間には早ェんじゃねェか?」
 ニヤリと嘯くリスタに、併しグレンゼブルは咆哮を返す余裕すらなく、ヨタヨタ、ヨタヨタと、彼に向かって歩を進める。
 病魔に侵されて、理性も正気も失った飛竜は、最後に残されたたった一つの使命に従ってリスタを屠ろうと大口を開け、噛み殺さんと――――
「――――堕ちろ」
 それはまるで砦蟹シェンガオレンが長く強大な脚を踏み下ろしたかのような、常軌を逸した衝撃と轟音だった。
 尋常ならざる一撃がグレンゼブルの頭を突き抜け、その衝撃で頭蓋が破損――角も根元から剥がれ、蛮竜の両眼から即座に生気が失われていくのが分かった。
 ……こうして、突発的な依頼外の狩猟は幕を下ろす事になった。

🌟後書

 グレンゼブル編、ひとまず完! と言った感じです(´▽`*)
 この「紅蓮の灯、隻腕の盾使い」はMHFを基にしてるとかそういう訳じゃなく、色んなモンスターハンターシリーズの良いトコ取りみたいな事をしたいなーと思っておりまして、色んな作品のモンスターを登場させられたら良いなぁーっと思っております。
 MHFをPlayしていた頃を思い出しながら綴りましたが、剛種だったかな? の、尻尾斬りが大変過ぎたのと、体力が多過ぎていつも地獄みたいな狩猟になってたのをふんわり思い出しましたw グダグダになるとほんと地獄でしたよね…笑
 次回は狩猟のその後の話になる筈…? 本来の目的を思い出して!ww
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

🌸以下感想

とみ
更新お疲れ様ですvv

やりました!!

みんなかっこよすぎて…
まさかの尻尾斬りに成功するシアちゃん。
コツコツダメージを稼ぎつつ援護射撃までこなすクーリエちゃん。
とくに、胡散臭さ満載な感じだったゼラフくんのその決意!
そして、そう思わせてしまうリスタくん。
これが読みたかったの!!

本当に満腹ですwありがとうございました!!

今回も楽しませていただきました~!
次回も楽しみにしてますよーv
2024年2月14日水曜日 2:03:19 JST

夜影
>とみちゃん

感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

やりました!!

皆さんとにかく格好よく仕上げたかったので、かっこよすぎるように映ったのでしたら感無量です…! ヨカター!w
これが読みたかったの!! まで頂いてしまって嬉しさで小躍りしております!ww 嬉し過ぎる…!ww

こちらこそとみちゃんの満腹感想でお腹いっぱい胸いっぱいです! 本当に有り難う御座います!!(´▽`*)

今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!
2024年2月14日水曜日 8:03:32 JST

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