第12話 雨風と共に〈1〉
第12話 雨風と共に〈1〉
「――ツバキ、新たな依頼だ」
リムサ・ロミンサの八分儀広場の一角にて。ツバキはベンチに腰掛けて、レストラン“ビスマルク”で買ってきたエッグサンドを頬張りながら、背後に立った双剣士ギルドのメンバーの声に耳を澄ませる。「久し振りですね、もう依頼は回ってこないものとばかり思ってました」「新人教育も有るし、暇な若者も溢れてるんだ、毎度毎度お前に依頼を回さなきゃならねえ事態は御免被りたいね」背後に立つ双剣士ギルドの男がせせら笑う。「――話を戻すぞ。先日ガレマール帝国から脱走した帝国兵が、帝国の情報を売るとワインポートに泣きついて来た」「となると、カストルム・オクシデンスからの脱走兵ですかね。士気が高くないとは聞いてましたけれど、まさか脱走兵まで出るとは……よっぽどですね」エッグサンドを食べきり、指をぺろぺろと舐めるツバキ。「それで? 元帝国兵さんとピクニックにでも行けば良いんですか? 依頼先、間違えてません?」「売られた情報は精度の高い機密情報が含まれていた。まだソールドアウトもしてない。だが売れ行き好調だったにも拘らず店じまいされてしまった。――カストルム・オクシデンスにピクニックに出掛けたからだ」「なんとまぁ……」ふわわ、と欠伸を浮かべるツバキ。「つまり私もご相伴に与ってこいと?」「お前の実力を見込んでの依頼だ。何もピクニック場を焼野原にして来いなんて言わねえ。帰りが遅い脱走兵君を連れ戻して来て欲しいだけだ」背後に立つ男は咳払いした。「――ピクニックに出掛けたのは昨晩。まだブラッドショアでぷかぷか海水浴するには時間が足りない筈だ」「どうですかねー、もうすっかり出来上がってるかもですが」面倒臭そうに右手を後ろにやるツバキ。「やるだけやりますけど、あんまり期待しないでくださいね、流石に帝国兵とやり合って無事で済むと思ってませんし」「他の面子が出払ってるタイミングだったもんでな、助かるぜ」ツバキの手に書類を載せる男。「今夜までに決着を着けてくれ、さもなきゃ脱走兵が行方不明兵になっちまう」「はいはい、二階級特進させないように祈っててくださいな」 男の気配が消え、ツバキもエッグサンドのゴミをぱっぱと払って立ち上がる。 時刻は正午。東ラノシアは雨天だそうだ。
◇◆◇◆◇
「それでツトミは何したら良いのー?」「まさか拙者にもお鉢が回るとは。帝国兵を膾切りにしたら宜しいか?」 リンクシェルで呼び出したのは、今では頼りにしている冒険者の二人、ツトミとサクノだった。 普段はツバキのアパルトメントでのびのび寛いで、一緒にご飯を囲んで食べている仲だが、こういう大きな仕事の時は遠慮せず頼ろうと、ツバキは声を掛けたのだった。「これ、双剣士ギルドの仕事なんだけど、私一人だと手に余ると思って声掛けちゃった」てへぺろするツバキ。「作戦としては、カストルム・オクシデンスに潜入して、ガレマール帝国の脱走兵を見つけて、一緒に脱出する。シンプルにこれだけ。ただ、一度脱走成功しているから、警備はより厳重になってるだろうし、脱走兵の安否も定かじゃない。下手したら、既にもうブラッドショアの浜辺に打ち捨てられててもおかしくない」 東ラノシア、ワインポートの一角で、土砂降りの中、ツバキは近辺の地図を開いて二人に見せていた。「真正面から突っ込んで、堂々と脱走兵を探すのもアリっちゃアリだけど、流石にとんでもない事になるから、今回はサクノさんに陽動役を買って貰いたくて」 ツバキはそう言ってアジェレス街道の北、カストルム・オクシデンスの入り口を丸く囲む。「ツトミちゃんにはそのサクノさんの援護をお願いしたいんだ。私はその間に隠れ滝の方から侵入して、脱走兵を引っ掴まえてサクノさん達と一緒に脱出……大まかな作戦はこんな感じ」「ツバキ殿一人で侵入を?」サクノが険しい表情になった。「ツバキ殿の腕を疑ってる訳ではないが……些か心配で御座るぞ」「その時はサクちゃんと一緒に助け出しに行こー」ぐーっとサムズアップを見せるツトミ。「時間決めとこー時間。それまでに出てこなかったら、サクちゃんが帝国兵を残らず斬り捨て御免しちゃうって感じで!」「なるほど、であれば我が刀も喜びに打ち震えると言うもの……」ニッコリ笑顔のサクノ。「ツバキ殿、どうかごゆるりと。帝国兵は余さず斬獲しておきますゆえ」「いやいや流石にそんな事したら大変な事になっちゃうからやめてね??」思わず制止のポーズを取るツバキ。「作戦は今すぐ始めるよ。こうしてる間にも脱走兵が処刑されちゃったら困るからね。時間は……そうだね、一時間にしようか。それまで戻ってこなかったら、何か遭ったんだと思って仕方なく次の策を打とう」「次の策って?」ツトミがことんと小首を傾げる。 土砂降りの中、ツバキはニッコリと微笑んだ。「そりゃー……殲滅?」 ツバキの微笑に、ツトミとサクノは数瞬呆気に取られ、次の瞬間には、二人して満面の笑みでサムズアップを返すのだった。 昼下がりの午後。カストルム・オクシデンスにとんでもない不穏分子が訪れるのは、もう間も無くの事である。
