017.竜征群〈1〉
017.竜征群〈1〉
朝になった狩人都市・アルテミスの西門前には無数の人だかりが出来ていた。 数にして数百人と言う規模の人の群れ。しかもそれがほぼ全てハンターだと言うから壮観だ。ハンターとしての装備を纏い、その醸し出す雰囲気だけで気圧される程に、鬼気迫る空気が辺り一帯に敷き詰められている。「ヒュゥ、こんだけの頭数が揃うとはなァ。ハンターの見本市みてェじゃねェか」 口笛を吹いて嘯くリスタに、シアも素直に首肯を返す。「ボクが知らないだけで、きっと、有名、高名なハンター、たくさん、居るね」「そうかァ? 有象無象が集まってるだけかも知れねェぞ」「おい坊主、そういうのは自己紹介してるって相場が決まってンだ、迂闊な事を言って自爆せんようにな」 リスタの横合いから不意に声を掛けてきたのは、岩竜・バサルモスの装備を全身に纏った恰幅の良い男だった。ヘルムの中に見える顔は、傷だらけでいかにも厳ついが、笑うと人懐っこい、愛嬌の有る男だった。「坊主みたいに人を嘗めて掛かるハンターはな、早死にするってのが通例なんでな。俺みたいなそこそこ出来るおっさんが警告して窘めねえと、早晩夢見が悪くなるんだよ」「そりゃどーも。俺もそこそこ出来るハンターには痛い目を見てるからな、忠告は有り難く受け取らせて貰うぜ」肩を竦めて応じるリスタ。「おっ、素直で宜しい。何だァ、どんな生意気なクソガキかと思えばしっかり大人の話が聞けるんじゃねェか。おっさんはそういうクソガキは好きだぜ」 バサルシリーズの男はカラカラと笑うと、ガンガン、とプレートアーマーを叩いて主張した。「自己紹介がまだだったな。俺はパリトア。パリおじとでも呼んでくれ、グハハハ」「おぅ、俺ァリスタ。宜しくなパリおじ」「うむ! 良いぞ、素直なハンターは好きだ。今回の大遠征はハンターの底力が試されるだろうからな、坊主も限界を振り絞って“生きろよ”」 パリトアは無作法にリスタの頭を掻き混ぜ撫でると、野太い声でグハハハと笑った。 リスタは「面倒臭ェおっさんに絡まれちまったな……」と、パリトアに聞こえる声量で呟いて舌打ちを落とした。「おいおい、ツレねェ事言うなよ坊主。大遠征ではハンター同士の共闘こそがキモなんだぞ? 生きて帰りたきゃ、年長の言う事はしっかり聞くもんだぜ」「パリトアさん~、さっきから~、生きろよ~とか~、生きて帰りたければ~とか~、言ってますけど~、ラオシャンロンを~、討伐に行くんですよね~? 狩って帰りたければ~、じゃ~、無いんです~?」 不思議そうに小首を傾げるクーリエに、ゼラフが慌てて「不用意に謎の存在に言霊を放つな、要らぬ噴火を買うとも限らんぞ」と宥めるような仕草をするが、彼女は「まぁまぁ~」とそんなゼラフを宥めるのだった。「おっ、良いとこに気づくじゃねェかお嬢ちゃん」クーリエを指差して指を鳴らすパリトア。「大遠征の過酷さは、そりゃ類を見ねェレヴェルの地獄だからな。恐らくこの場に居合わせる半数……いや、七割はもうこの地に帰って来られねェよ」「……!」シアの両眼が僅かに見開かれる。「……そんなに、過酷なの?」「俺はこう見えてもこれが二度目の大遠征なんだがな、前回はそりゃもうヤバかったぜ。動員したハンターは約六百人、チームにして二百ぐれェかな。そのうちアルテミスに帰って来られたのは、たったの五十チーム、約二百人だけだ」「おい待てよ、ラオシャンロンの討伐ってのはそこまでの死人を出すとは聞いてねえぞ。あくまで足止めがメインで、バリスタや大砲を使って行動を阻止し、対巨竜爆弾でダメージを蓄積させる……死人が出るシーンが想像できねェんだが」 リスタが思わずと言った様子で声を上げると、パリトアは「そりゃラオシャンロンを討伐するところだけ見りゃそうだろな」とあっけらかんと応じた。「は? いや、ラオシャンロンを討伐しに行くんだろ、俺達」 何を言ってるんだ? とメンチを切るリスタに、パリトアは表情を真顔に戻し、西門の先――遥か道の先を指差した。「ラオシャンロンがあの向こうの遥か先……西に在る砦よりまだ先からこっちに向かって来てる訳だが、それは様々な災厄を巻き起こす。ラオシャンロンってのは言わば箒さ。塵を集める為の箒。その塵は……土間の隅であるここ、アルテミスに向かって、丁寧に丁寧に掃かれていく訳だ。