2024年8月22日木曜日

第18話 魔道書を探して〈1〉

ミスト・ヴィレッジ在住一般冒険者の日常(FF14二次創作小説)
第18話 魔道書を探して〈1〉

第18話 魔道書を探して〈1〉


「――――魔道書探し?」

 リムサ・ロミンサの八分儀広場の一角にて。燦々と降り注ぐ陽射しを浴びながら、ミコッテ族の女――ツバキはロランベリーシェイブドアイスを頬張りつつ、背後に立つ人影に意識を傾ける。
 背後に立つヒューラン族の男――双剣士ギルドの一員は、気配を感じさせない声で、「あぁ、ただの失せ物探しと異なるのは、その魔道書自体がヤベェって事だが」と、ツバキにだけ聞こえるような声量で呟く。
 ツバキはロランベリーシェイブドアイスを飲み下すと、ゴミを片付けながら小さく吐息を漏らした。
「メルヴァン税関公社の怠慢ですか?」
「だったら良かったんだがな」男の溜め息。「生憎と、問題の魔道書を運んでいた野郎は、メルヴァン税関公社の目に触れる事無く、海賊船ごと消えた」
「……消えた?」ツバキの片眉が持ち上がる。「海賊船ごと……?」
「厳密にゃァ、海賊船自体はラノシア沖で見つかったんだがな。乗組員、約四十名が全てどこかに消え失せた状態で、だ」
 八分儀広場に生暖かいそよ風が吹き抜ける。雑踏に紛れるような声量で語り合うツバキと男の間に、言い知れぬ悪寒のようなものが吹き抜けた。
「……怪談話は間に合ってるんですけど」
「海賊船は臨検で立ち入ったメルヴァン税関公社によってモラビー造船廠まで牽引されたんだがな、魔道書どころか海賊は疎か、マーモット一匹見つからない、無人の態だった。これだけでももう触りたくねえ案件だってのに、魔道書がまた厄介な代物でな」男が肩を竦める気配。「浄天の書って名前の魔道書らしいんだが、禁書の一種だそうでよ、一目に触れないように、リムサ・ロミンサで保管しようとしてた物だったんだが、まさか取引相手の海賊が全員海上で行方不明になった挙句、魔道書ごと消えちまったとなりゃ、流石に黒渦団もイエロージャケットも黙ってられねェって事でな。エーデルワイス商会にも白羽の矢が立つ事になった訳だ」
「……やだなぁ、それ私“が”対応するんですか?」
「お前“も”だ。流石に物が物だけに、双剣士ギルド総出で対応する事になった。真っ先に見つけられたら報酬も倍だとよ。よっぽどヤベェ代物だって喧伝してるみてェなもんだからよ、お前の耳にも入れとかねえとなって」
「ご配慮痛み入ります……正直に言うと係わりたくなさで言えばトップレベルの呪物なんですが……」
「まぁそう言うな。俺達だって嫌々事に当たるんだ、仲間が困ってるなら手伝い合うのが冒険者ってもんだろ? ん?」
「はいはい……。それで、その呪物の特徴は? まさかノーヒントでこの広いラノシアないしエオルゼアから一冊の書物を探せなんて言わないですよね?」
「青色の人の皮で作られた表紙が特徴だ。魔道書の中身までは詳しく聞かされてねェが、召喚術と呪術に関する禁書らしいからよ、もし見つけても迂闊に中身を検めようとは思わねえこった。次はお前の番、ってなるかも知れねェしな」
「紅蓮祭が近い時期にピッタリの依頼ですね……ともあれ了解です。魔道書自体の損壊は避けた方が良いんですか?」
 ツバキの何気無い問いに、男は暫く黙り込んだ。
「……生け捕り必須なんて言いませんよね?」
「リムサ・ロミンサで厳重に保管しようって書物に瑕でも入れてみろ、冒険者ギルドの名簿からお前の名前だけ何故か消される事になるぜ」
「最悪です……」
「まっ、互いに無理しねえ程度に励もうや。今回ばかりはエーデルワイス商会だけじゃなく、イエロージャケットや黒渦団、斧術士ギルドからメルヴァン税関公社、海賊共も並列で動いてるんだ、気づいたら終わってるかも知れねえからな」
 それだけ言い残すと男の気配は消え失せ、ツバキはそれを確認するとベンチから立ち上がって、大きく伸びをした。
「さて、と。まずは情報収集から――の前に、フリーカンパニーで動ける人手にも声を掛けるとしますか」
 リンクシェルを繋ぎ、フリーカンパニー全員に伝わるチャンネルに声を掛け、事情を説明すると、ツバキは早速歩き出した。
 動ける者に伝えた合流場所はモラビー造船廠。まずは乗組員を全員呑み込んだ海賊船とやらを確認に、と言う訳だ。