「――ツバキ、新たな依頼だ」
リムサ・ロミンサの八分儀広場の一角にて。ツバキはベンチに腰掛けて、レストラン“ビスマルク”で買ってきたエッグサンドを頬張りながら、背後に立った双剣士ギルドのメンバーの声に耳を澄ませる。
「久し振りですね、もう依頼は回ってこないものとばかり思ってました」
「新人教育も有るし、暇な若者も溢れてるんだ、毎度毎度お前に依頼を回さなきゃならねえ事態は御免被りたいね」背後に立つ双剣士ギルドの男がせせら笑う。「――話を戻すぞ。先日ガレマール帝国から脱走した帝国兵が、帝国の情報を売るとワインポートに泣きついて来た」
「となると、カストルム・オクシデンスからの脱走兵ですかね。士気が高くないとは聞いてましたけれど、まさか脱走兵まで出るとは……よっぽどですね」エッグサンドを食べきり、指をぺろぺろと舐めるツバキ。「それで? 元帝国兵さんとピクニックにでも行けば良いんですか? 依頼先、間違えてません?」
「売られた情報は精度の高い機密情報が含まれていた。まだソールドアウトもしてない。だが売れ行き好調だったにも拘らず店じまいされてしまった。――カストルム・オクシデンスにピクニックに出掛けたからだ」
「なんとまぁ……」ふわわ、と欠伸を浮かべるツバキ。「つまり私もご相伴に与ってこいと?」
「お前の実力を見込んでの依頼だ。何もピクニック場を焼野原にして来いなんて言わねえ。帰りが遅い脱走兵君を連れ戻して来て欲しいだけだ」背後に立つ男は咳払いした。「――ピクニックに出掛けたのは昨晩。まだブラッドショアでぷかぷか海水浴するには時間が足りない筈だ」
「どうですかねー、もうすっかり出来上がってるかもですが」面倒臭そうに右手を後ろにやるツバキ。「やるだけやりますけど、あんまり期待しないでくださいね、流石に帝国兵とやり合って無事で済むと思ってませんし」
「他の面子が出払ってるタイミングだったもんでな、助かるぜ」ツバキの手に書類を載せる男。「今夜までに決着を着けてくれ、さもなきゃ脱走兵が行方不明兵になっちまう」
「はいはい、二階級特進させないように祈っててくださいな」
男の気配が消え、ツバキもエッグサンドのゴミをぱっぱと払って立ち上がる。
時刻は正午。東ラノシアは雨天だそうだ。
◇◆◇◆◇
「それでツトミは何したら良いのー?」「まさか拙者にもお鉢が回るとは。帝国兵を膾切りにしたら宜しいか?」
リンクシェルで呼び出したのは、今では頼りにしている冒険者の二人、ツトミとサクノだった。
普段はツバキのアパルトメントでのびのび寛いで、一緒にご飯を囲んで食べている仲だが、こういう大きな仕事の時は遠慮せず頼ろうと、ツバキは声を掛けたのだった。
「これ、双剣士ギルドの仕事なんだけど、私一人だと手に余ると思って声掛けちゃった」てへぺろするツバキ。「作戦としては、カストルム・オクシデンスに潜入して、ガレマール帝国の脱走兵を見つけて、一緒に脱出する。シンプルにこれだけ。ただ、一度脱走成功しているから、警備はより厳重になってるだろうし、脱走兵の安否も定かじゃない。下手したら、既にもうブラッドショアの浜辺に打ち捨てられててもおかしくない」
東ラノシア、ワインポートの一角で、土砂降りの中、ツバキは近辺の地図を開いて二人に見せていた。
「真正面から突っ込んで、堂々と脱走兵を探すのもアリっちゃアリだけど、流石にとんでもない事になるから、今回はサクノさんに陽動役を買って貰いたくて」
ツバキはそう言ってアジェレス街道の北、カストルム・オクシデンスの入り口を丸く囲む。
「ツトミちゃんにはそのサクノさんの援護をお願いしたいんだ。私はその間に隠れ滝の方から侵入して、脱走兵を引っ掴まえてサクノさん達と一緒に脱出……大まかな作戦はこんな感じ」
「ツバキ殿一人で侵入を?」サクノが険しい表情になった。「ツバキ殿の腕を疑ってる訳ではないが……些か心配で御座るぞ」
「その時はサクちゃんと一緒に助け出しに行こー」ぐーっとサムズアップを見せるツトミ。「時間決めとこー時間。それまでに出てこなかったら、サクちゃんが帝国兵を残らず斬り捨て御免しちゃうって感じで!」
「なるほど、であれば我が刀も喜びに打ち震えると言うもの……」ニッコリ笑顔のサクノ。「ツバキ殿、どうかごゆるりと。帝国兵は余さず斬獲しておきますゆえ」
