第17話 迷子のチョコボと、とばっちりのキキルン
第17話 迷子のチョコボと、とばっちりのキキルン
「――チョコボを探して欲しい、ですか?」
錬金術師ギルドの仕事が一通り終わり、呪術士ギルドにも顔を出して試練を受けたり、自発的に冒険者ギルドのギルドリーヴを受けて依頼を熟したりしている日々を過ごしていた私は、いつものように砂時計亭から出て、冒険者ギルドの顔役であるモモディさんに挨拶して、いつものように依頼を確認しようとした折に、モモディさんに声を掛けられたのだ。
「不滅隊の隊員に支給されるチョコボが脱走しちゃったみたいでね。高地ドラヴァニアから遥々陸路を伝って中央ザナラーンまで辿り着いたのは良いのだけれど、運び屋さんが目を離した隙にキャリッジを壊してそのまま……」モモディさんが心配そうに溜め息を零す。「ちょっと道を逸れれば、凶暴な魔物もうろついてるじゃない? ウイさん、もし時間が有るなら……」
「チョコボを探して、保護すれば良いんですね? 今すぐ向かいます!」コックンと頷くと、肯定の意を示してモモディさんに駆け寄った。「何羽のチョコボが行方不明なんですか?」
「そうこなくっちゃ!」モモディさんが嬉しそうにはにかんだ。「逃げ出したのは一羽だけなんだけど、ララフェル用のチョコボだったみたくて、小さくてとてもすばしっこくて……臆病なんだって言われたわ」
急遽仕立てた依頼書なのだろう、走り書きでメモが幾つか残されていた。
私は頷き、中央ザナラーンの地図をカウンターに広げる。
「高地ドラヴァニアって、とても遠いとしか分からないのですけど、東ザナラーンからのルートで来たんですか? それとも南ザナラーンから?」
「東ザナラーンからよ」中央ザナラーンの北東に位置するクラッチ狭間を指差すモモディさん。「ブラックブラッシュ停留所で最後の休憩を挟んでる時に逃げ出したと言う話だったわ。逃げた先は……酒房“コッファー&コフィン”を迂回して、西ザナラーンの方へ向かったって」
「この辺って……」峠道だったと記憶しているし、何よりこの辺りには、キキルン族の溜まり場である、ネズミの巣が在った筈……!「もしキキルン族に見つかったら大変ですね……! 急いで駆け付けます!」
「お願いね~!」
モモディさんの声を背に、私はクイックサンドを飛び出して、ナル大門から中央ザナラーンへ。アラグ星道を駆け抜けて、酒房“コッファー&コフィン”が見えたところで左折して、峠道を駆け上がって行く。
この辺は時折キキルン族が酒房“コッファー&コフィン”に向かって下りてくる場所だから、銅刃団の衛兵と衝突している光景を目の当たりにする事が有るのだけれど、今は異変が起きている様子は無く、辺りは静かだった。
朝陽に照らされた酒房“コッファー&コフィン”を横目に峠道を駆け上がった先には、ハンマービークやサーフィド・クラウドが辺りをうろついている。こちらから襲い掛からない限り襲い掛かってくるようなモンスターではないとは言え、警戒するに越した事は無い。
辺りを窺いながら、痕跡が残ってないか探す。チョコボが走り抜けたのであれば、チョコボの羽根が残っていても不思議じゃない……
地面に張り付くように、目を皿にして周囲を調べていると、――見つけた。鮮やかな黄色い羽根が、雑草の陰に隠れるように落ちている。
「これ……!」
手に取ると、汚れが殆ど付いていない事から、まだ体から抜けてそんなに時間が経っていない事が分かる。
更に辺りの様子を窺うと、――黄色い羽根が残されている方角が、ネズミの巣に向かっている事が分かった。
最悪の事態を想定する。私一人で、キキルン族の団体を相手にするなんて無茶にも程が有る、けど。チョコボが一羽、そんな危険地帯に取り残されているかも知れないのに、震え上がってる場合じゃない……!
