2024年10月4日金曜日

最終話 どこにでも居る冒険者/大切な友達

ミスト・ヴィレッジ在住一般冒険者の日常(FF14二次創作小説)
最終話 どこにでも居る冒険者/大切な友達

最終話 どこにでも居る冒険者/大切な友達


「――ツトミ。新たな依頼だ」

 あの事件から、やがて一ヶ月が過ぎようとしている。
 リムサ・ロミンサの風は涼しく、陽射しも柔らかくなり、そろそろ守護天節が始まりそうな頃。
 八分儀広場の一角で、ツトミは普段彼女が腰掛けていたベンチに腰掛け、背後に立つ双剣士ギルドの男の声に耳を傾ける。
「ツトミ、あんまりやる気無いなー」
「そう言うなよ。稼ぎ頭が居なくなって、こっちも大打撃なんだ。少しでも依頼を回せるメンバーが居ねぇと困るんだよ」
「むぅー。仕方ないなぁ~」
 双剣士ギルドの男からの依頼を聞き流しながら、あの後の出来事を反芻する。
 結局あの後、武家屋敷……旧ハバキ邸は焼け落ち、廃墟と化した屋敷からはハバキ家に忠誠を誓っていた侍と忍者が二十数名、そして身元不明のミコッテ族の女の死体が発見され、それがツバキであると判断されてから、事件は急速に終息した。
 過去、アンテンと言う主君に仕えていた侍と忍者達が、その主君を秘密裏に討った双剣士であるツバキを探し出し、仇討ちを果たし、自害した。これが事件の顛末であり、全てだった。
 結果、ハバキ家は元々お取壊しだったのが、永久除名処分を受け、クガネからその名を消す事になる。元々ガレマール帝国から蜜を啜っていた為に邪険に扱われていたのが、今回の件で最早取り返しの付かない失態となり、二度とひんがしの国で名乗れない処遇となった。
 フリーカンパニー【猫の尻尾】は、マスターが落命する前に解散していた事も有り、メンバーは惜しみながらも散り散りになった。
 今でも連絡は取り合っているが、自然と会う機会も減り、その名残は失われつつあった。
 ツトミは双剣士ギルドに所属していた事から、ツバキの後を継ぐように、双剣士ギルドの依頼を請け負うようになった。
 中々上手く行かない日々だが、これがやってみると中々面白く、今では程々に仕事の出来る双剣士として、双剣士ギルドの中でも一目置かれるようになりつつあった。
 サクノはひんがしの国へ帰り、武者修行していると言う。また泳いでリムサ・ロミンサまで帰ってくると豪語していたので、いつかまた、彼の武勇伝を聴ける日が来るかも知れない。
 レンは採掘師がよほど気に入ったのか、今はエオルゼアの各地であらゆる鉱石を掘り出す事に熱意を持って挑んでいると聞いた。それが落ち着いたら園芸師にも手を出そうかなと話していたので、ギャザラーとしての資質が有ったのかも知れない。
 ケータは調理師として腕を振るっているそうで、時折レストラン・ビスマルクに食事に来ないかと誘われたりもしている。勿論奢りで! 彼が成長する度に、美味しいご飯を奢って貰えるのは、至福そのものだった。
 ユキはオールドシャーレアンに渡り、幻術の勉強をし直しているのだとか。白魔道士としての基礎を鍛え直し、更なる破壊力を手に入れたいと言っていたが、今度会う時が楽しみだ。
 ミリは踊り子として各地を巡業しながら渡り歩いていると連絡が有った。踊り子としての腕を上げるだけでなく、誰かを楽しませ、喜ばせる事に、誇りを持って当たっているのだとか。
 ウイはウルダハに戻り、今も錬金術師や彫金師として、様々な依頼を受けてバリバリ働いていると聞く。彼女ほどの逸材なら、どこに行っても問題無いだろうし、心配も無い。ただちょっと、突っ走ってしまうところは、忠告してあげたいところだけど。
 そうしてエオルゼアは今日も平和に見せかけて、陰では色んな事件が巻き起こりながらも、緩やかな時間が流れていた。
「さってと。そろそろお仕事に取り掛かろうかな」
 うーん、と背伸びをしてから立ち上がりかけたツトミの隣に、誰かが腰掛けた。
 それは、彼女とは似ても似つかぬ、けれど同じミコッテ族の女性だった。
 雰囲気が違う。匂いが違う。態度が違う。気配も違う。何もかも違う。けれど、ツトミには何故だか、彼女が誰か、分かってしまった。
「ツバ――――」「しぃー」
 ミコッテ族の女性は静寂を求め、ツトミはよく分かってない風に、改めてベンチに腰を下ろし直す。
「……ほんとに? ほんとに……ツバキちゃん、なの……?」
「だから違うって」ミコッテ族の女性は苦笑を返した。
「でも、だって……っ」瞳を潤ませ、ツトミはミコッテ族の女性に詰め寄る。「ツバキちゃんじゃん……っ」
「私はヤエ。ヤエって言います。ツバキじゃないです」ミコッテ族の女性――ヤエはそう言ってツトミに微笑む。「その名前の子はね、もう居ないんだ。居ない事にしないと、いけないんだ」
「…………どうして?」
「生きてたら困る人が居るからね。だから、私はヤエ。ヤエちゃん、って呼んでね?」
 してやったり、と言った顔で呟くヤエに、ツトミは涙を引っ込めて、口唇を尖らせた。
「もっと早く会いたかったなぁ。ずっと探してたのに」
「ごめんって。色々手続きとか必要だったんだよ、色々と」
「もう、どこにも行かない?」
「それは確約できないかなぁ」
「むぅ~。悪い子だ」
「あはは。そうだね」
 他愛の無い会話。いつかは当たり前だったそれが、涙が込み上げる程に懐かしくて。
「でも、ありがとう。どこにでも居る冒険者を探してくれて」
 ヤエの静かな謝意に、ツトミは小さく首を振り、
「違うよ。あなたは、ツトミの大切な友達だから」
 どこにでも居る冒険者なんかじゃないよ、と。
 そう言って二人は笑い合う。