……塵ってのは何の事か分かるか?」「――――モンスターが、纏めて向かって来てるのか……?」 慄然とした表情で呟くリスタに、パリトアは「察しが良いな」と獰猛な笑みを覗かせた。「移動災厄の恐ろしいところはこれだ。ラオシャンロンが移動する方向に向かって、その道程に居るあらゆるモンスターを追いやる。丁寧に丁寧に、あらゆるモンスターを巻き込んで、移動する先々に追いやっていく。つまり俺達が相手にするのは正確にはラオシャンロンじゃねェんだ。ラオシャンロンがどこからか、ここまで追いやったであろう、規模すら不明瞭の、あらゆるモンスターの群れだ」「…………!」 リスタだけでなく、シアも、ゼラフも、クーリエも、やっと事態の重さを呑み込めて、表情が硬く強張る。 大遠征。これより始まるは、無尽蔵のモンスターの群れとの、ラオシャンロンが倒れるまで無限に終わる事の無い、無間地獄に等しき防衛戦。「……ハッ、道理で」リスタは鼓舞するように笑声を一つ落とした。「俺らみてェな若造に言い聞かせて回ってんだろ、前回の生存者が。緊張感のねェ有象無象が、段々と黙り込んでってるのが、雰囲気で伝わってきてるぜ」「グハハハ! よく見てるじゃねェか坊主。応ともよ、その通りだ。未来明るい若ェモンに野垂れ死にされちゃァ折角生き抜いたおっさんも夢見が悪ィからな。この大遠征が最後の花道と思って挑んでるジジババの為にも、精々生きて語り継いで欲しい訳よ」「おいおい、おっさんにも生き残って貰わねェと困るぜ」ドンッ、とバサルシリーズの胸板を叩くリスタ。「俺の武勇伝を語り継ぐ語り部は一人でも多いに越した事はねェからな」 リスタの獰猛な笑みに、一瞬虚を突かれたパリトアだったが、すぐに空を見上げて呵々大笑を始めた。リスタもそれを見て満足そうに笑みを刻む。「グハハハ! 今の話を聞いてそれだけ言えりゃァ大したもんだ! 期待してるぜ未来の狩猟王! 度肝を抜くような戦果を挙げて凱旋を飾りな!」「おうよ、任せとけ」 リスタとパリトアが拳を合わせて笑い合ったその時、西門の上――櫓の中に設置してある鐘楼が掻き鳴らされ、一帯に緊張が走り抜けた。「これより、ラオシャンロン討伐大遠征を開始する! ハンター、前進! ハンター、前進せよ! 繰り返す! ハンター、前進!」 鐘楼が掻き鳴らされながら、大音声が辺り一帯に響き渡り、西門の前に群がっていたハンターが喚声で応じ、用意された竜車に乗り込む者、徒歩で前進を始める者、どういう作戦で臨むか話しながら歩き出す者と、少しずつ一団が動き出す。「――始まったな。健闘を祈るぜ坊主。生きて戻った暁には一杯奢ってやるよ」 ポン、とリスタの頭を叩くと、パリトアは後ろ手に手を振って、雑踏の中に消えて行った。 残されたリスタ達四人は、互いに頷き合うと、ハンターの群れの中に紛れ込むように、西へ――守護すべき砦へと向かって歩み始めた。 生きて帰るだけですら至難の、屈指の難度を誇る狩猟が、そうして厳かに幕を開けた。
朝になった狩人都市・アルテミスの西門前には無数の人だかりが出来ていた。
数にして数百人と言う規模の人の群れ。しかもそれがほぼ全てハンターだと言うから壮観だ。ハンターとしての装備を纏い、その醸し出す雰囲気だけで気圧される程に、鬼気迫る空気が辺り一帯に敷き詰められている。
「ヒュゥ、こんだけの頭数が揃うとはなァ。ハンターの見本市みてェじゃねェか」
口笛を吹いて嘯くリスタに、シアも素直に首肯を返す。
「ボクが知らないだけで、きっと、有名、高名なハンター、たくさん、居るね」
「そうかァ? 有象無象が集まってるだけかも知れねェぞ」
「おい坊主、そういうのは自己紹介してるって相場が決まってンだ、迂闊な事を言って自爆せんようにな」
リスタの横合いから不意に声を掛けてきたのは、岩竜・バサルモスの装備を全身に纏った恰幅の良い男だった。ヘルムの中に見える顔は、傷だらけでいかにも厳ついが、笑うと人懐っこい、愛嬌の有る男だった。
「坊主みたいに人を嘗めて掛かるハンターはな、早死にするってのが通例なんでな。俺みたいなそこそこ出来るおっさんが警告して窘めねえと、早晩夢見が悪くなるんだよ」
「そりゃどーも。俺もそこそこ出来るハンターには痛い目を見てるからな、忠告は有り難く受け取らせて貰うぜ」肩を竦めて応じるリスタ。