恐怖が湧き上がって、足が震えそうになったけれど、両頬を叩いて意識を引き締める。
「よ、よし、行くぞぅ……!」
ネズミの巣が見える位置まで忍び足で近づくと、やっぱりキキルン族が辺りに一杯屯している光景が広がっていた。
キキルン族。ネズミのような外見の民族で、悪食且つ大食で、頭がとても良くて都市部で商売をしている者も居る。
人間とキキルン族が敵対している訳ではなく、一部の人間と、一部のキキルン族が敵対しているだけで、互いに仲が悪い訳ではないのだけれど……このネズミの巣に屯しているキキルン族は、ウルダハを訪れる行商人を襲撃したり、酒房“コッファー&コフィン”で無銭飲食を働いたりと、あんまり友好的ではないんだよね……
辺りを窺い、チョコボの痕跡を探す。キキルン族はまた酒房“コッファー&コフィン”を襲撃する計画でも企てているのか、ここまで聞こえる声量で話し合っている。
「エルエル、飲みたいっちゃ! そろそろ行く行くっちゃ!」「さきさき行ったばかりっちゃ! もともと、後にするっちゃ!」「はらはら、減ったっちゃ~!」
……頭が良いって話なんだけど、聞こえてくるセリフだけで判断すると、もしかして何も考えてないのかな……って思っちゃうけど、実際に対峙すると危険なのは間違いないんだ。
「あ、あれ……!」
ネズミの巣の近くに、小さな黄色くフサフサな尻尾が、岩場の陰から覗いていた。
一目で分かる。逃げ出したチョコボが、恐らくキキルン族に見つからないように隠れているのだ。
しかし場所が悪い。あの岩場から出る為には、どうしてもキキルン族に見つからずと言う訳には行かない立地だ。何であんな奥まった場所に……と思ったけれど、さっきのキキルン族のセリフで察する。
「酒房を襲ってたキキルン族が帰ってきたところに蜂合わせて、慌てて隠れたのかな……」
逃げ道が無いからこそ、大慌てで逃げた先が袋小路と言う、最悪の結果に辿り着いた訳だ。
チョコボは一声も鳴かず、ぷるぷると震えながら岩場の陰に頭を突っ込んで動かない。心細い気持ちが伝わってきて、私はグッとスタッグホーンスタッフを握り締めた。
「キキルン族の皆さんには悪いけど、……ごめんなさい!」
キキルン族に聞こえない声量で謝ると、スタッグホーンスタッフを構えて、ネズミの巣から互いに姿を確認できる位置まで躍り出る。
「な、何奴っちゃ?」
キキルン族が一斉にこちらに向き、不思議そうに小首を傾げた瞬間、私はスッと意識を集中させて、詠唱を始める。
「地の砂に眠りし火の力目覚め、緑舐める赤き舌となれ!」丹田から絞り出された魔力が、全身を伝ってスタッグホーンスタッフに集まり、その先端から業火が放たれる。「――ファイラ!」
放たれた業火はネズミの巣の近くに着弾し、ゴウゴウと燃え上がってキキルン族を炙った。
「な、何するっちゃー!?」「ころころするっちゃー!」「やれやれっちゃー!」
キキルン族の敵視が一斉に向いて、私はその恐ろしさに悲鳴を上げそうになったが、その前に大声を張り上げた。
「チョコボさんっ、今の内に逃げてーっ!」
大音声は、キキルン族を飛び越えて、岩場の陰に隠れていた小柄なチョコボまで確かに届いたようで、「クエーッ!?」と思わず跳び上がったチョコボの悲鳴が、ここまで聞こえてきた。
「あれあれ!? チョコボっちゃ!」「こなこなところになぜなぜ!?」「なになにどうなってるっちゃー!?」
キキルン族が慌てふためいている間に、私は全力で駆け抜けて、キキルン族の間を縫うように抜けて、チョコボの背を押すように、更に駆け出した。
「キキルン族が混乱してる今しかないんだ! 早くっ、早くぅーっ!」
「クエーッ!?」
チョコボも混乱しているようだったけど、私の声で少し落ち着いたのか、私より遥かに早い足捌きで駆け出し、あっと言う間に距離を離されて行った。
「なになにっちゃー!?」「おえおえっちゃー!」「まてまてっちゃー!」
キキルン族の悲鳴が背後から合掌のように聞こえてきたけれど、それに構っていられるほど肝は据わってなかったので、私も自分に出来る全力で駆け抜けて、チョコボを追って西ザナラーンへと峠道を走り抜けるのだった。
「ご、ごめんなさーいっ!」
謝罪の言葉は出たけど、キキルン族が聞こえたかどうかは、結局分からないままだった。
🌠後書
3日連続更新です! こ、今週は特別だから…!w(息切れ)
と言う訳で新しい冒険、新しい物語の開幕です! キキルン族、ちょこっと調べた感じ、口調がだいぶ独特なので、私の表現力が間に合ってない感じです…原作と比べて違和感塗れでしょうけれど、どうかご愛嬌と言う事で一つ…w
逃げ出してしまったチョコボから始まる今回、どう転がっていくのか、どうかお楽しみに!(´▽`*)
と言った所で今回はこの辺で! ここまでお読み頂き有り難う御座いました!
※2025/01/29校正済み
3夜連続更新本当にお疲れ様ですvv
返信削除遅くなってしまいました…
だいぶ頼もしくなってきたウイちゃん、わたしも真面目にやらないと追い越されちゃうかもしれません((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
開幕3都市の顔役ではやはりモモディさんが一番印象深いです。恋愛相談なら応じるけど人生相談はNG(モモディさんにちゃんとした理由があるのも含めて)なかなか言えないですよね。かっけーw
そう、わたしだってNPCをディスってばかりではないのです!!(好感度アップ狙い
多分暗躍を続けているであろう秘密結社、もしかして今回のチョコボ脱走劇も奴らが仕組んだのかもしれません……
今回も楽しませていただきました!
次回も楽しみにしてますよーv
>匿名さん
削除感想コメント有り難う御座います~!(´▽`*) 3夜連続頑張りました!┗(^ω^)┛
いえいえ~! 寧ろ早過ぎるまで有ります!www(笑)
追い越されちゃうかもwwwだいぶ先まで進んでいたような記憶が有るのでたぶん大丈夫ですたぶん!www
モモディさん、かっけーですよね…! 私も開幕三都市ではウルダハが一番多かったので(本当に初めての頃は剣術士スタートでしたし)、何だかんだ思い出深い方だったりしますw
好感度アップ狙い!wwwモモディさんは好きなタイプのNPCだったんですね!wwww(スラフボーンさんを思い出して泣いてる顔)
暗躍を続けているであろう秘密結社wwww何だと思われてるんだwwwwwww(笑) でも確かに何だかんだ事件が起きると秘密結社に辿り着くような…ハッ!(消されるのを恐れて口を噤むエモート)
今回もお楽しみ頂けたようで嬉しいです~!!
次回もぜひぜひお楽しみに~!!