◇◆◇◆◇

「やっほー、ツバキちゃん。幽霊船の探索って聞いてたから、応援だけしに来たよ」
「応援だけじゃなくて探索も手伝って欲しいかな……」
 モラビー造船廠の一角にて。ツトミに連れ立って来てくれたユキとミリの三人と合流したツバキは、開口一番にツッコミを入れた。
 モラビー造船廠の一角に駐留している海賊船には、今も造船工であろう人達と、海賊や黒渦団の一員、そして冒険者が入れ代わり立ち代わりで中を検めている様子が窺えた。
 これではもう調査する事も無いだろうと思いつつも、手掛かり自体が少ないのだ、何でも良いから情報を欲しているには違いないので、彼らの邪魔にならないように海賊船に近づいて行く。
「何? ツトミは幽霊が怖いの?」ユキが不思議そうに小首を傾げた。「安心なさいな。幽霊が出ても私の幻術で爆砕するから」
「幽霊を爆砕する幻術って何……??」ツバキが思わずツッコミを入れる。「と言うか、これだけ人が行き交ってる中で、幽霊騒動とか起こらないと信じたいけど……」
「……鎮魂の踊りでも、披露しましょうか……?」スッと舞の態勢を整えるミリ。「わたしでも……それぐらいなら……お役に、立てる……かも……?」
「流石にこの人混みの中で舞われたら通行の妨害になりそうだから、それは幽霊が出現してからお願いします……」宥める仕草をするツバキ。「幽霊はひとまず脇に置いておいて、まずは魔道書の手掛かりを探そう。話を聞くだけでも何か情報を得られるかも知れないしね」
「はーい」「地道な捜査は大事よね」「頑張ります……!」
 ツトミが挙手しながら間延びした返事をし、ユキがうんうん頷いて納得し、ミリがやる気を見せるようにむんっと拳を固める。
 そうして、無人となって発見された海賊船の船内へと、四人は足を踏み入れる。
 夏場の蒸した空気が満ちる船内は、今も調査を行っている冒険者や、メルヴァン税関公社の社員達がうろうろしているのが見て取れた。
 船内には争った形跡は無く、つい数日前まで何事も無く生活していたであろう状態のまま、時が止まっていた。
 血痕や傷跡に類する痕跡も無く、本当に蒸発でもしたかのように、海賊達が消えたのであろうと言う想像だけがより強固になっていく実況見分だった。
「暑い~何でこの船、アイススプライトが居ないの~」
 汗だくの様相のツトミが、パタパタと手で扇ぎながら海賊船の中を練り歩いている姿を見て、ツバキは「真夏の海賊船の中にアイススプライトなんて沸いてたらそれこそ怪談だよ……」と思わずツッコミを入れる。
「ん~、これだけ冒険者やら調査団やらが調査してるんだもの、これ! って言う物は見つからないわね」
 ツトミと入れ替わりでツバキの元にやってきたユキの汗だくの態だった。
 ツバキは首肯を返し、「冒険者や調査団の人に話を聞いた分でも、手掛かりになるような物は見つからなかったって話だし、ここは空振りかな」と言いながら立ち上がろうとしたタイミングで、――悲鳴が飛び込んできた。
 ツバキは刹那に意識を戦闘に切り替え、腰に佩いていた双剣を引き抜きながら音源へ向かって駆け出す。ユキも咄嗟に背に負っていた両手幻具を構えてツバキを追って船室を出ていく。
「出たの出たの!?」途中でツトミとも合流したが、悲鳴の主ではなかったようで、突然上がった悲鳴に驚いている様子でツバキとユキを迎え入れるも、二人が「分からない、取り敢えず行ってみる」「大丈夫よ、もし幽霊なら私の幻術でぶっ飛ばしてやるから」と言って駆け抜けて行くのを見送って、「なら安心だね~。って、待って~一人にしないで欲しいな~」と慌てて二人を追い駆けて船室を出て行く。
 辿り着いた先は甲板で、そこには先ほども見た光景である、冒険者と調査団の人間しか居ない筈だったのだが……
「――――あれって、ヴォイドクラック……ですか?」
 海賊船の甲板に生じた空間のヒビに、ミリが警戒した様子で駆け付けた三人に問うも、三人とも反応に困った様子でそれを見守る事しか出来なかった。