「おっ、素直で宜しい。何だァ、どんな生意気なクソガキかと思えばしっかり大人の話が聞けるんじゃねェか。おっさんはそういうクソガキは好きだぜ」
バサルシリーズの男はカラカラと笑うと、ガンガン、とプレートアーマーを叩いて主張した。
「自己紹介がまだだったな。俺はパリトア。パリおじとでも呼んでくれ、グハハハ」
「おぅ、俺ァリスタ。宜しくなパリおじ」
「うむ! 良いぞ、素直なハンターは好きだ。今回の大遠征はハンターの底力が試されるだろうからな、坊主も限界を振り絞って“生きろよ”」
パリトアは無作法にリスタの頭を掻き混ぜ撫でると、野太い声でグハハハと笑った。
リスタは「面倒臭ェおっさんに絡まれちまったな……」と、パリトアに聞こえる声量で呟いて舌打ちを落とした。
「おいおい、ツレねェ事言うなよ坊主。大遠征ではハンター同士の共闘こそがキモなんだぞ? 生きて帰りたきゃ、年長の言う事はしっかり聞くもんだぜ」
「パリトアさん~、さっきから~、生きろよ~とか~、生きて帰りたければ~とか~、言ってますけど~、ラオシャンロンを~、討伐に行くんですよね~? 狩って帰りたければ~、じゃ~、無いんです~?」
不思議そうに小首を傾げるクーリエに、ゼラフが慌てて「不用意に謎の存在に言霊を放つな、要らぬ噴火を買うとも限らんぞ」と宥めるような仕草をするが、彼女は「まぁまぁ~」とそんなゼラフを宥めるのだった。
「おっ、良いとこに気づくじゃねェかお嬢ちゃん」クーリエを指差して指を鳴らすパリトア。「大遠征の過酷さは、そりゃ類を見ねェレヴェルの地獄だからな。恐らくこの場に居合わせる半数……いや、七割はもうこの地に帰って来られねェよ」
「……!」シアの両眼が僅かに見開かれる。「……そんなに、過酷なの?」
「俺はこう見えてもこれが二度目の大遠征なんだがな、前回はそりゃもうヤバかったぜ。動員したハンターは約六百人、チームにして二百ぐれェかな。そのうちアルテミスに帰って来られたのは、たったの五十チーム、約二百人だけだ」
「おい待てよ、ラオシャンロンの討伐ってのはそこまでの死人を出すとは聞いてねえぞ。あくまで足止めがメインで、バリスタや大砲を使って行動を阻止し、対巨竜爆弾でダメージを蓄積させる……死人が出るシーンが想像できねェんだが」
リスタが思わずと言った様子で声を上げると、パリトアは「そりゃラオシャンロンを討伐するところだけ見りゃそうだろな」とあっけらかんと応じた。
「は? いや、ラオシャンロンを討伐しに行くんだろ、俺達」
何を言ってるんだ? とメンチを切るリスタに、パリトアは表情を真顔に戻し、西門の先――遥か道の先を指差した。
「ラオシャンロンがあの向こうの遥か先……西に在る砦よりまだ先からこっちに向かって来てる訳だが、それは様々な災厄を巻き起こす。ラオシャンロンってのは言わば箒さ。塵を集める為の箒。その塵は……土間の隅であるここ、アルテミスに向かって、丁寧に丁寧に掃かれていく訳だ。……塵ってのは何の事か分かるか?」
「――――モンスターが、纏めて向かって来てるのか……?」
慄然とした表情で呟くリスタに、パリトアは「察しが良いな」と獰猛な笑みを覗かせた。
「移動災厄の恐ろしいところはこれだ。ラオシャンロンが移動する方向に向かって、その道程に居るあらゆるモンスターを追いやる。丁寧に丁寧に、あらゆるモンスターを巻き込んで、移動する先々に追いやっていく。つまり俺達が相手にするのは正確にはラオシャンロンじゃねェんだ。ラオシャンロンがどこからか、ここまで追いやったであろう、規模すら不明瞭の、あらゆるモンスターの群れだ」
「…………!」
リスタだけでなく、シアも、ゼラフも、クーリエも、やっと事態の重さを呑み込めて、表情が硬く強張る。
大遠征。これより始まるは、無尽蔵のモンスターの群れとの、ラオシャンロンが倒れるまで無限に終わる事の無い、無間地獄に等しき防衛戦。
「……ハッ、道理で」リスタは鼓舞するように笑声を一つ落とした。「俺らみてェな若造に言い聞かせて回ってんだろ、前回の生存者が。緊張感のねェ有象無象が、段々と黙り込んでってるのが、雰囲気で伝わってきてるぜ」
「グハハハ! よく見てるじゃねェか坊主。応ともよ、その通りだ。未来明るい若ェモンに野垂れ死にされちゃァ折角生き抜いたおっさんも夢見が悪ィからな。この大遠征が最後の花道と思って挑んでるジジババの為にも、精々生きて語り継いで欲しい訳よ」