◇◆◇◆◇

「ツバ……じゃなかった、ヤエちゃんは、これからどうするの?」
「うーん、もうリムサ・ロミンサは離れるよ。イシュガルドにでも拠点を構えようかなって」
「えー? あの寒いところに? ツトミ、寒いのやだなー」
「住めば都かも知れないよ?」
「じゃあ雪掻きはヤエちゃん担当ね♪」
「それはやだなぁ……」
 八分儀広場を後にする二人のミコッテ族の女性を気に掛ける者は居ない。
「ところでツトミちゃん。さっき仕事を受けたんじゃないの?」
「ん? いーのいーの、誰かがやってくれるから、きっと」
「適当だなぁ。双剣士ギルドの次期エースがそれで良いのかー?」
「ふふふ、次期エースは颯爽と引退して、これからイシュガルドでまったり隠居暮らしさ!」
「良いね、これからゆっくりしようか。お茶菓子でも突きながらさ」
 リムサ・ロミンサから二人のミコッテ族が消えた。
 彼女らのその後を知る者は居らず、雲のように消えた彼女らを追う者もまた、居なかった。
 ■おしまい

🌠後書

 と言う訳で、これにて完結です。ハッピーエンドだったでしょ!? ハッピーエンドだって言って!www(笑)
 執筆を始めた当初はさておいて、必殺仕事人みたいな物語にしたかった当初の想いを引き継いで、やっぱり幕引きも必殺仕事人みたいにしたいなと言う想いと、現在のFF14の状態を引き合わせて、このような形に落ち着きました。
 マスターとサブマスターはこれから隠居生活です。いやー大変だったね(棒)。一般冒険者の波乱万丈、お楽しみ頂けていたら幸いですw
 ツバキちゃんの物語はこれにてお終い。彼女達はのんびりと余生をイシュガルドで過ごしていると言う妄想をしながら、これ以上は蛇足だと思うので筆を執る事は無いと思います、が。
 もう一人の主人公であるウイちゃんの物語はまだ始まったばかりですし、どこかで巡り合う事も有るかも知れません、とだけw
 と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
 また新しい物語で再会できる事を祈りつつ、それではまた!

※単行本はそのうちBOOTHで販売予定ですので、そちらも宜しくお願い致します(*- -)(*_ _)ペコリ
※今のところ書き下ろしは考えていないので、WEB再録本になりそうです。

2 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様ですvv

    めちゃめちゃハッピーエンドでした!
    そして涙あふるる展開になりましたが、彼女たちにはピッタリの最後かと。(イシュガルドはさむくてなぁ~)
    隠居生活をちょっと覗いてみたい気もしますが、それは野暮ですよねw(イシュガルドは寒い)

    ツバキちゃんがどうやって蘇生したのか気なるなぁw
    トワリちゃんの仕業かなぁ~う~んツトミわかんなぁ~い。

    尻尾のみんながこれからも元気でいてくれるとうれしいです。
    本当にありがとうございました!(イシュg

    今回も楽しませていただきました!
    ありがとうございました!!

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    1. >とみちゃん
      感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*)

      でしょでしょ!! めちゃめちゃハッピーエンドだったでしょ!!!ww
      イシュガルド嫌がり過ぎててもうずっとニヤニヤしてるよwwwwwww住めば都だって!wwwwwww(笑)

      ツバキちゃんの蘇生の件、これ本編で明かそうにも展開上明かせなかったのですけれど、これ、蘇生した訳じゃなくて、断頭台が落ちる寸前に入れ替わってたりしてます。火遁を使って、全身火達磨→で、誰か分からなくなった状態で身代わりの術、みたいな。
      なので、実はあの後ウイちゃんが追跡君を稼働してると生きてるのバレちゃうと言う、ツバキちゃんにとってひやひやの展開だったりしますw ウイちゃん、㌧でもないもの作ってくれたな…ww

      尻尾のみんなが健やかに過ごしてくれる事を祈りつつ、最後までお付き合い頂きまして本当に有り難う御座いました!

      またどこかでお会いしましょう! またね!

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