 話だけは聞いた事が有る。異界と繋がる空間のヒビないし穴が、何らかの原因で生じると言う、その現象自体は。
 しかし、海賊船の甲板にそんなものが生じるなんて聞いた事も見た事も無い四人は、――否、その場に居合わせた冒険者も調査団も皆、何が起こっているのか分からないと言った風情で、動きが完全に固まっていた。
「ひ、ひぃ!」悲鳴を上げた本人であろうララフェル族の男は腰を抜かしながら空中に突然出来た穴から遠ざかるように後じさりする。「い、いきなり出てきたんだアレ……! ゆ、幽霊なのか!? 幽霊の仕業なのか!?」
「こんな真昼間から幽霊が出てたら困るんですが……」ツッコミを入れつつも、どう対処すべきか、ツバキは手をこまねいていた。「確かヴォイドクラックは防げる筈でしたよね……? いやでもこんなところで突然開かれたら、どうやって元に戻せば良いのやら……」
 ヴォイドクラックの情報を思い出そうとしている間に、直径五イルムほどしか無かったその虚空の穴は、徐々に大きく成長しようとしていた。直径五イルムから一フルムへ。一フルムから、やがて二フルムへ。
「不味くないかしらアレ? このまま大きくなったら、どんな妖異が召喚されるか……」思わずと言った様子でユキが呟く。「攻撃したらダメなんだっけ? 穴、拡がっちゃう?」
「確か……えぇと……」こめかみに指を添えてうんうん唸るツバキ。「一度開いたヴォイドクラックないしヴォイドゲートは、開いた本人……遠くても術者の縁者の血が無いと閉じられないんじゃなかったかな……」
「術者が……この中に、居るって事……ですか……?」
 ミリが周囲に視線を向けるも、全員が全員、驚いた様子でヴォイドクラックの拡大を見守るだけで、術者らしい人影は見当たらなかった。
「ねぇねぇ、あの穴、どんどん大きくなってるけど、大きくなったらどうなるの?」
 ツバキの肩をつんつんと突いて尋ねてくるツトミに、ツバキは生唾を呑み込んで応じた。
「あの規模に相応しい大きさの、強さの、妖異が出てくると思う……今はまだそこまでの脅威は感じないけど、このペースで拡大していったら……モラビー造船廠自体が危なくなるかも……」
「と、取り敢えず攻撃しても良いのかしら? やっぱり不味い?」ユキが両手幻具を構えたまま確認するようにツバキに視線を送った。「今ここで何もしないのは、流石に悪手だと思うんだけど?」
「それは……そうなんだけど……こんな事例、聞いた事が無いから、私の一存で決められないかな……」困り果てた様子で呟くツバキ。「誰かヴォイドクラックやヴォイドゲートに詳しい人は居ませんか!?」
 周囲に群がる冒険者や調査団に視線を向けるも、皆が皆、首を否と振り、逃げ出す者も現れる始末だった。
 そうこうしてる内にヴォイドクラックは徐々に大きくなっていく。誰もが焦燥感と緊張感で混迷の一途を辿っていく中、不意に声が轟いた。
「――ヴォイドクラックは攻撃したら塞がります!」
 その声でハッと我に返った一同は、「みんな! 攻撃開始!」と言うツバキの喚声で目を覚まし、一斉にヴォイドクラックに攻撃を加え――ヴォイドクラックは自然消滅した。
 緊張感が取れた瞬間、凄まじい疲労感に襲われた四人は、汗だくの態で視線を交わし合い、何とかなった事を確認し合うと、改めて声を上げた冒険者に視線を転ずる。
 ララフェル族の女は、「良かった……間に合って……」と、深い溜め息を落として安堵していた。
「貴女は……?」
 ツバキが同じように安堵の吐息を落とした後、ララフェル族の女に声を掛けると、彼女は慌てた様子で頭を下げた。
「あ、えと、冒険者のウイって言います。以前ヴォイドクラックを塞いだ事が有ったので、お役に立てるかなと思って……」ほぅー、と胸を撫で下ろした後、ウイは改めて虚空に消えたヴォイドクラックが在った場所を見つめる。「あの規模のヴォイドクラックを一瞬で塞いだのには、ビックリしちゃいましたけど……」
 ――それが、新たな冒険の始まり……フリーカンパニー【猫の尻尾】が遭遇した、消えた魔道書を探す冒険の始まりだった。