「おいおい、おっさんにも生き残って貰わねェと困るぜ」ドンッ、とバサルシリーズの胸板を叩くリスタ。「俺の武勇伝を語り継ぐ語り部は一人でも多いに越した事はねェからな」
リスタの獰猛な笑みに、一瞬虚を突かれたパリトアだったが、すぐに空を見上げて呵々大笑を始めた。リスタもそれを見て満足そうに笑みを刻む。
「グハハハ! 今の話を聞いてそれだけ言えりゃァ大したもんだ! 期待してるぜ未来の狩猟王! 度肝を抜くような戦果を挙げて凱旋を飾りな!」
「おうよ、任せとけ」
リスタとパリトアが拳を合わせて笑い合ったその時、西門の上――櫓の中に設置してある鐘楼が掻き鳴らされ、一帯に緊張が走り抜けた。
「これより、ラオシャンロン討伐大遠征を開始する! ハンター、前進! ハンター、前進せよ! 繰り返す! ハンター、前進!」
鐘楼が掻き鳴らされながら、大音声が辺り一帯に響き渡り、西門の前に群がっていたハンターが喚声で応じ、用意された竜車に乗り込む者、徒歩で前進を始める者、どういう作戦で臨むか話しながら歩き出す者と、少しずつ一団が動き出す。
「――始まったな。健闘を祈るぜ坊主。生きて戻った暁には一杯奢ってやるよ」
ポン、とリスタの頭を叩くと、パリトアは後ろ手に手を振って、雑踏の中に消えて行った。
残されたリスタ達四人は、互いに頷き合うと、ハンターの群れの中に紛れ込むように、西へ――守護すべき砦へと向かって歩み始めた。
生きて帰るだけですら至難の、屈指の難度を誇る狩猟が、そうして厳かに幕を開けた。
🌟後書
4日振りの最新話更新です! これで6話更新だぞー!ww(;゚∀゚)=3ハァハァ と言う訳でイケてるおじさんが登場したり、本当にヤバい戦いが幕を開けたりする今回です。 ラオシャンロン討伐って言うほど大変じゃなくない? 対巨竜爆弾で背中爆砕して、バリスタと大砲でズタズタにして、撃龍槍でトドメ刺すだけしょ?w と言うイメージを丸ごと粉砕させて頂きたいのが本編になります。 週刊少年誌系ならもっと話数進んでから起こる地獄でしょこれ! を、もう十数話の段階で書き起こしちゃうと言ういつもの予定がぐちゃぐちゃのアレです!w これからどうなっていくのか、どうかその行く末を見守って頂けたら幸いです! と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
🌸以下感想
とみ
更新お疲れ様ですvv
遅くなりました!
えー全然大変じゃないけど、むしろラオ様待ってる間チャットしてるのが楽しいやつって感じなんすけど…
と思ったら本当は別な地獄が大口開けて待ってるという流れでしたw
これあれじゃない?少年誌だと一番最後のバトルになるやつw
先生サービス過多では?ww
リスタくんちゃんと周り見えてるようなので少し安心。でも何が起こるかわからないので十分注意を!
今回も楽しませていただきましたー!
次回も楽しみにしてますよーv
2024年6月22日土曜日 16:49:10 JST
夜影
>とみちゃん
感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)
いえいえ! 全然お早いですって!ww
それなww ラオ様来るの遅すぎて三倍速でも割と待たされてましたよねww
ですですw 波及してもっとヤバい事が待っていると言う奴ですw
少年誌だと一番最後のバトルになる奴wwwほんそれなんですよねwwwまさかこんな序盤でこんな展開にするつもりは無かったのですけれど、流れでいつの間にか…!ww
出血大サーヴィスし過ぎたかも知れません…!ww 今後の展開が更にヤバい事になっていく奴!www
リスタ君、ちゃんと学ぶべきは学んでいく正統派主人公なので、やんちゃな口調そのままに少しずつ空気が読める感じの子に…! これからどうなるか分かりませんものね、リスタ君も気を引き締めてもろて!
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!
2024年6月22日土曜日 17:23:05 JST
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