「いやいや流石にそんな事したら大変な事になっちゃうからやめてね??」思わず制止のポーズを取るツバキ。「作戦は今すぐ始めるよ。こうしてる間にも脱走兵が処刑されちゃったら困るからね。時間は……そうだね、一時間にしようか。それまで戻ってこなかったら、何か遭ったんだと思って仕方なく次の策を打とう」
「次の策って?」ツトミがことんと小首を傾げる。
土砂降りの中、ツバキはニッコリと微笑んだ。
「そりゃー……殲滅?」
ツバキの微笑に、ツトミとサクノは数瞬呆気に取られ、次の瞬間には、二人して満面の笑みでサムズアップを返すのだった。
昼下がりの午後。カストルム・オクシデンスにとんでもない不穏分子が訪れるのは、もう間も無くの事である。
🌟後書
今回から書き下ろしの新作になります。 どうしても必殺仕事人感を出したくてこんな感じに仕上げてみたところ、必殺仕事人って言うかこれ傭兵ないし軍隊のそれ感…!www(笑) そして今回はちょっとぶりにサクノさんにも登場して頂きました! ツバキちゃんのアパルトメントで一緒に生活してる設定なので、寧ろ最近出番が無かった方が不思議まである奴でした!(笑)
と言う訳でガレマール帝国の前線基地に侵入編、まだまだ続きます。単話完結式にしたかったですけれど、流石に無理だと諦めて、また2~3話掛けて終結を目指しますw 三人には思いっきり暴れて貰いましょう!(´▽`*) と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
🌸以下感想
とみ更新お疲れ様ですvv
遅くなってしまいましたm(_ _)m
必殺編突入ですねwあのSATSUBATSUとした世界が戻ってくる!(てか、サクちゃん登場ってことはSATSURIKU?)のんびりとした普段からは想像できないような3人の活躍が期待されますね。更新を鯉口チキチキ鳴らしながらお待ちしております!
今回も楽しませていただきました~!次回も楽しみにしてますよーv2024年2月4日日曜日 10:22:19 JST
夜影>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
いえいえ~! もう感想を送ってくださる事自体が有り難さMAXなので、どうかお気になさらぬよう!!
必殺編突入しました!ww SATSURIKUは笑ったwwww帝国兵さん逃げてーっ!wwwww(笑)最近はのんびりしたお話が続いておりましたし、ちょこっと3人のSATSUBATSUした活躍もお送りできればと思います!(´▽`*)鯉口をチキチキ鳴らしながらwwwwヤバい奴だよ!wwwwww(笑)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!次回もぜひぜひお楽しみに~!!2024年2月4日日曜日 10:51:19 JST
と言う訳でガレマール帝国の前線基地に侵入編、まだまだ続きます。単話完結式にしたかったですけれど、流石に無理だと諦めて、また2~3話掛けて終結を目指しますw 三人には思いっきり暴れて貰いましょう!(´▽`*)
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
🌸以下感想
とみ
更新お疲れ様ですvv
遅くなってしまいましたm(_ _)m
必殺編突入ですねwあのSATSUBATSUとした世界が戻ってくる!(てか、サクちゃん登場ってことはSATSURIKU?)
のんびりとした普段からは想像できないような3人の活躍が期待されますね。
更新を鯉口チキチキ鳴らしながらお待ちしております!
今回も楽しませていただきました~!
次回も楽しみにしてますよーv
2024年2月4日日曜日 10:22:19 JST
夜影
>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
いえいえ~! もう感想を送ってくださる事自体が有り難さMAXなので、どうかお気になさらぬよう!!
必殺編突入しました!ww SATSURIKUは笑ったwwww帝国兵さん逃げてーっ!wwwww(笑)
最近はのんびりしたお話が続いておりましたし、ちょこっと3人のSATSUBATSUした活躍もお送りできればと思います!(´▽`*)
鯉口をチキチキ鳴らしながらwwwwヤバい奴だよ!wwwwww(笑)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!
2024年2月4日日曜日 10:51:19 JST
0 件のコメント:
コメントを投稿