🌟後書

 約二ヶ月振りの最新話更新です。大変お待たせ致しました…!(定型文)
 と言う訳で今回から新章突入です! 前回の終わりから色々有りましたので、心機一転的な流れですね! 更に新キャラと言う名のコラボキャラも登場と、やりたい事をやっていく感じに仕上げてみました!
 これに伴い、もう一方のFF14二次創作小説も改めて連載再開しようと思いますので、そちらの方もどうぞ宜しくお願い致します!
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!

※追記
 こちらもアーカイブは全部転載しておきましたので、もし今までの物語が気になりましたら、ぜひ追い駆けてみてくださると嬉しいです!(´▽`*) 夜通し頑張ったので、少しでも喜んで頂けたら幸いですw

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    予測変換が更新されてて若干きんty(定型文)

    また尻尾のみんなのお話が読めるのですね!嬉しいです。
    そして新章突入…なんとも夏向きなお話ではございませんかw
    背筋が凍りついて凍傷になっちゃうほどの怪談ぷりぃず!!(本当は苦手)

    そして満を持して登場のコラボキャラ、ウイちゃん!
    どんな性癖を披露してくれるか楽しみです!!(なにかちがう)

    今回も楽しませていただきました!
    次回も楽しみにしてますよーv

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    返信
    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

      予測変換が更新される頻度が早過ぎる…訳ではなく、私の更新頻度が間に合ってない奴だ…!ww 急げ急げ!┗(^ω^)┛

      ですです! また尻尾の皆さんのお話を再開して参りますゆえ、どうか楽しみにお待ち頂けたらと思います!(´▽`*)
      そう!ww 夏向きのお話に仕立て上げてみましたww 
      夏休みはやっぱり劇場版! みたいな感じにも仕上げておりますので、どうかお楽しみに!ww 私も怪談は苦手なので、「霊夏」とか「空落」ぐらいのアレで何卒!(笑)

      遂にコラボキャラも実装で、どう転がっていくのか作者自身が一番ドキドキしてるところ有ります!ww
      性癖wwwどんなのが披露されちゃうんだ…!www(笑)

      今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!(´▽`*)
      次回もぜひぜひお楽しみに~!!

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